資産を購入しても、減価償却の対象となる資産の場合は、税務上は一時に全額を費用にできません。費用となる金額は「減価償却費」の金額です。この計算を誤って多く計上してしまうと、税務上認められずに税金が増えてしまう可能性があるため、正しい理解と計算が必要です。 このコラムでは、減価償却の基本的な仕組みをわかりやすく解説します。また、減価償却を計算するときに一緒に検討されることの多い「一括償却資産」や「少額減価償却資産」についても合わせてご紹介します。
目次
減価償却の趣旨と計算方法
減価償却費とは、減価償却資産を購入した金額を、一時に全額ではなく、耐用年数に応じて按分した金額だけを計上する費用です。減価償却の趣旨、減価償却資産とは何か、減価償却費はどのように計算するかをご説明します。
減価償却の趣旨
減価償却の趣旨は「資産は時の経過にしたがって価値が減少していくため、その期間にわたり費用を認識する」ということです。
例えば、5,000万円の建物を一括で購入し、使用を開始したとします。この建物が50年使えるものだとすると、50年間にわたり徐々に価値が減少すると考えられます。
このため、建物の使用を開始した時に5,000万円の費用を計上するのではなく、5,000万円÷50年=100万円ずつの費用を50年にわたって認識しようというのが、減価償却の趣旨です。この例で、100万円を「減価償却費」、建物を「減価償却資産」、50年を「耐用年数」といいます。
減価償却の対象資産
減価償却の対象となる資産を「減価償却資産」といいます。主な要件は以下のとおりです。
- 事業で使用している資産
- 時の経過等によってその価値が減少する資産
建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの有形のものだけでなく、ソフトウェアなどの無形のものも対象です。資産が対象となるため、土地などの、時の経過等によってはその価値が減少しないものは対象外になります。
また、事業で使用している資産が対象であるため、使い始めた日から償却の計算を開始します。購入しても使用していない場合には、費用を計上できません。
減価償却費の計算方法
減価償却費の計算方法には、主に定額法と定率法があります。
- 定額法
毎年一定の金額を償却する方法。毎年の減価償却費の金額は同額になる。
- 定率法
定率法は毎年一定の割合で償却する方法。償却開始年の金額が一番大きくなり、徐々に減価償却費の金額は小さくなる。
税務上は法定の計算方法があり、それ以外の方法をとる場合には届出が必要です。現在、法人では、建物、建物附属設備、構築物は定額法、その他器具備品や車両などの有形固定資産は定率法が法定であり、個人ではすべてが定額法です。
具体的に計算してみましょう。減価償却費を計算するには、取得価額と耐用年数を調べることが必要です。
【定額法の例】
5,000万円の建物を購入し、期首から使用を開始した場合の、今期の減価償却費の金額を定額法で計算してみます。
取得価額は5,000万円です。耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められていますが、実務上は国税庁などで公表されている耐用年数表と照らし合わせて調べると楽です。建物の耐用年数表には、構造・用途・細目により耐用年数が定められており、例えば鉄骨鉄筋コンクリート造、事務所用のものは50年となっています。
計算式は「取得価額×定額法の償却率」です。この場合5,000万円×0.02(50年の定額法の償却率)=100万円が減価償却費の金額です。
【定率法の例】
200万円の新車(一般の乗用車)を購入し、期首から使用を開始した場合の、今期の減価償却費の金額を定率法で計算してみます。
取得価額は200万円、耐用年数は耐用年数表に照らして6年とします。
計算式は、原則として「未償却残高(取得価額-前年度までの減価償却累計額)×定率法の償却率」*です。この例では未償却残高200万円×0.333(6年の定率法の償却率)=約66万円が減価償却費の金額です。
*未償却残高が償却保証額に満たなくなった年以後は、改定取得価額×改定償却率で計算。
実務上では、耐用年数表に照らしてもあてはまるものがなく、判断がつきにくいこともあります。耐用年数は、資産ごとに「どのくらいの期間使用できるか」を一律に見積もったものであるため、あいまいな場合には現状と近い資産、近い耐用年数を選択していくことになります。
減価償却のシステムを利用すれば、取得価額と耐用年数を入力して償却方法を選択するだけで、実際の計算は自動でおこなわれることがほとんどです。
「少額の」減価償却資産、一括償却資産、少額減価償却資産とは?
減価償却費を計算する際には、「少額の」減価償却資産、一括償却資産、少額減価償却資産も一緒に検討されることが多くあります。それぞれ概要をご紹介します。
1.「少額の」減価償却資産の概要
減価償却資産の中でも、以下のものは減価償却を実施せずに一時に全額を費用にすることが可能です。
- 取得価額が10万円未満のもの
- 使用可能期間が1年未満のもの
使用可能期間が1年未満のものは、価値が減少する期間にわたって費用を按分するという減価償却の趣旨に合わず、また、金額が少ないものについては一時に費用としても大きな影響がないからです。
この場合は、減価償却費ではなく「消耗品費」等の科目で処理をします。
2.一括償却資産の概要
取得価額10万円以上20万円未満の減価償却資産は、耐用年数による減価償却費ではなく、3年で均等償却した金額を費用とすることができます。通常の減価償却と選択でき、こちらの3年を選んだ場合の減価償却資産を一括償却資産といいます。
3.少額減価償却資産の概要
「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」の制度があり、これを利用した減価償却資産を少額減価償却資産といいます。
この特例の概要は以下のとおりです。
- 対象者が資本金1億円以下の法人などの中小企業者等に限られる。
- 取得価額が30万円未満の減価償却資産を、一時で全額費用とすることができる。
- この特例を利用して費用とした金額は、原則として年間300万円まで。
あくまで特例であり、通常の減価償却と選択できます。また、一括償却資産の要件を満たせばそちらとも選択が可能です。
以上をまとめると、以下のとおりです。
取得価額の金額 | 1.少額の減価償却資産 | 2.一括償却資産 | 3.少額減価償却資産 |
~10万円未満まで | 〇 | 〇 | 〇 |
10万円以上20万円未満まで | × | 〇 | 〇 |
20万円以上30万円未満まで | × | × | 〇 |
上記表の複数の要件にあてはまる場合には、減価償却の方法を選択できますし、特例を使わずに一般の減価償却をおこなう事も可能です。業績を見ながら検討すると良いでしょう。
減価償却に関する会計処理
会計処理について、仕訳をご紹介します。
一般の減価償却の仕訳の方法
記帳の仕方には「直接法」と「間接法」があります。建物の減価償却費100万円を計上する仕訳を例にご紹介します。
【直接法の例】
直接法は、減価償却費を固定資産から直接差し引いて表示します。
(借方)減価償却費 100万円 (貸方)建物 100万円
この方法だと建物勘定の数字は、未償却残高を表します。
【間接法の例】
間接法は、減価償却累計額の科目を使用して表示する方法です。
(借方)減価償却費 100万円 (貸方)建物減価償却累計額 100万円
この方法だと建物勘定が取得原価を表します。
どちらで処理してもよく、わかりやすい方法を採用するとよいでしょう。
一括償却資産に係る減価償却の仕訳の方法
15万円の備品を一括償却資産として処理した例をご紹介します。1年あたりの減価償却費は15万円÷3年=5万円です。使用開始日がいつであっても、3年で均等償却します。
(借方)減価償却費 5万円 (貸方)一括償却資産 5万円
少額減価償却資産に係る減価償却の仕訳の方法
25万円の備品を、少額減価償却資産として処理した例をご紹介します。
(借方)減価償却費 25万円 (貸方)器具備品 25万円
まとめ
以上、減価償却の仕組みと計算方法、一括償却資産と少額減価償却資産について基本的な事項をご紹介しました。
減価償却費は取得価額、耐用年数、償却の開始日によって金額が異なりますので、これらを正しく把握することが大切です。また「少額の」減価償却資産、一括償却資産、少額減価償却資産の適用は、減価償却費を多く計上できることがほとんどであり、節税メリットがあるので、うまく活用していきましょう。
減価償却について判断に迷う場合や、その他の税務相談については神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。