消費税の確定申告は、個人事業主や会社(法人)の売上が一定以上になった際に行いますが、インボイス制度が導入されたことにより、今まで消費税の申告が不要だった事業者も申告手続きをすることになります。
本記事では、初めて消費税の申告をする個人事業主に向けて、消費税の計算方法および手続きの仕方をわかりやすく解説します。
目次
消費税の確定申告は課税事業者が行う
消費税の確定申告を行うことになるのは、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者です。
消費税の課税事業者になるのは法人だけでなく、個人事業者や国、地方公共団体等も含まれ、非居住者や外国法人についても課税事業者に該当する際は消費税の納税義務者になります。
個人事業主の課税期間は暦年(1月から12月)であり、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌々年から消費税の確定申告が必要です。
課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者に該当し、その課税期間の消費税の納税義務は免除されます。 ただし、事業者が「消費税課税事業者選択届出書」を提出しているときは、課税売上高が1,000万円以下であったとしても確定申告をしなければなりません。
個人事業主の消費税の申告・納付方法
消費税は、納税義務者が自主的に申告を行う「申告納税方式」が採用されているため、消費税の課税事業者に該当する方は、毎年申告書を作成することになります。
個人事業主は、消費税の申告書を翌年3月31日までに提出しなければならず、申告書の提出先は、原則住んでいる場所を管轄する税務署です。
ただし、個人事業者が納税地を選択している場合には、住所地に代えて事務所等を管轄する税務署へ申告することになります。
消費税の納期限は申告期限と同日であるため、期限までに申告だけでなく納税も済ませなければなりません。
振替納税により消費税を納税することも可能ですが、振替納税は税目ごとに手続きを要します。
既に所得税で振替納税を選択している方でも、消費税の振替納税の申請をしていないと自動引き落としにならないのでご注意ください。
消費税の原則的な計算方法
消費税の課税事業者は、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いた額を納めることになります。
消費税の税率は8%と10%の2種類あるため、税率ごとに区分して計算しなければならず、計算のベースとなるのは消費税が課されている売上や仕入れですので、消費税の課税・非課税対象の区分けも必要です。
消費税を算出する計算方法は複数用意されており、原則課税(一般課税)の計算式は下記の通りです。
<一般課税の計算式>
課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額
課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を、課税期間中の課税売上げに係る消費税額から差し引くためには、「仕入税額控除」の要件をすべて満たしていなければなりません。
仕入税額控除の適用要件としては、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存があります。
取引等を税率ごとに区分して記帳していないケースや、必要書類等の保存を怠っている場合、税務調査で仕入税額控除の適用が否認されますので注意してください。
消費税申告とインボイス制度の関係性
インボイス制度が導入されたことにより、消費税の仕入税額控除を適用するためには、原則インボイス(適格請求書)の保存等が必要です。
しかし、インボイスを発行できるのはインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に限られ、インボイス発行事業者以外からの仕入れに係る消費税は仕入税額控除に含めることができません。
税務署に登録申請を行えば、インボイス発行事業者として活動できるようになりますが、登録申請を行うことができるのは消費税の課税事業者に限られるため、免税事業者は消費税の課税事業者を選択することを迫られます。
消費税の課税事業者を選択してしまうと、消費税の申告手続きを毎年することになりますので、免税事業者として活動していた小規模事業者は新たに消費税の負担額が発生します。
消費税の特例制度
消費税の確定申告を行う場合、原則課税(一般課税)ではなく、簡易課税や2割特例を用いて計算することも認められています。
簡易課税制度による消費税の計算方法
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用できる制度です。
課税期間における課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を乗じた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなし、納付する消費税額を算出します。
<簡易課税制度の計算式>
課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額
みなし仕入率は業種ごとに設定されており、たとえば卸売業のみなし仕入率は90%ですので、課税売上に係る消費税の10%を納めることになります。
簡易課税制度は仕入れに係る消費税を算出する必要がないので計算が簡便であり、仕入税額控除の適用も不要なので、インボイスの保存をしなくても消費税の計算を行えます。
ただし、制度を利用するためには事前に届出書の提出が必要ですので、届出書の提出漏れには注意してください。
2割特例による消費税の計算方法
2割特例は、インボイス制度導入のタイミングでインボイス発行事業者になるために、免税事業者から課税事業者になった事業者が適用できる制度です。
仕入税額控除の代わりとして、課税標準である金額の合計額に対する消費税額の80%を特別控除税額として差し引くことができるため、消費税の税負担は20%まで軽減されます。
申告書に特例を適用する旨を付記するだけで受けられますので、届出書の提出は必要ありません。
適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となっており、一般課税と簡易課税のどちらを選択している場合でも2割特例は適用可能です。
ただし、2割特例はインボイス制度が導入されたことで消費税の課税事業者となった事業者への救済措置であるため、以前から課税事業者として活動していた事業者は2割特例を適用することができません。 また、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者など、インボイス発行事業者の登録と関係なく免税事業者の対象外となる場合も、2割特例は受けられませんのでご注意ください。
消費税の申告手続きをしないリスク
消費税の課税事業者が定められた期限までに申告・納税を行わなかった場合、加算税・延滞税の対象となります。
加算税は期限までに適正な申告書を提出しなかったことに対するペナルティで、意図的に提出しなかった場合には、本税の40%が重加算税として課される可能性があります。
延滞税は期限までに納税を完了していなかった際に課されるペナルティで、納付が遅くなるほど延滞税の額は増えていきます。
納期限から2か月を超えても未納額が残っている場合には、適用される延滞税の税率が上がりますので、申告だけでなく納付忘れにも気を付けてください。
まとめ
インボイス制度が導入されたことで、今まで免税事業者だった方も消費税の申告書を作成しなければならなくなります。
2割特例などの経過措置も設けられていますが、申告書の内容を間違えてしまうと税務調査で指摘され、税金を余分に支払うことになりかねません。
税務署は、大規模な税制改正が行われたタイミングで税務調査を積極的に実施する傾向がありますので、少しでも申告手続きに不安がある方は、ぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。