事業を行う際に金融機関から融資を受けるケースは多くあります。その際、創業時や創業まもない会社、業績に不安のある中小企業などでは、多くの場合に経営者個人の連帯保証が求められてきました。経営者個人の連帯保証は万が一の時の個人の負担が重く、抜本的な経営改善や起業・創業等を妨げる一因になっています。
こうした状況を改善するため、2022年12月、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」が公表されました。このコラムでは公表されたプログラムの概要を解説します。融資を検討する場合、そして現在融資を受けている場合は、経営者保証のない融資が可能となるのはどのような状況か、確認してみましょう。
目次
経営者保証の現状と課題
経営者保証とは、法人が融資を受ける際に、経営者個人が会社債務の連帯保証人となることをいいます。冒頭で述べたように、現在では融資の際に経営者保証を求められるケースが多く、さまざまな課題が生じています。経営者保証が求められる理由、経営者保証の現状と課題は以下のとおりです。
経営者保証が求められる理由
理由は主に以下のとおりです。
- 融資をする際の信用補完とし、融資をおりやすくするため
- 不祥事をおこさず、経営者にしっかりと経営をしてもらうため
中小企業等では業績不振の会社も多く、個人の信用保証があれば融資がおりやすくなります。また、万が一の時は個人が保証を負うとなると、不祥事をおこさずに誠実な経営を行うでしょう。経営者保証は金融機関側、経営者側どちらにもニーズがある制度です。
経営者保証の課題
しかし経営者保証には、以下のような課題があります。
- 経営者による思い切った事業展開を躊躇させる
- 事業承継時に、リスクを恐れて承継する方が見つからず円滑に進まない
- 早期の事業再生を阻害する
法人の融資金額は多額に及ぶことが多く、個人保証をするとなると経営者のリスクが大きく躊躇するケースも多くあります。このため多額の融資を利用した抜本的な事業展開や事業再生を阻害してしまいます。事業を承継する方が見つからず廃業となると、経済活性化を阻害することにもつながるでしょう。中小企業が前向きに事業を行い、経済活動を活性化させるために、経営者保証の見直しが求められています。
経営者保証の状況
現在では、合理性がなくどのような場合でも経営者保証をつけて融資をする状況が多くあります。このため全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証のない融資を受けられるための要件などを明確化しました。しかし実務上はあまり機能しているとはいえず、金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」によると、2022年度上期において民間金融機関の新規無保証融資は33%でしかありません。
経営者保証改革プログラムの概要
経営者保証の課題を解消するため、2022年12月、国は「経営者保証改革プログラム」を策定しました。そのなかで金融庁は監督指針を改正し、金融庁による監督が厳格化されました。ただし「経営者保証改革プログラム」は合理性のない経営者保証を減らすことが目的であり、経営者保証をすべて制限するものではありません。
「経営者保証改革プログラム」では、以下の4分野を重点的に取り組むこととしています。
- スタートアップ・創業
- 民間融資
- 信用保証付融資
- 中小企業のガバナンス
それぞれ、主な施策を説明します。
スタートアップ・創業
創業時に経営者保証を求められると、創業意欲を阻害する可能性があります。このため以下のような施策をおこないます。
- スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(保証割合:100%/保証上限額:3500万円/無担保)。2023年3月開始。
- 日本公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和。2023年2月開始。
など。
民間融資
金融庁の監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化します。主な施策は以下のとおりです。
- 金融機関が経営者保証を求める場合には、その必要性等を説明し、その結果等を記録する。その際「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」について説明をする。2023年4月開始。
- 結果等を記録した件数を金融庁に報告する。
- 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置する。2023年4月開始。
- 金融機関は「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を検討・作成し、公表する。
- など。
「経営者保証ガイドライン」では、以下の3つの要件を満たせば経営者保証なしでの融資、既存の融資にしては見直しをしてもらえる可能性があるとされています。
(1) 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている
(2) 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
(3) 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている
(引用:中小企業庁ホームページ)
まずは、融資で得た資金が経営者個人に流れてしまう疑念を抱かせるような管理体制でないことを明確とする必要があります。そして会社の保有資産や好業績により返済が可能であり、金融機関が返済能力を判断するための財務情報を適時かつ適切に金融機関に開示していれば「経営者の保証がなくとも会社が返済できる状況である」と金融機関も判断しやすいといえるでしょう。
信用保証付融資
「経営者保証ガイドライン」の要件を充たせば経営者保証を解除する、という現在の取り組みを徹底します。また、充足していない場合でも、保証料の上乗せなどにより経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を実施します。主な施策は以下のとおりです。
- 「経営者保証ガイドライン」の3つの要件を満たさなくとも、経営者の取り組み次第で達成可能な要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること等)を充足すれば、保証料の上乗せ負担により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設。2024年4月開始。
- プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設。2024年4月開始。
- 金融機関に対し、信用保証付融資を行う場合には、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう経済産業大臣・金融担当大臣から要請。
など。
「経営者保証ガイドライン」の3要件を満たせなくても、条件によっては経営者保証なしで融資がおりる可能性が出てきました。
中小企業のガバナンス
経営者保証の解除の前提としてガバナンス体制が必要です。つまり健全な企業経営、内部管理をおこなうことが求められます。主な施策は以下のとおりです。
- 中小企業の経営者と、支援機関の目線合わせのチェックシート作成
- 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定
など。
まとめ
以上、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」について説明しました。
今まであまり機能していなかった「経営者保証ガイドライン」の内容をさらに浸透・定着させるだけでなく、金融庁の監督指針の改正により融資の際の説明や記録が求められることになりました。合理性のない個人保証が排除されていく可能性が高いと期待されます。
「経営者保証ガイドライン」での3つの要件、①法人と個人の区分②財務基盤の強化③適時適切な財務情報の開示、は経営者保証のない融資のためだけでなく、会社を発展させることにもつながります。
経営者保証に依存しない融資の内容、およびそのための体制作りなどのご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。
「経営者保証改革プログラム」の事業者向けパンフレットが2023年4月に金融庁から公表されています。詳しくはこちらも参考にしてみてください。