令和5年10月1日より、インボイス制度が導入されます。あと1年をきりましたが、まだ対応していない事業者も多いようです。
インボイス制度は、法人、個人を問わずすべての事業者に影響がある制度です。このコラムでは今一度インボイス制度の概要を確認します。そして、特に現在「免税事業者」である会社、事業主に焦点をあてて、もし対応しないとどうなるか、および制度開始までに検討すべきことを、わかりやすく紹介します。
目次
インボイス制度と適格請求書の概要
・インボイス制度の概要
・適格請求書を発行する要件、適格請求書の記載要件
を説明します。
インボイス制度の概要
インボイス制度は、正確には「適格請求書等保存方式」といい「適格請求書(通称インボイス)」がなければ消費税の仕入税額控除がとれなくなる制度です。
ここで消費税の仕入税額控除について簡単に説明します。
例えば、事業者が税抜100円の商品を販売し、経費として税抜60円を支払っていたとします。この事業者が受け取った消費税は10円(100円の10%)、支払った消費税は6円(60円の10%)です。この時、事業者が納付する消費税の金額は、10円-6円=4円となります。このように経費にかかった消費税(この例だと6円)は、消費税の納税金額から差し引くことができ、これを仕入税額控除といいます。
インボイス制度では、経費を支払ったときに「適格請求書」を入手して保存しないと、消費税が差し引けなくなります。つまりこの例だと6円が差し引けず、10円を納税しなければなりません。結果として「適格請求書」がないと、消費税の負担が増えることになります。
なお、令和5年10月1日よりインボイス制度が開始されますが、開始と同時に100%仕入税額控除がとれなくなる訳ではなく、6年間の経過措置があります。経過措置の内容は以下のとおりです。
- 令和5年10月1日から令和8年9月30日まで・・・仕入税額控除の80%
- 令和8年10月1日から令和11年9月30日まで・・・仕入税額控除の50%
適格請求書の概要
適格請求書を発行するには、適格請求書発行事業者になったうえで、記載要件を満たす請求書を発行しなければなりません。
- 適格請求書発行事業者になるには
適格請求書発行事業者になるには、税務署に登録申請書を提出することが必要です。令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるには、令和5年3月31日までに申請が必要です。なお、適格請求書発行事業者になると、課税売上がいくらであっても消費税の課税事業者になります。消費税の免税事業者(基準期間における課税売上1,000万円以下の事業者)は、適格請求書発行事業者になると課税事業者になるため、消費税の納付義務が生じます。このため、消費税の負担が増える場合があります。
- 適格請求書の要件を満たす請求書とは
適格請求書の要件を満たす請求書は、下表のとおり適格請求書発行事業者の登録番号などいくつかの要件があります。なお、右欄の適格簡易請求書は、小売業など、不特定多数に販売する事業者が発行できる、通常よりも多少簡易的なものです。
(出典:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」)
適格請求書発行事業者にならないとどうなるか
適格請求書発行事業者にならないと、適格請求書が発行できません。そうすると、取引相手が仕入税額控除をとれなくなります。このため、適格請求書発行事業者にならないと取引上不利になる可能性があります。また、取引がなくならないとしても、消費税分の仕入税額控除がとれないことを理由に、この分の値引きを求められる可能性があります。
取引がなくなり減収したり、値引きしたりするよりは、消費税の課税事業者となり消費税分の負担をした方がよい場合も出てくるでしょう。
ただ、最終的に取引上どの程度不利になるか、取引条件が見直されるか、まだ不透明な事業者も多いかと思われます。取引先のどの程度が「適格請求書」を求めるかどうかにかかってきますが、上述した6年間の経過措置も考慮し、まずは令和5年3月31日(令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるための期限)までにどのように対応するかの方針を定める必要があります。
免税事業者がインボイス制度の導入までにやるべきこと
まずは、適格請求書発行事業者になるかどうかの検討が必要です。「適格請求書の概要」で記載したとおり、適格請求書発行事業者になると消費税の課税事業者になります。
消費税の負担増と、適格請求書発行事業者にならないことで被る不利益(取引相手として選ばれない、取引価格の見直しが検討されるなど)を比較して検討することになるでしょう。
取引先(客先)が免税事業者や、簡易課税制度を選択している場合、そもそも一般消費者で事業者ではない場合などは、そもそも適格請求書を求められることは少ないと思われます。自社、ご自身の状況に合わせて判断していくことになるでしょう。
検討の結果、適格請求書発行事業者になることを選択した場合は、主に以下の対応が必要です。
- 適格請求書発行事業者の登録申請
令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるには、令和5年3月31日までに申請が必要です。
そして、それ以降でも随時申請が可能です。免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。つまり、決算期の途中からでも適格請求書発行事業者・課税事業者になれます。この経過措置で登録を受ける場合、消費税の課税選択届出書の提出は必要ありません。適格請求書発行事業者の登録申請だけおこないましょう。
この時、簡易課税制度を選択したい場合は「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。上記の経過措置期間中に簡易課税制度の適用を受ける場合には、提出日の属する課税期間から適用できる特例があります。詳しくは「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問10を参照ください。
このように、免税事業者が適格請求書発行事業者・課税事業者になる場合には、通常と異なる特例があります。
- 適格請求書の発行体制の確認
要件を満たす請求書が自社で発行できるのか、自社システムを確認しましょう。
- 取引先から適格請求書を入手できるか
当方が適格請求書発行事業者になれば、消費税の納付義務があります。仕入先などの支払先から適格請求書を入手できるかを確認しておきましょう。入手できないと、段階的に仕入税額控除がとれなくなります。ただし簡易課税制度を選択した場合は、適格請求書は必要ありません。
適格請求書発行事業者になった後に免税事業者に戻るには
免税事業者が適格請求書発行事業者・課税事業者になったものの、状況を見て、また免税事業者に戻りたい場合もあるかもしれません。しかし、課税売上が1,000万円以下であっても適格請求書発行事業者をやめなければ、免税事業者に戻れません。このため、まずは適格請求書発行事業者の取り消しをおこないましょう。
取りやめるには、登録取消の届出書を税務署に提出します。原則として提出があった課税期間の翌課税期間から取り消しされます。ただし、提出が課税期間の末日から起算して30日前の日~末日までの間になってしまった場合は、翌々期からの取り消しとなります。詳しくは「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問14を参照ください。
そして「消費税課税事業者選択届出書」を提出した事業者が免税事業者に戻るためには「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出も必要となります。合わせて確認しましょう。
もし免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合は「登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間」までは免税事業者に戻れません。原則2年は免税事業者には戻れないと考えておきましょう。
まとめ
インボイス制度は売上規模の大小に関わらず、すべての事業者が対象です。このため国税庁でもたくさんの情報を提供しています。制度に関して詳しく知りたい方は国税庁のインボイス特設ページも参考にしてみてください。
免税事業者がインボイス制度開始にあたり、適格請求書発行事業者を選択するかどうかは、判断が難しいところです。また今まで消費税の申告をしていなかった事業者が申告をするとなると、事務手続も煩雑になります。
制度内容や税務上の判断などを含めて、インボイス制度についてご相談したい場合は、神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。