年末調整と確定申告は、ともに1年間の所得税の金額を確定させる手続です。しかし対象者が異なります。また、どちらか一つだけではなく年末調整をしていても確定申告も行う方もいます。
このコラムでは、年末調整と確定申告の概要と対象者、両方が必要になるケース、必要ではないが確定申告をした方が得になるケースを紹介します。
目次
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告の違いは何でしょうか。おおまかには、会社員は年末調整、その他の自営業者などの方は確定申告を行い、所得税を確定します。それぞれの概要と、詳細な対象者などを説明していきます。
年末調整とは?概要と対象者
年末調整とは、1年間の給与が確定したら、年間の所得税の金額を計算する手続きです。年末までにすでに源泉(天引き)してある所得税と最終的に支払う所得税の差額を還付または徴収します。
対象者は給与をもらっている会社員です。そして会社員の中でも、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、年末に在籍している方になります。
会社員の中には社長や役員も含まれますが、
上記の条件に当てはまる会社員であっても、主に下記の場合には年末調整を行いません。
- 給与の年間収入が2,000万円を超える場合
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている場合
- 前職があるが、前職の源泉徴収票を提出しない場合
稀に従業員から「確定申告をするため、年末調整はしなくてもよい」という申し出がある場合があります。しかし会社としては年末調整の義務があるため、対象者であれば年末調整を行わねばなりません。
年末調整をしても、さらに確定申告が必要なケース、した方がよいケースがあります。どのような場合でも、年末調整を受けた上でさらに確定申告をすることは可能です。
確定申告とは?概要と対象者
確定申告とは、1月1日から12月31日までの所得を確定して所得税の金額を計算し、税務署に申告した上で所得税を納付する手続きです。
所得があり、所得税が発生するすべての方が対象です。自営業者の方、フリーランスの方など事業を行っている方などが当てはまります。ただし、会社員で年末調整を受けた方は原則として確定申告の必要はありません。しかし、上記で述べた、給与の年間収入が2,000万円を超えるなどの「年末調整の対象外」の方は確定申告が必要です。
会社員がもらう給与は「給与所得」ですが、所得の種類には他にも「事業所得」「不動産所得」など10種類あります。これらの所得が基礎控除48万円を超える場合は原則として確定申告が必要です。ここで所得とは、収入から必要経費、所得の種類ごとに決まっている控除を差し引いた金額です。単純に「収入」の金額ではなく、儲けの部分であることに注意してください。
原則として、所得が基礎控除の金額以上であれば確定申告が必要と考えるべきですが、例外的に確定申告が必要ないケースがあります。代表的には、以下のような場合です。
- 株式売却や配当の所得があるが、証券会社などで「特定口座の源泉徴収あり」で取引した場合
- 公的年金等による収入が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下である場合
年末調整をしていても確定申告が必要なケース
注意点として、会社員が年末調整を受けても、確定申告が「必ず」必要なケースがあります。主なケースは以下のとおりです。
- 2箇所以上で勤務している場合。ただし年末調整されなかった勤務先での所得が20万円未満の場合は除きます。
- 給与所得以外に年間20万円以上の所得がある場合
- 年末調整で誤った情報を勤務先に伝えてしまったが、訂正期限が過ぎてしまった場合
年末調整をしてもらった所得以外に「20万円以上の所得」があれば、確定申告が必要です。例えば複数箇所で勤務している場合、フリーランスとして副業をしている場合などが当てはまります。最近では暗号資産の取引をする方が増えていますが、所得が出た場合は雑所得にあたり、確定申告が必要です。株式の特定口座の取引とは異なりますので注意してください。
繰り返しますが20万円はあくまで「所得」であり、「収入」ではありません。例えばフリーランスとして副業をした場合、収入が20万円あっても経費を差し引けば20万円以下になる場合は、申告の必要はありません。
また「扶養できない方を扶養として申告してしまった」など、年末調整を誤ってしまうことがあります。会社が訂正を受け付けてくれる場合はよいのですが、事務手続上一定の期日で締め切っていることがほとんどでしょう。この場合はご自身で確定申告が必要です。
その他、上場株式等に係る譲渡損失と配当所得等との損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けようとする方などは、上記に当てはまらない方であっても確定申告が必要です。
年末調整をしていても確定申告をした方がよいケース
年末調整をしていても、確定申告「も」した方がよいケースは、確定申告をすると所得税が還付されるケースです。主なケースは以下のとおりです。
- 医療費控除を受ける場合
- 住宅ローン控除を受ける初年度の場合。(2年目以降は年末調整で還付してもらえます。)
- ふるさと納税をして、ワンストップ特例の適用を受けない場合
- 年末調整で、控除を適用できる資料を提出漏れしてしまった場合
普段年末調整をしてもらっている方は、確定申告に縁がないことが多いかもしれません。しかし、上記の場合は確定申告をすると所得税が還付になるため、確認してみましょう。
年末調整をしている方が確定申告をする場合は、源泉徴収票が必要です。数字を転記する必要があるため、必ず保管しておきましょう。
ふるさと納税は、会社員の場合「ワンストップ納税」が便利です。自治体へワンストップ納税の申請書を送付しておけば、確定申告をせずに翌年の住民税から自動的に税金を控除してくれます。しかし、寄付団体が5自治体までという制限があるので注意が必要です。ワンストップ納税の適用を受けない方は、確定申告をして税金の還付を受けます。この場合は、寄付自治体数の制限はありません。
この他、年の途中で退職して年末調整を受けられなかった方で、給与の他に所得がない方は、確定申告をすると所得税が還付される可能性が高いです。確認してみましょう。
まとめ
以上、年末調整と確定申告の違いについて説明しました。年末調整は給与をもらう会社員だけが受けられる制度です。年末調整は、書く書類が多くて面倒だと思う方もいるかもしれません。しかし多くの場合、確定申告の方が手間がかかります。確定申告をせずに、所得税を確定する手続きを、勤務先が代行しているともいえます。
ただし年末調整をしているからといって、すべてのケースで確定申告をしなくてもよい訳ではありません。確定申告をしなければならない、または、確定申告をすると所得税の還付が受けられるケースを確認しておきましょう。
もし還付のための確定申告を失念しても、その年の翌年1月1日から5年間は申告が可能です。諦めずに申告してみましょう。年末調整、確定申告を始め、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。