近年、タワーマンションを使った節税スキームが富裕層を中心に流行しました。
通称「タワマン節税」とよばれるこの方法は、相続税対策に非常に効果的であり、現金で相続するよりも遥かに多くの資産を、残された家族に渡すことができます。
しかし昨今、課税逃れや著しい不公平が生じる可能性が問題視され、税制改正の動きが見られるようになりました。
この改正が実施されれば、タワーマンション節税の効果は大幅に減少する可能性があります。
そこでこの記事では、タワーマンション節税の仕組みや注意点、改正の動向等をわかりやすく解説します。これからタワーマンションを購入しようと考えている方、既に所有している方はぜひ最後までご覧ください。
目次
タワーマンション節税とは?
タワーマンション節税とは、購入価額(時価)と不動産の評価額が、大きく乖離していることを利用した相続税の節税スキームです。
これを利用することで、会計上の資産の価値を大幅に下げることができ、現金で相続するよりも支払う相続税を減らすことができます。
タワーマンション節税の仕組みとメリット
タワーマンション節税は、相続税対策に大きな効果を発揮します。ここでは、節税の仕組みやメリットについて、わかりやすく説明します。
タワーマンション節税の仕組み
相続する資産は、現金や不動産など、さまざまな種類があります。
たとえば、現金や預金などはそのままの金額に相続税が課されますが、土地や建物等の不動産は、一律に相続税を計算するときの基準金額(相続税評価額)を決めることができません。
そのため、土地と建物を一定の規則のもとにそれぞれ評価することで、相続財産としての価値を測ることになります。
一般的に、土地と建物は以下のように評価されます。なお、固定資産税評価額も、土地以上に時価より低く評価されることが一般的です。
つまり、実際に売買される価格(実勢価格)と相続税としての評価額には差があることになります。
たとえば、現金で1億円を相続した場合には1億円分の相続税がかかりますが、1億円分のタワーマンションを購入すると、評価額がそれを下回るので、相続税を大幅に節約することができるのです。
これが、タワーマンション節税の仕組みです。
高層階ほど相続税評価額が下がる
タワーマンション節税は「高層階であればあるほど有利である」という特徴があります。
理由としては、同じタワーマンションでも、高層階の方が低層階よりも実勢価格(実際に売買される価格)が高いにもかかわらず、相続税評価額は同じだからです。
以下の物件を想定し、簡単なシミュレーションをおこないます。
1戸ずつ按分すると、160億円÷430戸=約3,720万円となり、これが1戸当たりの評価額となります。
そのため、実際には1億円で売買できる資産価値を保有しているのにもかかわず、相続税評価額は3割程度まで抑えられ、相続時の税金を少なくすることができるという仕組みです。
なお、上記シミュレーションでは相続税評価額が3割程度ですが、第三回有識者会議における資料によると、
平成30年のマンションの相続税評価額は、市場価格と比較して平均42%程度に抑えられています。
具体的にどれぐらい節税できる?
ここでは、タワーマンションと現金での相続では「どれぐらい相続税に違いがあるのか」について、先のシミュレーション(下図)の条件をもとに計算をおこない、比較検討します。
現金で相続する場合
・相続税評価額 11,900万円(現金のみ)
・法定相続人…妻、娘
原則として、現金の評価額はその金額と同じなので、11,900万円から基礎控除(4,200万円)を引いた分の7,700万円が課税遺産総額となります。
この場合の相続税の算出税額は、1,610万円(7,700万円×30%-700万円)となります。
タワーマンションで相続する場合
・相続税評価額 3,720万円(タワーマンションのみ)
・法定相続人…妻、娘
タワーマンションで相続する場合は、前述のとおり、1戸当たりの評価額は約3,720万円(160億円÷430戸)となります。
この場合、3,720万円(評価額)-4200万円=0円となり、基礎控除額が課税価格の合計額を上回るため、相続税を支払う必要はありません。
このように、同じ価値を持つ資産でも、タワーマンション節税を利用すると、相続時の課税財産を数分の1程度に抑えられる可能性があります。
なお、上記は簡単なシミュレーションであるため、実際の節税額は、物件の評価額や所在階、築年数などによって変わりますが、一般的には数百万円から数千万円の節税効果が期待できるでしょう。
タワーマンション節税の注意点
タワーマンション節税のリスクとは?
タワーマンション節税の考えうるリスクの1つとしては、「税務署による否認」があります。
2022年4月におこなわれた、国税当局と納税者が争った、通称「タワマン節税裁判」では、時価と評価額に著しい差があり、租税負担の公平性を害するという理由で、裁判所は追徴課税を命じました。
この一件は、著しい不公平が生じる場合などは、国税庁長官の指示により評価するという「財産評価基本通達第1章総則6項」により判断がくだされたとされています。
この判例により、すべてのタワーマンション節税スキームが否認されるとは限りませんが、その可能性を考慮した方がよいでしょう。
タワーマンション節税で注意するポイント
税務署による否認の他にも、「災害等のリスク」や「改正による課税強化」等の注意点があります。
ここでは、これらのリスクについて、ひとつずつ説明します。
災害等のリスクがある
基本的に、タワーマンション節税の流れは、
- 購入
- 相続発生
- 売却
となっています。
タワーマンションは、大雨や地震、火災等の自然災害など、予測できない外的要因や市場状況により、価値が下落する場合もあります。
そのような場合、所有する部屋の市場価格が下がると、節税スキームの出口である売却額が下がってしまい、せっかく相続税を節税しても、期待したほどの現金化は見込めない可能性があるという点に注意が必要です。
改正で課税が強化される動きがある
タワーマンション節税は、税務署により否認される可能性があることは、前述したとおりです。
また、節税スキームの特性上、キャッシュに余裕がある富裕層のみがおこなえる節税対策となっており、そのため、租税の公平性という観点から問題視され、改正の動きが起こっています。
実際に税制改正がおこなわれた場合、相続税評価額が上がり、現行の税制よりも税負担が重くなる可能性があるので、より一層注意する必要があるでしょう。
タワーマンション節税「改正」の動向は?
改正の背景は?
改正の背景は、現行の相続税評価額と実勢価格との間に存在する乖離が大きな要因となっています。
特に高層階に位置する物件ほど、その相続税評価額は実勢価格に比べて相対的に低く設定されています。
そのため、「過剰な節税」や「著しい不公平さ」が改正の背景にあるといえるでしょう。
改正の内容は?
税制改正では「価額(価値)を求める計算方法が変更される」可能性があります。
国税庁がおこなった「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で提案された見直し案では、現行の相続税評価額 × 当該マンション一室の評価乖離率 × 最低評価水準0.6(定数)とされています。
要するに、実勢価格との乖離率が1.67倍を超えるほど乖離が大きい場合には、「市場価格×0.6」で評価することになります。
なお、上図の「当該マンション一室の評価乖離率」は実勢価格と評価額の差を表しており、国税庁の資料「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について 」によると、東京都のあるタワーマンションでは、大きいものでは3.20倍の乖離率があったと報告されています。
本当に改正はおこなわれる?
タワーマンション節税の改正は、実際におこなわれるものと考えてよいでしょう。
パブリックコメントによると、本改正は、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用することとされています。
改正後の対応は?
改正による算定ルールの変更で、タワーマンション節税の節税効果は弱まると考えられます。
相続税対策は他にも方法があるので、それらと比較して、どれがより自身にとって有利になるのか、判断が必要となるでしょう。
まとめ
富裕層の相続税の節税スキームとして流行したタワーマンション節税ですが、改正に伴ってより厳しく制限される可能性が高いと考えられます。
そのため、既にタワーマンションを所有している人は、税制改正の動向を注視し、必要に応じて対策を考えることが求められます。
相続での節税方法はタワーマンションが最良というわけではありません。このほかにもさまざまな方法が考えられますので、ぜひ一度、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。