法人 | 神戸市の税理士・公認会計士|確定申告・顧問・料金の相談なら「永安栄棟 公認会計士・税理士事務所」へ

税理士は確定申告書の作成だけでなく、税務調査に立ち会うことができるため、調査対策の視点から税理士を選ぶことも大切です。

税理士選びに失敗してしまうと上手く節税ができないだけでなく、調査対象者として税務署から狙われやすくなるので気を付けてください。

本記事では、税務調査対策として税理士を活用するメリットと、税理士に依頼する際に知っておくべきポイントをご紹介します。

事業者は必ず税理士に依頼しなければいけないのか

確定申告書は基本的に納税者が作成し、提出するものなので、納税者自身で申告手続きを行える場合には税理士に依頼する必要はありません。

しかし、事業者は確定申告書を年に1度しか作成しませんし、税制改正が行われれば変更点を確認した上で申告することが求められます。

納税者と税理士を比較した場合、税に関する知識は税理士の方が豊富であり、税理士は依頼を受けている件数だけ申告書を作成していますので、申告手続きにも慣れています。

税務調査に関しても、調査経験が複数回ある人は限られますので、ほとんどの事業者は調査対応に慣れることはありません。

税務調査の連絡は突然入るため、連絡を受けてから調査対策をするのでは遅いです。

調査対応のしかたを間違えてしまうと、追徴税額が増えるなどのリスクが上がりますが、関与税理士がいれば事前に調査対策ができますので、調査自体を回避できるようになります。

税務署から調査の連絡が入るパターン

税務調査は脱税を試みた人(法人)に対して実施されるイメージがあるかもしれませんが、一般の方でも調査対象者として選ばれますので注意してください。

税務署から連絡が入るパターンは3種類あり、申告誤りがあれば本税だけでなく、加算税・延滞税といった附帯税も支払うことになります。

  • 実地調査
  • 実地調査以外の調査
  • 行政指導

出所:税務手続について(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf

「実地調査」は調査担当者が自宅・事務所に訪れる調査

「実地調査」は、調査担当者が自宅や事務所を訪問し、提出した申告書の内容や申告書を作成する基となった資料等を調べるために実施します。

一般的な税務調査は実地調査を指すことが多く、実地調査は1日かけて調査することがほとんどで、法人に対する税務調査については日をまたぐことも珍しくありません。

申告内容に誤りが無かったとしても、調査対応で最低1日は拘束されますし、調査担当者からの質問に回答できないと、計上した経費や特例適用が否認されるなどリスクが伴います。

また、仮装隠蔽行為があったとみなされた場合、重加算税が適用される点にも注意しなければなりません。

出所:加算税の概要(財務省)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_3.pdf

「実地調査以外の調査」は電話や税務署内で実施する調査

「実地調査以外の調査」は、電話や税務署で申告誤りの指摘を行う調査手法です。

実地調査は申告書の内容をすべて確認するのに対し、実地調査以外の調査では申告誤りや申告内容の疑義がある部分だけを調査します。

調査で拘束される時間は実地調査よりも短く、調査担当者の疑義を解消できれば追徴税額を支払わずに済むケースもあります。

一方で、実地調査以外の調査でも申告誤りが指摘されれば、実地調査と同様、本税に加えて加算税・延滞税を納めなければなりません。

また、実地調査以外の調査で新たな不明点が判明した際には、実地調査に移行して調査することもあるため、適切な対応が求められます。

「行政指導」納税者に確認を促す調査

行政指導は税務署が納税者に対して申告内容の確認を促し、誤りがあった際は自主的な修正をさせることを目的とした指導です。

実地調査や実地調査以外の調査と違い、法律上の税務調査ではないため、行政指導により提出した申告書は自主申告扱いとなります。

自主的な修正申告や期限後申告は、適用される加算税のペナルティが軽減されるため、行政指導の段階で申告書の内容を正せば、余分に納める税金を抑えることができます。

また、行政指導は自主的に申告内容の確認を促すものなので、申告内容に誤りが無ければ修正申告等を提出する必要はありません。

ただし、税務署が申告内容の修正等を要すると判断した場合には、実地調査や実地調査以外の調査に切り替えて、調査が行われる可能性があるため、行政指導の連絡が入ったときも適切な対応が必要です。

税務調査対策として税理士に依頼するメリット

税理士を付けるメリットは、確定申告書の代理作成や節税だけでなく、税務調査に関するメリットも存在します。

税務調査を受ける確率が下がる

税務署は無作為に調査対象者を抽出しているのではなく、調査する条件が揃っている納税者を中心に調査を実施しますので、狙われやすい事業者は対策が不可欠です。

年間で税務調査を受ける確率は税金の種類によって異なり、個人事業主(所得税)は概ね1%、法人(法人税・消費税)は3%~4%程度です。

税務署の調査担当者は、調査を実施したことによる実績が求められているため、増差税額が発生する可能性が高い事案ほど調査対象者として選定しやすい傾向にあります。

納税者が作成した申告書は、税理士が作成したものより申告内容に誤りがある可能性が高いため、税理士関与が無い申告書の方が税務調査を受けやすいです。

一方、税理士が関与している申告書は、税務署から一定の信用はされていますので、税理士を付けているだけで、調査を受ける確率は下がります。

出所:令和4事務年度国税庁実績評価書(財務省)

https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2022/evaluation/index.html

税務調査に対する不安を払拭できる

納税者が関与税理士を付けている場合、税務署は関与税理士を通じて納税者に連絡をしなければなりません。

したがって、関与税理士を付ければ税務署から直接連絡が入ることは無くなりますし、税理士が間に入って税務署の担当者と税務調査に関する話し合いをしますので、税務署のペースで調査が展開されることを防げます。

税務調査は納税者以外の人が立ち会うことはできませんが、納税者から委任を受けた税理士については立ち会いが認められています。

初めて税務調査を受ける納税者は、脱税行為をしていなくても調査について不安になりますが、税理士がいれば不安を軽減できますし、調査に関する疑問点を事前に税理士へ聞けるのも関与税理士を付けるメリットです。

税務署からの指摘に対して適切な対処を行える

個別判断を要する事項は適否が分かれやすく、納税者によって経費計上の可否や特例制度の適否が変わることは珍しくありません。

税務署は税務調査で白を黒にすることはしませんが、白黒はっきりしていない点を黒と認定し、申告誤りとして指摘することはあります。

納税者が税知識を十分に有していない場合、調査担当者からの指摘に対して反論することが難しく、根拠のある意見を主張できないと黒として認定されてしまう可能性が高いです。

その点、税理士は税務署の調査担当者と同等、またはそれ以上の知識・経験を有していますので、調査担当者が黒の疑いを向けたとしても、白である根拠を法令や判例等を交えて説明することができます。

税務署は黒と断言できないものを無理やり黒認定することはしませんので、見解が分かれる事項が多いケースほど、税理士の存在が活きてきます。

税務調査に強い税理士の見つけ方

税務署は牽制目的で税務調査を実施することがあるため、確定申告書を適正に作成したとしても、税務調査を100%回避することは困難です。

税務調査を受けないことが望ましいですが、税務調査が入ったとしても申告誤りを指摘されなければ、追徴課税を受けることはありません。

税務調査に強い税理士は、調査対象になったことも想定して対策を講じますので、調査を受けないことだけをアピールしている税理士には注意してください。

税理士の中には税務署側に傾いた対応をする方もいますので、税務署の調査担当者の要求を鵜呑みにせず、納税者の味方として行動する税理士に依頼してください。

税務調査リスクを下げたい方は税理士を活用すること

税務調査を可能な限り回避するためには、申告書を正しく作成することが最も重要です。

納税者が正しい申告書を作成するのは大変ですので、調査リスクを軽減する観点から税理士に依頼することも検討してください。

税務調査は一つの計算ミスが原因で実施されることもありますし、税理士が付いていない申告書は、他に誤りがないか念入りに調べられます。

全国には数多くの税理士事務所が存在しますが、事務所によって得意・不得意の分野は違いますし、税理士自身の能力にも差があります。 毎年申告する事業者は、顧問税理士の選び方が経営にも影響してきますので、信頼できる税理士を見つけていただき、事業に専念できる環境を整えてください。

税務でお困りごとがございましたら、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へお問い合わせください。

令和6年度税制改正において交際費等の見直しが行われ、交際費等から除外される飲食費の基準額が、1人当たり5,000円から1万円に引き上げられました。

本記事では、交際費等から除かれる飲食費の金額基準が変更した経緯と、交際費等および飲食費に該当する範囲、そして損金計上する際の注意点について解説します。

令和6年度税制改正における交際費等の変更点

法人税では、接待交際費として支出した費用のうち、一定額以下の飲食費は交際費等の範囲から除かれます。

除外対象となる飲食費は、従来1人当たり5,000円以下とされていましたが、令和6年(2024年)4月1日以後からは基準額が1万円以下になります。

基準額の引き上げは、昨今の会議費の実態等を踏まえたものとされていますが、それ以外にも物価上昇による飲食費の高騰や、従来の5,000円の基準額は金額的に低いとの意見があったことも要因です。

令和6年度税制改正では、飲食費の基準額変更以外にも、接待飲食費に係る損金算入の特例及び中小法人に係る損金算入の特例の適用期限が3年延長されました。

法人が支出した交際費等は原則損金不算入ですが、資本金の額等が1億円超から100億円以下の法人は、接待飲食費の50%の損金算入が認められています。 中小法人(資本金の額等が1億円以下の法人)については、「接待飲食費の50%」または、「800万円までの交際費等の全額」のいずれかを選択できるため、交際費等を800万円以内に抑えれば交際費等を全額損金として算入することが可能です。

出所:令和6年度税制改正(財務省)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei24.html

交際費等の範囲

交際費等は、交際費や接待費などの費用のうち、得意先や仕入先等の事業関係者などに対する接待・供応・慰安・贈答、その他これらに類する行為のために支出するものをいいます。

慰安のための支出であったとしても、専ら従業員のために行われる旅行等において通常生じる費用は、交際費等ではなく福利厚生費に該当します。

また、飲食その他これに類する行為のために要する費用のうち、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が、1万円以下(令和6年3月31日までは5,000円以下)である場合も交際費等から除かれます。

(専ら法人役員や従業員、これらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。)

飲食代として支払った費用が1人当たり1万円以内であれば全額を損金に算入できますし、1万円を超えた場合には、交際費等として損金算入の判定を行うことになります。

得意先や仕入先、事業関係等に対する支出のうち、次の性質があるものは交際費等には含まれません。

<交際費等には該当しない支出>

  • 寄附金
  • 値引きおよび割戻し
  • 広告宣伝費
  • 福利厚生費
  • 給与等

寄附金と交際費等のどちらに該当するかは、個々の実態により判定することになりますが、金銭でした贈与は原則寄附金であり、社会事業団体や政治団体に対する拠出金や、神社の祭礼等の寄贈金についても交際費等には含まれません。 また、不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図するものなど、広告宣伝費の性質を有する支出も交際費等には該当しません。

交際費等から除外される飲食費の書類の保存要件

交際費等の範囲から「1人当たり1万円以下の飲食費」を除外する場合、次の事項を記載した書類を保存しなければなりません。

<記載事項>

  • 飲食等のあった年月日
  • 飲食等に参加した得意先、仕入先、その他事業に関係のある者等の氏名(名称)およびその関係
  • 飲食等に参加した者の数
  • 費用の金額、飲食店・料理店等の名称・所在地
  • その他参考となるべき事項

店舗を有しない飲食店である等を理由に、名称や所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名(名称)、住所(居所)または本店(主たる事務所)の所在地を記載しなければなりません。

法人税の申告をする際は、別表十五「交際費等の損金算入に関する明細書」で損金算入する額を計算します。

出所:交際費等の損金算入に関する明細書(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2022/pdf/15.pdf

1人当たり1万円以下の飲食費の判定

交際費等の範囲から除かれる飲食費は、次の算式で計算した1人当たりの金額が1万円以下の費用が対象です。

<1人当たりの飲食費の算定方法>

飲食等のために要する費用として支出する金額÷飲食等の参加者数=1人当たりの飲食費の金額

1人当たりの飲食費の金額は、単純に飲食等に参加した人数で除して計算した金額で判定します。

得意先等が飲食店等において、個々にどの程度の飲食等を行ったかは、1人当たりの飲食代を計算する上では関係ありません。

1人当たりの金額が1万円を超えた場合、その費用のすべてが交際費等に該当することになり、1万円を超えた部分だけが交際費等に該当する控除方式ではないため、交際費等に該当しない範囲で飲食代を支出したいときは、1人当たりの金額が1万円を超えないよう注意してください。

支出する費用に係る消費税等の扱い

「飲食等のために要する費用として支出する金額」に係る消費税等の額は、法人が適用している消費税の経費方式によって扱いが異なります。

法人が税込経理方式を適用している場合、支出する金額に消費税等の額を含めます。

一方、税抜経理方式を適用している法人については、消費税を支出する金額に含めないで飲食費1人当たりの金額を計算しなければなりません。

インボイス制度の導入により、適格請求書発行事業者以外の者から課税仕入れをする場合には、原則仕入税額控除を適用できなくなりました。

節税の観点からすると、相手方が適格請求書発行事業者に該当するかも関係してきますので、接待などのために飲食代を支出する際は、法人税だけでなく消費税の取扱いにも気を付けてください。

交際費等から除外される飲食費の範囲

税務調査では交際費等に関係する支出は必ずチェックされますので、交際費等から除外される飲食費の範囲を正しく把握することが大切です。

「飲食等のために要する費用」とは

飲食等のために要する費用は、飲食代だけでなく、飲食等のためのテーブルチャージ料やサービス料など、飲食店等に対して直接支払うものが対象です。

飲食等のために飲食店等に対し、通常直接支払わない費用は、飲食等のために要する費用には該当しません。

たとえば、得意先等を飲食店等へ送迎するための送迎費は、接待・供応に当たる飲食等を目的とした送迎という行為のために要する費用であり、飲食等のために要する費用に該当しないことから交際費等として扱います。

「飲食その他これに類する行為」に該当するもの

「飲食その他これに類する行為」のために要する費用には、自社の従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」だけでなく、得意先等の業務遂行や行事開催に際して差入れた弁当の代金なども含まれます。

飲食費に該当する弁当代は、得意先等において差入れ後、相応の時間内に飲食されることが想定されるものを前提とするため、飲食物の詰め合わせの贈答など、中元や歳暮を渡すのと変わらないものは「飲食その他これに類する行為」には含まれません。

一方で、飲食店等での飲食後に提供されている飲食物の「お土産代」のうち、代金を飲食店等へ支払うものについては、相応の時間内に飲食されることが想定されるかに関係なく、飲食に類する行為に該当するものとして飲食等のために要する費用となります。

まとめ

交際費等から除外される飲食費の基準額は引き上げとなりましたが、飲食費に該当するかの判定方法は従来と同じです。

基準額が5,000円から1万円に拡大したことは納税者にとってメリットがある変更ですが、税制改正が行われた部分は税務調査でチェックされやすいので注意してください。

接待交際費は税金対策として活用しやすい半面、損金算入が否認されることが多い項目でもあります。

中途半端な対策はリスクが伴いますので、税金対策・調査対策は専門家に相談の上、事業者ごとに適した手段を用いることを推奨します。

税務でお困りごとがございましたら、ぜひ一度永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

創業時の融資方法の一つとして活用されていた「新創業融資」が廃止され、新たに「新規開業資金」が創設されました。

新規開業資金と新創業融資は日本政策金融公庫の融資制度ですが、融資を受ける際の条件などは異なりますので、本記事で新規開業資金の特徴と融資審査のポイントを解説します。

日本政策金融公庫は政府系の金融機関

日本政策金融公庫(略称:日本公庫)は、民間金融機関では融資するのが難しい事業者などを対象に融資を行っている政策金融機関です。

政策金融機関は、政府が経済発展や国民生活を安定させるなどの政策を実現させることを目的に設立された特殊法人であり、日本政策金融公庫は日本政府が100%出資している株式会社です。

出所:日本政策金融公庫

https://www.jfc.go.jp/n/company/summary.html

金融機関から資金調達する場合、事業者の経営状態や資産の保有状況などが審査されます。

事業が不安定な会社や返済が見込めない会社は融資を受けにくいですし、創業して間もない会社は事業実績が無いため、銀行などから融資を受けるハードルが高いです。

日本政策金融公庫の創業融資は、事業実績が乏しいなどの理由により資金調達が困難な創業期の会社等を支援するための融資制度を多数用意していますので、事業を開始するタイミングでも融資を受けやすいのが特徴です。

日本政策金融公庫の新規開業資金制度の概要

日本政策金融公庫の新規開業資金は、これから事業を始める予定の方や、事業を開始して日が浅い事業者が利用できる融資制度です。

一般的に融資が受けにくい方が利用しやすいだけでなく、融資制度としても優れているため、創業前後においては有力な資金調達手段となります。

<新規開業資金の概要>

利用対象者新規事業者または事業開始後おおむね7年以内の方
融資の用途新規事業を開始前・開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間設備資金
20年以内<うち据置期間5年以内>
運転資金
10年以内<うち据置期間5年以内>
年利基準利率
担保・保証人要相談

新規開業資金を利用する際、次の特例制度も併用することが可能です。

<併用可能な特例制度>

  • 経営者保証免除特例制度
  • 創業支援貸付利率特例制度
  • 設備資金貸付利率特例制度(東日本版)
  • 賃上げ貸付利率特例制度

年利は返済期間や担保の有無などによって異なりますが、次に該当する方は通常よりも有利な条件で利用することができます。

  • 女性、若者、シニアの方で創業する方
  • 廃業歴等があり、創業に再チャレンジする方
  • 中小会計を適用して創業する方


出所:日本政策金融公庫 国民生活事業(主要利率一覧表)

https://www.jfc.go.jp/n/rate/index.html

新規開業資金と新創業融資の違い

以前まで存在した日本政策金融公庫の新創業融資は令和6年(2024年)3月で廃止となり、新たに新規開業資金が創設されました。

制度が一新されたため融資条件等も変更されていますが、新規開業資金は新創業融資より利用しやすい制度に設計されています。

新規開業資金は無担保・無保証人でも申し込みできる

新規開業資金は、無担保・無保証人でも申し込みすることができます。

融資を受ける際に最も大きな障壁となるのが、担保・保証人の存在です。

金融機関等は、融資金額の返済が滞った際のリスクヘッジをしなければなりませんので、担保や保証人が用意できない事業者に融資するケースは限られています。

新規開業する事業者は担保提供できる資産を保有していることが少なく、保証人を確保するのも難しいため、銀行から資金調達するのは大変です。

日本政策金融公庫の融資制度も、担保や保証人を用意することで利率等が優遇される部分もありますが、新規開業資金の申込要件に担保・保証人は含まれていないため、新しく事業を始める方でも利用しやすいような制度になっています。

融資金額の拡大・返済期間の延長

融資を受ける際にポイントになるのが、融資金額の上限と返済期間です。

創業当初は開業準備費用だけでなく、開業してから一定期間経営を維持するための運転資金の確保は不可欠です。

経営が順調であれば計画的に返済することもできますが、創業当初は売上を予想するのが難しく、短期間で返済を求められると資金繰りに苦慮することも懸念されます。

従来の新創業融資は、融資限度額3,000万円(うち運転資金1,500万円)で、返済期間は設備資金は20年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金については7年以内(うち据置期間2年以内)でした。

(「据置期間」は元金返済が猶予され、利息のみを払い込む期間をいいます。)

新創業融資も好条件で融資を受けられる制度でしたが、新規開業資金は融資限度額が7,200万円(うち運転資金4,800万円)に拡大したため、以前より大きな金額を調達できるようになっています。

設備資金の返済期間は20年以内と同じですが、据置期間は2年以内から5年以内に拡大しています。

一方、運転資金の返済期間は7年以内から10年以内、据置期間は1年から5年以内と延長されていますので、事業を中長期的に計画して展開したい事業者にとっては魅力的な融資制度です。

条件に応じた利率の引き下げ

融資を受けた際の返済額は融資金額だけでなく、設定される利率によっても上下します。

利率が低いほど返済額を抑えることができますが、設定される利率は融資する側が利益を得るだけでなく、融資したお金が戻ってこなかった際の損失を補填する目的もあることから、返済が滞るリスクが高い事業者ほど利率は高く設定されます。

新規開業資金も利率は担保や保証人の有無で変動しますが、一般的な相場よりは抑えられており、新創業融資と比べても利率は低いです。

融資を受けにくい事業者は、お金を借りた際の利率が高くなりやすいため、利率を抑えて融資を受けられるメリットは非常に大きいです。

申込要件に自己資金要件が含まれていない

日本政策金融公庫で融資を受ける場合、一定以上の自己資金を保有していることが条件となっているものもあります。

しかし、新規開業資金の申込要件には自己資金要件が含まれていないので、自己資金が少ない事業者も融資申し込みをすることが可能です。

新規開業資金の融資を受ける際の流れ

新規開業資金の申し込みをする場合、最初に日本政策金融公庫へ融資相談をすることになります。

相談(要予約)は融資を申し込む前にすることができますし、支店窓口だけでなくオンラインでも相談を行っています。

融資の申し込みをインターネットでする際には、次の書類が必要です。

<融資申込時の必要書類>

  • 創業計画書
  • 運転免許証またはパスポート
  • 見積書
    (設備資金の申込の場合)
  • 履歴事項全部証明書または登記簿謄本
    (法人の場合)
  • 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書
    (担保提供する場合)
  • 都道府県知事の「推せん書」(借入申込金額が500万円以下の場合は不要)または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」
    (生活衛生関係の事業を営む場合)
  • 許認可証
    (飲食店などの許可・届出等が必要な事業を営んでいる方に限る)

※電子データを準備すること

※郵送による申込手続きの際は「借入申込書(国民生活事業用)」も提出すること

融資申込後に日本政策金融公庫の担当者と面接を行い、融資の有無が決定します。

面接時には資金の用途や事業計画などが質問されますので、事業計画に関連する資料や、資産・負債の確認できる書類等を用意してください。

審査を通過した後に必要な契約手続きを行い、指定した口座に融資金が振り込まれます。 融資金の返済は原則月賦払いですが、返済方法については元金均等返済・元利均等返済・ステップ(段階)返済などが用意されています。

新規開業資金の融資申込みをする際に注意すべきポイント

日本政策金融公庫は一般の民間金融機関では融資が受けにくい方々を支援する目的があるため、比較的融資は受けやすくなっていますが、無条件で審査が通るわけではありません。

事業者の信用情報に問題があれば審査は通過しにくくなりますし、創業前に融資を受ける事業者については、創業計画書(事業計画書)の内容が非常に重要です。

融資経験が無い場合、創業計画書を適切に作成するのが難しく、審査に落ちてしまうと半年間は再申込不可となります。

事業を開始する時期が決まっている方は、審査に落ちることを避けなければなりませんので、融資の申し込みをする前に1度専門家にご相談ください。

永安栄棟 公認会計士・税理士事務所では税務のお困りごとをお伺いしております。ぜひ一度、お問い合わせください。

税務調査は1年中行われていますが、制度の創設・変更した部分は調査対象になりやすい傾向にあります。

インボイス制度は令和5年(2023年)10月1日からスタートしましたので、消費税の税務調査は今後増加することが予想されますので、調査対策は不可欠です。

本記事では、インボイス制度に対する税務調査の動向と、インボイス制度導入後に気を付けるべき税務調査のポイントについて解説します。

消費税の税務調査の実施状況

消費税の税務調査は毎年数多く実施されており、令和4事務年度における法人税・消費税の実地調査件数は6.2万件、簡易な接触件数は6.6万件です。

「実地調査」は、調査担当者が自宅や事務所に訪れて実施する調査をいい、一般的な税務調査は実地調査を指します。

「簡易な接触」は、税務署が書面や電話、来署依頼による面接により、納税者に対して自発的な申告内容の見直しなどを要請するものです。

1年間の納税者に対する法人税・消費税の接触率は3.9%、5年間では17.8%となっていますので、確率的には6社のうち1社は5年間で国税当局から何かしらの接触を受けています。

一方、令和4事務年度の個人事業主に対する消費税の税務調査件数は93,985件と、対前年比110.3%となっています。

消費税の無申告者に対する調査も積極的に実施されており、 同事務年度の実地調査件数は7,615件(令和3事務年度3,828件)、1件当たりの追徴税額は全体156万円の1.7倍にあたる260万円です。

260万円は過去最高額だった令和3事務年度の245万円を超える額なので、税務調査で無申告を指摘された際の追徴税額は今までで最も大きいです。

インボイス制度への対応が必要になるケース

インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入された令和5年10月1日以降に、消費税の仕入税額控除を適用する場合、原則として適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書の保存が必要です。

適格請求書を交付する事業者は、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録を受けなければなりません。

適格請求書発行事業者の登録件数は、令和6年3月末時点で4,445,025件です。

出所:適格請求書発行事業者の登録通知時期の目安について(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/kensu_kikan.pdf

登録申請ができるのは消費税の課税事業者に限られるため、消費税の免税事業者が登録をするためには、課税事業者への変更を要します。

インボイス制度への対応は任意であるため、インボイス制度に対応していないだけで税務調査を受けることはありません。

しかし、免税事業者からの仕入れに係る消費税は仕入税額控除の対象外となることから、適格請求書発行事業者の登録をしない場合、事業の取引範囲が狭まることが懸念されています。

インボイス制度に対する税務調査は大口・悪質なケースに限定

住沢整国税庁長官は、会見等でインボイス制度に対する税務調査を大口・悪質なケースに限定して実行することを示しています。

国税当局は、これまでも保存書類の軽微な記載不備を目的とした調査は実施しておらず、記載事項の不備をあげつらうような調査はしないとし、税務調査の過程でインボイスの記載不備を把握したとしても、柔軟な対応をとる方針を考えているとのことです。

たとえば、インボイスに必要な記載事項については他の書類等で確認したり、 修正インボイスを交付することで、事業者間でその不足等を改めるなどの対応を行うこととしています。

調査必要度の高い納税者(大口・悪質な不正計算が想定される納税者など)に対しては、重点的に税務調査を実施するとしていますが、一般納税者に対してはインボイス制度に関するケアレスミスを指摘することだけを目的に、税務調査が行われることはありません。

出所:インボイス制度の周知広報の取組方針等について(国税庁)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/tekikaku_seikyusyo/dai3/siryou.pdf

インボイス制度の導入で消費税調査はより厳しくなる

インボイス制度に対する税務調査は、国税庁長官が大口・悪質なケースに限定すると明言していますが、インボイス制度の導入自体が税務調査に影響を及ぼす出来事なので、事業者は必要に応じて対策を講じなければなりません。

消費税の無申告者の抽出が容易になる

適格請求書発行事業者の登録申請ができるのは、消費税の課税事業者に限られるため、インボイス登録を行った事業者は必ず消費税の申告をしなければなりません。

適格請求書発行事業者には登録番号が付されていますので、税務署は登録事業者の誰が申告しているか容易に把握できます。

インボイス(適格請求書)には、適格請求書発行事業者の氏名(名称)および登録番号登録番号を記載しなければならなず、税務調査では仕入税額控除を適用するために必要事項がインボイスに記載されているかチェックします。

登録事業者でない事業者からの仕入れを仕入税額控除に含めていれば否認されますし、取引相手が消費税の申告が必要な事業者であるかも同時に確認されます。

適格請求書発行事業者の登録は任意ですが、登録申請をしていない事業者についても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば消費税の課税事業者となりますので、消費税の申告が必要になる事業者は期限内に手続きを行ってください。

仕入税額控除の適否判定を確認するための調査が増える

インボイス制度の導入で仕入税額控除の適用要件が変更になったため、仕入税額控除の適否判定のために税務調査が実施されることも想定されます。

インボイス制度に対する税務調査は一定の納税者に限定される見込みですが、経費の架空計上などに対する税務調査は全事業者が対象です。 経費を増やすために領収書等を偽造すれば、税務調査で指摘されるだけでなく、重加算税が課されることになるので気を付けてください。

消費税の税務調査で気を付けるべきポイント

所得税や法人税の税務調査対策は講じられることが多いですが、消費税の課税事業者については、消費税の税務調査への対策も必要です。

□消費税調査は所得税・法人税と同時に実施される

消費税は事業を営んでいる人(法人)が納める税金ですので、所得税・法人税と一緒に税務調査が実施されるケースが多いです。

消費税は課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除して算出するため、売上の計上漏れや指摘されたり経費が否認されれば、消費税の納税額が増加します。

消費税の計算は「一般課税」と「簡易課税」の2種類ですが、インボイス制度が開始したタイミングで「2割特例」が期限付きで導入されています。

簡易課税は事前申請が必要であり、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合、その課税期間は簡易課税制度を適用することはできません。

2割特例は事前申請することなく適用できる反面、インボイス事業者となるために免税事業者から課税事業者になった事業者を対象とする制度なので、適用する際は事前に要件を確認してください。

□消費税の複数税率に対応した申告内容の確認

消費税の軽減税率は、令和元年(2019年)から10月1日より導入されましたが、すべての課税売上に対する消費税を軽減税率、課税仕入れに対する消費税を一般税率で計算すれば、納税額を不当に抑えることができてしまいます。

税務署は複数税率に応じた会計処理を適切に行われているかだけでなく、不当に軽減税率・一般税率が適用されていないかを確認するために調査するケースもあるので、複数税率への対応も万全に講じなければなりません。

税務調査は5年前まで遡って実施する

事業者に対する税務調査は一般的に3年分の申告書を対象とすることが多いですが、法律上は5年前まで遡って調査することが認められています。

消費税が無申告であれば、5年前まで遡って調査することもありますし、税務調査で消費税の課税事業者に該当するとなった場合、過年分の消費税の申告も必要になるケースもあります。

また、税金を誤魔化す行為(仮装隠蔽行為)をした納税者に対しては、調査期間が7年まで延長されるだけでなく、重加算税が課される可能性が非常に高いです。

消費税の税務調査対策は今後必須となりますので、インボイス制度が導入されたタイミングで対策方法を見直すことを推奨します。

税務でお困りのことがございましたら、お気軽に永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

企業が税務調査を完全に避けることは難しいですが、対策を講じることで調査対象になる確率を下げることは可能です。

本記事では、法人に対する税務調査の実施状況と、調査で指摘されやすいポイントについて解説します。

法人に対して行われる税務調査の内容

法人は個人事業主よりも税務調査を受ける確率が高く、調査対象となる税目は法人税だけではありません。

法人が税務調査を受ける確率

令和4事務年度に実施された税務調査の件数は6.2万件、実地調査以外の調査等の件数は6.6万件に上ります。

令和4年度の法人税の申告件数は312.8万件ですので、申告法人の約4%は税務署から何かしらの調査を受けています。

理論上は25年に1度しか調査を受けない計算になりますが、税務調査は基本的に黒字申告を対象に調査を実施しますので、利益を出している法人は計算上の数値より調査を受ける確率が高いです。

提出された申告書のうち黒字申告割合は36.2%と、おおよそ3分の2は調査対象になりにくい赤字申告であり、国税庁が公表している資料によると、税務署の法人税・消費税の接触率は5年間で17.8%です。

出所:令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/hojin_chosa/pdf/01.pdf

税務調査の対象税目・対象期間

法人に対する税務調査は、法人税と同時に消費税や源泉所得税の調査を実施することもありますし、法人役員に関して問題があるときは、役員の所得税も調査対象になります。

税務調査は法律上5年前まで遡って実施することが認められていますが、一般的な調査では3年分の申告書を対象にすることが多く、調査可能期間すべてを調査するのは無申告や脱税の疑いがあるケースに限られます。

一方で、脱税など申告内容に大きな問題がある場合には、調査可能期間が5年から7年に拡大しますので、税金逃れはリスクしかありません。

税務署が実地調査でチェックするポイント

法人税の税務調査では、法人税の申告書だけでなく、申告書を作成するのに用いた帳簿書類や領収書・請求書、法人が使用している通帳なども調べます。

領収書が保存されていなければ経費計上が否認される可能性がありますし、電子帳簿等による保存が義務となりましたので、帳簿書類等が電子帳簿保存法に基づき適切に保存しているかもチェックします。

税務調査が実施されたとしても、申告内容に問題が無ければ追徴課税を支払うことにはなりません。

しかし、実地調査を受けた法人の4社に3社は非違事項を指摘されていますので、税務調査を受けないように対策することが肝要です。

出所:令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/hojin_chosa/pdf/01.pdf

税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類ある

税務調査は、任意調査と強制調査に区分されます。

任意調査は、納税者の同意の下で行う税務調査をいい、一般的に実施されている調査は任意調査です。

調査担当者が無理やり調査を進めることはありませんが、納税者はやむを得ない事情が無い限り調査に協力することが求められますので、税務署から税務調査を実施する旨が伝えられた際は応じなければなりません。

強制調査は、納税者の同意を必要としない調査をいい、国税局査察部(通称:マルサ)が調査を担当します。

強制調査はマルサが突然自宅等に訪れて関係資料を捜索し、必要に応じて資料等を押収するなど、警察が家宅捜索するのと似ています。

追徴課税を支払うことで原則調査が完了する任意調査とは違い、強制調査は追徴課税だけでなく、刑事罰に処される可能性が高いのも特徴です。

ただし、強制調査の対象になるのは悪質な脱税犯だけですので、計算ミスや単純な申告漏れがあったことだけを理由に強制調査が実施されることはありません。

任意調査の「実地調査」と「簡易調査」の違い

税務署は調査する内容によって、実地調査と簡易調査(実地調査以外の調査)を使い分けています。

実地調査は、調査担当者が自宅や事務所を訪れて申告内容を確認する調査方法です。

法人に対する実地調査の場合、帳簿書類を調べるだけでなく、社長や経理担当から申告内容等についての聴き取りを行います。

聴き取った内容は署内の資料と照合して真偽を確かめますし、銀行や取引先に対しての反面調査で事実関係を調べるため、調査で嘘をつくことはできません。

簡易調査は、電話や税務署で申告内容を確認する方法です。

税務調査である点では実地調査と同じですが、調査担当者が特定の事項のみを確認したい時に用いられることが多いです。

また、税務署は自主的な申告内容の見直しを促す際に、行政指導を行うケースもあります。

行政指導は法律上の税務調査ではないので、行政指導により申告書を提出した場合、自主申告扱いとなります。

税務調査で修正申告等をした場合に比べ、課されるペナルティは軽減されますが、行政指導に応じないと実地調査や簡易調査に移行することもあるので注意してください。

税務調査で指摘されやすいポイント

税務署は企業がミスをしやすいポイントや、脱税の手口を把握していますので、調査対策を講じる際は要点を押さえることが大切です。

売上除外・経費の水増し

法人税の増差税額が発生するのは、基本的に売上の申告漏れと経費の計上誤りです。

現金売上は、除外する意思がなかったとしても計上漏れが発生しやすいため、調査担当者は現金売上の有無や現金の管理方法をチェックします。

経費に計上できるのは、収益を得るために支出したものに限られ、上限を超えた接待交際費や役員給与等の損金算入も認められません。

売上が急激に伸びた企業は、利益を抑えるために支出を増やす傾向にありますが、経費計上が否認されれば、無駄な支出をしただけになるので気を付けてください。

売上・仕入れの計上時期の誤り

法人税は事業年度ごとに損益を計算しますので、計上時期に誤りがあると各事業年度に生じる利益も増減します。

売上計上時期は実現主義が原則ですので、実現主義以外の基準で売上を計上している際は注意が必要です。

利益を抑えるために事業年度末に仕入や経費を増やすケースもありますが、計上時期の誤りを指摘されれば、事業年度における経費が減少し、利益が増えてしまいます。

役員との関係性

法人と役員の関係は、法人税の税務調査で必ず聴取されます。

役員との金銭貸借がある場合、契約書の有無や返済状況の確認も行われるため、適正にやり取りすることはもちろんのこと、税務調査で質問された際に回答できるよう準備しなければなりません。

役員報酬は一定の要件を満たした場合に限り損金算入が認められていますので、要件の適否だけでなく、役員の実態についても確認が入ります。

同族会社の場合、社長の家族が役員になっていることもありますが、勤務実態がない家族への役員報酬は否認され、損金不算入となります。

不完全な税務調査対策は逆効果

世の中には様々な節税方法や税務調査対策が存在しますが、効果の有無は法人の規模や経営状態によって異なるため、用いる手段は選ばなければなりません。

税務調査対策を講じたとしても、実態が伴っていなければ仮装隠蔽行為とみなされ、重加算税が課されることもあります。

税務調査で追徴課税を受けてしまうと、2回目以降の調査対象となる確率が上がるため、調査対象となった際の対処も重要です。

税理士も多種多様ですので、顧問税理士選びに迷われている場合は、調査対策が充実している税理士を選ぶようにしてください。

税務のお困りごとがございましたら、ぜひ一度永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

会社が法人税の確定申告をする場合、白色申告ではなく青色申告で手続きすることが望ましいです。

国は青色申告を推進するために様々な特典を用意しており、法人税を節税するためには、青色申告の優遇措置を上手く活用する必要があるからです。

本記事では、法人が青色申告で申告するメリットと、手続き上の注意点について解説します。

青色申告とは

青色申告制度は、税務署の承認を受けた事業者が一定の要件を満たした帳簿書類を備え付け、青色の申告書により申告手続きを行う制度です。

事業者は確定申告をするために記帳等を行っていますが、青色申告は記帳を適切に行う見返りとして、税制上の優遇措置が与えられています。

青色申告の主な特典は下記の通りで、節税の観点で考えた場合、会社が青色申告を行うことは必須条件になります。

<法人の青色申告の主な特典>

  • 欠損金の10年間繰越控除
  • 欠損金の繰戻しによる法人税額の還付
  • 帳簿書類の調査に基づく更正
  • 更正通知書への理由付記
  • 推計による更正または決定の禁止
  • 特別償却または割増償却
  • 各種準備金等の積立額等の損金算入
  • 各種の法人税額の特別控除
  • 各種の所得の特別控除等
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
  • 課税の特例等

法人税を青色申告で申告するためには、事前に納税地の所轄税務署長へ青色申告の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

承認された後は、法人税法上で定められている方法で帳簿書類を備付け、これに日々の取引を正確に記録しなければならないため、継続的に要件をクリアすることが求められます。

税務署に青色申告の承認が認められたとしても、適切に帳簿書類の備え付け等を行っていなければ、青色申告の特典が受けられない場合があるので注意してください。

法人が青色申告をするメリット

青色申告法人には、多くの特典が与えられていますが、その中でも高い節税効果を得ることができる制度を4種類ご紹介します。

欠損金の10年間繰越控除

青色申告の特筆すべき特典として、欠損金の繰越控除があります。

法人に事業年度の赤字(欠損金)が生じた場合、白色申告であれば欠損金を翌年に繰り越すことはできません。

しかし、青色申告を行っていれば、欠損金を最大10年間繰り越すことが可能であり、繰り越した欠損金は翌年以後に生じた利益と相殺することができます。

個人事業主にも繰越控除制度はありますが、個人事業主の繰越控除の期間は3年ですので、法人の方が控除期間が長いです。

なお、繰越控除を適用するためには、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出するだけでなく、その後の各事業年度でも連続して確定申告書を提出することが求められます。

欠損金の繰戻しによる法人税額の還付

欠損金の繰戻し制度は、事業年度に損金額が発生した際、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻し、法人税額の還付を請求することができる制度です。

欠損金の繰戻し制度を利用できるのは原則中小企業者等であり、中小企業者等以外の法人については、平成4年4月1日から令和6年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額は適用対象外です。

ただし、中小企業者等以外の法人についても、下記の欠損金額については、欠損金の繰戻しによる還付制度を適用できます。

  • 清算中に終了する各事業年度の欠損金額
  • 解散等の事実が生じた場合の欠損金額
  • 災害損失欠損金額
  • 銀行等保有株式取得機構の欠損金額

推計による更正または決定の禁止

推計による更正または決定の禁止とは、税務署が税務調査において推計課税を禁止することをいいます。

推計課税は税金の額を推定して決める方法をいい、税務調査に非協力的な納税者や、帳簿が不正確な納税者に対して用いる手法です。

調査担当者は税務調査を実施する際、取引状況や資料等に基づいて売上や経費計上などについての可否判定を行いますが、推計課税は資料等ではなく、特定の金額・割合などを用いて課税額を計算します。

推計課税で算出される課税額は、実際の課税額より高くなる可能性が高いため、調査対象者の税負担が重くなる懸念があります。

しかし、青色申告を行っていれば推計による更正・決定は行われませんので、税務調査の対象となった際に税負担が重くなるリスクを回避することができます。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得などして事業用に供する場合、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。

減価償却資産は、原則全額を取得した事業年度の経費にすることはできませんが、青色申告法人については、30万円未満までの減価償却資産を一括で経費にすることが可能です。

減価償却資産の特例を適用する場合、事業用に供した事業年度において、確定申告書等に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付が必要です。

出所:令和5年版 法人税のあらましと申告の手引(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2023/01.htm#a03

税務調査の対象になる確率を抑制できる

企業は継続的に活動している以上、税務調査を完全に回避することは難しいですが、対策を講じることで調査を受ける確率を下げることは可能です。

税務署は税務調査でより多く増差税額を出すことを目指していますので、申告誤りや申告漏れが想定される企業を対象に調査を実施する傾向にあります。

青色申告は納税者が適正な申告をする意思があるかの判断要素の一つであり、青色申告で申告書を提出するだけで税務調査を抑制する効果が期待できます。

そのため、節税対策だけでなく、調査対策の観点からも青色申告で申告することが望ましいです。

なお、税務調査を受ける確率は青色申告・白色申告の違いだけでなく、税理士関与の有無も影響します。

法人税は他の税金と比較して申告書を作成する難易度が高く、9割近くの法人が税理士に申告書作成を依頼しています。

納税者自身で申告書を作成・提出しても問題ありませんが、専門家が作成するより申告誤りが発生する確率が高いので、税務調査を受ける確率が上がる点には注意してください。

青色申告を適用するための要件

法人が青色申告で申告手続きを行うためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 法定の帳簿書類を備え付けて取引を記録、保存すること
  • 税務署に「青色申告の承認申請書」を提出し、あらかじめ承認を受けること

青色申告は仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿を作成するだけでなく、複式簿記による記帳も必要です。

帳簿書類の保存期間は7年と定められており、欠損金に係る帳簿書類については保存期間が10年です。

青色申告は承認制ですので、青色申告書を提出しようとする事業年度開始日の前日までに、「青色申告の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

年の途中で青色申告の承認申請書を提出し、承認を受けたとしても、青色申告で申告書を作成できるのは次の事業年度からになります。

ただし、 新たに法人を設立した場合には、次のいずれか早い日の前日までに青色申告の承認申請書を提出すれば、最初の事業年度から青色申告で申告することが可能です。

  • 設立の日以後3月を経過した日
  • 最初の事業年度終了の日

出所:青色申告の承認申請書(国税庁)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/056-1.pdf

青色申告の承認が取り消しになるケース

青色申告は1度承認されれば、継続して青色申告で申告手続きを行えますが、次のケースに該当する場合には、青色申告の承認が取り消される可能性があるので気を付けてください。

<青色申告が取り消しになるケース>

  • 法令で定められた方法で帳簿書類の備付け、記録、保存を行っていなかった
  • 帳簿書類に関して税務署長の必要な指示に従わなかった
  • 帳簿書類等に仮装・隠蔽した事実があった
  • 確定申告書を定められた期限までに提出しなかった

税務署は上記の事実が判明した場合、該当する事実がある事業年度まで遡って、青色申告の承認を取り消すことができます。

青色申告が取り消しになった場合、取り消された事業年度開始の日以後に提出された青色申告書も青色申告でなくなりますので、各種特典は適用されないことになります。

基本的なルールを守っていれば、青色申告が取り消しになることはないですが、何度もミスを繰り返していると、青色申告の承認が取り消されますので注意してください。

まとめ

青色申告は税制上の優遇措置が受けられるため、事業を継続する企業は青色申告で申告することが望ましいです。

これから法人を設立する方は、設立したタイミングで承認申請書を提出する必要がありますし、現在白色申告で申告している方は次の事業年度に入る前に承認申請書を提出しないと、青色申告で手続きできる事業年度が遅くなってしまいます。

青色申告の申請が承認された以後は、定められた方法に従って帳簿書類の備え付け等が必要となりますので、申請前に専門家に注意点等を確認してください。税務のお困りごとがございましたら、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にご相談ください。

法人設立1年目はやらなければならない手続きや届け出が多く、滞りなく事業を営むためには決算・確定申告の事前準備も重要です。

本記事では、法人設立時に知っておくべき、決算・確定申告のポイントについて解説します。

会社の決算は何のために行うのか

会社の決算は、一定期間において生じた収入と支出を計算し、損益および資産・負債状況を確定させるための手続きです。

決算内容は経営者が会社の業績を確認する際の重要資料であるだけでなく、融資を受ける際に決算書の提出が求められることもありますので、会社を運営していく上で決算書の作成は不可欠です。

決算書を作成する期間は事業年度といい、個人事業主の事業年度は1月から12月までの暦年ベースと決まっています。

一方、法人は会社の設立登記を行った日が事業年度開始日となり、開始日から1年以内を事業年度として設定します。

会社は決算を行うことが義務付けられていますし、確定申告書は決算内容をベースに作成することになるので、決算書類の整理も大切な作業です。

決算と確定申告の違い

決算と確定申告は、似ているようで全くの別物です。

決算は事業年度の収益や財産状況を把握するために行うのに対し、確定申告は決算で算出した金額をベースに納税額を計算するために行います。

個人事業主は全員が暦年ベースで決算を行うので、所得税の確定申告期間は翌年2月16日から3月15日と統一されていますが、法人は決算期を基準に申告期限が設定されているので、申告時期は会社ごとに異なります。

たとえば3月決算の会社であれば、4月から3月までの事業内容を決算書にまとめ、事業年度終了日の翌日から2か月以内に法人税の申告書を提出しなければなりません。

法人税の納期限は申告期限と同日ですので、会社は税務署に対して確定申告書を提出するだけでなく、納税を完了させることも求められます。

税金の支払いが遅れてしまうと延滞税が課されますので、期限までに納税資金を確保してください。

出所:令和5年版 法人税のあらましと申告の手引(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2023/01.htm#a01

会社の決算書類を作成するまでのスケジュール

会社の決算書を作成するためには、日頃から記帳を行い、書類等を整理する必要があります。

記帳は日々行うこと

会社は、日々の業務で発生した売上や支出について、漏れなく記帳しなければなりません。

記帳漏れは決算書を正しく作成できなくなるだけでなく、申告内容の誤りにも繋がりますし、税務署に誤りを指摘されればペナルティが課されてしまいます。

個人事業主は事業規模が小さいので、取引内容をまとめて記帳できるケースもありますが、法人は事業規模が大きいことから、よりこまめに、定期的に記帳することが求められます。

記帳内容の確認・整理

決算時期に記帳内容を一斉に見返すのは膨大な時間を要しますので、記帳チェックは定期的に行ってください。

毎日多くの取引について記帳していれば、記載ミスが起る可能性や、従業員が領収書などを提出するのを忘れているケースも出てきます。

そのようなケースに対処するためにも、日頃から記帳内容を確認するだけでなく、必要に応じて会計ソフト等を活用して整理することも大切です。

また、令和6年1月からは電子データ保存が義務化され、帳簿書類の種類によっては書面保存が認められないものもありますので、電子データで保存するための準備も必要です。

決算書類の作成

決算期を迎えましたら、記帳した書類等を基にして決算書類を作成します。

会社が決算書類を作ることも可能ですが、顧問税理士がいる法人であれば決算書類は税理士に依頼することが多いです。

<中小企業が作成する主な決算書類>

  • 貸借対照表
  • 損益決算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表

確定申告書の提出・納付

決算書類に関しては、書類をベースに確定申告書を作成し税務署に申告書を提出することになります。

法人税の申告期限は決算日の2か月後となりますので、3月決算の法人であれば5月末が申告および納期限です。

法人税の申告手続きに税理士が関与している割合は非常に高く、令和4年度は89.5%です。

所得税の関与割合20.4%に比べると4.38倍になりますので、経営者が申告書を作成するケースの方が少数派です。

出所:令和4事務年度 国税庁実績評価書(財務省)

https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2022/evaluation/202310ntahyoka.pdf

また、会社が納める税金は法人税だけではありませんので、納税漏れにも気を付けてください。

税金の滞納は信用問題に発展し、経営上の不利益にも繋がるため、納税を要する税金の種類は事前に確認してください。

<法人が納める主な税金の種類>

  • 法人税
  • 消費税
  • 法人住民税
  • 地方法人税
  • 法人事業税
  • 特別法人事業税

法人初年度の決算で気を付けるべきポイント

法人を立ち上げた最初の年はやるべき手続きが多いため、確定申告書だけでなく、届出書などの提出漏れにも気を付けなければなりません。

記帳は初年度から適正にやらなければならない

会社を設立した当初は会社運営にも慣れていないため、ミスやトラブルが起きやすいですが、記帳関係は誤りがあってはなりません。

決算は前期の資産・負債を翌期に引き継いで計算等を行うことになるため、記帳誤りは当期だけでなく、翌期以降にも影響を及ぼします。

税務調査は3年分をまとめて調査対象にすることが多く、法人を設立してから3年を経過すると調査対象者として選定されやすくなります。

税務署は設立して間もない会社が決算誤りや申告ミスが多いことを認識していますので、税務署に狙われやすいことを前提とした対策が必要です。

届出書の提出漏れは厳禁

法人は色々な場所に関係書類を提出しなければならず、提出漏れがあれば罰則の対象になる場合や、優遇措置を受けられなくなるなどのデメリットを被ることになります。

経営者がやるべき行政手続きをすべて把握することは難しいので、専門家に手続きを代行してもらうなどの対処が必要です。

法人成りは調査対象になりやすい

個人事業主が法人として活動することを「法人成り」といいますが、法人成りは税務調査の対象となりやすいです。

個人と法人では課される税金の種類が違うため、法人成りをしたときは個人事業主としての活動を終了させることになります。

税務署の立場からすると、事業活動を終了したタイミングが税務調査を実施する最後の機会となりますので、法人に移行した後に個人事業主に対する調査が行われることもあります。

また、法人成りは個人から法人に資産を移すことになりますが、移転資産の種類によっては税務上においての譲渡所得が生じることも想定されます。

譲渡所得が発生すれば申告手続きが必要になりますし、法人への引継ぎに誤りがあれば個人・法人に対する税務調査で指摘されることになるので注意してください。

法人の決算書・申告書は税理士に依頼すべき

税務署は申告内容に誤りがある納税者だけでなく、申告内容に疑義がある納税者にも調査を実施します。

一般の方は専門家に比べ税知識が少ないことが多いので、関与税理士がいないだけで税務調査を受ける確率は上がります。

税理士に依頼する際には報酬費用が発生しますが、報酬額以上の節税アドバイスが受けられることもありますし、税務調査を受けるリスクを軽減できるメリットもあります。

法人の約90%は税理士に確定申告書の作成を依頼していますので、基本的には代行を依頼することが望ましいです。

まとめ

所得税の確定申告書は納税者が作成することも難しくありませんが、法人税の申告書は内容が複雑であり、ボリュームも多いので納税者が作成する難易度は高いです。

決算書関係の作成に多くの時間を費やしてしまうと、本業に支障をきたす恐れもありますし、申告内容に誤りがあれば税務署に指摘されるリスクも潜んでいます。

創業当初から税理士に依頼していれば、記帳ミスなどを未然に防ぐことができますので、まだ顧問税理士が決まっていない方は、ぜひ永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

「交際費」とは


交際費とは、事業をスムーズにおこなうために、取引先と飲食したり、贈答品を提供したりした場合に生じる支出です。

一般的に、交際費は取引先に関する支出と思われがちですが、社内の従業員に対する支出を含むことがあります。たとえば、「特定の部署の打ち上げ費用を会社が負担した場合」などがこれに該当します。詳細は、「福利厚生費に該当するケース」で解説します。

また、厳密に言うと、税務上は「交際費」ではなく「交際費等」として定義されていますが、この記事では便宜上「交際費」としています。

なお、国税庁は「交際費等」を以下のように定義していますので、ご確認ください。

「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます。)のために支出するものをいいます。」

(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5265.htm

法人税法における「交際費」の具体的な範囲とは?


ここでは、「交際費」と「交際費に類似する支出」の範囲の違いについて解説をします。

「交際費に類似する支出」のなかには、社会の習慣や商取引上の慣習などの理由から「交際費として処理しなくてもよい」とされているものがあり、交際費とは明確に区別されています。

なぜ、このように規定されているかというと、交際費は経費として認められる(損金算入される)金額に、「限度額」が設けられているためです。

この限度額を超えた分は経費にできない(損金算入できない)ため、可能な限り「交際費以外」で処理をおこなうことで、「経費として認められる金額をトータルで増やす」ことができる可能性があります。

そのため、この記事では、「交際費として処理しなくてもよい」ものとして、福利厚生費・会議費・広告宣伝費・給与に該当するケースをとりあげ、詳しく解説をします。


福利厚生費に該当するケース

社内の運動会やレクリエーション、社員旅行など、従業員をいたわるための支出は交際費とはならず「福利厚生費」になります。

ただし、これには条件があります。それは、「従業員におおむね一律に」提供されているかどうかという点です。

具体的には、会社全体の忘年会における役員や従業員の飲⾷代は、「従業員におおむね一律に」提供されている支出のため、福利厚生費に該当します。一方、特定の部署や一部の社員の飲食代を会社が負担した場合は、交際費に該当することがあります。

会議費に該当するケース

・接待における「1人あたり5,000円以下」の飲食費

取引先の接待で飲食代を支払った場合でも、交際費から除外できるケースがあります。具体的には、支払金額を参加者数で割った数が5,000円以下である場合、つまり「1人あたりの飲食代が5,000円以下」のときがこれに該当します。

この場合、一般的には「会議費」で処理します。つまり、接待で「1人あたりの飲食代が5,000円以下」であれば、経費にすることができる(損金算入ができる)というわけです。

なお、これは特例のため、以下の事項が記載された書類を保存する必要があります。

飲食等のあった年月日
飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
飲食等に参加した者の数
その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
その他飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項
(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5265.htm


その他、注意点としては、社内のメンバーによる飲食代である「社内飲食費」は、この特例の対象外となっている点です。そのため、たとえば、社内の特定の部署の打ち上げ費用が1人あたり5,000円以下であっても、交際費から除外することはできません。

会議のために必要な費用

会議を目的とする支出は、それが飲食などに関連したものであっても、交際費とする必要はありません。

たとえば、会議や商談で、お菓子やお茶、お弁当などを提供した場合は「会議費」として処理します。ここでのポイントは、会議に関連して「通常要する費用」であるかどうかという点です。

そのため、飲酒をしていたり飲食代が高額であったりした場合は、会議のための支出として「一般的に妥当かどうか」を慎重に判断する必要があるでしょう。

なお、会議の場所については特に制限がないため、ホテルなどであっても、会議の実態があれば会議費で処理することが可能です。

広告宣伝費に該当するケース

取引先に贈答品を提供する場合、基本的には「交際費」となります。しかし、宣伝を目的とした支出は「広告宣伝費」として計上することが可能です。具体的には、カレンダー・手帳・手ぬぐいなどを取引先に提供する場合がこれに該当します。

ここでのポイントは、贈答品などの提供が「不特定多数の一般消費者」に対するものかどうかという点です。一般消費者とは、物やサービスを最終的に消費する人をいいます。 そのため、たとえば、医薬品メーカーが医師に対して贈答品を提供するケースは、不特定多数の一般消費者に対する支出ではないため、広告宣伝費にはならないと考えられます。

給与に該当するケース

従業員の「プライベートの飲食代」を会社が支払った場合、交際費や福利厚生費ではなく、「給与」として処理します。この場合、法人としては、税務上経費にできます(損金算入)が、従業員は通常の給与と同様に所得税が課税されます。

役員のプライベートな飲食代は、役員への給与となります。役員の給与は、毎月定額であることなどの税務上の厳しい規制があるため、注意が必要です。

万一、「交際費」として計上していた費用が、税務調査などで「役員のプライベートな支出」と判断された場合、法人の損金に算入できないうえ、役員個人の所得税も課されるなど、様々な問題が生じます。そのため、役員の個人的な支出の扱いには、特に注意をしましょう。


その他の注意点

上記のほか、取材のための座談会や、情報収集のために一般的に必要とされる飲食代などは、「交際費」にはならず「取材費」などで処理します。この場合、税務上も経費にする(損金算入する)ことが可能です。


「交際費」を損金算入できる会社の規模と金額


中小企業は「800万円までの全額」を経費にできる

「交際費」の規定は、法人の規模に応じて以下の3段階に設定されており、中小企業(資本金が1億円以下の法人)は「800万円までの全額を、経費にすることができる」という特例が設けられています。


多くの中小企業においては、交際費を800万円も計上しないことが多いので、基本的には交際費の全額を経費にする(損金算入する)ことが可能といえるでしょう。

なお、「交際費」は税務上、原則として「全額」を損金に算入することができない規定となっています。つまり、すべて経費にすることができないわけです。

しかし、交際費は事業をスムーズにおこなうために必要な支出であるため、例外として、中小企業に対しては「特例」が設けられているという点を押さえておくとよいでしょう。


個人事業主と交際費

個人事業主は、交際費を経費として計上する上で、法人のような「上限」がありません。しかし、上限がないとはいえ、すべてのケースにおいて交際費が認められるわけではありません。

個人事業主が交際費を計上する場合は、「事業に関連した支出であるか」、「その支出が利益や事業の円滑化につながるか」などが重要です。

なお、個人事業主の経費全般についてはこちらで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

「個人事業主が経費にできるものとは?判断基準を解説」


まとめ


この記事では、交際費の範囲や損金算入について解説しました。

交際費で特に重要なのは、「交際費の具体的な範囲」を把握し、「交際費として処理しなくてもよい」と認められているものについては、交際費以外で処理をおこなうことです。

また、中小企業は、「800万円までの全額」を、交際費として経費にする(損金算入する)ことができるという点も重要です。

事業をスムーズにすすめ、売上を拡大するためには、「交際費」が不可欠なケースも多いと考えられます。一方で、交際費の規定は複雑で、なかなか理解が難しいというのも事実です。

また、交際費は税務調査で必ずといっていいほど調査対象となる項目ですので、不安を抱える企業も多いでしょう。そのため、交際費全般についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。