2015年以降、基礎控除の引き下げが行われた影響で、相続税の納税義務が生じる人は急増しました。その結果、「相続税対策」はいわゆる富裕層に限定されることなく、多くの世帯にとっての関心事になっています。

一般の方にとっても、現金よりも不動産の形で資産を保有している方が、相続税計算上の評価が低くなる傾向があることは、なんとなく聞いたことがある内容かも知れません。

相続税対策として、賃貸不動産を取得した場合、その不動産は相続人(通常は子供や孫)が引き継ぐことになります。相続人は、賃貸収入を得るとともに、確定申告の義務が生じることになります。

ここで問題となるのが、いつのタイミングの所得(賃料)から相続人は申告する必要があるのかという点です。相続が発生した場合、遺言があれば、当該遺言に従って遺産分割が行われますので、最初(相続時)から遺言で指定された方が所得を申告すれば済むことになります。

一方で、遺言が存在しないなどから、遺産分割協議が行われる場合には、遺産分割協議が成立するまでは法定相続人の共有財産ということになります。そのため、受け取った収入や支払った経費を、各相続人が法定相続分で按分し、確定申告する必要があります。

なお、この取り扱いは、遺産分割協議が成立し、最終的にどの相続人が当該不動産を相続するか確定した後も、修正されるものでなく、遺産分割協議成立前の所得が各相続人に帰属するという点は継続することになります。(最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決(民集第59巻7号1931頁))

相続財産として不動産AとBが存在するとき、遺産分割協議を経て、相続人Xが不動産Aを、相続人Yが不動産Bをそれぞれ相続した場合を考えると、相続人Xは遺産分割協議成立までは不動産A及びBの法定相続分の所得を認識し、遺産分割協議成立後は不動産Aの全所得を認識することになります。

とはいえ、実務上は相続発生から遺産分割協議終了までの間、相続人の誰かが一括して不動産等を管理していることも多く、遺産分割協議が成立した後に、それまでの賃料の清算が上記の考え方に従って行われないケース(すなわち、最終的に相続することになった不動産に紐付いて清算を行ってしまうケース)も存在すると考えられます。

そのような場合でも、所得税の申告においては、相続人ごとの所得計算のタイミングで、改めてそれぞれの所得を計算する必要がありますが、相続人によって関与税理士が異なっているケースもあり、なかなかの事務的負担が大きいものと考えられます。

また、清算による差額が多額の場合、相続人本来の収益分配を受け取る権利を放棄したということで、贈与税の課税の可能性があると考えられます。