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インボイス制度がスタートしたタイミングで、インボイス発行事業者になった個人事業主も多いですが、インボイス発行事業者は消費税の確定申告が必須です

消費税は他の税金とは違い、課税方式が複数用意されており、選択する課税方式が変わるだけで納税額が変わるので注意が必要です。

本記事では、消費税の課税方式の特徴と、インボイス発行事業者が消費税の確定申告をする際のポイントについて解説します。

消費税の確定申告が必要になる個人事業主とは

次のいずれかに該当する個人事業主は、消費税および地方消費税の確定申告が必要です。

  • インボイス発行事業者の登録をした事業者
  • 基準期間における課税売上高が1,000万円超の事業者
  • 特定期間における課税売上高が1,000万円超の事業者
  • 課税事業者選択届出書を提出した事業者

インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される以前は、課税売上高が1,000万円以下であれば、原則消費税の申告は不要でした。

しかし、インボイス(適格請求書)発行事業者の登録申請を行った事業者は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であったとしても、消費税の申告手続きをしなければなりません。

個人事業主の消費税の確定申告期間

個人事業主の消費税の確定申告期限は、課税期間の翌年3月31日までです。

所得税の申告期限は翌年3月15日なので、消費税の方が申告期限は半月ほど遅く、期限内であれば所得税の申告書を提出した後に消費税の申告をしても問題ありません。

消費税の免税事業者に該当する個人事業者の方が、令和5年10月のインボイス制度が開始する時点でインボイス発行事業者の登録を受けた場合、令和5年分から消費税の申告が必要となります。

税務調査は原則5年、最長7年まで遡って実施する可能性がありますので、令和5年分の消費税の申告をしていない課税事業者は、速やかに申告手続きを行ってください。

出所:確定申告が必要になる人はどんな人?(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_kakutei.htm

確定申告における消費税の計算方法

消費税の計算方法は原則と例外があり、インボイス制度が導入されたことで課税事業者になった個人事業主は、特例措置を用いて計算することができます。

一般課税制度

消費税は、原則一般課税制度に基づいて税額計算を行います。

一般課税制度は、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除して計算する方式で、算出された差額を納めることになります。

<一般課税制度の計算方法>

課税期間中の課税売上に係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額

消費税は令和元年10月1日から軽減税率が導入されていますので、税額計算は税率ごとに区分して行います。

課税売上に係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」といいますが、仕入税額控除を適用するためには帳簿および請求書等の保存が必要です。

また、仕入税額控除の適用要件は、インボイス制度が導入されたことで変更していますので、一般課税制度で計算する際は事前に要件を確認してください。

簡易課税制度

簡易課税制度は、課税期間中の課税売上に係る消費税額に、事業区分に応じた「みなし仕入率」を乗じて算出した額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなして、納付する消費税額を計算する方式です。

一般課税制度は、売上と仕入れの双方に関係する消費税額を計算しなければなりませんが、簡易課税制度は課税売上に係る消費税額を基に控除額を算出するため、一般課税制度よりも計算が簡便です。

また、仕入割合が低い事業者は、簡易課税制度で消費税額を計算した方が納税額は小さくなることから、消費税対策として簡易課税制度を活用するのも有効です。

<簡易課税制度の計算方法>

課税売上に係る消費税額-(課税期間中の課税売上に係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額

出所:簡易課税制度の事業区分(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm

簡易課税制度を適用できるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られ、課税売上高が5,000万円を超えた場合には、一般課税制度で消費税を計算することになります。

簡易課税制度を適用する際は、適用する予定の課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しなければなりません。

2割特例制度

2割特例制度は、インボイス制度を機に免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者が適用できる特例措置です。

2割特例を適用した場合、課税期間中の課税売上に係る消費税額に80%を乗じた額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなして、納付する消費税額を計算することができます。

<2割特例による計算方法>

課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×80%)= 消費税額

2割特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの各課税期間で、個人事業主については、令和5年分から令和8年分の消費税の申告において適用可能です。

消費税の納税額を課税売上に係る消費税額の20%に抑えられるため、利益が生じている事業者の多くは、2割特例を適用することで消費税を節税できます。

また、2割特例は事前申請等の手続きは不要なので、年分ごとに一般課税制度または簡易課税制度と比較し、より有利な課税方式を選択して申告することができます。

2割特例を適用して消費税を申告する際のポイント

消費税の2割特例の要件を満たす事業者は、基本的に適用するメリットがあります。

しかし、個人事業主の中には2割特例を適用しない方がいいケースもあるので注意してください。

免税事業者からインボイス発行事業者なった事業者が対象

2割特例は、インボイス制度の導入で消費税の申告が必要となった事業者を対象とした制度です。

基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者や、インボイス発行事業者の登録と関係なく課税事業者となった事業者は、2割特例を適用することができません。

出所:インボイス発行事業者の「2割特例」適用可否フローチャート(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-131.pdf

毎年適否判定をしなければならない

2割特例は毎年適用の有無を選択できますが、適用要件も年分ごとに確認する必要があります。

たとえば、事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合、該当する課税期間に対して2割特例は適用できないので注意してください。

2割特例の適用で損をするケースもある

2割特例は、消費税の納税額を課税売上高に対する消費税の2割にする制度であるため、多くの事業者にとって節税効果があります。

しかし、利益率が20%未満であれば一般課税制度で計算した方が納税額は少なくなりますので、2割特例の適用が必ずしも最適な選択とは限りません。

また、簡易課税制度のみなし仕入率90%に該当する事業を営んでいる方については、簡易課税制度を選択した方が消費税を節税できます。

赤字でも消費税の還付は受けられない

課税売上高に対する消費税額よりも課税仕入れに対する消費税額の方が大きい場合、一般課税制度を選択していれば、差額の消費税額の還付を受けられます。

しかし、2割特例を適用してしまうと、課税売上高に対する消費税額の20%は納めることになり、消費税の還付は生じません。

そのため、赤字となった年分は2割特例ではなく、一般課税制度で消費税を計算した方が節税になります。

消費税の節税のしかたは税理士に確認すること

課税売上高に対する消費税の2割は必ず納税することになるため、インボイス制度導入前まで免税事業者として活動してきた事業者にとっては、新たに消費税の負担が生じることになります。

税務署は、個人事業主がインボイス適格事業者に該当するかを把握していますので、消費税の無申告はすぐに摘発されるので気を付けてください。

消費税は所得税に比べて対策が不十分であることが多く、適切な対策を講じることで消費税の納税額を減らすことは可能です。

間違った節税手法は脱税に該当しますので、効果的かつ合法的な節税のしかたは税理士に確認・相談していただき、必要に応じて消費税の申告書作成を依頼してください。

何かお困りのことがございましたら、永安栄棟公認会計士・税理士事務所へご連絡ください。

税務署は国税の相談窓口を設けていますので、窓口を通じて税金相談をすることができます。

しかし、相談内容によっては応対してくれない場合や、節税アドバイスを求めても期待する回答を得るのは難しいケースなど、相談する際の注意点もあります。

本記事では、税務署への相談方法とメリット・デメリット、節税アドバイスを受けられる相談先について解説します。

税務署に税金相談をする方法

国税組織は、国税庁の下に12の国税局(沖縄国税事務所を含む)があり、国税局の下に524の税務署が設置されています。

税金相談はお住まいの近くにある税務署でもできますし、自宅に居ながら疑問・不明点を解消する方法も用意されています。

面接相談

税務署の窓口では、確定申告書の受付や納税手続きだけでなく、面接相談も行っています。

一般相談については、窓口で相談したい旨を伝えれば、職員が対面で相談に応じてくれます。

一方、相談内容が個別的なものである場合には、事前予約が必要です。

電話または税務署窓口で個別相談の予約を取りたい旨を伝え、相談日の日程を調整した上で相談することになります。

一般的な相談は全国どこの税務署でも応対してくれるのに対し、個別相談は相談者の管轄税務署でしか相談に応じてくれません。

管轄税務署以外の税務署に個別相談したい旨を伝えても断られますので、個別相談をする際は予約前にご自身の管轄税務署を確認してください。

電話相談

国税局は「電話相談センター」を設置しており、電話相談センターに電話すると、国税局の職員等が税金相談に回答してくれます。

電話相談センターに相談できる内容は、制度や法令等の解釈・適用、税金手続きに関するもので、電話相談センターへは国税相談専用ダイヤル(ナビダイヤル)または、税務署の代表電話を経由して電話をかけます。

国税相談専用ダイヤルと税務署の代表電話のいずれも、電話をかけると自動音声が流れますので、音声案内に従って相談する内容に該当する番号を選択してください。

出所:国税に関するご相談について(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/#a-02-3

聴覚障害者等専用電子メール相談窓

電話相談が難しい方は「聴覚障害者等専用電子メール相談窓口」を通じて、メールで相談することができます。

ただし、こちらの相談窓口は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」を踏まえて設定されていますので、利用できるのは聴覚や発話に障害があり、電話での相談が困難な方に限られます。

そのため、電話で相談することが可能な方は、先に紹介した面接相談または電話相談を利用してください。

国税庁ホームページで調べる

面接相談や電話相談ができるのは、税務署が開いている平日の日中に限られますので、土日や夜に税金関係の疑問を解決したい方は、国税庁ホームページを活用してください。

国税庁ホームページでは、よくある税の質問に対する回答をまとめた「タックスアンサー」が掲載されています。

国税の疑問点はタックスアンサーで解決できるものも多く、個人が関係する国税については、チャットボットで相談することも可能です。

チャットボット(ふたば)は、メニューから質問する内容を選択または直接質問内容を入力すると、AI(人工知能)が自動回答してくれるシステムです。

質問形式で聞くことができるため、タックスアンサーで回答が見つからないときは、チャットボイスを活用してください。

税務署に相談するメリット

税務署は公的機関なので、誰でも利用できますし、事前予約をすれば具体的な相談をすることもできます。

相談費用がかからない

コストを抑えて相談したい方は、税務署の窓口や電話相談センターに相談をしてください。

専門家に相談するには報酬が発生するのが一般的ですが、税務署の職員は公務員ですので、相談に対しての費用はかかりません。

(税務署へ行く交通費や、電話料金は発生します。)

平日の日中であればいつでも相談できますし、税務署は全国にあるので、近くの税務署に行って相談することも可能です。

予約すれば個別相談も可能

税務署では、事前に相談予約をすれば、個別的な相談もできます。

個別相談ができる税務署は相談者が申告手続き等を行う税務署に限られますが、申告前に特例制度の適否などを確認したい場合には、予約をして相談するのも選択肢です。

税務署以外にも無料で税金相談ができる場所は存在しますが、無償で個別相談に応じる相談場所はほとんどありませんので、費用をかけずに個別相談したい方は予約をした上で税務署に相談してください。

出所:国税に関するご相談について(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm#a-02-3

税務署に相談するデメリット

税務署は費用をかけずに相談できるメリットがある一方、事業者が相談するのには不向きな側面もあるので気を付けてください。

税務署職員は節税アドバイスをしてくれない

税務署は、確定申告書の書き方や特例制度の内容は説明してくれる一方、適用できる特例制度の紹介や、特例制度の節税効果を比較して提案するなどのアドバイスは行いません。

特例制度の適用は納税者の任意となっているため、適用できる特例があったとしても、相談者が質問しない限り、特例制度の説明をすることもありません。

相談する側にも税金知識が必要

納税者の状況によって適用できる特例制度の種類や節税方法は異なるため、一般相談で具体的な相談をすることは難しいです。

税務署は質問に対する回答はしてくれますが、相談者の事情を考慮して節税方法を提案することはないため、質問のしかたにも工夫を要します。

相談のしかたを間違えると、満足する回答は得られませんので、相談する側にもある程度の税金知識が求められます。

個別相談は1か月以上予約待ち

税務署の個別相談は事前予約が必要ですが、予約した当日やその週に個別相談ができるケースは限られます。

個別相談の予約が1か月以上先まで埋まっている税務署もあるため、すぐに回答を得たい方は、税務署以外の場所で相談することを検討してください。

税務署以外で税金相談ができる場所

税務署以外にも税金相談ができる場所はありますので、相談したい内容によって相談先は変えてください。

一般的な税金相談なら税務署で問題ない

税金相談の内容が一般的なものであれば、税務署で相談して問題ありません。

個別相談は予約が必要ですが、一般相談は予約が必要ありませんし、行政機関なので気軽に相談することができます。

ただし、税務署は節税アドバイスをしてくれませんので、節税に関する質問をしたい方は次に紹介する税理士事務所に相談してください。

節税アドバイスを受けたい方は税理士事務所に相談すること

税金の節税アドバイスを受けたい方は、税理士事務所に相談するのがオススメです。

税理士は税金の専門家ですし、節税に関しては税務署職員以上に豊富な知識を有しています。

事業者が節税をする際には、個々の事情に鑑みた節税手法を用いることが重要となるため、オーダーメイドでの対策が不可欠です。

一般的に効果があるとされている税金対策であったとしても、経営状態等によってはあまり効果が得られないこともありますし、継続的な節税効果が見込めない手法も数多く存在します。

税理士事務所に相談すれば、具体的なアドバイスが受けられるだけでなく、確定申告手続きを依頼することも可能です。

また、税理士と顧問契約を結べば、普段から税金相談ができますので、節税に関しては税務署ではなく税理士を頼ってください。

事業者の税金対策は日常的に講じることが重要

税務署での相談は一般相談や、申告手続きに関連するものがメインとなります。

会社員や年金受給者の方は、確定申告相談会場で相談して申告することもできますが、事業者の場合、確定申告会場で相談しながら申告書を作成するのは難しいです。

確定申告書を作成する時点で実施できる税金対策は限られますので、継続的に節税をしたい事業者は、日常的に対策を講じることが肝要です。

税理士は事業者の税金面を支えるパートナーとなりますので、顧問税理士がいない方は、一度、税理士事務所に相談することをご検討ください。ぜひ、永安栄棟公認会計士・税理士事務所へご連絡ください。

令和5年(2023年)10月1日にスタートしたインボイス制度ですが、制度開始時にいくつかの経過措置が設けられています。

インボイス制度の経過措置は、節税効果が見込めるものや事務作業を軽減できる内容となっていますので、今回はインボイス制度の経過措置の種類および要件、そして適用期間について解説します。

インボイス制度の2割特例

インボイス制度が導入されたことで消費税の課税事業者となった小規模事業者への負担軽減措置として、「2割特例」の経過措置が設けられています。

2割特例の概要

2割特例は、仕入税額控除の代わりに売上税額の8割を特別控除税額として差し引くことができる制度です。

消費税の課税事業者は、売上税額から仕入税額を差し引いた額を納めることになるため、仕入税額が少ない事業者ほど消費税の納税額は多くなります。

しかし、2割特例を適用すれば仕入税額の大小に関係なく、売上税額の8割を差し引くことができますので、消費税の納税額を売上税額の2割に抑えることが可能です。

消費税の計算方法には一般課税と簡易課税が存在しますが、2割特例はそれらの課税制度と比較し、節税になる場合に選択して適用することが認められています。

なお、多くの事業者は2割特例を適用した方が節税になりますので、要件を満たす事業者は経過措置の活用を検討してください。

出所:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm

適用要件

2割特例を適用できるのは、インボイス制度が導入されたタイミングで、免税事業者から適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になった課税事業者です。

基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者や、資本金1,000万円以上の新設法人等は2割特例を適用することができません。

(基準期間は個人事業者の場合は対象年分の前々年、事業年度が1年である法人はその事業年度の前々事業年度のことをいいます。)

ただし、課税事業者が適格請求書発行事業者になった場合でも、適格請求書発行事業者となった課税期間の翌課税期間以降の課税期間について、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になるときは、原則2割特例を適用できます。

適用期間・手続き方法

2割特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。

たとえば、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者として活動している場合、令和5年分(10月から12月分)から令和8年分までの確定申告において2割特例を適用することができます。

2割特例を適用する際は、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を記載してください。

消費税の簡易課税制度と違い、事前の届出は不要ですし、2割特例を適用して申告した翌課税期間において継続して適用するなどの条件もありません。

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置

インボイス制度が導入されたことで、免税事業者等から仕入れた商品等に対する消費税は仕入税額控除の対象外となります。

しかし、経過措置としてインボイス制度開始後一定期間は、免税事業者等からの仕入れについても一定割合控除することができます。

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の概要

インボイス制度の導入により、消費税の仕入税額控除を適用するためには、適格請求書等保存方式で必要となる請求書等を作成・保存しなければなりません。

免税事業者など、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために必要な請求書等の交付を受けられませんので、仕入税額控除の対象から除かれます。

しかし、免税事業者等からの課税仕入れであったとしても、下記の期間中においては仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除することができます。

<経過措置の適用期間と控除額>

期間控除額
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで仕入税額相当額の50%

適用要件

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置を適用する場合、帳簿と請求書等に関する要件を満たす必要があります。

帳簿については、従来の区分記載請求書等保存方式で必要であった記載事項に加え、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載することが求められます。

「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」については、取引ごとに経過措置の適用を受ける課税仕入れであることを示さなければなりません。

<経過措置を適用する旨の表示例>

  • 個々の取引ごとに記載する場合の表示方法
    • 80%控除対象
    • 免税事業者からの仕入れ
  • まとめて経過措置を適用する旨を記載する場合の表示方法
    • 対象となる適用する取引に『※』等の記号・番号を付し、「※は80%控除対象」などと表示

請求書等については、区分記載請求書等と同様の事項を記載することが要件となります。

インボイス制度導入以前から消費税の課税事業者として活動している事業者であれば、帳簿の記載事項を追加でクリアすれば経過措置を適用できます。

なお、令和6年度税制改正により、一の免税事業者等から行う経過措置の対象となる課税仕入れの合計額が、対象年分(事業年度)において10億円(税込み)を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れに対して本経過措置が適用できないことになりました。

改正事項は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用されるため、該当する事業者は注意してください。

適用期間・手続き方法

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までです。

経過措置を適用するためには、必要事項が記載された帳簿および請求書等を保存し、確定申告書を提出することになります。

令和8年10月1日以後は控除割合が下がりますが、適用要件は同じです。

インボイス制度の少額特例

インボイス制度導入以後に仕入税額控除を適用するためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要です。

しかし、一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置として設けられた「少額特例」の要件を満たす事業者は、適格請求書を保存していなくても、一定の事項を記載した帳簿を保存していれば仕入税額控除が適用できます。

少額特例の概要

少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れについては、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を認める経過措置です。

取引先がインボイス発行事業者であるかどうかは関係ないため、取引先が免税事業者であったとしても、少額特例の対象となります。

「税込1万円未満の課税仕入れ」とは、1回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満に該当するものをいいます。

商品ごとに税込1万円未満の課税仕入れに該当するかを判定するものではないため、取引の合計額が1万円以上となる場合には、少額特例の対象外となるのでご注意ください。

少額特例は適格請求書の保存を不要とする経過措置ですが、適格請求書発行事業者の交付義務を免除するものではありません。

そのため、少額特例を適用する場合でも、適格請求書発行事業者に該当する事業者が取引先の課税事業者から適格請求書を求められたときは、交付する必要があります。

出所:「少額特例」における1万円未満の判定単位(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024003-016.pdf

適用要件

少額特例を適用できるのは、基準期間における課税売上高が1億円以下または、特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者です。

「特定期間」は、個人事業者は前年1月から6月までの期間、法人については前事業年度の開始の日以後6月の期間をいいます。

納税義務の判定とは異なり、特定期間における課税売上高の判定では、課税売上高に代えて給与支払額の合計額を用いることはできないのでご注意ください。

適用期間・手続き方法

少額特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までです。

特例を適用するために申請書等を提出する必要はありませんが、令和11年10月1日以後に行う課税仕入れについては、課税期間の途中でも少額特例の対象外となります。 したがって、経過措置が終了した後の課税仕入れに対して仕入税額控除を適用する際は、原則、適格請求書と一定の事項を記載した帳簿を保存することが求められます。

まとめ

インボイス制度の経過措置は、種類によって適用期間と適用要件が異なるため、利用する経過措置ごとに要件等を確認してください。

税制改正で経過措置の適用期間が延長することもありますが、基本的には定められている期限をもって経過措置は終了します。

経過措置や特例制度は、確定申告等で意思表示をしないと適用されませんので、インボイス制度関連の手続きや特例制度に不明な点がありましたら、事前に専門家へご相談ください。

ぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談下さい。

個人事業主は、納税者本人が確定申告書を作成し、税務署へ提出しても問題ありません。

税務手続きを税理士に依頼すべきかどうかは事業内容等によって異なり、税理士に依頼する必要がない個人事業主もいるのも事実です。

一方で、税理士に依頼しないことで税務調査の対象になる確率が上がるなど、デメリットや注意点もありますので、今回は個人事業主が顧問税理士を付けるメリット・デメリットおよび、税務手続きを依頼すべきケースについて解説します。

個人事業主が税理士に依頼している割合

個人事業主は、事業で得た利益に対して所得税・住民税が課されますが、所得税の確定申告書に税理士が関与している割合は全体の20%程度です。

出所:令和4事務年度国税庁実績評価書(財務省)

https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2022/evaluation/index.html

同じ事業者である法人(法人税)の税理士関与割合は90%近くありますし、個人が申告する相続税の関与割合が85%程度あることを踏まえると、所得税の申告に関与している税理士の割合は低いです。

しかし、所得税の確定申告書を提出するのは個人事業主だけでなく、住宅ローン控除や医療費控除を適用する会社員や年金暮らしの方も含まれますので、個人事業主のみに限定すると、税理士が関与している割合は20%よりも高いと推測されます。

個人事業主が顧問税理士を付けるメリット

個人事業主が税理士に申告書の作成依頼をするメリットは、申告書を作成する手間を省けるだけではありません。

節税や税金対策に関する具体的な相談ができる

税金知識が豊富な個人事業主も沢山いますが、特例制度の適否や経費計上の可否など、専門家でないと判断が難しいものも少なくありません。

適切な手段で税金対策を講じたと思っていても、法令解釈に誤りがあれば税務調査で指摘され、加算税・延滞税のペナルティを受けるリスクがあります。

税務署でも税金相談は行っていますが、税務署が節税アドバイスをすることはないので、事業内容に合った節税方法や、税金対策のアドバイスを受けたい場合は税理士に相談することが望ましいです。

適正な確定申告書の作成と事務作業の削減

個人事業主が税理士に確定申告書の作成依頼をすれば、確定申告に関する事務作業量を削減しつつ、正しい申告を行えます。

事業所得や不動産所得を計算するためには売上や経費を算出しなければならず、個人事業主は仕事とプライベートの双方で使用している設備等を按分することが求められます。

算出された納税額が過少となっていれば税務署から指摘されますし、計上した経費が少なかった場合には納税額が過大となり、余分に税金を納めることになりかねません。

また、特例制度を適用するかどうかは納税者の判断ですので、特例制度を活用しなかったことで実質的に損をする可能性もあります。 顧問税理士がいる場合、計算ミスを防ぐことができるだけでなく、適用できる特例制度を活用した節税も行えますので、税負担の軽減も期待できます。

税務調査を受けるリスクが下がる

調査担当者が自宅や事務所を訪れて調査する「実地調査」の対象となった場合、80%以上の確率で非違事項を指摘されますので、調査対象者にならないことが最善です。

出所:令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf

税務署には提出されたすべての申告書を調査する人員はいませんので、申告書に優先順位を付けて税務調査を実施しています。

税務調査の優先順位は申告内容の誤りや疑義、所得金額の大小だけでなく、税理士関与の有無によっても上下し、該当項目が多いほど調査対象になりやすいです。

税理士が作成した申告書は適正に作成されている確率が高いことから、税理士が関与しているだけで調査の優先順位は一段階下がります。

一方、納税者本人が作成した申告書は、税理士が作成した申告書に比べて計算ミスが発生しやすいため、相対的に顧問税理士が付いていない申告書の方が調査対象者として選定されやすいです。

個人事業主が顧問税理士を付けるデメリット

個人事業主が税理士に依頼する際は、次の事項もあらかじめ確認してください。

税理士への報酬費用が発生する

税理士に申告書の作成依頼をする場合には、対価として報酬を支払うことになります。

税理士への報酬額は税理士事務所や会計事務所によって異なりますが、依頼する内容によっても金額は上下します。

個人事業主の立場からすると、報酬額が少ない方が負担は軽くなりますが、仕訳作業の代行や経営相談がプランに含まれていない場合、満足するサポートを受けられない可能性があります。

そのため、税理士に依頼する際は報酬に含まれている業務内容等を確認し、目的に合致したプランを選んでください。

良い税理士を見つけるのが難しい

税理士にも得意・不得意の分野があるため、依頼する税金を得意とする税理士に依頼することが望ましいです。

個人事業主も個々に事業内容は異なりますし、その事業に精通していない税理士に依頼してしまうと、十分な税金対策が講じられないことも考えられます。

また、顧問税理士は気兼ねなく相談できる税理士を選ぶことも大切です。

税理士事務所が遠方にあると気軽に相談することが難しいですし、有名な税理士事務所が親身になって対応してくれるとは限りません。

中長期的に事業を続ける方であれば、現役世代の税理士を選んでいただくと途中で税理士を変える必要もなくなりますので、税理士の年齢や人柄も選ぶ際の判断材料です。

個人事業主の税理士に依頼すべきケースと不要なケース

個人事業主が顧問税理士を付けるかどうかはケースバイケースなので、依頼すべきケースと不要なケースをご紹介します。

税理士に依頼する必要がない個人事業主の特徴

税理士が不要な個人事業主は、自分で税金手続きをすべて行うことができる方です。

会計ソフトを活用することで、個人事業主でも申告書を作成するハードルは下がっているため、個人事業主でも税理士を付けることが必須とは限りません。

元々税金関連の仕事をしていた個人事業主は自身で申告書を作成できますし、勉強して税金関連の税知識を身に付けた方も、申告書を作成する面で苦労することは少ないです。

また、年間の取引回数が少ない事業者は仕訳等に費やす時間も比較的少ないため、申告手続きに関する苦労をいとわない方は、無理して税理士を付ける必要はありません。

税理士に依頼すべき個人事業主の特徴

事業に専念したい個人事業主は、顧問税理士を付けることを推奨します。

仕訳や記帳が適切に行われていないと、正しい確定申告書を作成することはできませんし、取引回数が多い事業を営んでいる個人事業主は、確定申告関連の事務処理に多大な労力と時間を費やします。

税理士事務所によっては確定申告書の作成だけでなく、記帳代行を承っていますので、顧問税理士に税金関係の手続きを一任し、事業に専念できる環境を整えてください。

税理士に依頼するか悩んでいる方は1度相談すること

個人事業主によっては税理士に依頼する必要がない方もいますが、費用を抑えるだけを目的として自分で税務手続きを行うのは危険です。

特例制度の適否は任意なので制度の存在をしないと活用することはできませんし、節税方法を知らないことが原因で、他の事業者より多く税金を支払っている方もいます。

申告内容に誤りがあれば税務調査で指摘されるだけでなく、調査終了後も動向をチェックされるようになるため、調査対象者として選ばれる確率は更に上がってしまいます。

知名度や料金の安さだけで税理士を選ぶのは危ないので、税理士を付けることを検討されている方は、1度税理士事務所に相談していただき、顧問税理士として依頼するか決めてください。

お困りのことがございましたら、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へぜひ一度ご相談ください。

令和6年度税制改正において交際費等の見直しが行われ、交際費等から除外される飲食費の基準額が、1人当たり5,000円から1万円に引き上げられました。

本記事では、交際費等から除かれる飲食費の金額基準が変更した経緯と、交際費等および飲食費に該当する範囲、そして損金計上する際の注意点について解説します。

令和6年度税制改正における交際費等の変更点

法人税では、接待交際費として支出した費用のうち、一定額以下の飲食費は交際費等の範囲から除かれます。

除外対象となる飲食費は、従来1人当たり5,000円以下とされていましたが、令和6年(2024年)4月1日以後からは基準額が1万円以下になります。

基準額の引き上げは、昨今の会議費の実態等を踏まえたものとされていますが、それ以外にも物価上昇による飲食費の高騰や、従来の5,000円の基準額は金額的に低いとの意見があったことも要因です。

令和6年度税制改正では、飲食費の基準額変更以外にも、接待飲食費に係る損金算入の特例及び中小法人に係る損金算入の特例の適用期限が3年延長されました。

法人が支出した交際費等は原則損金不算入ですが、資本金の額等が1億円超から100億円以下の法人は、接待飲食費の50%の損金算入が認められています。 中小法人(資本金の額等が1億円以下の法人)については、「接待飲食費の50%」または、「800万円までの交際費等の全額」のいずれかを選択できるため、交際費等を800万円以内に抑えれば交際費等を全額損金として算入することが可能です。

出所:令和6年度税制改正(財務省)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei24.html

交際費等の範囲

交際費等は、交際費や接待費などの費用のうち、得意先や仕入先等の事業関係者などに対する接待・供応・慰安・贈答、その他これらに類する行為のために支出するものをいいます。

慰安のための支出であったとしても、専ら従業員のために行われる旅行等において通常生じる費用は、交際費等ではなく福利厚生費に該当します。

また、飲食その他これに類する行為のために要する費用のうち、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が、1万円以下(令和6年3月31日までは5,000円以下)である場合も交際費等から除かれます。

(専ら法人役員や従業員、これらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。)

飲食代として支払った費用が1人当たり1万円以内であれば全額を損金に算入できますし、1万円を超えた場合には、交際費等として損金算入の判定を行うことになります。

得意先や仕入先、事業関係等に対する支出のうち、次の性質があるものは交際費等には含まれません。

<交際費等には該当しない支出>

  • 寄附金
  • 値引きおよび割戻し
  • 広告宣伝費
  • 福利厚生費
  • 給与等

寄附金と交際費等のどちらに該当するかは、個々の実態により判定することになりますが、金銭でした贈与は原則寄附金であり、社会事業団体や政治団体に対する拠出金や、神社の祭礼等の寄贈金についても交際費等には含まれません。 また、不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図するものなど、広告宣伝費の性質を有する支出も交際費等には該当しません。

交際費等から除外される飲食費の書類の保存要件

交際費等の範囲から「1人当たり1万円以下の飲食費」を除外する場合、次の事項を記載した書類を保存しなければなりません。

<記載事項>

  • 飲食等のあった年月日
  • 飲食等に参加した得意先、仕入先、その他事業に関係のある者等の氏名(名称)およびその関係
  • 飲食等に参加した者の数
  • 費用の金額、飲食店・料理店等の名称・所在地
  • その他参考となるべき事項

店舗を有しない飲食店である等を理由に、名称や所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名(名称)、住所(居所)または本店(主たる事務所)の所在地を記載しなければなりません。

法人税の申告をする際は、別表十五「交際費等の損金算入に関する明細書」で損金算入する額を計算します。

出所:交際費等の損金算入に関する明細書(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2022/pdf/15.pdf

1人当たり1万円以下の飲食費の判定

交際費等の範囲から除かれる飲食費は、次の算式で計算した1人当たりの金額が1万円以下の費用が対象です。

<1人当たりの飲食費の算定方法>

飲食等のために要する費用として支出する金額÷飲食等の参加者数=1人当たりの飲食費の金額

1人当たりの飲食費の金額は、単純に飲食等に参加した人数で除して計算した金額で判定します。

得意先等が飲食店等において、個々にどの程度の飲食等を行ったかは、1人当たりの飲食代を計算する上では関係ありません。

1人当たりの金額が1万円を超えた場合、その費用のすべてが交際費等に該当することになり、1万円を超えた部分だけが交際費等に該当する控除方式ではないため、交際費等に該当しない範囲で飲食代を支出したいときは、1人当たりの金額が1万円を超えないよう注意してください。

支出する費用に係る消費税等の扱い

「飲食等のために要する費用として支出する金額」に係る消費税等の額は、法人が適用している消費税の経費方式によって扱いが異なります。

法人が税込経理方式を適用している場合、支出する金額に消費税等の額を含めます。

一方、税抜経理方式を適用している法人については、消費税を支出する金額に含めないで飲食費1人当たりの金額を計算しなければなりません。

インボイス制度の導入により、適格請求書発行事業者以外の者から課税仕入れをする場合には、原則仕入税額控除を適用できなくなりました。

節税の観点からすると、相手方が適格請求書発行事業者に該当するかも関係してきますので、接待などのために飲食代を支出する際は、法人税だけでなく消費税の取扱いにも気を付けてください。

交際費等から除外される飲食費の範囲

税務調査では交際費等に関係する支出は必ずチェックされますので、交際費等から除外される飲食費の範囲を正しく把握することが大切です。

「飲食等のために要する費用」とは

飲食等のために要する費用は、飲食代だけでなく、飲食等のためのテーブルチャージ料やサービス料など、飲食店等に対して直接支払うものが対象です。

飲食等のために飲食店等に対し、通常直接支払わない費用は、飲食等のために要する費用には該当しません。

たとえば、得意先等を飲食店等へ送迎するための送迎費は、接待・供応に当たる飲食等を目的とした送迎という行為のために要する費用であり、飲食等のために要する費用に該当しないことから交際費等として扱います。

「飲食その他これに類する行為」に該当するもの

「飲食その他これに類する行為」のために要する費用には、自社の従業員等が得意先等を接待して飲食するための「飲食代」だけでなく、得意先等の業務遂行や行事開催に際して差入れた弁当の代金なども含まれます。

飲食費に該当する弁当代は、得意先等において差入れ後、相応の時間内に飲食されることが想定されるものを前提とするため、飲食物の詰め合わせの贈答など、中元や歳暮を渡すのと変わらないものは「飲食その他これに類する行為」には含まれません。

一方で、飲食店等での飲食後に提供されている飲食物の「お土産代」のうち、代金を飲食店等へ支払うものについては、相応の時間内に飲食されることが想定されるかに関係なく、飲食に類する行為に該当するものとして飲食等のために要する費用となります。

まとめ

交際費等から除外される飲食費の基準額は引き上げとなりましたが、飲食費に該当するかの判定方法は従来と同じです。

基準額が5,000円から1万円に拡大したことは納税者にとってメリットがある変更ですが、税制改正が行われた部分は税務調査でチェックされやすいので注意してください。

接待交際費は税金対策として活用しやすい半面、損金算入が否認されることが多い項目でもあります。

中途半端な対策はリスクが伴いますので、税金対策・調査対策は専門家に相談の上、事業者ごとに適した手段を用いることを推奨します。

税務でお困りごとがございましたら、ぜひ一度永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

税務署は税目ごとに調査担当部署が違うため、同じ内容の事業を営んでいたとしても、個人と法人では税務調査の対象になる条件や確率が異なります。

本記事では、個人が税務調査を受ける確率と、調査対象になってしまう個人事業主の特徴について解説します。

税務署が税務調査を実施する理由

税務署を含めた国税当局が税務調査を実施するのは、「内国税の適正かつ公平な賦課および徴収の実現」を使命としているからです。

確定申告書が適正に作成されていなければ、正しく申告した人が損をすることになりますし、無申告者の放置は課税の不公平に繋がります。

税務署が扱っている税金は自主申告・自主納付であるため、申告誤りを是正しないと申告納税制度が崩壊してしまうことから、適正・公平な課税を実現するために税務調査が日々行われています。

個人事業主が税務調査を受ける確率

所得税の申告書は法人税の申告書よりも提出件数が多いですが、対象を個人事業主に絞ると、想像以上に税務調査を受けている計算になります。

所得税の申告件数に対する調査割合は3%未満

令和4年分の所得税の申告件数は2,295.1万件なのに対し、令和4事務年度に行われた調査等の件数は約63.7万件ですので、申告件数に対する調査件数の割合はおおよそ2.7%です。

調査担当者が納税者の自宅や事務所を訪れて実施する「実地調査」の件数は46,306件ですので、申告書を提出した個人が実地調査を受ける確率は0.2%程度に留まります。

数字上では納税者のほとんどが税務調査を受けていないことになりますが、税務署に提出された申告書の大半は、医療費控除や住宅ローン控除を適用するために提出した還付申告です。

税務署の立場からすると、申告内容に誤りがない申告書を調査しても税収は増えませんし、赤字申告を調査しても増差税額が発生しないことが多いです。

税務署は不正還付などを防ぐ目的で還付申告を調査することはありますが、調査対象になるのは基本的には納税申告です。

したがって、確定申告で所得税を納めている納税者は、それだけで税務調査を受ける確率が数段階高くなるので注意してください。

出所:令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023005-053.pdf

個人事業主の10人に1人は税務調査を受ける可能性がある

令和4年分の所得税における事業所得者の納税申告件数(163.8万件)は、全体の7%程度に留まりますので、事業所得者の10人に1人は数年間のうちに調査を受ける可能性があります。

売上が大きい事業者が調査対象になることは一般的にも知られていますが、調査対象者の選定は事業規模だけで判断しているわけではありません。

国税当局は調査を実施する件数が限られていることから、調査による実績はもちろんのこと、費用対効果も追求しています。

増差税額が発生しやすい事案と判断されれば、比較的事業規模が小さくても調査対象になりますし、明確な申告誤りがあれば即座に指摘されます。

個人に対する税務調査は、主に事業を営んでいる人に対して実施される傾向にあるため、個人事業主は税務調査の対象になりやすいことを念頭に対策を講じなければなりません。

税務調査の対象となりやすい個人事業主の特徴

個人事業主でも、税務調査の対象となりやすい事業者と対象になりにくい事業者があり、次の事項に該当する事業者については調査対策が必須です。

営んでいる事業が申告漏れの多い業種

税務署は税務調査の費用対効果を高めるため、申告漏れが発生しやすく、かつ、多額の増差税額を優先的に調査する傾向になります。

申告漏れの多い業種は他の業種に比べ相対的に調査を受けやすいことから、税務調査を回避するためには、標準以上の調査対策が求められます。

国税庁は事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種を公表しており、令和4事務年度の第1位は経営コンサルタントです。

以前は風俗業やキャバクラなど、いわゆる夜の仕事が上位にランクインしていましたが、新型コロナウイルス等の影響で、直近においては申告漏れの多い業種には入っていません。

一方で、経営コンサルタントや太陽光発電、建設業関係については毎年のように上位に入るなど、一般的なイメージと現実では調査になりやすい業種は異なります。

出所:令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/shotoku_shohi/pdf/shotoku_shohi.pdf

確定申告を行っていない(無申告

個人事業主は法人と違い、無申告の割合が高いため、申告書を提出していない事業者に対する税務調査が積極的に行われています。

無申告者に対する調査は重点課題の一つとして掲げられており、無申告者に対する調査の取り組みを主なトピックスとして公表するほどです。

令和4事務年度における所得税無申告者に対する調査件数は5,229 件と、全体の調査件数を踏まえると少ないですが、前事務年度の件数が3,828件であることを鑑みると、調査件数は大幅に増加しています。

所得税の実地調査全体の1件あたりの申告漏れ所得金額は1,456 万円なのに対し、無申告者の申告漏れ所得金額は1.9倍の2,711 万円です。

税務調査は増差税額が見込まれる事案ほど対象となりやすいことから、確定申告書を提出していない個人事業主は税務署から狙われやすいです。

売上・経費の大幅な増減がある

継続的に事業を営んでいる個人事業主は、急激な売上・経費の増減が生じると調査対象になりやすくなります。

売上が増加すれば利益が発生する可能性が高くなりますし、利益を圧縮するために不当な方法で税金逃れを試みる納税者も一定数存在します。

売上が増えていないもかかわらず経費が急激に増加している場合には、計上されている経費の内容が適切であるかをチェックすることもあるため、不正する意図がない場合でも売上・経費が大きく変動したときは気を付けてください。

開業から3年を経過した個人事業主

一般的な税務調査では、3年分の申告書を対象にすることが多いため、開業してから3年経過すると調査対象者として選定されやすくなります。

開業して日が浅い時期は税知識が不十分であることから申告誤りが生じやすく、税務署は適正申告を促す意味合いも込めて税務調査に踏み切るケースもあります。

税務調査で申告ミスを指摘されれば本税だけでなく、加算税・延滞税も支払うことになりますので、事業を開始した時点から正しく申告することが大切です。

顧問税理士が不在

個人事業主の場合、確定申告書の作成に税理士が関与しているか否かで調査を受ける確率は変動します。

確定申告書の作成は税理士に依頼することもできますが、所得税の税理士関与割合は20%程度と、法人税の4分の1以下です。

税理士は税の専門家ですので、納税者が作成した申告書と税理士が作成した申告書を比較した場合、税理士が関与していない申告書の方が内容に誤りがあることが多いです。

税務署は申告誤りが見込まれる申告書から調査対象者を選定するため、税理士が関与していないだけで調査対象者となるリスクは高くなります。

税務調査を回避するために個人事業主がやるべき対策

税務調査は増差税額を得ることを目的に実施しますので、適正な申告書を作成していれば、それだけで調査を受ける確率は激減します。

税務署に申告内容が適正であることを証明するためには、正しく税額計算を行うのはもちろんのこと、青色申告や必要書類の添付など、申告内容を疑われる要素を少しでも多く排除することが大切です。

事業を続ける限り税務調査を受ける可能性はありますし、税務調査で誤りを指摘されれば、要注意人物として継続的にマークされることも想定されます。

なお、調査リスクは対策を講じれば大幅に下げることができますので、税務調査に関して不安がある方は一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までご相談ください。

消費税を一般課税で計算する場合、仕入税額控除の適用は不可欠ですが、インボイス制度が導入されたことで仕入税額控除の要件が厳しくなりました。

本記事では、仕入税額控除の要件および、適用する際の注意点について解説します。

仕入税額控除の概要

消費税は、課税期間中の課税売上に係る消費税額から、課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を控除して納税額(還付額)を算出します。

課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」といい、仕入税額控除を適用するためには一定の要件を満たさなければなりません。

課税仕入れは、事業者が事業として他者から資産の譲り受けや借り受けを行うこと、または役務の提供を受ける取引等をいいます。

非課税や免税になる取引は課税仕入れには該当せず、給与等の支払いについても原則課税仕入れには含まれません。

ただし、加工賃や人材派遣料など、事業者が行う労働やサービスの提供の対価には消費税が課されますので、外部に委託する際に支払う委託料などについては課税仕入れに該当することから、仕入税額控除の対象となります。

<主な課税仕入れ取引>

  • 棚卸資産(商品など)や原材料等の購入
  • 機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入または賃借
  • 広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払い
  • 事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
  • 修繕費、外注費の支払い

インボイス制度の導入による仕入税額控除への影響

仕入税額控除を適用する場合、令和元年10月1日から令和5年9月30日までは「区分記載請求書等保存方式」の要件を満たす必要がありました。

しかし、令和5年10月1日からは「適格請求書等保存方式」の要件を満たさないと、仕入税額控除は適用できなくなります。

インボイス制度とは

適格請求書等保存方式(インボイス制度)」は、複数税率に対応した仕入税額控除の方式で、インボイス制度導入後に仕入税額控除を適用するためには、売手から交付された適格請求書(インボイス)等の保存が必要です。

インボイスを交付できるのは、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録した事業者に限られます。

事業者自身(買手)が適格請求書発行事業者の登録を行っていたとしても、売手が適格請求書発行事業者でなければ適格請求書は発行されないため、その売手からの課税仕入れは原則仕入税額控除の対象外です。

出所:インボイス制度が始まります!(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0022001-174.pdf

仕入税額控除の適用にはインボイス保存が必要

適格請求書発行事業者には、インボイスの発行が義務付けられており、仕入税額控除を適用するためには、原則適格請求書発行事業者から交付を受けたインボイスの保存が必要です。

<インボイスの記載事項>

  • 適格請求書発行事業者の氏名(名称)および登録番号
  • 課税資産の譲渡等を行った年月日
  • 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容
    (課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容および軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
  • 課税資産の譲渡等の税抜価額または、税込価額を税率ごとに区分して合計した金額および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名(名称)


出所:インボイス記載事項チェックシート(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024002-057_a.pdf

仕入税額控除を適用するために保存すべき書類等は、インボイス(適格請求書)だけでなく、納品書や領収書、レシートなども含まれます。

<仕入税額控除を適用するために保存すべき請求書等>

  • 適格簡易請求書
  • 適格請求書の記載事項が記載された仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類(課税仕入れの相手方において課税資産の譲渡等に該当するもので、相手方の確認を受けたものに限る)
  • 次の取引について、媒介または取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類 (1)卸売市場において出荷者から委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の販売(2)農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等が生産者(組合員等)から委託を受けて行う農林水産物の販売
    (無条件委託方式かつ共同計算方式によるものに限る)

インボイス保存が緩和されるケース

仕入税額控除を適用するためには原則インボイス保存を要しますが、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用が認められます。

<帳簿のみの保存で仕入税額控除が適用できるケース>

3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客の運送
取引年月日以外のインボイスの記載事項が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除く)
古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
(古物営業を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得 (質屋を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入 (宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
適格請求書発行事業者でない者からの再生資源および再生部品の購入 (購入者の棚卸資産に該当する場合に限る)
3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入等
郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
(郵便ポストに差し出されたものに限る)
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等
(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)

帳簿のみの保存で仕入税額控除を適用する場合、帳簿に通常必要な記載事項に加え、次の事項を記載する必要があります。

  •  帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
  •  仕入れの相手方の住所または所在地
    (一定の者を除く)

たとえば、電車料金を仕入税額控除の対象とする場合には「3万円未満の鉄道料金」、自動販売機で商品を購入した際には「〇〇市 自販機」のように記載することになります。

インボイス制度の「少額特例」

一定規模以下の事業者は、インボイス制度を導入したことで事務負担を軽減する措置として、「少額特例」を適用することが可能です。

少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除を適用できる制度です。

取引先が適格請求書発行事業者であるかは関係ないため、一定規模以下の事業者に該当すれば特例を受けることができます。

「一定規模以下の事業者」は、基準期間における課税売上高が1億円以下または、特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者です。

税込1万円未満の課税仕入れに該当するかは、1回の取引における課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満なのか否かで判定します。

1つの商品が1万円未満だとしても、複数の商品を同時に購入したことで1回の取引における課税仕入れが1万円以上になれば、少額特例の対象外となります。

少額特例の対象期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間であり、令和11年10月1日以後に行う課税仕入れについては、課税期間の途中でも少額特例は適用できなくなるので注意してください。

免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置

インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者以外の事業者からの課税仕入れは、原則仕入税額控除の対象から外れます。

しかし、適格請求書発行事業者以外の事業者からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置を適用できます。

<対象期間と適用割合>

期間割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで仕入税額相当額の50%

経過措置の適用を受けるためには、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された帳簿および請求書等の保存が必要です。

また、帳簿については「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しなければなりません。

まとめ

インボイス制度は、免税事業者が課税事業者に変更したことで生じる税負担や、インボイスの交付するための作業負担増に注目されていますが、適切にインボイスを保存しないと仕入税額控除を適用できないのも大きな変更点です。

消費税の税務調査は法人税や所得税と同時に実施されることが多いため、調査対策は必要ですし、誤った方法でインボイスを保存してしまうと、仕入税額控除の適用が否認される可能性があります。

税務署に一度目を付けられてしまうと、何度も税務調査の対象となってしまいますので、専門家に要件等を確認した上で仕入税額控除を適用してください。

税務のお困りごとは、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

会社が法人税の確定申告をする場合、白色申告ではなく青色申告で手続きすることが望ましいです。

国は青色申告を推進するために様々な特典を用意しており、法人税を節税するためには、青色申告の優遇措置を上手く活用する必要があるからです。

本記事では、法人が青色申告で申告するメリットと、手続き上の注意点について解説します。

青色申告とは

青色申告制度は、税務署の承認を受けた事業者が一定の要件を満たした帳簿書類を備え付け、青色の申告書により申告手続きを行う制度です。

事業者は確定申告をするために記帳等を行っていますが、青色申告は記帳を適切に行う見返りとして、税制上の優遇措置が与えられています。

青色申告の主な特典は下記の通りで、節税の観点で考えた場合、会社が青色申告を行うことは必須条件になります。

<法人の青色申告の主な特典>

  • 欠損金の10年間繰越控除
  • 欠損金の繰戻しによる法人税額の還付
  • 帳簿書類の調査に基づく更正
  • 更正通知書への理由付記
  • 推計による更正または決定の禁止
  • 特別償却または割増償却
  • 各種準備金等の積立額等の損金算入
  • 各種の法人税額の特別控除
  • 各種の所得の特別控除等
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
  • 課税の特例等

法人税を青色申告で申告するためには、事前に納税地の所轄税務署長へ青色申告の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

承認された後は、法人税法上で定められている方法で帳簿書類を備付け、これに日々の取引を正確に記録しなければならないため、継続的に要件をクリアすることが求められます。

税務署に青色申告の承認が認められたとしても、適切に帳簿書類の備え付け等を行っていなければ、青色申告の特典が受けられない場合があるので注意してください。

法人が青色申告をするメリット

青色申告法人には、多くの特典が与えられていますが、その中でも高い節税効果を得ることができる制度を4種類ご紹介します。

欠損金の10年間繰越控除

青色申告の特筆すべき特典として、欠損金の繰越控除があります。

法人に事業年度の赤字(欠損金)が生じた場合、白色申告であれば欠損金を翌年に繰り越すことはできません。

しかし、青色申告を行っていれば、欠損金を最大10年間繰り越すことが可能であり、繰り越した欠損金は翌年以後に生じた利益と相殺することができます。

個人事業主にも繰越控除制度はありますが、個人事業主の繰越控除の期間は3年ですので、法人の方が控除期間が長いです。

なお、繰越控除を適用するためには、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出するだけでなく、その後の各事業年度でも連続して確定申告書を提出することが求められます。

欠損金の繰戻しによる法人税額の還付

欠損金の繰戻し制度は、事業年度に損金額が発生した際、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻し、法人税額の還付を請求することができる制度です。

欠損金の繰戻し制度を利用できるのは原則中小企業者等であり、中小企業者等以外の法人については、平成4年4月1日から令和6年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額は適用対象外です。

ただし、中小企業者等以外の法人についても、下記の欠損金額については、欠損金の繰戻しによる還付制度を適用できます。

  • 清算中に終了する各事業年度の欠損金額
  • 解散等の事実が生じた場合の欠損金額
  • 災害損失欠損金額
  • 銀行等保有株式取得機構の欠損金額

推計による更正または決定の禁止

推計による更正または決定の禁止とは、税務署が税務調査において推計課税を禁止することをいいます。

推計課税は税金の額を推定して決める方法をいい、税務調査に非協力的な納税者や、帳簿が不正確な納税者に対して用いる手法です。

調査担当者は税務調査を実施する際、取引状況や資料等に基づいて売上や経費計上などについての可否判定を行いますが、推計課税は資料等ではなく、特定の金額・割合などを用いて課税額を計算します。

推計課税で算出される課税額は、実際の課税額より高くなる可能性が高いため、調査対象者の税負担が重くなる懸念があります。

しかし、青色申告を行っていれば推計による更正・決定は行われませんので、税務調査の対象となった際に税負担が重くなるリスクを回避することができます。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得などして事業用に供する場合、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。

減価償却資産は、原則全額を取得した事業年度の経費にすることはできませんが、青色申告法人については、30万円未満までの減価償却資産を一括で経費にすることが可能です。

減価償却資産の特例を適用する場合、事業用に供した事業年度において、確定申告書等に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付が必要です。

出所:令和5年版 法人税のあらましと申告の手引(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2023/01.htm#a03

税務調査の対象になる確率を抑制できる

企業は継続的に活動している以上、税務調査を完全に回避することは難しいですが、対策を講じることで調査を受ける確率を下げることは可能です。

税務署は税務調査でより多く増差税額を出すことを目指していますので、申告誤りや申告漏れが想定される企業を対象に調査を実施する傾向にあります。

青色申告は納税者が適正な申告をする意思があるかの判断要素の一つであり、青色申告で申告書を提出するだけで税務調査を抑制する効果が期待できます。

そのため、節税対策だけでなく、調査対策の観点からも青色申告で申告することが望ましいです。

なお、税務調査を受ける確率は青色申告・白色申告の違いだけでなく、税理士関与の有無も影響します。

法人税は他の税金と比較して申告書を作成する難易度が高く、9割近くの法人が税理士に申告書作成を依頼しています。

納税者自身で申告書を作成・提出しても問題ありませんが、専門家が作成するより申告誤りが発生する確率が高いので、税務調査を受ける確率が上がる点には注意してください。

青色申告を適用するための要件

法人が青色申告で申告手続きを行うためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 法定の帳簿書類を備え付けて取引を記録、保存すること
  • 税務署に「青色申告の承認申請書」を提出し、あらかじめ承認を受けること

青色申告は仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿を作成するだけでなく、複式簿記による記帳も必要です。

帳簿書類の保存期間は7年と定められており、欠損金に係る帳簿書類については保存期間が10年です。

青色申告は承認制ですので、青色申告書を提出しようとする事業年度開始日の前日までに、「青色申告の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

年の途中で青色申告の承認申請書を提出し、承認を受けたとしても、青色申告で申告書を作成できるのは次の事業年度からになります。

ただし、 新たに法人を設立した場合には、次のいずれか早い日の前日までに青色申告の承認申請書を提出すれば、最初の事業年度から青色申告で申告することが可能です。

  • 設立の日以後3月を経過した日
  • 最初の事業年度終了の日

出所:青色申告の承認申請書(国税庁)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/056-1.pdf

青色申告の承認が取り消しになるケース

青色申告は1度承認されれば、継続して青色申告で申告手続きを行えますが、次のケースに該当する場合には、青色申告の承認が取り消される可能性があるので気を付けてください。

<青色申告が取り消しになるケース>

  • 法令で定められた方法で帳簿書類の備付け、記録、保存を行っていなかった
  • 帳簿書類に関して税務署長の必要な指示に従わなかった
  • 帳簿書類等に仮装・隠蔽した事実があった
  • 確定申告書を定められた期限までに提出しなかった

税務署は上記の事実が判明した場合、該当する事実がある事業年度まで遡って、青色申告の承認を取り消すことができます。

青色申告が取り消しになった場合、取り消された事業年度開始の日以後に提出された青色申告書も青色申告でなくなりますので、各種特典は適用されないことになります。

基本的なルールを守っていれば、青色申告が取り消しになることはないですが、何度もミスを繰り返していると、青色申告の承認が取り消されますので注意してください。

まとめ

青色申告は税制上の優遇措置が受けられるため、事業を継続する企業は青色申告で申告することが望ましいです。

これから法人を設立する方は、設立したタイミングで承認申請書を提出する必要がありますし、現在白色申告で申告している方は次の事業年度に入る前に承認申請書を提出しないと、青色申告で手続きできる事業年度が遅くなってしまいます。

青色申告の申請が承認された以後は、定められた方法に従って帳簿書類の備え付け等が必要となりますので、申請前に専門家に注意点等を確認してください。税務のお困りごとがございましたら、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にご相談ください。

個人事業主の申告手続きは複雑であり、申告内容に誤りがあれば税務調査で指摘され、追徴課税を受けるリスクも存在します。

確定申告書は納税者が作成することもできますが、税理士に申告手続きを代行するのも選択肢の一つです。

本記事では、確定申告手続きを税理士に任せるメリットおよび、依頼する際の注意点について解説します。

確定申告は本人が手続きするのが原則

個人事業主は、原則として毎年所得税の確定申告が必要です。

所得税の確定申告期間は、対象年分の翌年2月16日から3月15日までの1か月間で、納税地を管轄する税務署に申告書を提出することになります。

確定申告書は本人が作成しなければならず、申告書の作成代行が認められているのは税理士資格を有している方のみです。

家族や友人が代わりに申告書を作ることはできませんし、税理士資格が無い人は有償・無償問わず税務相談も禁止されています。

本人が作成した確定申告書を家族が提出することはできますが、確定申告手続きを代行してもらいたい場合は税理士事務所に依頼してください。

個人事業主が税理士に確定申告を代行してもらう理由

税理士事務所に確定申告作成を依頼する場合、費用がかかるのがデメリットです。

しかし、費用が発生したとしても、それ以上に申告手続きを代行するメリットが存在します。

個人事業主の確定申告手続きは難しい

個人事業主が作成する確定申告書は難易度が高く、税知識がないと適正に申告書を完成させるのは難しいです。

会社員の確定申告は、勤務先の年末調整で税金の精算が完了していることが多いため、医療費控除や住宅ローン控除を適用する際、収入や所得控除の計算をする必要がほとんどありません。

それに対し、個人事業主は年間の収支を自ら計算しなければなりませんし、帳簿書類の整理が終わっていないと申告書の作成に取り掛かることすらできません。

記帳ミスは申告誤りに繋がりますし、青色決算書や収支内訳書など申告書と一緒に提出すべき書類も多数あるので、申告関係のリスクを避けたい個人事業主は税理士に申告書作成を依頼しています。

確定申告に費やす時間を削減するため

事業規模が大きくなれば取引量が増えますので、仕訳をするための多くの時間を費やすことになります。

本業が忙しくなれば確定申告関係の作業に手を回す余裕がなくなりますが、税務調査は売上や利益(所得)が大きい人ほど対象になりやすいため、申告手続きをおざなりにすることはできません。

一方で、確定申告書の作成に時間を費やしたとしても利益が増えるわけではないことから、労力を最小限に抑えるための手段として税理士に代行依頼をするケースもあります。

節税効果が期待できる

税理士は申告書の作成事務だけでなく、節税アドバイスも業務の一つです。

税務署でも税金相談は可能ですが、節税アドバイスはしてくれませんので、少しでも納税額を抑えたい方は税理士に相談することが望ましいです。

同じ売上規模でも、税金対策を講じているか否かによって支払う税金の額は変わりますし、特例制度を活用するだけで納税額を大きく下げられるケースもあります。

節税をするかは任意ですので、本人に対策を講じる意思がないとできませんし、効果的に節税を行うためには、個々の状況に応じた手段を用いることが重要です。

税務調査を受ける確率が下がる

税務調査は申告内容に誤りがある納税者ほど対象になりやすく、調査対象者になれば高い確率で追徴課税が発生します。

また、税務署は効率的に税務調査を実施する観点から、申告内容に誤りが生じやすい業種などを優先して調査する傾向にあります。

一般の方々は税の専門家ではありませんので、税理士が関与していない申告書はそれだけで調査対象になる確率が上がると考えられます。

反対に、税理士が申告書作成に関与していれば、調査を受ける確率も下がると考えられますので、調査リスクを抑える観点から税理士に依頼するのも選択肢です。

<税務調査の流れ(イメージ)>

出所:国税庁

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf

税理士に依頼できる業務内容

税理士事務所に依頼できる確定申告関係の業務は、次の3点です。

確定申告書作成・税務代理

税理士のメインとなる業務は、確定申告書の作成を含めた税務代理です。

税理士に依頼すれば内容に応じた申告書を作成してくれるため、計算誤りなどのミスをする心配がなくなります。

税務調査を100%回避する方法は存在しませんが、税理士が申告代行をしていればリスクを抑えることはできますし、万が一税務調査を受けることになったとしても、税理士が同席しますので安心感があります。

税務調査の連絡が入ってから税理士に依頼することもできますが、申告内容を把握しきれていない場合、調査担当者と対峙する際の対応が後手に回ってしまいますので、確定申告書を作成する段階で依頼した方がいいでしょう。

記帳代行・税務関係書類の作成

税理士事務所は申告書の作成だけでなく、記帳代行や税務関係書類の作成等も行っています。

個人事業主にとって帳簿の作成は非常に負担となるため、記帳代行してもらうだけでも確定申告手続きに費やす労力を削減することが可能です。

また、個人事業主は青色申告承認申請書など、確定申告書以外にも提出しなければならない届出書などが多数存在します。

特例制度・特例措置は定められた期間までに手続きしないと制度を利用できませんので、特例の適用漏れを防ぐ観点でも税理士に手続き関係を依頼するメリットがあります。

税務サポート

税務サポートは、税理士を顧問として迎え入れ、税金に関する悩みや疑問を相談することをいいます。

税金対策は確定申告前から講じなければ十分な効果は発揮できないため、通常時から対策をしなくてはなりません。

節税効果が大きい特例制度は、適用を否認されてしまうと税負担が重くなるリスクがあるため、事前に適用要件の確認は必須です。

その点、顧問税理士がいれば疑問点を相談することができますし、会社の経営状態から節税や経営方針等のアドバイスを受けることができます。

税理士に申告書作成を依頼すべきケース

次のいずれかに該当する個人事業主は、税理士に申告手続きを代行してもらうことを検討してください。

確定申告に関するトラブルを回避したい場合

確定申告に関するトラブルを防ぐためには、専門知識が不可欠ですので、リスク回避を優先する方は税理士に依頼してください。

税理士に申告手続きを代行してもらったとしても、税務調査を受ける可能性はゼロになることはありませんが、調査対象になる確率は確実に下がります。

また、税理士が関与していれば税務署からの連絡は税理士に入りますので、税務署の職員と直接連絡を取る必要がなくなります。

本業にリソースを費やしたい場合

個人事業主は本人のみで事業を営んでいることも多く、帳簿関係がおざなりになりやすいです。また、2023年から始まった、インボイス関係の処理について、個人事業主が自ら勉強して行うと、かなりの時間と労力が必要になりますが、税理士の関与をうけることで、その時間や労力を本業に使うことができます。

その他、令和6年から注文書や契約書、領収書などを電子データでやりとりした場合、電子データで保存することが義務となりました。 法令に基づいて書類等を整理・保存しないとペナルティの対象となりますが、税制改正への対応は大変なので、必要に応じて税理士からアドバイスを受けることが大切です。

開業・法人成りをする場合

開業手続きや法人成りを何度も経験したことがある人は限られますし、専門家を除き、それらの手続きに慣れている人はいません。

不慣れな手続きはミスが発生しやすく、税務署からの指摘に繋がります。

個人事業主の法人成りは節税効果を期待できる反面、税務調査で指摘されやすいポイントなので、開業や法人成りを行う場合においても税理士に依頼することを検討してください。

まとめ

確定申告手続きを軽視する方もいますが、申告誤りが指摘されれば追加で本税を納めるだけでなく、加算税・延滞税といったペナルティの対象になってしまいます。

税務調査を受けるとなれば数日間は拘束されますし、申告書を正しく作成していない納税者と判断されれば、2度目・3度目の税務調査を受ける可能性が出てきます。

税理士は申告書の作成代行だけでなく、税務調査のリスク軽減や経営アドバイスを行える立場にありますので、申告手続きでお悩みの方はぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。


所得税の確定申告は、その年に納める額を計算するために行うものであり、申告義務のある方が定められた期間内に申告手続きをしない場合、手痛いペナルティを受ける可能性があります。

世間で流れている情報は真偽不明なものが多く、嘘の情報を鵜呑みにしてしまうと後日税務調査で指摘されることもあるので、本記事で個人事業主がやるべき確定申告と、申告をしない場合のリスクをご確認ください。

所得税の確定申告とは?


所得税は1年間の所得に対して課される税金で、確定申告期間は翌年2月16日から3月15日までの1か月です。

申告期間中に申告・納税が必要となりますので、確定申告で納める税額が発生する場合には、納付手続きも行ってください。

確定申告書は紙(書面)と電子(e-Tax)の2種類あり、書面で申告書を作成したときは、管轄税務署の窓口または郵送で提出することになります。

(管轄以外の税務署に、確定申告書を提出することはできません。)

税務署の開庁時間は8時30分から17時までですが、税務署に設置してある時間外収受箱に投函して提出することも可能です。

郵送で申告書を提出する場合、消印の日付が提出日となるため、消印が3月15日であれば、税務署に届くのが3月16日以後でも期限内申告として扱われます。

e-Taxはインターネットを経由して申告する方法で、申告期限・納付期限は書面申告と同じです。

書面申告との相違点としては、確定申告期間は基本的に24時間提出することができるため、平日の日中に税務署へ行くのが難しい方はe-Taxの利用も選択肢になります。

個人事業主が申告すべき所得税以外の税金


個人事業主は所得税だけでなく、消費税や住民税の確定申告が必要になる場合があります。

消費税は、消費税の課税事業者が申告する税金で、免税事業者に該当する個人事業主(法人)は消費税の申告をする必要がありません。

課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は、今まで免税事業者に該当するケースが多かったですが、インボイス登録(適格請求書発行事業者の登録)を行った事業者は、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の確定申告が必須となるので注意してください。

個人事業主の消費税の申告期限は翌年3月31日までで、納期限は申告期限と同じ日です。

税務署は、インボイス導入後しばらく消費税の無申告者を摘発するため、積極的に税務調査を実施する可能性が高いので、課税事業者に該当する方は消費税の申告も忘れずに行ってください。

住民税は地方税の一つで、所得税の確定申告をしていれば住民税の申告書を作成・提出する必要はありません。

しかし、所得税の申告を行っていない事業者は住民税の申告をすることになるため、翌年3月15日までに申告書を提出し、地方自治体から送付される納付書等で税金を納めてください。

確定申告を行わなかった場合のペナルティ


所得税の申告義務がある納税者が申告・納税を怠った場合、本税以外に加算税と延滞税を支払うことになります。


加算税は申告ミスに対するペナルティ

加算税は、申告誤りや無申告に対して課されるペナルティです。

たとえば納税額が100万円の人が70万円の申告書を提出した場合、申告漏れとなった30万円が加算税の対象になります。

主な加算税の種類としては「過少申告加算税」・「無申告加算税」・「重加算税」があり、申告状況等によって課される加算税の種類は変わります。

過少申告加算税は期限内に提出した申告書の内容が誤っている場合、無申告加算税は期限までに申告書を提出していない場合に課される税金です。

所得税は納税者が自ら申告して税金を納める「申告納税制度」を採用しているため、期限までに手続きをしなかった際に課される無申告加算税の方が、過少申告加算税よりもペナルティは重いです。

重加算税は、意図的に税金を誤魔化した場合に課される税金で、加算税の中で税率が最も高いです。

ケアレスミスや計算誤りに対して重加算税が課されることはありませんが、悪質な脱税については重加算税の対象になりますので注意してください。


延滞税は税金の滞納に対するペナルティ

延滞税は、納期限までに税金を納めなかった場合に課されるペナルティです。

定められた納期限までに支払いが完了していない場合、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じて延滞税が発生します。

(法定納期限は法律で定められた納付すべき期限で、法定申告期限と法定納期限は原則同じ日です。)

納付が遅くなるほど延滞税の額は増えていきますので、確定申告を行う際は申告書を提出するだけでなく、納付も済ませてください。

<延滞税の計算式>

出所:延滞税の計算方法(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai.htm



青色申告の取り消し


個人事業主は、申請することで青色申告者として確定申告を行うことができます。

青色申告には税制上の優遇措置がいくつも用意されていますが、期限までに申告しないと優遇措置を受けられない可能性があります。

たとえば青色申告特別控除は最大65万円を控除することができる制度ですが、申告期限を過ぎてしまうと控除額が10万円にまで減少します。

また、税務署が適正に申告手続きをしていないと判断した場合、青色申告が取り消される可能性があるので気を付けてください。


税務調査で申告誤りが指摘された場合の影響


税務調査は申告書を提出した納税者だけでなく、無申告の納税者に対しても実施されます。



加算税の適用税率が高くなる


加算税は修正申告・期限後が自主的に行われたものか、税務調査を実施したことで提出されたものかによって適用される税率が異なります。

過少申告加算税の税率は原則10%ですが、自主的に修正申告書を提出した場合、過少申告加算税は課されません。

自主的に期限後申告を行ったときは無申告加算税として5%の税率が適用されますが、無申告加算税の税率は通常15%ですので、自主的に申告するだけで10%分の加算税を軽減できます。

また、重加算税は税務調査が実施されないと課されることはないので、申告誤りに気が付きましたら、自主的に修正申告(期限後申告)を行うようにしてください。

出所:加算税の概要(財務省)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_3.pdf


次回以降に税務調査を受けるリスクが上がる


個人事業主は毎年確定申告を行いますので、会社員や公務員よりも税務調査を受けやすいです。

税務署は申告誤りが見込まれる納税者を優先的に調査する傾向にあり、過去に税務調査で申告誤りを受けてしまった事業者は、税務署に要注意人物としてマークされる可能性があります。

適正に申告していても税務調査の対象になることはありますが、調査を受ける確率を下げるためにも、正しい内容の申告書を提出することが大切です。

期限までに確定申告が間に合わない場合の対処法


申告期限までに確定申告をできないときは、1日でも早く申告書を提出できるよう行動します。

税務調査で無申告が指摘されれば重いペナルティが課されてしまうので、無申告のまま放置するのは危険です。

また、税務署は提出した申告書をすべてチェックしますので、申告内容の誤りが多ければ、その分だけ税務調査を受けるリスクは高まります。

そのため、少しでもペナルティとリスクを抑えたい場合には、ご自身で申告書を作成するのではなく、専門家である税理士に申告手続きを依頼することも検討してください。永安栄棟 公認会計士・税理士事務所でも、ご相談を承っております。

まとめ


会社員が住宅ローン控除や医療費控除を適用するのと違い、個人事業主が作成する申告書はボリュームがありますし、計算に間違いがあれば税務署から指摘される可能性があります。

税務署は税金を過大に納めることには寛容ですが、過少申告については厳しい対応をしてきますので、申告書を適正に作成することが重要です。

税理士は申告書を作成するだけでなく、節税のアドバイスも行えますので、申告に関してお悩みの方は、1度税理士事務所に相談することをオススメします。是非一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

個人事業主として活動する際、毎年頭を悩ませるのが確定申告です。

税金関連の手続きは適切に処理しなければならず、確定申告のしかたを間違えてしまうと、個人事業主でも税務調査の対象になるので注意してください。

本記事では、初めて確定申告を行う個人事業主に向けて、所得税の確定申告手続きの流れと申告時の注意点について解説します。

個人事業主がやるべき所得税の確定申告とは


所得税の確定申告は、1年間の所得金額や納税額を納税者自らが計算し、税務署に申告する手続きをいいます。

所得税は個人の所得に対してかかる税金で、平成25年から令和19年までの期間については、所得税と一緒に復興特別所得税も納付することになります。

住民税は所得税と同様、所得金額に応じて課される税金ですが、所得税の確定申告書を提出した場合には、住民税の申告手続きをする必要はありません。

一方で、所得税の申告をしないときは、住民税の申告手続きが必要になるので注意してください。

所得税の確定申告期間と申告・納税のしかた


所得税は納税者が申告書を作成・提出するだけでなく、算出した所得税も自主的に納めなければなりません。

所得税の申告期間は翌年2月16日から3月15日

所得税の確定申告は、対象年分の翌年2月16日から3月15日の間に手続きすることになります。

(申告期限が土曜日・日曜日・祝日の場合、申告期限はその翌日です。)

確定申告書の提出先は、提出時の納税地を管轄している税務署です

納税地は原則住所地とし、指定された税務署以外の税務署に申告書を提出することはできませんが、納税地の特例により、事務所などの所在地を納税地にすることは可能です。

なお、個人事業主が事務所の所在地を納税地とする際は、税務署に「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」を提出しなければなりません。

書面申告と電子申告(e-Tax)の違い

確定申告書を提出する方法としては、書面申告と電子申告(e-Tax)の2種類があります。

書面申告は申告書を手書きで作成する場合や、パソコン等で作成した申告書を印刷し、税務署に提出する方法です。

<見本:所得税の確定申告書(第一表)>

確定申告書は郵送で提出することも可能ですが、「郵便物」(第一種郵便物)または「信書便物」で送付しなければなりません。

e-Taxは、国税庁ホームページ等で申告書を作成し、電子的に申告手続きを行う方法です。

国はe-Taxを推進していますので、税制上の優遇措置を最大限活用するためには、e-Taxで申告することが求められます。

所得税の納期限は申告期限と同日

所得税の納期限は、申告期限と同日の翌年3月15日までとなっています。

住民税とは違い、税務署から納付書は送られてきませんので、納税者自身が期限までに自主的に支払いを完了させる必要があります。

所得税は管轄税務署の窓口で所得税を納めることもできますが、クレジットカード納付などを利用すれば、税務署が開いていない日でも納付することも可能です。

<個人事業主が関係する令和5年分の主な国税の納期限および振替日>

出所:主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200042/noufu_kigen.htm



<所得税の納付方法>

  • 窓口納付
  • 振替納税
  • ダイレクト納付
  • インターネットバンキング・ATMによる納付
  • クレジットカード納付
  • スマートフォンアプリ納付(スマホ納付)
  • ORコードを利用したコンビニ納付

個人事業主が所得税の確定申告をする際の流れ


所得税の税額計算を行うためには、事前に必要書類を揃えておく必要があります。

所得税の確定申告書の作成方法

所得税の確定申告書は、各所得の金額を計算後に所得控除額を差し引き、課税所得金額に対して所得税の税率を乗じて、所得税額を算出します。

<所得税および復興特別所得税の申告納税額の計算の流れ>

出所:所得税のしくみ(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm


個人事業主が得た所得は基本的に事業所得の対象となり、事業所得は青色申告決算書(収支内訳書)で計算を行い、算出した所得金額を申告書に記載します。

所得控除は下記の種類が存在し、該当する所得控除の額を計算して合計額を算出します。

<所得控除の種類>

  • 雑損控除
  • 医療費控除
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 生命保険料控除
  • 地震保険料控除
  • 寄附金控除
  • 障害者控除
  • 寡婦控除
  • ひとり親控除
  • 勤労学生控除
  • 配偶者控除
  • 配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 基礎控除


所得税額は、合計所得金額から所得控除額を差し引いた後の金額(課税所得金額)に所得税率を乗じて算出することになりますが、適用する税率は課税所得金額によって異なります。

住宅ローン控除などの税額控除がある場合には、所得税額から控除し、源泉徴収税額および予定納税額を差し引いた額が所得税の納税額です。

なお、所得税額から税額控除を差し引いた額が源泉徴収税額や予定納税額の方が大きかった場合、所得税を納め過ぎていたことになりますので、確定申告をすることで税金が還付されます。

<所得税の税率表>

出所:No.2260 所得税の税率(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm



帳簿書類は確定申告書を作成前に整理しておくこと

個人事業主は、確定申告書を作成する前に帳簿関係の整理をしておくことが肝要です。

所得税の確定申告書は帳簿の内容をベースに計算しますので、記帳ミスや漏れがあると申告書を正しく作ることができません。

個人事業主としての収入以外に収入がある方については、他の収入も含めて確定申告を行うことになりますので、給与所得の源泉徴収票なども必要になりますし、所得控除や税額控除を適用する際は社会保険料などの金額を確認できる書類等も用意してください。

事業関係の領収書等については保存期間が定められており、保存期間が経過する前に領収書等を処分してしまった場合、税務調査で経費が否認されてしまう可能性があります。

税務署は物的証拠が残っていないと経費を認めない傾向にありますので、関係書類は破棄しないよう気を付けてください。

白色申告と青色申告のどちらで申告すべきか

個人事業主が申告書を提出する際には、収支内訳書または青色申告決算書を作成することになります。

収支内訳書は白色申告者が、青色申告決算書は青色申告者が作成する書類で、原則は白色申告により確定申告を行うことになります。

ただし、個人事業主が事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出した場合には、青色申告を行うことが可能です。

青色申告は一定水準の記帳等が求められる一方、税制上の優遇措置が設けられています。

<青色申告で手続きした際の優遇措置>

  • 青色申告特別控除
  • 青色事業専従者給与
  • 貸倒引当金の優遇措置
  • 純損失の繰越し・繰戻し

青色申告の代表的な特典としては、最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」や、損失が発生した際に最大3年間損失額を繰り越すことができる繰越控除があります。

事務作業量が増えるデメリットはありますが、節税を第一に考えるのであれば、白色申告ではなく青色申告で申告手続きを行うことが望ましいです。

確定申告の相談先は税務署か税理士


確定申告に関する代表的な相談先は、税務署と税理士です

税務署では確定申告期間になると相談会場を設営していますので、相談会場で申告書を作成し、そのまま提出することもできます。

申告書の内容が比較的簡便な方であれば、税務署に相談することも選択肢になりますが、相談会場では細かい税金相談はできませんし、節税等に関する質問をするのも難しいです。

一方、税理士は税の専門家であることはもちろんのこと、日頃の節税や帳簿作成等についてのアドバイスを行うことができます。

個人事業主は申告書の作成だけでなく、税務調査対策も必要となってきますので、節税とリスク管理を最優先に考える場合には税理士へ相談することをオススメします。

まとめ


確定申告書を作成した経験がある人でも、個人事業主として初めて申告する場合、作成方法や用意すべき書類等は異なります。

年に1度しか作成する機会がない書類を完璧に仕上げるのは難しいですし、税務調査で申告内容の誤りを指摘されてしまうと余計な税金を納めることになりかねないため、調査対策も重要です。

顧問税理士がいれば申告書の作成依頼はもちろんのこと、節税に関する質問・相談することもできますので、確定申告に関する疑問点がありましたら永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。


消費税の確定申告は、個人事業主や会社(法人)の売上が一定以上になった際に行いますが、インボイス制度が導入されたことにより、今まで消費税の申告が不要だった事業者も申告手続きをすることになります。

本記事では、初めて消費税の申告をする個人事業主に向けて、消費税の計算方法および手続きの仕方をわかりやすく解説します。

消費税の確定申告は課税事業者が行う


消費税の確定申告を行うことになるのは、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者です。

消費税の課税事業者になるのは法人だけでなく、個人事業者や国、地方公共団体等も含まれ、非居住者や外国法人についても課税事業者に該当する際は消費税の納税義務者になります。

個人事業主の課税期間は暦年(1月から12月)であり、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌々年から消費税の確定申告が必要です。

課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者に該当し、その課税期間の消費税の納税義務は免除されます。 ただし、事業者が「消費税課税事業者選択届出書」を提出しているときは、課税売上高が1,000万円以下であったとしても確定申告をしなければなりません。

個人事業主の消費税の申告・納付方法


消費税は、納税義務者が自主的に申告を行う「申告納税方式」が採用されているため、消費税の課税事業者に該当する方は、毎年申告書を作成することになります。

個人事業主は、消費税の申告書を翌年3月31日までに提出しなければならず、申告書の提出先は、原則住んでいる場所を管轄する税務署です。

ただし、個人事業者が納税地を選択している場合には、住所地に代えて事務所等を管轄する税務署へ申告することになります。

消費税の納期限は申告期限と同日であるため、期限までに申告だけでなく納税も済ませなければなりません

振替納税により消費税を納税することも可能ですが、振替納税は税目ごとに手続きを要します。

既に所得税で振替納税を選択している方でも、消費税の振替納税の申請をしていないと自動引き落としにならないのでご注意ください。

消費税の原則的な計算方法


消費税の課税事業者は、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いた額を納めることになります。

消費税の税率は8%と10%の2種類あるため、税率ごとに区分して計算しなければならず、計算のベースとなるのは消費税が課されている売上や仕入れですので、消費税の課税・非課税対象の区分けも必要です。

消費税を算出する計算方法は複数用意されており、原則課税(一般課税)の計算式は下記の通りです。

<一般課税の計算式>

課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額


課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を、課税期間中の課税売上げに係る消費税額から差し引くためには、「仕入税額控除」の要件をすべて満たしていなければなりません。

仕入税額控除の適用要件としては、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存があります。

取引等を税率ごとに区分して記帳していないケースや、必要書類等の保存を怠っている場合、税務調査で仕入税額控除の適用が否認されますので注意してください。

消費税申告とインボイス制度の関係性


インボイス制度が導入されたことにより、消費税の仕入税額控除を適用するためには、原則インボイス(適格請求書)の保存等が必要です。

しかし、インボイスを発行できるのはインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に限られ、インボイス発行事業者以外からの仕入れに係る消費税は仕入税額控除に含めることができません。

税務署に登録申請を行えば、インボイス発行事業者として活動できるようになりますが、登録申請を行うことができるのは消費税の課税事業者に限られるため、免税事業者は消費税の課税事業者を選択することを迫られます。

消費税の課税事業者を選択してしまうと、消費税の申告手続きを毎年することになりますので、免税事業者として活動していた小規模事業者は新たに消費税の負担額が発生します。

消費税の特例制度


消費税の確定申告を行う場合、原則課税(一般課税)ではなく、簡易課税や2割特例を用いて計算することも認められています。

簡易課税制度による消費税の計算方法

簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用できる制度です。

課税期間における課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を乗じた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなし、納付する消費税額を算出します。

<簡易課税制度の計算式>

課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額

みなし仕入率は業種ごとに設定されており、たとえば卸売業のみなし仕入率は90%ですので、課税売上に係る消費税の10%を納めることになります。

簡易課税制度は仕入れに係る消費税を算出する必要がないので計算が簡便であり、仕入税額控除の適用も不要なので、インボイスの保存をしなくても消費税の計算を行えます。

ただし、制度を利用するためには事前に届出書の提出が必要ですので、届出書の提出漏れには注意してください

2割特例による消費税の計算方法

2割特例は、インボイス制度導入のタイミングでインボイス発行事業者になるために、免税事業者から課税事業者になった事業者が適用できる制度です。

仕入税額控除の代わりとして、課税標準である金額の合計額に対する消費税額の80%を特別控除税額として差し引くことができるため、消費税の税負担は20%まで軽減されます。

申告書に特例を適用する旨を付記するだけで受けられますので、届出書の提出は必要ありません。

適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となっており、一般課税と簡易課税のどちらを選択している場合でも2割特例は適用可能です。

ただし、2割特例はインボイス制度が導入されたことで消費税の課税事業者となった事業者への救済措置であるため、以前から課税事業者として活動していた事業者は2割特例を適用することができません。 また、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者など、インボイス発行事業者の登録と関係なく免税事業者の対象外となる場合も、2割特例は受けられませんのでご注意ください。

消費税の申告手続きをしないリスク


消費税の課税事業者が定められた期限までに申告・納税を行わなかった場合、加算税・延滞税の対象となります。

加算税は期限までに適正な申告書を提出しなかったことに対するペナルティで、意図的に提出しなかった場合には、本税の40%が重加算税として課される可能性があります。

延滞税は期限までに納税を完了していなかった際に課されるペナルティで、納付が遅くなるほど延滞税の額は増えていきます。

納期限から2か月を超えても未納額が残っている場合には、適用される延滞税の税率が上がりますので、申告だけでなく納付忘れにも気を付けてください。

まとめ


インボイス制度が導入されたことで、今まで免税事業者だった方も消費税の申告書を作成しなければならなくなります。

2割特例などの経過措置も設けられていますが、申告書の内容を間違えてしまうと税務調査で指摘され、税金を余分に支払うことになりかねません。

税務署は、大規模な税制改正が行われたタイミングで税務調査を積極的に実施する傾向がありますので、少しでも申告手続きに不安がある方は、ぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。


会社を設立した際などに決める役員報酬ですが、一般的な相場や注意点などが分からないと悩む方もいるのではないでしょうか。

この記事では、役員報酬について、次の内容を分かりやすく解説しています。

  • 役員報酬の概要
  • 役員報酬の決め方や変更方法
  • 役員報酬の相場
  • 役員報酬を決める際の注意点

役員報酬を決める時や、変更が必要な場合にぜひご覧ください。

役員報酬とは?

役員報酬と従業員給与の違いは、おもに「支払先が取締役などの経営幹部である」ことと、報酬額の決め方や報酬額を「損金」として計上するための「ルールがあること」です。

なお、損金とは、納税額を計算する際に「経費」として計上できるものを指します。

従業員給与は基本的に全額を損金として計上可能ですが、役員報酬を損金にするには厳しいルールがありますので、のちほど詳しく解説します。


役員報酬に含まれるものと含まれないもの

役員報酬には、現金の支給以外にも「現物支給」や「経済的利益」なども含みます

そのため、マンションの家賃や保険料、役員の個人的な寄付行為などについても役員報酬となります。

一方で、賞与や退職金、従業員として受給している給与などについては、役員報酬には含みません

賞与や退職金については、役員報酬とはルールが異なりますので、これらを損金に計上したい場合は、毎月支払う役員報酬とは別で検討が必要です。

役員報酬の決め方と変更方法


前述したように、役員報酬の決め方は従業員給与とは異なります。

たとえ経営者であっても、金額を自由に設定することはできません。

ここでは、役員報酬の具体的な決定方法について、そのルールを解説していきます。

定款または株主総会の決議によって定める

役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」と、会社法によって決められています

しかし、規模の小さな法人では、役員報酬に関しては定款には入れていないことも多く、記載している場合でも「株主総会の決議にて決定する」などとしていることが多いようです。

そのため、中小法人の役員報酬は株主総会で決議されることが一般的です。

株主総会で決める方法は、次の2つがあります。

  • 役員それぞれの報酬額を決める
  • 役員報酬の総額だけを株主総会で決めておき、後ほど、取締役会などで役員それぞれの報酬額を決める

どちらを選択した場合でも、損金に役員報酬を計上する際には、根拠として示せるように議事録を残す必要があります

なお、議事録は税務調査の際に提示を求められることがありますので、忘れずに残すようにしましょう。

報酬の総額を決める時期が決まっている


役員報酬の金額は、会社設立時の場合には設立から3カ月以内、それ以外は事業年度開始から3カ月以内に決めなくてはなりません

上記の期間に決めていない場合には、損金に役員報酬を計上することができません。

また、一度決定した役員報酬は翌事業年度までは、原則として変更ができな点にも注意が必要です。

そのため、タイミングに注意して慎重に報酬額を決めるようにしましょう。

変更には条件があるので注意

前述のとおり、役員報酬は、原則として1年に1回しか変更することができません。

とはいえ、業績の状況などにより、期中において変更を検討するケースもあるでしょう。

ここでは、役員報酬を期中においても変更できるケースについて解説します。

役員報酬を増額する

役員への昇格や、職務内容が変わったことで業務の負担が増えた場合などは、役員報酬を増額することができます

たとえば、退任した役員のポジションを兼務する場合などが、このケースに該当します。

ただし、役職が変わっただけで実務が伴っていない場合には、税務署から指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。

役員報酬を減額する

会社の業績不振などにより経営状況が悪化した場合には、役員報酬の減額ができます

しかし、どの程度悪化したら減額可能といった明確なルールはないため、株主や取引先などへの影響を考慮したうえで、減額するかの判断をおこなうとよいでしょう。

増額・減額ともに、変更をおこなうには客観的な事実が必要です。自由に変更することはできない点に留意しましょう。

役員報酬の相場

役員報酬は、あまりに高額である場合には、税務署より指摘が入り損金に計上できなくなることがあります。

そのため、いくらが妥当なのか疑問を持つ方も少なくないでしょう。

そのような疑問を解決するため、ここでは、役員報酬の相場について解説します。

小規模企業者の役員報酬は「経営判断」で大きく変動する

小規模企業者の役員報酬を決める際には、まず会社に利益を残すか、残さないかを考える必要があります

一般的に、会社に利益を残す場合には役員報酬を抑え気味にして、設備投資などに資金を回す傾向にあるようです。

一方で、会社に利益を残さない方針の場合は、役員報酬で会社に残る利益を少なくする方法も考えられます。

この場合、役員報酬を損金に計上することで節税につながりますが、社長の所得税負担が増加することや、「利益が少ない」ことで、金融機関から融資を受ける際に影響がある可能性もあります。

資本金ごとの目安

次に、資本金・従業員・業種ごとの役員報酬の目安について紹介をします。

ただし、先に述べたとおり、役員報酬の金額は経営判断で大きく変動することから、参考程度にするとよいでしょう。

ここでは、資本金ごとの役員給与の目安を紹介します。

※一万円未満切捨

出典:国税庁 令和3年分 民間給与実態統計調査から一部抜粋

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/000.pdf


従業員規模ごとの目安

ここでは、従業員規模ごとの目安をご紹介します。

以下の表をご参照ください。

※一万円未満切捨

出典:人事院 民間企業における役員報酬(給与)平成30年 調査 企業規模別、役名別平均年間報酬から一部抜粋

https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html

業種ごとの目安

ここでは、業種ごとの目安をご紹介します。

※一万円未満切捨

出典:人事院 民間企業における役員報酬(給与)調査 平成30年 産業別、企業規模別、年間報酬金額階層別人員構成比から一部抜粋

https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html



役員報酬を決める際の注意点


役員報酬を決める際には、損益に計上できる支払方法を選択することに注意が必要です。

認識違いなどにより損金に計上できなかった場合、納税額に大きく影響し、会社経営に影響を及ぼす可能性があります。

そのため、議事録の保存や期限内に報酬額を決めるといったルールを守ることはもちろんですが、次の2点についても注意が必要です。



会社の収益とのバランスを考慮する

先にも触れたとおり、小規模企業者の役員報酬は「経営判断」で大きく変動します。

そのため、会社に利益をどのくらい残すかなど、バランスを考慮する必要があるのです

会社に利益を多く残す場合には、会社の経営状況はよくなるため、取引先や金融機関からの信用は得られやすい一方で納税額が多くなります

逆に、役員報酬を多くする場合は節税につながりますが、収益が少ないため対外的な信用が得られにくくなる点に注意が必要です。

そのため、役員報酬を決める際には、会社の収益とのバランスを考慮することが大切です。

シミュレーションして税金や社会保険とのバランスをとる

会社の収益とのバランス以外にも、法人・社長個人が納める税金や、社会保険とのバランスも考える必要があります。
そのため、会社の収益と納税額についてシミュレーションし節税効果を加味したうえで、報酬額を決定するとよいでしょう。

まとめ

この記事では、次の内容について解説しました。

  • 役員報酬の概要
  • 役員報酬の決め方や変更方法
  • 役員報酬の相場
  • 役員報酬を決める際の注意点

役員報酬の金額によって、会社の収益バランスや節税効果に影響があります。

また、ルールに従って決めないと、損益に計上できず会社経営に影響する可能性があります。

ぜひ、この記事を参考にして役員報酬を決める際の一助にしてください。

消費税とは?

消費税とは、商品の販売やサービスの提供等に対して課される税で、最終消費者が負担しています。例えばコンビニで食品を買った場合、食品の本体価格に加えて消費税も一緒にレジで支払いますね。このように消費税は最終消費者が負担するものなのですが、支払っている先は税務署ではなく「お店」です。

ここに焦点を当てて、「消費税の納税の仕組み」を解説します。

消費税の納税の仕組み

最終消費者が消費税を納付しない点は、先ほど確認したとおりです。
では、消費者を納付するのは誰なのでしょうか?
実は、税金を預かった「お店」が納付しています。

もう少し詳細に説明をすると、商品やサービスを売り上げた際に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税分を差し引いて、その差額を納付しています。お店も商品を仕入れる際に消費税を支払っていますので、支払った分の消費税は差し引いて納付をするわけです。難しい用語ですが、この仕組みを「仕入税額控除」といいます。

そのため、個人事業主も一定の売り上げを超えた場合、消費税を税務署に納付する必要があるのです。

消費税の課税事業者と免税事業者

個人事業主が消費税を税務署に納付するかどうかは、「売上高」を基準としています。

細かな規則はありますが、わかりやすく説明をすると、一昨年の売上高が1,000万円を超えると本年から消費税を納めることになります。このような消費税を納める義務がある人を「課税事業者」といいます。この売上高は「課税売上高」に限定されているので、商品の輸出に関係する売上など、もともと消費税が課税されない取引は、これに含まれません。

一方、一昨年の課税売上高が1,000万円以下の場合など、消費税を納める義務がない人を「免税事業者」といいます。そのため、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々年から消費税を納めなければならないということを押さえておきましょう。

消費税の計算方法は2種類

原則課税と簡易課税

消費税を納めなければいけない「課税事業者」は、基本的に預かった消費税から支払った消費税を差し引いた額を税務署に納税します。

具体的な例で説明をしましょう。
売上が税込1,100万円で、経費が税込550万円だとします。
消費税の税率は10%なので「預かった消費税が100万円」で、「支払った消費税が50万円」となります。そのため、最終的に納付する税金の額は、100万円-50万円=50万円となります。このような計算方法は、「原則課税」と呼ばれ、消費税を計算する上で原則的な方法となっています。

実は、消費税の計算にはもう一つの方法が用意されています。それは、「簡易課税」という計算方法です。簡易課税は、一昨年の課税売上高が5,000万円以下の場合に利用することができる、消費税の計算の「特例」です。

こちらも、具体的な例で説明をしましょう。
まず、売上に関する税金の計算は、原則課税と全く同じです。
そのため、売上が税込1,100万円であった場合、「預かった消費税は100万円」となります。

一方、経費として支払った税金(預かった消費税から差し引く分の税金)については、業種別にざっくりと「売上の60%」などと決められており、その算式を元に計算します。

(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm

たとえば、飲食店業であれば「売上の60%」を経費としてみなします(これをみなし仕入率といいます)。

具体的な計算方法はというと、まず、売上が税込1,100万円である場合、預かった消費税は100万円となります。この100万円に60%を掛けると60万円なので、支払った消費税は60万円とみなされます。そのため、100万円-60万円=40万円を税務署に納めることになります。

簡易課税の注意点

前述の通り、簡易課税の計算は売上の情報のみで完結します。そのため、事務処理の負担が小さいというのが特徴です。ただし、簡易課税には主に2つの注意点があります。

まず1つ目は、「届出が必要」という点です。
簡易課税をおこなうには、簡易課税で計算をおこなう年の前年中に、届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を税務署に提出しなければなりません。

そして2つ目は、簡易課税は少なくとも「2年間は継続」しなければならないという点です。そのため、簡易課税で計算をする2年間に設備投資などが見込まれる場合は、簡易課税を適用することで損をする可能性があります。その点も踏まえて、どちらを選択するかを考える必要があるのです。

消費税の計算上のシミュレーションは複雑な部分も多いため、お困りの場合はお気軽に当事務所へお問い合わせください。

消費税の納税方法

消費税の納付期限は3月31日です。これは、個人事業主の消費税の確定申告期限と同じ日となっています。なお、土日の場合は翌月曜日が納付期限となります。

消費税は税務署等から納付書が送付されません。そのため、以下のいずれかの方法で、ご自身で納付する必要があります。

・金融機関の預貯金口座から口座引落しする
・e-Taxで口座振替する
・インターネットバンキングやATMで納付する
・クレジットカードで納付する
・スマートフォンアプリを利用して納付する
・QRコードによりコンビニエンスストアで納付する
・現金で納付する

なお、期限内に納付しなかった場合は「延滞税」がかかりますので、注意が必要です。

個人事業主の注意点

免税事業者でも消費税を請求できる

前述したとおり、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々年から消費税を納めなければなりません。一方で、課税売上高が1,000万円以下である場合は、消費税の申告・納税をする必要はありません。このような事業者を「免税事業者」といい、特に個人事業主の中には免税事業者が多く存在します。

免税事業者は消費税を納付する必要がないため、「消費税を請求できない」と誤解されているケースがあります。しかし、実際には免税事業者であっても消費税を請求することができるのです。理由としては、免税事業者であっても、仕入れの際に商品の本体価格と一緒に消費税を支払っているため、商品を売り上げる際に一緒に消費税を請求しなければ、支払った消費税を取り戻すことができないと考えらるためです。したがって、免税事業者であっても消費税を請求しても問題ありません。

インボイス制度の注意点

インボイス制度は「適格請求書等保存方式」といい、令和5年10月1日より開始される制度です。「適格請求書(通称インボイス)」がなければ、消費税の仕入税額控除ができないため、取引先の消費税の負担が増える可能性があります。そのため、インボイスを発行できない免税事業者は、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」を検討する必要があるでしょう。

具体的には、インボイス制度の導入により、個人事業主の選択肢は以下の3つになると考えられます。

1.免税事業者(インボイス発行✕)
2.適格請求書発行事業者を選択し、「原則的な計算方法」で申告納税する(インボイス発行◯)
3.適格請求書発行事業者を選択し、「簡単な計算方法」で申告納税する(インボイス発行◯)

1を選択した場合、取引先は消費税の仕入税額控除ができないため、取引上不利になる可能性があります。一方、2・3を選択した場合は取引先に影響はないものの、基本的には自らが消費税を納税することになるため、その分の負担が大きくなります。なお、上記のいずれかを選択するかについては、当初、令和5年3月31日(令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるための期限)までに対応方法を決める必要がありました。しかし、令和5年度税制改正大綱により、事実上令和5年9月30日までに登録申請をすれば令和5年10月1日から「適格請求書発行事業者」に登録される予定となりましたので、それまでにどのような選択をおこなうかについて検討しておきましょう。

インボイス制度についてはこちらに詳しく記載していますので、あわせてご覧ください。

「インボイス制度とは?対応しないとどうなるか | 免税事業者を中心にわかりやすく解説」
https://osakacpa.com/invoice/

まとめ

この記事では、消費税の仕組みと注意点について解説しました。

個人事業主は、消費税の申告・納税について様々な選択をおこなう必要があります。特に注意したいのは「原則課税か簡易課税か」という点と、インボイスにおいて「適格請求書発行事業者となるか」という点です。

これらの選択には、ケース別に消費税を計算するなどのシミュレーションが欠かせません。そのため、消費税全般についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所にまでお気軽にお問い合わせください。

年末調整と確定申告は、ともに1年間の所得税の金額を確定させる手続です。しかし対象者が異なります。また、どちらか一つだけではなく年末調整をしていても確定申告も行う方もいます。

このコラムでは、年末調整と確定申告の概要と対象者、両方が必要になるケース、必要ではないが確定申告をした方が得になるケースを紹介します。

年末調整と確定申告の違い

年末調整と確定申告の違いは何でしょうか。おおまかには、会社員は年末調整、その他の自営業者などの方は確定申告を行い、所得税を確定します。それぞれの概要と、詳細な対象者などを説明していきます。

年末調整とは?概要と対象者

年末調整とは、1年間の給与が確定したら、年間の所得税の金額を計算する手続きです。年末までにすでに源泉(天引き)してある所得税と最終的に支払う所得税の差額を還付または徴収します。

対象者は給与をもらっている会社員です。そして会社員の中でも、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、年末に在籍している方になります

会社員の中には社長や役員も含まれますが、

上記の条件に当てはまる会社員であっても、主に下記の場合には年末調整を行いません。

  • 給与の年間収入が2,000万円を超える場合
  • 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている場合
  • 前職があるが、前職の源泉徴収票を提出しない場合

稀に従業員から「確定申告をするため、年末調整はしなくてもよい」という申し出がある場合があります。しかし会社としては年末調整の義務があるため、対象者であれば年末調整を行わねばなりません。

年末調整をしても、さらに確定申告が必要なケース、した方がよいケースがあります。どのような場合でも、年末調整を受けた上でさらに確定申告をすることは可能です

確定申告とは?概要と対象者

確定申告とは、1月1日から12月31日までの所得を確定して所得税の金額を計算し、税務署に申告した上で所得税を納付する手続きです。

所得があり、所得税が発生するすべての方が対象です。自営業者の方、フリーランスの方など事業を行っている方などが当てはまります。ただし、会社員で年末調整を受けた方は原則として確定申告の必要はありません。しかし、上記で述べた、給与の年間収入が2,000万円を超えるなどの「年末調整の対象外」の方は確定申告が必要です。

会社員がもらう給与は「給与所得」ですが、所得の種類には他にも「事業所得」「不動産所得」など10種類あります。これらの所得が基礎控除48万円を超える場合は原則として確定申告が必要です。ここで所得とは、収入から必要経費、所得の種類ごとに決まっている控除を差し引いた金額です。単純に「収入」の金額ではなく、儲けの部分であることに注意してください

原則として、所得が基礎控除の金額以上であれば確定申告が必要と考えるべきですが、例外的に確定申告が必要ないケースがあります。代表的には、以下のような場合です。

  • 株式売却や配当の所得があるが、証券会社などで「特定口座の源泉徴収あり」で取引した場合
  • 公的年金等による収入が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下である場合

年末調整をしていても確定申告が必要なケース

注意点として、会社員が年末調整を受けても、確定申告が「必ず」必要なケースがあります。主なケースは以下のとおりです。

  • 2箇所以上で勤務している場合。ただし年末調整されなかった勤務先での所得が20万円未満の場合は除きます。
  • 給与所得以外に年間20万円以上の所得がある場合
  • 年末調整で誤った情報を勤務先に伝えてしまったが、訂正期限が過ぎてしまった場合

年末調整をしてもらった所得以外に「20万円以上の所得」があれば、確定申告が必要です。例えば複数箇所で勤務している場合、フリーランスとして副業をしている場合などが当てはまります。最近では暗号資産の取引をする方が増えていますが、所得が出た場合は雑所得にあたり、確定申告が必要です。株式の特定口座の取引とは異なりますので注意してください。

繰り返しますが20万円はあくまで「所得」であり、「収入」ではありません。例えばフリーランスとして副業をした場合、収入が20万円あっても経費を差し引けば20万円以下になる場合は、申告の必要はありません。

また「扶養できない方を扶養として申告してしまった」など、年末調整を誤ってしまうことがあります。会社が訂正を受け付けてくれる場合はよいのですが、事務手続上一定の期日で締め切っていることがほとんどでしょう。この場合はご自身で確定申告が必要です。

その他、上場株式等に係る譲渡損失と配当所得等との損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けようとする方などは、上記に当てはまらない方であっても確定申告が必要です。

年末調整をしていても確定申告をした方がよいケース

年末調整をしていても、確定申告「も」した方がよいケースは、確定申告をすると所得税が還付されるケースです。主なケースは以下のとおりです。

  • 医療費控除を受ける場合
  • 住宅ローン控除を受ける初年度の場合。(2年目以降は年末調整で還付してもらえます。)
  • ふるさと納税をして、ワンストップ特例の適用を受けない場合
  • 年末調整で、控除を適用できる資料を提出漏れしてしまった場合

普段年末調整をしてもらっている方は、確定申告に縁がないことが多いかもしれません。しかし、上記の場合は確定申告をすると所得税が還付になるため、確認してみましょう。

年末調整をしている方が確定申告をする場合は、源泉徴収票が必要です。数字を転記する必要があるため、必ず保管しておきましょう。

ふるさと納税は、会社員の場合「ワンストップ納税」が便利です。自治体へワンストップ納税の申請書を送付しておけば、確定申告をせずに翌年の住民税から自動的に税金を控除してくれます。しかし、寄付団体が5自治体までという制限があるので注意が必要です。ワンストップ納税の適用を受けない方は、確定申告をして税金の還付を受けます。この場合は、寄付自治体数の制限はありません。

この他、年の途中で退職して年末調整を受けられなかった方で、給与の他に所得がない方は、確定申告をすると所得税が還付される可能性が高いです。確認してみましょう。

まとめ

以上、年末調整と確定申告の違いについて説明しました。年末調整は給与をもらう会社員だけが受けられる制度です。年末調整は、書く書類が多くて面倒だと思う方もいるかもしれません。しかし多くの場合、確定申告の方が手間がかかります。確定申告をせずに、所得税を確定する手続きを、勤務先が代行しているともいえます。

ただし年末調整をしているからといって、すべてのケースで確定申告をしなくてもよい訳ではありません。確定申告をしなければならない、または、確定申告をすると所得税の還付が受けられるケースを確認しておきましょう。

もし還付のための確定申告を失念しても、その年の翌年1月1日から5年間は申告が可能です。諦めずに申告してみましょう。年末調整、確定申告を始め、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください