法人が個人事業主と比べて節税になる点のひとつに、経営者・役員の給与が損金になる点があります。しかし役員報酬が損金として認められるためには要件があり、中小企業では「定期同額給与」の要件を満たすケースがほとんどでしょう。
このコラムでは定期同額給与の概要および注意点を解説します。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生してしまいます。制度の内容をしっかりと確認しておきましょう。
役員報酬を損金にできるケースは3点
役員は給与の金額を自由に設定できる立場です。このため役員報酬を増減させて利益操作をおこなうことを防止する観点から、法人税法上、役員報酬は原則として損金とは認められないものの、一定の要件を満たす場合のみ損金として認められることとされています。
役員報酬が損金として認められるのは、具体的には以下の3つのケースです。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
それぞれ内容を説明します。
1.定期同額給与
定期同額給与の概要は、以下のとおりです。
- その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、各支給時期における支給額、または支給額から源泉税や社会保険料などを差し引いた手取りの金額が同額である
- 同額ではなく改定した場合でも、一定の要件を満たす場合(次の項目で詳しく説明します)
- 継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの
実務上では、支給時期は1か月ごと、かつ給与の額面を同額にするケースが多いでしょう。毎月の給与額面が同額の役員報酬であれば、役員報酬の金額で利益操作ができないことから、損金として認められています。
もし定期同額ではない給与を支給した場合で、正当な改正事由でない場合は、正当でない部分の金額が損金不算入となります。例えば以下のケースを考えてみましょう。
毎月10万円の役員報酬を支給することとしましたが、9月だけ20万円、11月だけ30万円を支給したとします。この場合、9月は10万円、11月は20万円が損金不算入となります。
途中の月から増額した場合も同様です。もし10月から毎月30万円を支給することとした場合は、10万を超えた20万円部分×10月から3月までの6か月分=120万円が損金不算入となります。
2.事前確定届出給与
所定の時期に、確定した額の給与などを支給する定め(「事前確定届出給与に関する定め」)に基づいて支給される給与をいいます。事前に金額を確定した上で税務署に所定の期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。同届出書に記載した「支給時期」及び「支給額」を実際に支給する必要があり、一部のみを支給したり支給日を誤ったりすると全額損金に算入できませんので注意が必要です。
同届出書の期限は原則として以下の(1)と(2)のうちいずれか早い日になります。
(1)株主総会で決議をした日から1か月を経過する日
(ただし決議をした日が職務執行を開始する日以後である場合は、開始する日から1か月を経過する日)
(2)会計期間開始の日から4カ月を経過する日
新設法人の場合は、設立の日以後2カ月を経過する日になります。
3.業績連動給与
利益等に連動した給与であり、一定の要件を満たすものをいいます。原則として同族会社は対象外となり、中小企業で活用できるケースはあまりないでしょう。
ただし、上記で説明した「定期同額給与」、「事前確定届出給与」及び「業績連動給与」のいずれの場合も「不相当に高額な部分」は損金になりませんので注意が必要です。「不相当に高額な部分」は抽象的な定めであり明確に決まってはいません。形式基準と実質基準で判断します。形式基準としては「株主総会で承認された役員報酬の支給限度額以内であること」、実質基準としては「職務の内容、法人の利益、使用人に対する給与の支給状況、同業種、事業規模が類似している法人の役員報酬の金額などと照らして、不相当に高額かどうか」を判断することになります。
定期同額給与を改定できるタイミングは?
定期同額給与を改定できるタイミングは以下のとおりです。
- 原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日まで
- 事業年度中に、役員の職制上の地位の変更などやむを得ない事情(臨時訂正事由)があり、給与を変更する場合
- 事業年度中に、法人の経営状況が著しく悪化するなどの理由(業績悪化改定事由)により給与を変更する場合
通常の場合は上記1.の「事業年度開始日から3か月以内」のタイミングまでに役員報酬の金額を決定します。
上記2.のように役員の職務内容や地位変更があった場合、その職務内容に合わせた報酬に改定したいケースでは、増額の場合でも減額の場合でも認められます。例として、現在の社長が退任し、他の役員が新たに社長になったケースが考えられます。一般役員としての仕事と社長の仕事では責任も重くなり、報酬を増やすことは利益操作でなく当然のことであると考えられるからです。
上記3.の法人の業績悪化により役員報酬を減額する必要がある場合も、利益操作の意図はないとして損金に認められます。業績悪化が理由であるため、増額ではなく減額だけが認められます。何をもって「悪化」というかは明確ではありませんが、少なくとも営業利益が赤字となるなど、役員報酬を減額せざるを得ない状況が客観的に明確であることが必要です。
上記2.や3.の場合は偶発的な事情であるため、根拠をしっかりと残しておきましょう。
定期同額給与の注意点
定期同額給与に関して注意すべき事項を4点紹介します。
1.定期同額給与の改定は事業年度開始日から3か月以内の改定であること
前述したように、原則として役員報酬の金額を改定できるのは「事業年度開始日から3か月以内」です。3か月以内に株主総会で役員報酬限度額を決定し、その後改定後の役員報酬の金額を決定しましょう。株主総会議事録を作成しておくことが大切です。
株主総会開催前であっても、承認を見越して事業年度の期首の月から改定することも可能です。(ただし、別途臨時株主総会の開催などが必要です。)
3か月目の給与が4カ月目に支給される場合も多くありますが、支給日ではなく発生日が3か月目の分までは改定前の金額で認められます。
2.設立初年度の場合でも、定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内であることが必要
設立初年度では、事業開始の日から数か月は収入が不安定であったが、途中月から経営が安定して役員報酬を支給したいケースもあるかもしれません。しかし、この場合でも定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内でないと、損金として認められません。
翌期まで待つか、事業年度の変更をすることが対策として考えられます。
3.損金不算入となった部分は法人税も所得税も負担する
もし定期同額給与と認められずに損金不算入となった場合、不算入となった部分については会社の損金が減り、法人税の負担が増えます。一方で、役員の給与は法人税法上の損金不算入部分であっても支給され、所得税の課税対象となります。
4.金銭ではなく、経済的利益も定期同額給与として認められる
役員報酬というと一般的に「給与・金銭」と考えられますが、経済的利益も役員への報酬となります。つまり実際に会社が役員に金銭を支払わなくても、役員が経済的利益を得ている場合には、税法上役員への給与とされます。
例えば役員の個人的な費用を会社の資金で支払っているケース、役員が会社契約の社宅に入居しているが、役員は会社に家賃を支払っていないケースなどが考えられるでしょう。このような経済的利益も、毎月おおむね一定であれば定期同額給与として損金となります。
しかし、毎月同額ではなく意図せずに役員報酬に認定されてしまった場合は、法人税法上損金として認められず、一方で所得税は課税されてしまいます。
まとめ
以上、定期同額給与の概要および基本的な注意点を解説しました。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生するだけでなく、その部分は所得税も課税されます。よく制度を確認しておきましょう。
原則として、その期の役員報酬の金額は事業年度開始の日から3か月を経過する日までに決定する必要があります。そして一度決定すると、特殊な事情がない限り変更すると損金にならない部分が発生してしまいます。役員報酬の金額は、業績の見込みを始めとして判断をともなう事項になるため、慎重な検討が必要なところですが、期限を逸脱しないように注意しましょう。
定期同額給与を始めとして、税務に関するご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。