個人事業主は所得税だけでなく、消費税の確定申告も必要になることがあります。
申告義務がある人が申告手続きを行わなかった場合、ペナルティが課されるだけでなく、税務署から要注意人物としてマークされることになるので注意してください。
本記事では、個人事業主が消費税の申告が必要になるケースと、不要なケースをそれぞれ解説します。
消費税の納税義務者とは
消費税の確定申告が必要となるのは、原則事業者に限られます。
事業者には法人だけでなく、個人事業主(個人事業者)も含まれ、日本国内に住所等を有しているか否かは問いません。
そのため、国内で消費税の課税対象となる取引を行っている事業者は、非居住者や外国法人であったとしても、納税義務者となるので気を付けてください。
消費税の確定申告が必要ない人
次のいずれかに該当する人は、消費税の確定申告手続きをする必要はありません。
消費税の納税義務者に該当しない
消費税の確定申告手続きが必要になるのは、消費税の納税義務者に該当する人(法人)に限られます。
消費税は消費者も納めている税金ですが、事業を営んでいない人は基本的に申告手続きをする必要はありません
ただし、輸入取引は、輸入品を引き取る者が消費税の納税義務を負うため、給与所得者等であっても、輸入品を引き取る際には納税義務者となります。
免税事業者に該当
消費税では、課税期間の消費税の納税義務が免除される「事業者免税点制度」が設けられています。
事業者免税点制度の対象となるのは、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者で、免税事業者に該当するときは、事業を営んでいる人でも消費税の確定申告は不要です。
なお、消費税の課税事業者を選択している事業者については、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の申告義務が生じるので注意してください。
消費税の確定申告が必要になる事業者
個人事業主が次のいずれかに該当する場合、消費税の確定申告が必要になります。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた
個人事業主は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合、課税事業者として消費税の申告をしなければなりません。
課税期間は、事業者が納付(還付)すべき消費税額を計算する期間をいい、個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日までです。
基準期間は、納税義務の有無を判定する期間であり、個人事業主の基準期間は対象年分の前々年です。
課税期間の課税売上高が1,000万円を超えたとしても、前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となります。
ただし、基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者となるので注意してください。
特定期間は、対象年分の前年1月1日から6月30日までの期間(個人事業主の場合)をいい、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で判定することも認められています。
出所:消費税のしくみ(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_3.htm
免税事業者が課税事業者を選択した場合
課税売上高が1,000万円以下であったとしても、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した事業者は、消費税の申告をしなければなりません。
免税事業者は、消費税の納税額が算出される場合でも申告手続きは不要となる反面、還付金が生じたとしても申告手続きを行えないデメリットがあります。
たとえば、輸出業者は経常的に消費税額が還付になることから、課税売上高が1,000万円以下でも、消費税の課税事業者を選択するメリットがあります。
免税事業者が課税事業者を選択する際は、課税期間の初日の前日までに、納税地の税務署に対して「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。
課税事業者を選択後に免税事業者に戻りたいときは、免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日までに、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出してください。 ただし、課税事業者となった日から2年間(事業を廃止した場合を除く)は、免税事業者に戻ることはできません。
インボイス登録をした事業者
令和5年10月1日から、「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が開始されました。
インボイス制度に対応した事業者(適格請求書発行事業者)になるためには、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出しなければなりませんが、登録申請ができるのは消費税の課税事業者に限られます。
したがって、課税売上高が1,000万円以下の事業者がインボイス登録をした場合、強制的に課税事業者となりますので、基準期間の課税売上高にかかわらず消費税の確定申告が必要です。
個人事業主が初めて消費税申告をする際のポイント
個人事業主が初めて消費税の申告手続きを行う際は、次のポイントに注意してください。
消費税の申告期限は翌年3月31日
個人事業主は、課税期間の翌年3月31日までに消費税の確定申告書の提出が必要です。
所得税の申告期限は翌年3月15日と、消費税よりも半月早いため、所得税と消費税の申告をする際は提出時期に気を付けてください。
また、申告期限と納期限は同日なので、納税額が発生する場合は期限までに納付も済ませてください。
消費税の計算方法は3パターン
消費税は、次のいずれかの方法で計算することになります。
- 一般課税制度
- 簡易課税制度
- 2割特例制度
△一般課税制度
一般課税制度は、消費税の原則的な計算方法で、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて消費税額を算出します。
<一般課税制度の計算方法>
課税売上に係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除)=消費税額
仕入税額控除は、帳簿および請求書等の保存の要件を満たしていないと適用できないため、関係書類は漏れなく保存してください。
課税売上に係る消費税額よりも課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除)の大きい場合、確定申告をすることで納め過ぎていた消費税は戻ってきます。
△簡易課税制度
簡易課税制度は、消費税の納税額を簡便に算出するための計算方法で、適用する際は課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。
<簡易課税制度の計算方法>
課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額
簡易課税制度を適用する場合、仕入税額控除の要件を満たす必要はありません。
一般課税制度と比べて計算は簡単になりますし、みなし仕入率が高い業種については、一般課税制度で計算するよりも節税効果が期待できます。
一方、簡易課税制度で消費税を計算すると必ず納税額が算出されますので、仕入率が高い事業や還付金が発生する事業を営んでいる方は、簡易課税制度を選択するメリットは薄いです。
△2割特例制度
消費税の2割特例は、インボイス制度が導入されたことを理由に、免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者を対象とした制度です。
課税売上に係る消費税額に80%を乗じた額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなすことができるため、大幅な節税効果が見込めます。
<2割特例による計算方法>
課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×80%)= 消費税額
2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの各課税期間で、適用する際の事前申請は不要です。
年分ごとに適用の有無を選択できますが、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えてしまうと、2割特例は適用できませんので注意してください。
<2割特例の適用可能期間>
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm
消費税の税務調査リスクは高まっている
インボイス登録をした事業者は必ず消費税の申告が必要となりますし、インボイス登録をしていなくても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者となるので、消費税の申告手続きをしなければなりません。
帳簿書類や領収書等を適切に保存していないと、税務調査で仕入税額控除の適用が否認されてしまいます。
税務署に一度目を付けられると、短いスパンで税務調査を受けやすくなりますので、消費税の申告が必要になる方は専門家に相談して対策を講じてください。
何かお困りのことがございましたら、ぜひ一度永安栄棟公認会計士・税理士事務所へご相談ください。
また、弊所のサービスについては、以下よりチェックしてみてください。
>>永安栄棟税理士事務所の「開業支援」を詳しく見てみる
>>永安栄棟税理士事務所の「確定申告丸投げパック」を詳しく見てみる