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 法人が個人事業主と比べて節税になる点のひとつに、経営者・役員の給与が損金になる点があります。しかし役員報酬が損金として認められるためには要件があり、中小企業では「定期同額給与」の要件を満たすケースがほとんどでしょう。

 このコラムでは定期同額給与の概要および注意点を解説します。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生してしまいます。制度の内容をしっかりと確認しておきましょう。

役員報酬を損金にできるケースは3点

 役員は給与の金額を自由に設定できる立場です。このため役員報酬を増減させて利益操作をおこなうことを防止する観点から、法人税法上、役員報酬は原則として損金とは認められないものの、一定の要件を満たす場合のみ損金として認められることとされています

役員報酬が損金として認められるのは、具体的には以下の3つのケースです。

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 業績連動給与

それぞれ内容を説明します。

1.定期同額給与

定期同額給与の概要は、以下のとおりです。

  •  その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、各支給時期における支給額、または支給額から源泉税や社会保険料などを差し引いた手取りの金額が同額である
  •  同額ではなく改定した場合でも、一定の要件を満たす場合(次の項目で詳しく説明します)
  •  継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

 実務上では、支給時期は1か月ごと、かつ給与の額面を同額にするケースが多いでしょう。毎月の給与額面が同額の役員報酬であれば、役員報酬の金額で利益操作ができないことから、損金として認められています。

 もし定期同額ではない給与を支給した場合で、正当な改正事由でない場合は、正当でない部分の金額が損金不算入となります。例えば以下のケースを考えてみましょう。

 毎月10万円の役員報酬を支給することとしましたが、9月だけ20万円、11月だけ30万円を支給したとします。この場合、9月は10万円、11月は20万円が損金不算入となります。

 途中の月から増額した場合も同様です。もし10月から毎月30万円を支給することとした場合は、10万を超えた20万円部分×10月から3月までの6か月分=120万円が損金不算入となります。

2.事前確定届出給与

 所定の時期に、確定した額の給与などを支給する定め(「事前確定届出給与に関する定め」)に基づいて支給される給与をいいます。事前に金額を確定した上で税務署に所定の期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。同届出書に記載した「支給時期」及び「支給額」を実際に支給する必要があり、一部のみを支給したり支給日を誤ったりすると全額損金に算入できませんので注意が必要です

同届出書の期限は原則として以下の(1)と(2)のうちいずれか早い日になります。

(1)株主総会で決議をした日から1か月を経過する日

(ただし決議をした日が職務執行を開始する日以後である場合は、開始する日から1か月を経過する日)

(2)会計期間開始の日から4カ月を経過する日

新設法人の場合は、設立の日以後2カ月を経過する日になります。

3.業績連動給与

 利益等に連動した給与であり、一定の要件を満たすものをいいます。原則として同族会社は対象外となり、中小企業で活用できるケースはあまりないでしょう。

 ただし、上記で説明した「定期同額給与」、「事前確定届出給与」及び「業績連動給与」のいずれの場合も「不相当に高額な部分」は損金になりませんので注意が必要です。「不相当に高額な部分」は抽象的な定めであり明確に決まってはいません。形式基準と実質基準で判断します。形式基準としては「株主総会で承認された役員報酬の支給限度額以内であること」、実質基準としては「職務の内容、法人の利益、使用人に対する給与の支給状況、同業種、事業規模が類似している法人の役員報酬の金額などと照らして、不相当に高額かどうか」を判断することになります。

定期同額給与を改定できるタイミングは?

定期同額給与を改定できるタイミングは以下のとおりです。

  1.  原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日まで
  2.  事業年度中に、役員の職制上の地位の変更などやむを得ない事情(臨時訂正事由)があり、給与を変更する場合
  3.  事業年度中に、法人の経営状況が著しく悪化するなどの理由(業績悪化改定事由)により給与を変更する場合

 通常の場合は上記1.の「事業年度開始日から3か月以内」のタイミングまでに役員報酬の金額を決定します。

 上記2.のように役員の職務内容や地位変更があった場合、その職務内容に合わせた報酬に改定したいケースでは、増額の場合でも減額の場合でも認められます。例として、現在の社長が退任し、他の役員が新たに社長になったケースが考えられます。一般役員としての仕事と社長の仕事では責任も重くなり、報酬を増やすことは利益操作でなく当然のことであると考えられるからです。

 上記3.の法人の業績悪化により役員報酬を減額する必要がある場合も、利益操作の意図はないとして損金に認められます。業績悪化が理由であるため、増額ではなく減額だけが認められます。何をもって「悪化」というかは明確ではありませんが、少なくとも営業利益が赤字となるなど、役員報酬を減額せざるを得ない状況が客観的に明確であることが必要です

 上記2.や3.の場合は偶発的な事情であるため、根拠をしっかりと残しておきましょう

定期同額給与の注意点

定期同額給与に関して注意すべき事項を4点紹介します。

1.定期同額給与の改定は事業年度開始日から3か月以内の改定であること

 前述したように、原則として役員報酬の金額を改定できるのは「事業年度開始日から3か月以内」です。3か月以内に株主総会で役員報酬限度額を決定し、その後改定後の役員報酬の金額を決定しましょう。株主総会議事録を作成しておくことが大切です。
株主総会開催前であっても、承認を見越して事業年度の期首の月から改定することも可能です。(ただし、別途臨時株主総会の開催などが必要です。)
 3か月目の給与が4カ月目に支給される場合も多くありますが、支給日ではなく発生日が3か月目の分までは改定前の金額で認められます。

2.設立初年度の場合でも、定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内であることが必要

 設立初年度では、事業開始の日から数か月は収入が不安定であったが、途中月から経営が安定して役員報酬を支給したいケースもあるかもしれません。しかし、この場合でも定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内でないと、損金として認められません。
翌期まで待つか、事業年度の変更をすることが対策として考えられます。

3.損金不算入となった部分は法人税も所得税も負担する

 もし定期同額給与と認められずに損金不算入となった場合、不算入となった部分については会社の損金が減り、法人税の負担が増えます。一方で、役員の給与は法人税法上の損金不算入部分であっても支給され、所得税の課税対象となります。

4.金銭ではなく、経済的利益も定期同額給与として認められる

 役員報酬というと一般的に「給与・金銭」と考えられますが、経済的利益も役員への報酬となります。つまり実際に会社が役員に金銭を支払わなくても、役員が経済的利益を得ている場合には、税法上役員への給与とされます。
 例えば役員の個人的な費用を会社の資金で支払っているケース、役員が会社契約の社宅に入居しているが、役員は会社に家賃を支払っていないケースなどが考えられるでしょう。このような経済的利益も、毎月おおむね一定であれば定期同額給与として損金となります
 しかし、毎月同額ではなく意図せずに役員報酬に認定されてしまった場合は、法人税法上損金として認められず、一方で所得税は課税されてしまいます。

まとめ

 以上、定期同額給与の概要および基本的な注意点を解説しました。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生するだけでなく、その部分は所得税も課税されます。よく制度を確認しておきましょう。

 原則として、その期の役員報酬の金額は事業年度開始の日から3か月を経過する日までに決定する必要があります。そして一度決定すると、特殊な事情がない限り変更すると損金にならない部分が発生してしまいます。役員報酬の金額は、業績の見込みを始めとして判断をともなう事項になるため、慎重な検討が必要なところですが、期限を逸脱しないように注意しましょう。

 定期同額給与を始めとして、税務に関するご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

事業を行う際に金融機関から融資を受けるケースは多くあります。その際、創業時や創業まもない会社、業績に不安のある中小企業などでは、多くの場合に経営者個人の連帯保証が求められてきました。経営者個人の連帯保証は万が一の時の個人の負担が重く、抜本的な経営改善や起業・創業等を妨げる一因になっています。

こうした状況を改善するため、2022年12月、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」が公表されました。このコラムでは公表されたプログラムの概要を解説します。融資を検討する場合、そして現在融資を受けている場合は、経営者保証のない融資が可能となるのはどのような状況か、確認してみましょう。

経営者保証の現状と課題

経営者保証とは、法人が融資を受ける際に、経営者個人が会社債務の連帯保証人となることをいいます。冒頭で述べたように、現在では融資の際に経営者保証を求められるケースが多く、さまざまな課題が生じています。経営者保証が求められる理由、経営者保証の現状と課題は以下のとおりです。

経営者保証が求められる理由

理由は主に以下のとおりです。

  • 融資をする際の信用補完とし、融資をおりやすくするため
  • 不祥事をおこさず、経営者にしっかりと経営をしてもらうため

中小企業等では業績不振の会社も多く、個人の信用保証があれば融資がおりやすくなります。また、万が一の時は個人が保証を負うとなると、不祥事をおこさずに誠実な経営を行うでしょう。経営者保証は金融機関側、経営者側どちらにもニーズがある制度です。

経営者保証の課題

しかし経営者保証には、以下のような課題があります。

  • 経営者による思い切った事業展開を躊躇させる
  • 事業承継時に、リスクを恐れて承継する方が見つからず円滑に進まない
  • 早期の事業再生を阻害する

法人の融資金額は多額に及ぶことが多く、個人保証をするとなると経営者のリスクが大きく躊躇するケースも多くあります。このため多額の融資を利用した抜本的な事業展開や事業再生を阻害してしまいます。事業を承継する方が見つからず廃業となると、経済活性化を阻害することにもつながるでしょう。中小企業が前向きに事業を行い、経済活動を活性化させるために、経営者保証の見直しが求められています

経営者保証の状況

現在では、合理性がなくどのような場合でも経営者保証をつけて融資をする状況が多くあります。このため全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証のない融資を受けられるための要件などを明確化しました。しかし実務上はあまり機能しているとはいえず、金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」によると、2022年度上期において民間金融機関の新規無保証融資は33%でしかありません。

経営者保証改革プログラムの概要

経営者保証の課題を解消するため、2022年12月、国は「経営者保証改革プログラム」を策定しました。そのなかで金融庁は監督指針を改正し、金融庁による監督が厳格化されました。ただし「経営者保証改革プログラム」は合理性のない経営者保証を減らすことが目的であり、経営者保証をすべて制限するものではありません。

「経営者保証改革プログラム」では、以下の4分野を重点的に取り組むこととしています。

  • スタートアップ・創業
  • 民間融資
  • 信用保証付融資
  • 中小企業のガバナンス

それぞれ、主な施策を説明します。

スタートアップ・創業

創業時に経営者保証を求められると、創業意欲を阻害する可能性があります。このため以下のような施策をおこないます。

  • スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(保証割合:100%/保証上限額:3500万円/無担保)。2023年3月開始。
  • 日本公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和。2023年2月開始。

など。

民間融資

金融庁の監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化します。主な施策は以下のとおりです。

  • 金融機関が経営者保証を求める場合には、その必要性等を説明し、その結果等を記録する。その際「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」について説明をする。2023年4月開始。
  • 結果等を記録した件数を金融庁に報告する。
  • 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置する。2023年4月開始。
  • 金融機関は「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を検討・作成し、公表する。
  • など。

「経営者保証ガイドライン」では、以下の3つの要件を満たせば経営者保証なしでの融資、既存の融資にしては見直しをしてもらえる可能性があるとされています。

(1) 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている

(2) 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である

(3) 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

(引用:中小企業庁ホームページ

まずは、融資で得た資金が経営者個人に流れてしまう疑念を抱かせるような管理体制でないことを明確とする必要があります。そして会社の保有資産や好業績により返済が可能であり、金融機関が返済能力を判断するための財務情報を適時かつ適切に金融機関に開示していれば「経営者の保証がなくとも会社が返済できる状況である」と金融機関も判断しやすいといえるでしょう。

信用保証付融資

「経営者保証ガイドライン」の要件を充たせば経営者保証を解除する、という現在の取り組みを徹底します。また、充足していない場合でも、保証料の上乗せなどにより経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を実施します。主な施策は以下のとおりです。

  • 「経営者保証ガイドライン」の3つの要件を満たさなくとも、経営者の取り組み次第で達成可能な要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること等)を充足すれば、保証料の上乗せ負担により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設。2024年4月開始。
  • プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設。2024年4月開始。
  • 金融機関に対し、信用保証付融資を行う場合には、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう経済産業大臣・金融担当大臣から要請。

など。

「経営者保証ガイドライン」の3要件を満たせなくても、条件によっては経営者保証なしで融資がおりる可能性が出てきました。

中小企業のガバナンス

経営者保証の解除の前提としてガバナンス体制が必要です。つまり健全な企業経営、内部管理をおこなうことが求められます。主な施策は以下のとおりです。

  • 中小企業の経営者と、支援機関の目線合わせのチェックシート作成
  • 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定

など。

まとめ

以上、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」について説明しました。

今まであまり機能していなかった「経営者保証ガイドライン」の内容をさらに浸透・定着させるだけでなく、金融庁の監督指針の改正により融資の際の説明や記録が求められることになりました。合理性のない個人保証が排除されていく可能性が高いと期待されます。

「経営者保証ガイドライン」での3つの要件、①法人と個人の区分②財務基盤の強化③適時適切な財務情報の開示、は経営者保証のない融資のためだけでなく、会社を発展させることにもつながります。

経営者保証に依存しない融資の内容、およびそのための体制作りなどのご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

「経営者保証改革プログラム」の事業者向けパンフレットが2023年4月に金融庁から公表されています。詳しくはこちらも参考にしてみてください。

「経営者保証改革プログラム」に関する事業者向けパンフレット

「2割特例」とは?



「2割特例」の概要

令和5年10月1日より、インボイス制度が導入されます。

これまで消費税を納税する義務がなかった免税事業者は、インボイス発行事業者(課税事業者)となることで基本的には消費税を納税することになるため、税の負担が増えること等に不安を感じている事業者も多いのではないでしょうか。

実は、インボイス制度の開始に伴う税負担や事務負担を考慮して、小規模な事業者向けに「2割特例」という負担軽減のための制度が設けられています。

簡単に説明をすると、「2割特例」とは、免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった場合、納める消費税を「売上の消費税の2割」とすることができる制度です。この制度は令和5年度の税制改正で法案が成立し、施行されました。

なお、令和5年度の税制改正については、こちらで詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。

「令和5年度税制改正大綱 | インボイス、NISA、生前贈与加算期間延長、電子帳簿保存法、4点の概要解説」



この記事では、2割特例の「対象者」や適用を受けるための「具体的な方法」、「注意点」について解説します。ぜひ最後までお読みください。



税負担はどれぐらい軽減される?

まずは、2割特例によって税負担がどれぐらい軽減されるのかを、下図の具体例を用いて説明します。なお、説明の都合上、計算式は厳密なものではなく、簡易的な記載方法を用いています。
業種サービス業(飲食店以外)
売上700万円(消費税70万円)
仕入150万円(消費税15万円)


上記のケースの場合、納税額を比較すると、以下のようになります。なお( )内の数字は2割特例と比較した場合の増加額です。


2割特例の納税額原則的な納税額簡易課税の納税額
14万円55万円(+41万円)35万円(+21万円)


2割特例が適用された場合、消費税の納税額は売上に関する消費税の「2割」となるため、14万円(70万円✕20%)を納税することになります。
 
一方、原則的な計算方法では、売上に関する消費税70万円から、仕入に関する消費税15万円を差し引いた金額である55万円を納税することになり、2割特例と比較して41万円多く納めることになります。
 
また、簡易課税を選択した場合、サービス業(飲食店以外)は「5種(仕入の消費税を売上の消費税の50%とみなす業種)」となるため、仕入に関する消費税は35万円(70万円✕50%)となり、納税額は35万円(70万円-35万円)となります。
 
この場合、2割特例と比較して21万円多く消費税を納めることになります。
 
上記は一例であり、2割特例で負担が軽減される税額は「業種」や「売上・仕入の金額」等によって異なるものの、多くの小規模事業者にとっては有効な負担軽減措置となるでしょう。
 
なお、消費税の基本的な考え方や計算方法については、こちらで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

 

 

「消費税はどのように計算する?消費税の仕組みと注意点について解説」


対象者の条件は?

インボイス制度の2割特例は、インボイス発行事業者の登録日に、免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった方が対象です。

免税事業者とは、簡単に説明をすると、2年前(個人は前々年・法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす事業者で、本来は納税義務がありません

しかし、免税事業者はインボイスの発行ができないことから、インボイス制度の開始にともなってインボイス発行事業者(課税事業者)となる事業者が多く存在します。

免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)となる場合、多くは「税負担」や税金を納めるための「事務負担」が増大することが予想されるため、そのような事業者の負担を軽減するために「2割特例」が設けられたのです

したがって、2年前(個人は前々年・法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円超である場合等、インボイス制度に関係なく、もともと課税事業者である事業者は、2割特例の「対象外」となります

その他、2割特例の対象外となるケースについては、こちらに詳しく記載されていますのでご覧ください。

「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」問1

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf



なお、インボイス制度と免税事業者については、こちらで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

「インボイス制度とは?対応しないとどうなるか | 免税事業者を中心にわかりやすく解説」


「2割特例」の適用を受けるには?


事前の届出は不要で、申告書に「付記」するだけで良い


通常、消費税に関して特例の適用を受けるには、基本的に「事前」の届出が必要です。たとえば、簡易課税制度の適用を受ける際は、適用を受けようとする課税期間が始まる前に、指定の「届出書」を提出しなければなりません。

しかし、2割特例は、事前の届出が不要です。しかも、消費税の確定申告書に「付記」をするだけで特例の適用を受けることができますので、事前事後問わず、届出の必要がありません。

なお、財務省が公表している資料に、「付記」のイメージが掲載されているので参考にしてください。ただし、「付記」の記載方法は確定されたものではないため、変更される可能性があります。

(出典:財務省「小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置(案)」)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/invoice/invoice_1.pdf


注意点としては、2割特例の適用には届出が不要ですが、2割特例の対象者となるための要件である「インボイス発行事業者」の登録には、申請の手続きが必要です

インボイス発行事業者として、インボイス制度の開始日(令和5年10月1日)に登録するには、令和5年9月30日までに申請書を提出する必要があるためご注意ください

「2割特例」の適用期間は?



適用期間の具体例


2割特例は、適用できる課税期間が以下のように決められています。


令和5年10月1日~令和8年9月30日を含む課税期間

少しわかりにくいので、具体例を使って説明します。

①    個人事業者の場合


免税事業者である個⼈事業者が、インボイスの開始日である令和5年10⽉1⽇から登録を受ける場合、下図の緑部分が適用の対象となります。


(出典:財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答 」問2 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf


したがって、①令和5年(10月~12月分)、②令和6年、③令和7年、④令和8年の申告分が2割特例の対象となります

なお、令和5年の1月~9月については消費税の免税事業者であるため、申告等の手続きは必要ありません。


②    法人(3月決算)の場合


免税事業者である法⼈(3月決算)、インボイスの開始日である令和5年10⽉1⽇から登録を受ける場合、下図の緑部分が適用の対象となります

(出典:財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」問2 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf


したがって、①令和6年3⽉決算分(10⽉〜翌3⽉分のみ)、②令和7年3⽉決算分、③令和8年3⽉決算分④令和9年3⽉決算分が2割特例の対象となります

なお、令和5年の4月~9月については消費税の免税事業者であるため、申告等の手続きは必要ありません。

法人については、決算月によって対象となる課税期間が変わります。そのため、ご不明点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

その他の注意点


すでにインボイス発行事業者の登録申請をしてしまった場合は?

事業者のなかには、令和4年の間に「課税事業者の届出書」と「インボイス発行事業者の登録申請書」を提出し、令和5年1月から課税事業者になっている方もいると予想されます。

この場合、令和5年10月からインボイス発行事業者として登録されることになりますが、令和5年1月から課税事業者であるため、2割特例の適用対象外となってしまいます

しかし、結論からいうと、その場合でも手続きをおこなえば、令和5年10月から2割特例の適用を受けることが可能です

上記の例が個人事業者であった場合、具体的には、令和5年4⽉1⽇~12⽉31⽇に「課税事業者選択不適⽤届出書」を提出することで、令和5年分から免税事業者に戻ることが可能です。

この場合、令和5年1⽉~9⽉については消費税を納める義務がなく、インボイス発行事業者となる令和5年10⽉~12⽉分についてのみ、2割特例を適用して消費税を申告・納税することになります

なお、課税期間によって上記の期日は変動しますので、詳しくは弊所までお気軽にお問い合わせください。


「申告のたび」に適用の選択が可能


2割特例の適用を受けるかどうかは、申告時に選択することが可能です。つまり、2割特例を適用して申告した翌課税期間において継続して2割特例を適用しなければならないといった制限はなく、課税期間ごとに2割特例を適用して申告するか否かについて判断することができます。 これは、簡易課税の届出をおこなっている場合も同様であり、具体的なイメージは下図のようになります。

(出典:財務省「小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置(案)」https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/invoice/invoice_1.pdf)

この場合、上図の①(本則課税や簡易課税)と②(2割特例)を両方計算する必要はなく、2割特例が明らかに有利な場合は、①を計算せずに申告・納税することが可能です。

まとめ


この記事では、インボイス制度の「2割特例」について解説しました。

2割特例で特に重要なのは、対象者の範囲です。

基本的にはインボイス発行事業者の登録日に、免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった方が対象ですが、すでに「課税事業者の届出書」を提出してしまった場合でも2割特例の適用を受けられる方法がありますので、押さえておくとよいでしょう。

インボイス制度の2割特例は、小規模事業者にとって有効な負担軽減措置であるものの、制度や手続きが複雑な部分もあり、理解が難しいのも事実です。 そのため、2割特例についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

源泉徴収に関する事務手続は毎月の給与計算だけではなく、年末調整、税務署への納付などさまざまな場面で発生します。特に納付が遅れると、不納付加算税などのペナルティが多額になるケースがあるため注意が必要です。

このコラムでは、源泉徴収の対象と計算方法、預かった所得税を納付する期限と遅れた場合のペナルティ、および源泉徴収に関する会計処理の方法を説明します。事業者は正確な源泉徴収事務と会計処理をおこない、ペナルティを受けることのないようにしましょう。

源泉徴収の仕組み

源泉徴収とは何か、および対象と計算方法を説明します。

源泉徴収とは所得税を徴収すること

源泉徴収とは、給与や報酬を支払う事業者が、あらかじめ所得税を差し引いてから支払うことをいいます

例えば会社員は給与をもらいますが、もらった金額に対して所得税がかかります。所得税は税務署に対して支払うものですが、会社員は原則として税務署へ直接支払いません。給与を支給する事業主があらかじめ所得税を所定の方法で計算し、これを差し引いた上で給与を支給します。そして、事業主が差し引いた所得税を税務署へ支払う形をとっています。このように給与等から所得税を差し引くことを「源泉徴収」とよび、源泉徴収をする事業者を「源泉徴収義務者」とよびます。源泉徴収は給与等を支払う事業者の義務なのです

源泉徴収の対象 | 給与だけではない点に注意

上記の例では給与をあげましたが、源泉徴収の対象は給与だけではありません。法人や個人事業主が事業を行う上で源泉徴収が必要となる支払いには、例えば以下のものがあげられます。

  • 給与、賞与
  • 退職金
  • 報酬の中で、源泉徴収が義務付けられているもの

原稿料や講演料、弁護士や税理士等特定の資格を持つ方への報酬、モデルや外交員などへの報酬、デザインの報酬など、限定列挙されています国税庁タックスアンサーNo.2792参照)。ただし、源泉徴収が必要な報酬は個人の方への支払いに限り、法人への支払いは除きます

事業主として源泉徴収が必要になる支払いは、原則として給与・賞与と退職金、および一部の報酬であると考えておけばよいでしょう。限定列挙されていない業務の外注費や、派遣会社へ対する支払いなどは対象にはなりません。

源泉徴収税額の計算方法

源泉徴収税額の計算方法は、差し引く対象によって異なります。給与、賞与、報酬についてそれぞれ説明します。

(1)給与

給与は、支給する金額によって源泉徴収税額の金額が異なります。具体的には「給与所得の源泉徴収税額表」を参照し、給与の金額と扶養親族の人数を当てはめて記載されている税額を差し引きます。源泉徴収税額表は毎年更新されるため、最新のものを確認しましょう

源泉徴収税額表には「月額表」「日額表」の2種類があります。給与を月ごとに支払うもの、また、半月ごと、10日ごと、月の整数倍の期間ごとに支払うものは月額表を参照します。

月額表には「甲欄」「乙欄」があり「給与所得者の扶養控除申告書」を提出している方への支払いは「甲欄」を使用します

「給与所得者の扶養控除申告書」は1か所にしか提出できません。例えば2か所で勤務している方は、片方の勤務先にのみしか「給与所得者の扶養控除申告書」を提出できないため、もう片方の勤務先の給与は乙欄で計算されることになります。甲欄の方が源泉徴収税額は少なくなります。

(出典:給与所得の源泉徴収税額表

(2)賞与

賞与は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」をもとに計算します。「甲欄」か「乙欄」か、甲欄の場合は扶養親族の人数を当てはめて計算します。

(出典: 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表

上記(1)(2)のように計算した源泉徴収税額は、給与と賞与から差し引いて支給します。所得税の金額は1~12月の1年間の所得に対して決まるため、毎月源泉徴収した金額と1年間の所得金額をもとに算定した所得税の金額の間に差額が出ます。これを年末に調整して差額を精算する手続が「年末調整」です。多くの場合、源泉徴収の金額は多めに差し引いているため、年末調整では還付になります。

(3)報酬

報酬の中で源泉徴収が義務づけられている支払は限定的です。事業をする中で一般的に発生する機会が多い費用と、源泉徴収税額の計算方法を紹介します。

内容(個人に対する支払)源泉徴収税額の計算方法
原稿料 講演料報酬料金の10.21% ただし同一人に対して1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、超える部分は20.42%
弁護士、税理士、社会保険労務士等に対する報酬       報酬料金の10.21% ただし同一人に対して1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、超える部分は20.42%
司法書士の業務に関する報酬  (報酬料金-1回の支払について1万円)×10.21%
デザインの報酬  報酬料金の10.21% ただし同一人に対して1回に支払われる金額が100万円を超える場合には、超える部分は20.42%

源泉所得税の納付期限とペナルティ

事業者は、源泉徴収を行うことで従業員らが本来支払うべき所得税を預かっていることになり、これを税務署へ納付しなければなりません。納付期限および期限に遅れた場合のペナルティを紹介します。

納付期限

(1)給与・賞与、退職金に関する源泉所得税

納付の時期は原則として徴収した月の翌月10日が期限です。

ただし「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出している事業者は、以下が納期限となります

・1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税・・・7月10日

・7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税・・・翌年1月20日

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、給与の支給人員が常時10人未満である事業者のみが提出できるものであり、だれでも選択できる訳ではありません。

(2)報酬

報酬を支払った月の翌月10日が期限です。

納期の特例を受けている場合には、弁護士や税理士等特定の資格を持つ方への報酬に関してのみ7月10日と翌年1月20日までに納付します。

期限に遅れた場合のペナルティ

納付期限を遅れた場合は、以下のペナルティがあります。

(1)不納付加算税

不納付加算税として、納付すべき所得税の10%が課されます。1日でも遅れると払わねばならないため、注意が必要です。ただし税務署から指摘がある前に、自主的に気付いて納付した場合は5%になります。納付の遅れに気付いた場合は一刻も早く納付しましょう。

例外的に不納付加算税が課されないケースもあります。

不納付加算税の金額が5,000円未満の場合

少額のため免除されます。

期限までに納付する意思があり、かつ、法定納期限から1月を経過する日までに納付した場合。ただし以下の要件を満たす必要があります

①過去1年以内に税務署から納税の告知を受けていないこと

②過去1年以内に納期限に遅れて納付をしていないこと

納付が遅れた原因に「正当な理由」がある場合

正当な理由とは、災害の場合などやむを得ない事情の場合のみであり、単なる失念の場合は含まれませんので注意が必要です。

(2)延滞税

原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数分、延滞税が課されます。延滞税は利息としての性質があり、納付が遅れれば遅れるほど金額は大きくなります。納付の遅れに気付いた場合は一刻も早く納付しましょう。

延滞税の税率は状況により異なります。国税庁のホームページ「延滞税の計算方法」を参考にしてください。

ただし、延滞税が1,000円未満の場合は免除されます。また本税が10,000円未満の部分については延滞税が課されません。

源泉徴収をして税務署に納付する義務は、源泉徴収義務者である事業主側にあります。正しく計算をして、遅れないように納付をしましょう。もし計算間違いなどで追加の納付が必要になったとしても、事業主がまずは税務署へ支払いをする必要があります。本来は支払先が負担すべき所得税であるため、支払先に請求ができますが、支払ってもらえなかったり請求しにくくなったりする可能性もあります。正しく計算をすること、そして源泉徴収の対象であるにも関わらず源泉しないことのないように注意しましょう。

源泉徴収事務の会計処理

例として、給与から源泉徴収をした場合、一般的な会計処理は以下のようになります。

給与の額面30万円、源泉徴収税額が8,420円であったとします。

【給与支給時】

(借方) 給与 300,000円  (貸方) 現金預金 291,580円
 預り金        8,420円

【税務署へ納付時】

(借方)預り金 8,420円(貸方)現金預金 8,420円

税務署に納付する際に、納付金額と帳簿上の預り金の金額が一致していることを確認するとミス防止につながります。

まとめ

以上、源泉徴収の仕組みと源泉徴収事務の概要の基本を説明しました。給与、賞与に関しては、実務上は給与ソフトで源泉徴収税額を計算することがほとんどでしょう。この場合、税額表をわざわざ参照する必要はありません。しかし、正しく計算するためには「甲欄」「乙欄」の区分、扶養親族の人数などの前提条件を正しく設定する必要があります。仕組みを理解した上で給与ソフトを利用しましょう。

このコラムでは、源泉徴収を行う事業主の方の立場から、源泉徴収に関する事務手続を紹介しました。このため給与や報酬についてのみ取り上げていますが、源泉徴収は株の配当、預金や公社債の利息などでも行われます。預金の利子は原則として確定申告はできませんが、配当に関しては場合によっては源泉徴収された金額が戻ってくるケースもあります。収入を受け取った側も「源泉徴収」について理解をしておくとよいでしょう。

税務に関するご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

賃上げをすると法人税(個人事業主は所得税)の税額控除ができる制度は、以前より何度か改正を繰り返してきました。令和3年度税制改正では「所得拡大促進税制」「人材確保等促進税制」として改正され、その後令和4年度税制改正でも改正されて「賃上げ促進税制」として施行されています。賃上げを促進するために「税額控除の率を上げ、さらに税負担を下げることが可能」と言われている今回の改正による制度が、令和5年3月決算の法人からいよいよ適用開始となります。

令和4年度税制改正「賃上げ促進税制」は中小企業向けと大企業向けで要件が異なります。このコラムではそれぞれの概要を紹介するとともに、前の制度と何が変わったのか、そして適用にあたり注意すべき事項の中で基本的な内容をお伝えします。要件を満たす場合には、しっかりと節税していきましょう。

中小企業向け「賃上げ促進税制」の概要

中小企業向け「賃上げ促進税制」の適用時期は、令和4年4月1日から令和6年3月31日開始事業年度です。対象は原則として以下の事業者です。

●以下の要件のいずれかに該当する法人

1.資本金の額等が1億円以下

ただし同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人および2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人は対象外

2.資本金または出資金がない法人の場合は、常時使用する従業員数が1,000人以下

●常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

●協同組合等

要件を満たせば、法人だけでなく個人事業主なども対象になります。

適用要件

適用要件と税額控除の算定式は以下のとおりです。

税額控除は法人税額または所得税額の20%が上限です。

ここで用語の解説をします。

(1) 雇用者給与等支給額

当期のすべての国内雇用者に対する給与等の金額をいいます。

(2) 控除対象雇用者給与等支給増加額

「雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額」をいいます。

ただし雇用者給与等支給額は、給与等に充てるために他者から支払いを受けた金額を除くことに注意してください。例えば出向者がいて出向元から給与に充てるための金額を受け取っている場合や、雇用に関する助成金を受けた場合などには、受け取った金額は差し引く必要があります。ここで、雇用に関する助成金の中で「雇用安定助成金」に関しては差し引きません。この点も注意が必要です。

雇用安定助成金を受給している場合は、控除対象雇用者給与等支給増加額を計算する際にも注意が必要です。当期と前期の「雇用者給与等支給額-雇用安定助成金額」の差額が上限になります。雇用安定助成金の受給があるかどうかには、注意を払っておきましょう。

所得拡大税制と何が変わったか

前年まで施行されていた「所得拡大税制」と比較して、用語の定義は変わりません。要件および税額控除の率が変更になりました。その他の変更点で主なものは以下のとおりです。

  • 以前は要件を複数満たさなければならないケースもあったが、今回はなくなり、以前よりもシンプルな要件となった
  • 経営力向上計画の認定および証明、という要件はなくなった
  • 教育訓練費に関する上乗せ要件を適用する場合、明細書を提出する必要はなくなり、保存義務だけになった

大企業向け「賃上げ促進税制」の概要

大企業向け「賃上げ促進税制」の適用時期も、令和4年4月1日から令和6年3月31日開始事業年度です。大規模法人だけでなく、青色申告をおこなっている全企業が対象です

適用要件

適用要件と税額控除の算定式は以下のとおりです。

税額控除は法人税額または所得税額の20%が上限です。

また、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業は、マルチステークホルダー方針の公表が必要となります。

ここで用語の解説をします。

(1) 継続雇用者給与等支給額

当期の国内雇用者のうち「継続雇用者」に対する給与等の金額をいいます。

継続雇用者は、原則として前事業年度および当事業年度のすべての期間において雇用保険の一般被保険者であり、かつ給与等の支給を受けた雇用者をいいます。

(2) 控除対象雇用者給与等支給増加額

「雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額」をいいます。中小企業向けにおける定義と同様です。給与等に充てるために他者から支払いを受けた金額を除く点、ただし「雇用安定助成金」に関しては差し引かない点も中小企業向けと同様です。

人材確保等促進税制と何が変わったか

前年までの制度である「人材確保等促進税制」では、新規雇用者給与等支給額を前期と比較して適用の判定をおこなっていました。今回の賃上げ促進税制では「継続雇用者給与等支給額」を比較しており、まったく異なる定義のものを比較することとなりました。新規の雇用者を促す趣旨から、賃上げを促す趣旨へと改正されたことによります。

その他、税額控除の率の変更、および、教育訓練費に関する上乗せ要件を適用する場合、明細書を提出する必要はなくなり、保存義務だけになった点は、中小企業向けと同様に変更となっています。

賃上げ促進税制の注意点

賃上げ促進税制の適用を検討する際の、主な注意点は以下のとおりです。

  • 「国内雇用者」はパートやアルバイト、日雇い労働者も含みます。しかし役員、役員の特殊関係者、個人事業主の場合は個人事業主の特殊関係者は含まれません
  • 上乗せ要件のひとつである教育訓練費についても、上記の「国内雇用者」に対するものでなければなりません。つまり役員等に対するものは対象外です。
  • 中小企業向け、大企業向け、ともに税額控除は法人税額または所得税額の20%が上限です。上限を超えた部分は控除できないため、税額控除の金額を試算する際には注意してください。
  • 上限を超過して控除できなかった部分、そもそも赤字で控除できなかった部分があっても、翌年に繰り越すことはできません

中小企業ではどちらの制度も選択可能

中小企業向けと大企業向けでは、要件も税額控除の率も異なります。このため実際に計算すると、計算結果が異なる可能性があります。

「大企業向け」と銘打たれてはいますが、対象は青色申告をおこなっている全企業が対象です。中小企業でも適用可能ですので、どちらか有利な方を選択することができます

適用するにあたり事前の届け出は必要なし

賃上げ促進税制は、確定申告書の別表を作成すれば適用可能です。事前の届け出は不要ですので、申告書作成時までに計算をして検討すれば間に合います。

ただし、もし別表に記載する数字を誤ってしまった場合は、修正申告書または更正請求書により控除対象雇用者給与等支給増加額を増加させることはできません。慎重に計算しましょう。

まとめ

以上、令和4年度税制改正「賃上げ促進税制」の概要と注意点等について、基本的な事項をお伝えしました。税額控除の対象は、給与だけでなく賞与も含まれます。多く支給すれば税額控除がとれる可能性も高くなるため、意思決定の際に参考にするのもよいのではないでしょうか。

しかし、税額控除は法人税額または所得税額の20%が上限です。控除の率が増えて税額控除が増えたように見える改正ですが、上限の変更はありませんので、給与および賞与の増加額に対する率が全額控除できない場合も多くあります。この点、注意が必要でしょう。

賃上げ促進税制を始めとして、税務に関するご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

賃上げ促進税制に関しては中小企業庁、経済産業省からわかりやすいガイドブックが公表されています。こちらも参考にしてみてください。

中小企業向け賃上げ促進税制ガイドブック

大企業向け賃上げ促進税制ガイドブック

「交際費」とは


交際費とは、事業をスムーズにおこなうために、取引先と飲食したり、贈答品を提供したりした場合に生じる支出です。

一般的に、交際費は取引先に関する支出と思われがちですが、社内の従業員に対する支出を含むことがあります。たとえば、「特定の部署の打ち上げ費用を会社が負担した場合」などがこれに該当します。詳細は、「福利厚生費に該当するケース」で解説します。

また、厳密に言うと、税務上は「交際費」ではなく「交際費等」として定義されていますが、この記事では便宜上「交際費」としています。

なお、国税庁は「交際費等」を以下のように定義していますので、ご確認ください。

「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます。)のために支出するものをいいます。」

(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5265.htm

法人税法における「交際費」の具体的な範囲とは?


ここでは、「交際費」と「交際費に類似する支出」の範囲の違いについて解説をします。

「交際費に類似する支出」のなかには、社会の習慣や商取引上の慣習などの理由から「交際費として処理しなくてもよい」とされているものがあり、交際費とは明確に区別されています。

なぜ、このように規定されているかというと、交際費は経費として認められる(損金算入される)金額に、「限度額」が設けられているためです。

この限度額を超えた分は経費にできない(損金算入できない)ため、可能な限り「交際費以外」で処理をおこなうことで、「経費として認められる金額をトータルで増やす」ことができる可能性があります。

そのため、この記事では、「交際費として処理しなくてもよい」ものとして、福利厚生費・会議費・広告宣伝費・給与に該当するケースをとりあげ、詳しく解説をします。


福利厚生費に該当するケース

社内の運動会やレクリエーション、社員旅行など、従業員をいたわるための支出は交際費とはならず「福利厚生費」になります。

ただし、これには条件があります。それは、「従業員におおむね一律に」提供されているかどうかという点です。

具体的には、会社全体の忘年会における役員や従業員の飲⾷代は、「従業員におおむね一律に」提供されている支出のため、福利厚生費に該当します。一方、特定の部署や一部の社員の飲食代を会社が負担した場合は、交際費に該当することがあります。

会議費に該当するケース

・接待における「1人あたり5,000円以下」の飲食費

取引先の接待で飲食代を支払った場合でも、交際費から除外できるケースがあります。具体的には、支払金額を参加者数で割った数が5,000円以下である場合、つまり「1人あたりの飲食代が5,000円以下」のときがこれに該当します。

この場合、一般的には「会議費」で処理します。つまり、接待で「1人あたりの飲食代が5,000円以下」であれば、経費にすることができる(損金算入ができる)というわけです。

なお、これは特例のため、以下の事項が記載された書類を保存する必要があります。

飲食等のあった年月日
飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称およびその関係
飲食等に参加した者の数
その飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称および所在地(店舗がない等の理由で名称または所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の氏名または名称、住所等)
その他飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項
(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5265.htm


その他、注意点としては、社内のメンバーによる飲食代である「社内飲食費」は、この特例の対象外となっている点です。そのため、たとえば、社内の特定の部署の打ち上げ費用が1人あたり5,000円以下であっても、交際費から除外することはできません。

会議のために必要な費用

会議を目的とする支出は、それが飲食などに関連したものであっても、交際費とする必要はありません。

たとえば、会議や商談で、お菓子やお茶、お弁当などを提供した場合は「会議費」として処理します。ここでのポイントは、会議に関連して「通常要する費用」であるかどうかという点です。

そのため、飲酒をしていたり飲食代が高額であったりした場合は、会議のための支出として「一般的に妥当かどうか」を慎重に判断する必要があるでしょう。

なお、会議の場所については特に制限がないため、ホテルなどであっても、会議の実態があれば会議費で処理することが可能です。

広告宣伝費に該当するケース

取引先に贈答品を提供する場合、基本的には「交際費」となります。しかし、宣伝を目的とした支出は「広告宣伝費」として計上することが可能です。具体的には、カレンダー・手帳・手ぬぐいなどを取引先に提供する場合がこれに該当します。

ここでのポイントは、贈答品などの提供が「不特定多数の一般消費者」に対するものかどうかという点です。一般消費者とは、物やサービスを最終的に消費する人をいいます。 そのため、たとえば、医薬品メーカーが医師に対して贈答品を提供するケースは、不特定多数の一般消費者に対する支出ではないため、広告宣伝費にはならないと考えられます。

給与に該当するケース

従業員の「プライベートの飲食代」を会社が支払った場合、交際費や福利厚生費ではなく、「給与」として処理します。この場合、法人としては、税務上経費にできます(損金算入)が、従業員は通常の給与と同様に所得税が課税されます。

役員のプライベートな飲食代は、役員への給与となります。役員の給与は、毎月定額であることなどの税務上の厳しい規制があるため、注意が必要です。

万一、「交際費」として計上していた費用が、税務調査などで「役員のプライベートな支出」と判断された場合、法人の損金に算入できないうえ、役員個人の所得税も課されるなど、様々な問題が生じます。そのため、役員の個人的な支出の扱いには、特に注意をしましょう。


その他の注意点

上記のほか、取材のための座談会や、情報収集のために一般的に必要とされる飲食代などは、「交際費」にはならず「取材費」などで処理します。この場合、税務上も経費にする(損金算入する)ことが可能です。


「交際費」を損金算入できる会社の規模と金額


中小企業は「800万円までの全額」を経費にできる

「交際費」の規定は、法人の規模に応じて以下の3段階に設定されており、中小企業(資本金が1億円以下の法人)は「800万円までの全額を、経費にすることができる」という特例が設けられています。


多くの中小企業においては、交際費を800万円も計上しないことが多いので、基本的には交際費の全額を経費にする(損金算入する)ことが可能といえるでしょう。

なお、「交際費」は税務上、原則として「全額」を損金に算入することができない規定となっています。つまり、すべて経費にすることができないわけです。

しかし、交際費は事業をスムーズにおこなうために必要な支出であるため、例外として、中小企業に対しては「特例」が設けられているという点を押さえておくとよいでしょう。


個人事業主と交際費

個人事業主は、交際費を経費として計上する上で、法人のような「上限」がありません。しかし、上限がないとはいえ、すべてのケースにおいて交際費が認められるわけではありません。

個人事業主が交際費を計上する場合は、「事業に関連した支出であるか」、「その支出が利益や事業の円滑化につながるか」などが重要です。

なお、個人事業主の経費全般についてはこちらで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

「個人事業主が経費にできるものとは?判断基準を解説」


まとめ


この記事では、交際費の範囲や損金算入について解説しました。

交際費で特に重要なのは、「交際費の具体的な範囲」を把握し、「交際費として処理しなくてもよい」と認められているものについては、交際費以外で処理をおこなうことです。

また、中小企業は、「800万円までの全額」を、交際費として経費にする(損金算入する)ことができるという点も重要です。

事業をスムーズにすすめ、売上を拡大するためには、「交際費」が不可欠なケースも多いと考えられます。一方で、交際費の規定は複雑で、なかなか理解が難しいというのも事実です。

また、交際費は税務調査で必ずといっていいほど調査対象となる項目ですので、不安を抱える企業も多いでしょう。そのため、交際費全般についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。



そもそも「開業」とは?

開業の基礎知識

個人事業主とは、法人を設立せずに、個人で事業をおこなっている人をいいます。個人事業主は、開業のために「登記」などの必要はなく、税務署に「開業届」を提出することで、個人事業主として開業したことになるのです。

一方、法人とは法律により権利・義務を認められた組織であり、原則として、「法務局に会社の登記を申請した日」が設立日となります。この点が、個人事業主と法人の開業に関する大きな違いといえます。

「開業届」の基礎知識

「開業日」の決め方

「開業届」とは、簡単に説明をすると、どのような事業をやるかというのを国に知らせるための書類です。この書類は、所轄の税務署に提出をします。なお、所轄の税務署は国税庁のホームページで簡単に調べることが可能です。

「開業届」には、「開業・廃業等日」という欄(下図の黄色の下線部分)があり、ここに記載された年月日が「開業日」となります。

(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/pdf/h28/05.pdf )

開業日の決め方に明確なルールはありませんが、「個人事業主として初めて仕事を受注した日」や、「会社を退職した日の翌日」などにする人が多いようです。

開業届の提出期限は?

原則として、開業届は「事業の開始等の事実があった日から1月以内」に提出しなければなりません。もし、1ヶ月を過ぎてしまっていても受理されますので、必ず2ヶ月以内には開業届を出すようにしましょう。理由としては、一般的に開業届と一緒に提出される「青色申告」の申請書の提出期限が厳密に決められているためです。青色申告は、個人事業主となった初年度から多くの特典を受けることができます。そのため、青色申告を希望する場合は、開業から遅くとも2ヶ月以内に、開業届とともに「青色申告承認申請書」を忘れずに提出しましょう

なお、青色申告については、こちらに詳しく記載していますので、あわせてご覧ください。

「青色申告と白色申告の違いとメリット・デメリットを解説」

税務署に行かずに開業届を作成する方法とは?

開業届は、届出書を作成して税務署へ直接持参したり、送付したりすることにより提出することができます。この届出書の用紙は、国税庁のホームページからダウンロードが可能ですが、税務署で用紙をもらい、その場で記入して提出することも可能です。

一方、クラウド会計ソフトを利用すれば、「開業届」や「青色申告承認申請書」を、ガイドに従って操作するだけで簡単に作成することができます。基本的に、クラウド会計ソフトは有料ですが、開業手続きについては「無料」で利用できるソフトもあるようです。

なお、クラウド会計ソフト全般についての説明は、こちらに詳しく記載していますので、あわせてご覧ください。

「クラウド会計ソフトのメリットとは?」

また、開業届や青色申告承認申請書は、e-Taxによりインターネットで提出することも可能です。e-Taxを利用するには、ソフトのインストールなど事前準備が必要ですので、前もって以下のサイトをよく確認しておくとよいでしょう。

「e-Tax 国税電子申告・納税システム」

https://www.e-tax.nta.go.jp/kojin.html

また、開業に関する手続きについては、当事務所でも対応しています。なにかご不安な点がある場合などは、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

開業に関する注意点

開業直後はクレジットカード等の審査に通りづらくなるといわれています。そのため、会社員の方が退職をしてこれから個人事業主になろうとする場合は、退職する前に「クレジットカード」を作っておくと安心でしょう。

「開業費」の基礎知識

開業費とは?

個人事業主として開業する際、開業の準備のために支出することがよくあります。たとえば、事業で使用するパソコンを購入したり、事業に関連したセミナーへ参加したりするなどです。このような、開業日前に支出した準備費用は「開業費」といい、費用ではなく「繰延資産」という資産になります。「開業費」は一度資産として計上されますが、その後、原則として5年にわたり経費として計上(これを償却といいます)されます。

開業費として認められる範囲

個人事業主の場合、開業日前に支払った開業のための準備費用は、基本的に「開業費」となります。開業費の具体例は、以下の通りです。

・パソコン、プリンターなどの購入費用(10万円未満)

・事業に関連したセミナーへの参加費用

・通信費用

・チラシなどの広告費用

・関係先への手土産代

・打ち合わせの費用

・市場調査のための旅費やガソリン代など

・借入金の利子のうち、開業前までのもの

・ホームページの開設など、WEBサイトに関連した費用

開業費として計上する上で重要な点は、これらの支出が「開業日前の支出」であること、また、「事業に関連した支出」であることです。事業に関連のないセミナー代などは開業費にできませんので注意が必要です。また、以下のものは開業費にできないので、あわせて確認しておきましょう。

・10万円以上の備品など

・敷金、礼金

・仕入代金

開業費の記帳方法

ここでは、具体例を用いて「開業費の記帳方法」について説明をします。なお、勘定科目や仕訳方法は一例です。

<例1>

開業日前に、事業に関連した本を1万円分購入した。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
開業費10,000円元入金10,000円書籍代

開業日後に、事業に関連した本を1万円分購入した。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
新聞図書費10,000円現金10,000円書籍代

<例2>

開業日前に、チラシを1万円分発注し、代金を支払った。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
開業費10,000円元入金10,000円チラシ代

開業日後に、チラシを1万円分発注し、代金を支払った。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
広告宣伝費10,000円現金10,000円チラシ代

<例3>

開業日前に、9万円のパソコンを購入した。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
開業費90,000円元入金90,000円パソコン代

開業日後に、9万円のパソコンを購入した。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
消耗品費90,000円現金90,000円パソコン代

<例4>

決算日に、1万円の開業費を償却する(経費にする)。

借方の勘定科目借方の金額貸方の勘定科目貸方の金額摘要
開業費償却10,000円開業費10,000円開業費の償却

開業費の注意点

開業費を計上するためには、原則として領収書やレシートなどの証明書類が必要です。そのため、個人事業主になると決めたその日から、事業に関連する領収書等は必ず保管しておきましょう。その支出が、会社員時代のものであっても問題ありません。退職をして個人事業主になろうとする人は、退職前の支出に関する領収書等も忘れずに保管しておきましょう。

なお、開業費は原則として5年にわたり経費として計上できますが、「任意償却」という方法を選択することも可能です。任意償却とは、その名の通り、任意に償却する(経費にする)方法で、たとえば、赤字の年には経費にせず黒字の年に経費にしたり、利益が大きな年に全額を経費にしたりするなどの方法があります。この任意償却をうまく利用することで節税効果が期待できますので、押さえておくとよいでしょう。

まとめ

この記事では、「開業費」や「開業届」について解説しました。

個人事業主として開業するにあたって特に注意したいのは、「開業届」と「青色申告承認申請書」を原則として1ヶ月以内に提出することです。特に、青色申告承認申請書は提出期限が厳密に決められているため、青色申告を希望する場合は余裕をもって準備することをおすすめします。

また、開業を決めたときから、開業準備に関する支出の領収書やレシートを保管しておくことも大切です。開業費は償却方法を工夫することで節税することも可能なので、「開業日前の支出」で、かつ、「事業に関連した支出」の領収書等は必ず残しておきましょう。

個人事業主として開業する際は、手続きや会計処理の方法など気がかりな点が多いものです。そのため、開業全般についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

消費税とは?

消費税とは、商品の販売やサービスの提供等に対して課される税で、最終消費者が負担しています。例えばコンビニで食品を買った場合、食品の本体価格に加えて消費税も一緒にレジで支払いますね。このように消費税は最終消費者が負担するものなのですが、支払っている先は税務署ではなく「お店」です。

ここに焦点を当てて、「消費税の納税の仕組み」を解説します。

消費税の納税の仕組み

最終消費者が消費税を納付しない点は、先ほど確認したとおりです。
では、消費者を納付するのは誰なのでしょうか?
実は、税金を預かった「お店」が納付しています。

もう少し詳細に説明をすると、商品やサービスを売り上げた際に預かった消費税から、仕入時に支払った消費税分を差し引いて、その差額を納付しています。お店も商品を仕入れる際に消費税を支払っていますので、支払った分の消費税は差し引いて納付をするわけです。難しい用語ですが、この仕組みを「仕入税額控除」といいます。

そのため、個人事業主も一定の売り上げを超えた場合、消費税を税務署に納付する必要があるのです。

消費税の課税事業者と免税事業者

個人事業主が消費税を税務署に納付するかどうかは、「売上高」を基準としています。

細かな規則はありますが、わかりやすく説明をすると、一昨年の売上高が1,000万円を超えると本年から消費税を納めることになります。このような消費税を納める義務がある人を「課税事業者」といいます。この売上高は「課税売上高」に限定されているので、商品の輸出に関係する売上など、もともと消費税が課税されない取引は、これに含まれません。

一方、一昨年の課税売上高が1,000万円以下の場合など、消費税を納める義務がない人を「免税事業者」といいます。そのため、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々年から消費税を納めなければならないということを押さえておきましょう。

消費税の計算方法は2種類

原則課税と簡易課税

消費税を納めなければいけない「課税事業者」は、基本的に預かった消費税から支払った消費税を差し引いた額を税務署に納税します。

具体的な例で説明をしましょう。
売上が税込1,100万円で、経費が税込550万円だとします。
消費税の税率は10%なので「預かった消費税が100万円」で、「支払った消費税が50万円」となります。そのため、最終的に納付する税金の額は、100万円-50万円=50万円となります。このような計算方法は、「原則課税」と呼ばれ、消費税を計算する上で原則的な方法となっています。

実は、消費税の計算にはもう一つの方法が用意されています。それは、「簡易課税」という計算方法です。簡易課税は、一昨年の課税売上高が5,000万円以下の場合に利用することができる、消費税の計算の「特例」です。

こちらも、具体的な例で説明をしましょう。
まず、売上に関する税金の計算は、原則課税と全く同じです。
そのため、売上が税込1,100万円であった場合、「預かった消費税は100万円」となります。

一方、経費として支払った税金(預かった消費税から差し引く分の税金)については、業種別にざっくりと「売上の60%」などと決められており、その算式を元に計算します。

(出典:国税庁HP https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm

たとえば、飲食店業であれば「売上の60%」を経費としてみなします(これをみなし仕入率といいます)。

具体的な計算方法はというと、まず、売上が税込1,100万円である場合、預かった消費税は100万円となります。この100万円に60%を掛けると60万円なので、支払った消費税は60万円とみなされます。そのため、100万円-60万円=40万円を税務署に納めることになります。

簡易課税の注意点

前述の通り、簡易課税の計算は売上の情報のみで完結します。そのため、事務処理の負担が小さいというのが特徴です。ただし、簡易課税には主に2つの注意点があります。

まず1つ目は、「届出が必要」という点です。
簡易課税をおこなうには、簡易課税で計算をおこなう年の前年中に、届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を税務署に提出しなければなりません。

そして2つ目は、簡易課税は少なくとも「2年間は継続」しなければならないという点です。そのため、簡易課税で計算をする2年間に設備投資などが見込まれる場合は、簡易課税を適用することで損をする可能性があります。その点も踏まえて、どちらを選択するかを考える必要があるのです。

消費税の計算上のシミュレーションは複雑な部分も多いため、お困りの場合はお気軽に当事務所へお問い合わせください。

消費税の納税方法

消費税の納付期限は3月31日です。これは、個人事業主の消費税の確定申告期限と同じ日となっています。なお、土日の場合は翌月曜日が納付期限となります。

消費税は税務署等から納付書が送付されません。そのため、以下のいずれかの方法で、ご自身で納付する必要があります。

・金融機関の預貯金口座から口座引落しする
・e-Taxで口座振替する
・インターネットバンキングやATMで納付する
・クレジットカードで納付する
・スマートフォンアプリを利用して納付する
・QRコードによりコンビニエンスストアで納付する
・現金で納付する

なお、期限内に納付しなかった場合は「延滞税」がかかりますので、注意が必要です。

個人事業主の注意点

免税事業者でも消費税を請求できる

前述したとおり、課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々年から消費税を納めなければなりません。一方で、課税売上高が1,000万円以下である場合は、消費税の申告・納税をする必要はありません。このような事業者を「免税事業者」といい、特に個人事業主の中には免税事業者が多く存在します。

免税事業者は消費税を納付する必要がないため、「消費税を請求できない」と誤解されているケースがあります。しかし、実際には免税事業者であっても消費税を請求することができるのです。理由としては、免税事業者であっても、仕入れの際に商品の本体価格と一緒に消費税を支払っているため、商品を売り上げる際に一緒に消費税を請求しなければ、支払った消費税を取り戻すことができないと考えらるためです。したがって、免税事業者であっても消費税を請求しても問題ありません。

インボイス制度の注意点

インボイス制度は「適格請求書等保存方式」といい、令和5年10月1日より開始される制度です。「適格請求書(通称インボイス)」がなければ、消費税の仕入税額控除ができないため、取引先の消費税の負担が増える可能性があります。そのため、インボイスを発行できない免税事業者は、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」を検討する必要があるでしょう。

具体的には、インボイス制度の導入により、個人事業主の選択肢は以下の3つになると考えられます。

1.免税事業者(インボイス発行✕)
2.適格請求書発行事業者を選択し、「原則的な計算方法」で申告納税する(インボイス発行◯)
3.適格請求書発行事業者を選択し、「簡単な計算方法」で申告納税する(インボイス発行◯)

1を選択した場合、取引先は消費税の仕入税額控除ができないため、取引上不利になる可能性があります。一方、2・3を選択した場合は取引先に影響はないものの、基本的には自らが消費税を納税することになるため、その分の負担が大きくなります。なお、上記のいずれかを選択するかについては、当初、令和5年3月31日(令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になるための期限)までに対応方法を決める必要がありました。しかし、令和5年度税制改正大綱により、事実上令和5年9月30日までに登録申請をすれば令和5年10月1日から「適格請求書発行事業者」に登録される予定となりましたので、それまでにどのような選択をおこなうかについて検討しておきましょう。

インボイス制度についてはこちらに詳しく記載していますので、あわせてご覧ください。

「インボイス制度とは?対応しないとどうなるか | 免税事業者を中心にわかりやすく解説」
https://osakacpa.com/invoice/

まとめ

この記事では、消費税の仕組みと注意点について解説しました。

個人事業主は、消費税の申告・納税について様々な選択をおこなう必要があります。特に注意したいのは「原則課税か簡易課税か」という点と、インボイスにおいて「適格請求書発行事業者となるか」という点です。

これらの選択には、ケース別に消費税を計算するなどのシミュレーションが欠かせません。そのため、消費税全般についてご不安な点がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所にまでお気軽にお問い合わせください。

個人事業主が確定申告をする際、「経費にできるか、できないか」と悩むことが一度はあるのではないでしょうか。経費にできれば所得税を減らせるため、できるだけ多くの経費を計上したいところです。

しかし経費にできるものは限られている上に、税務署と意見が対立して争うケースもあります。このコラムでは、個人事業主が経費にできるかどうかの判断基準と、よくある例を解説します。

経費が多ければ税金は少なくなる

個人事業主の所得税は、以下のように計算します。
収入-「経費」=所得
所得-所得控除=課税される所得金額
課税される所得金額×所得税率=所得税の金額

このため、経費が多ければ所得税の金額は少なくなります。
できるだけ経費を多く計上することが節税につながります

経費にできるかどうかの判断基準

経費とは、事業を行う際にかかった費用をいいます。つまり、業務上必要な費用が経費となるのですが「業務上必要かどうか」の解釈が問題になります
例えば物を仕入れて販売した場合、仕入代金は経費になります。では、販売するために営業しなければならず、そのためにスーツを購入したら、スーツの購入代金は経費になるでしょうか。現在では税務上、衣装代は必ずしも経費として認められていません。

このように「業務に必要である」と、何かしらの理由付けをすればよい訳ではありません。最終的には税務署とのコミュニケーションを経て、経費か否かが決定されることになりますので、多分に「税務署を納得させることができるか」という点が重要になってきます。

税務上経費として認められるかどうかは、具体的には以下のようなポイントで判断するとよいでしょう。

  1. 事業に直接関係があるかどうか。
  2. 事業の内容に鑑み、通常必要と考えられるものであるかどうか。
  3. 合理的な金額であるかどうか。家事按分しているかどうか。家事按分比率は合理的な数字かどうか。
  4. 領収書などの客観的な証拠があるかどうか。

それぞれ詳細を説明します。

1.事業に直接関係があるかどうか

例えば販売する商品の仕入代金は、明らかに事業に直接関係すると考えられますが、客観的に明確な対応関係がなくても、事業に関連するものであれば経費になります。例えば飲食代は、商談・営業のためのものであれば業務に関連するものとして経費計上が可能です。領収書だけではプライベートなのか事業に関連するものか分からないため、相手先や会議の内容、目的などを、メモで残しておきましょう

2.事業の内容に鑑み、通常必要と考えられるものであるかどうか

事業の内容や形態によって、かかる費用の内容はさまざまです。例えば、完全に自宅の中だけで行うネットビジネスをしているのに、多額の出張費が経費計上されていると、事業のためであるということについて、相当しっかりした説明が求められることになります。逆に、衣装代は原則として経費にならないと言われている中で、演劇をしている方が、業務でしか着用しない演劇衣装については、経費として認められるケースもあり得ます。

3.常識的な金額であるかどうか。家事按分しているかどうか。家事按分比率は合理的な数字かどうか。

営業のための接待費用でも、例えば1人分1回10万円を超える、などの一般的に高すぎる飲食代は、本当に事業のためだけに必要なのか疑念を持たれる可能性があります。

また、金額だけでなく収入との比率も大切なポイントです。売上が年間1,000万円なのに、接待交際費が年間500万円などと高い比率であると、本当に事業のための接待交際費なのかについて、疑念を持たれる可能性があります。しかし、かかる経費がほぼ交際費だけといった事業もあるかもしれませんので、根拠がしっかりしている場合は証拠を残すことが大切です。逆に根拠があいまいな場合、売上に対して比率が高い経費は否認されるリスクが高くなります。

また、自宅で事業をしている場合、水道光熱費や家賃なども、事業で使用した部分は経費になります。しかしメーターが分かれている訳ではないため、何かしらの比率で按分します。これを家事按分といい、按分比率は「使用している時間」や「使用面積」などの合理的なもので決めることが重要です。

もし自宅の経費を家事按分せずに全額を事業用とした場合は、プライベート部分が含まれていることが明らかであり、税務署に指摘されるリスクが高まります。また、水道代を家事按分比率5%、事業用95%などとした場合、たとえ自宅でほぼ事業をしていたとしても、水道の利用がほぼ事業のためとする強い証拠が求められるでしょう。家事按分をした上で、按分比率が常識的な比率であるかどうかも検討しましょう

4.領収書などの客観的な証拠があるかどうか。

領収書やレシートなどの客観的な証拠がないと、事業に関係する経費であるという根拠付けが弱くなります。どうしても見つからない場合は、より状況を詳細に記録したメモ書きや出金伝票を残しましょう。

よくある疑問(具体例)

経費になるかどうか悩むポイントを、いくつか紹介します。

  • 事業用で購入した衣装代

前述したとおり、事業のために購入した場合でも、スーツや洋服はプライベートでも着用できるため、経費になるとは限りません。ただしプライベートでは着用できない状況等については、経費とすることが可能です

  • ベビーシッター代

仕事をするためにベビーシッターを依頼したとしても、原則として代金は経費にはなりません。

  • 税金

個人事業主が支払う所得税、住民税は、個人が支払うものであるため経費にはなりません。ただし事業をしていることで支払う個人事業税は全額、固定資産税は業務用の部分が経費となります。

  • 自分の給料(生活費)

個人事業主は、自分の給料を経費にすることはできません。また生計を一にする家族への給料も原則として経費にはできません。青色申告をして届け出をすることで、所定の要件を満たせば青色事業専従者の給与を経費として計上できます。

それ以外の従業員を雇った場合は、給料を経費とできます。

  • 一人の食事、飲み物代

仕事の途中、一人で食事をしても、原則として食事代は経費にはなりません。仕事の途中で飲食するお茶やお菓子も同様です。商談のために相手がいたり、来客用の茶菓子であったりすれば経費になります。

  • 従業員がいない場合の福利厚生費

従業員が一人もいない状況では福利厚生費という概念がないため、経費にできません。

  • 事業に必要な資格取得費用

事業に直接必要な資格取得費用や研修の費用は、経費になります。ただし、個人に帰属する資格の取得費用は経費にできません。個人に帰属する資格とは、医師や弁護士など資格を持った人だけができる業務がある国家資格などをいいます。また、事業以外でも使える資格、例えば普通自動車の免許取得費用などは、経費計上が難しいケースが多くあります。状況に応じてよく検討しましょう。

  • 車を事業でしか使用しない場合の、車両購入代金やガソリン代

理論的には、事業でしか使用しない場合は全額経費となります。ただし、車を1台だけしか保有していない場合、本当にプライベートで一切運転をしないかどうか、疑念を持たれる可能性があります。根拠をしっかりと残しておく必要があるでしょう。

まとめ

以上、個人事業主が経費にできるものの判断基準を紹介しました。

事業に関連するものは原則として経費とできます。ただし、客観的に事業と関連性が薄いと思われるもの、金額の大きいもの、売上と比較して金額が大きいものなどは、指摘されるリスクがあるため、根拠を残すことが大切です

また、スーパーのレシートや、事業をしている場所とは離れている店舗での買い物など、客観的に見てプライベートのものではないかと疑念の持たれる可能性のあるものは、状況の記録を残しておきましょう。

最終的には税務署とのコミュニケーションを経て、経費か否かが決定されることになりますので、多分に「税務署を納得させることができるか」という点が重要になってきます。

逆に、経費として根拠のあるものはすべて計上し節税しましょう。プライベート分が混在していても、事業でも使用しているものは、家事按分することで経費にできます。自宅の家賃、通信費、光熱費や、プライベートと兼用の携帯代金、住宅ローンの金利部分なども、按分して計上できます。

経費となるものの判断を始めとして、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください

個人事業主の方が、税理士に依頼するタイミングを考えているケースは多いのではないでしょうか。しかし、そもそも税理士は何をしてくれるのかを理解し、何をして欲しいのかが明確でないと、効果的な依頼ができません。そして「何をして欲しいか」という目的は、その時の事業の状況と事業者の方の考え方によるため、それぞれタイミングも異なります

このコラムでは、まず税理士に依頼できることを紹介します。そして「一般的に」税理士に依頼するタイミングを紹介し、目的によって何を依頼すれば効果的であるかを説明します。ミスマッチを防ぐとともに、目的に沿ったサービスを効果的に利用しましょう。

税理士に依頼できること

税理士の仕事は、主に以下のとおりです。

確定申告

個人も法人も、所得があれば確定申告が必要です。代理で申告書を作成し、提出する仕事は税理士だけが行うことができます。

月次顧問

月次顧問契約では、年間にわたり業務を行います。顧問契約の業務範囲は税理士によって細かい点が異なります。一般的には以下のような業務を請け負っています。

(1)月次での数字チェック

月次での業績がわかるように、毎月帳簿をチェックします。

(2)節税アドバイス、質問対応

年間を通して節税のアドバイス、顧問先からの税務に関する質問対応を行います。

(3)資金繰り、借入時のサポート

借入をする際には金融機関の審査があり、税理士は審査対応のための説明や書類作成をサポートします。

創業支援

創業時の各種手続きの代行や、創業時に銀行借入をする際の書類作成サポートなどを行います。

記帳代行

会計ソフトへ仕訳を計上する業務を代行します。事業者によってボリュームがかなり異なり、また、領収書の整理など書類の整理から請け負うケースもあります。

税務調査の立ち会い

税務調査が入った時に、同席して経営者の方をサポートします。

事業承継サポート

中小企業では後継者不足に悩んでいるケースが多くあり、税理士は、事業承継対策のサポートを行います。内容としては、事業承継税制の活用を始めとした事業承継に関する税務処理のアドバイス、相談対応などさまざまです。

相続対策

相続税・贈与税の節税対策アドバイスや、申告業務を行います。

税理士に依頼する目的とタイミング

税理士に依頼する場合、「何の目的」で「何を依頼するか」を明確にすることが大切です。一般的に、税理士を依頼する目的とタイミングを紹介します。

税理士に依頼する主な目的

一般的に経営者が、最初に税理士を依頼したいと考える目的を紹介します。開業、または法人設立の際に、手続面や借入のサポートをして欲しい

  • 記帳や書類整理などの事務処理の負担を軽減したい
  • 専門知識が必要な確定申告書の作成を依頼したい
  • 所得が増えて来たので節税アドバイスを受けたり、税務相談がしたい

税理士に依頼するタイミング

一般的に経営者が、税理士を依頼するタイミングを紹介します。

(1)借入を検討する時

借入をするには、金融機関の審査が必要です。返済能力があると判断されなければ借入ができません。創業時など経営実績がない場合や、業績が悪化している場合などは、事業内容・業績の説明や事業計画の作成が特に細かく求められます。

借入をしたことのない方にとっては経験や知識が少なく、計画の作成方法に不安があるため、税理士のサポートがあるとスムーズです。その後、引き続き月次顧問を検討するケースも多くあります。

(2)規模拡大により事務処理が煩雑と感じた時

事業を始めた当初は取引数も少なく、ご自身で書類整理や記帳ができていたものの、事業規模が拡大すると事務処理が煩雑と感じるようになります。また税務は専門知識が必要であるため、勉強するよりも専門家に任せた方が楽かつ正確です。税理士にコストをかけてでも経営者が「経営に専念したい」と感じ始めた時は、事務負担を減らすために記帳代行や確定申告を税理士に依頼しようと検討するタイミングです。

(3)売上が1,000万円を超えた時

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になります。所得税(法人の場合は法人税)の他に消費税の申告が必要になり、確定申告業務などの事務処理の負担が増えるため、税理士に依頼をしようと検討するタイミングになります

また、2023年10月1日からのインボイス制度の適用開始により、売上1,000万円以下でも適格請求書発行事業者を選択し、消費税の申告が必要になるケースが増えることになります。このため、売上の金額にかかわらず消費税の申告のために税理士の関与を検討するケースも増加すると思われます。

(4)法人化する時

法人化する時は、税理士の関与を検討するタイミングの一つです。個人事業主が法人化する主な理由は、所得が増えて法人化した方が節税になると判断されるからです。規模的にも事務負担が多くなっており、また、税理士コストも賄える状況であることから、法人化をきっかけに税理士の関与を検討するケースが多くあります。

法人化は事務手続きが必要なだけでなく、法人の確定申告は個人と比べて書類も増えて煩雑になります。このため経営者は、税理士に依頼して事務処理の負担を減らし、かつ正確な申告をしたいと考えます。また法人化してさらに規模を大きくしたいと考えるため、税理士と顧問契約をして節税アドバイス、月次での数字報告、経営相談のサポートのサービスを活用したいニーズが増えるでしょう

以上、一般的に税理士を依頼するタイミングを紹介しましたが、もちろんいつでも依頼は可能です。何を依頼したいのか、状況に応じて事前に明確にすると効果的です。

税理士に依頼するにはコストがかかるため、コストと得られる効果を比較して検討しましょう。ただし、効果は金額だけで測定できるものではなく、依頼してみなければわからないことも多くあります。気になる場合は、一度相談してみるのもよいのではないでしょうか

税理士に依頼する時の注意点

税理士と契約しても、思ったような効果が出ないと感じるケースもあります。こうした不満を防ぐために、税理士に依頼する際の注意点を紹介します。

信頼関係

経営者と税理士は、信頼関係があることが重要です。この人なら信頼できる、この人とは相性がよい、と感じる税理士を選びましょう。話しやすくて気軽に連絡ができる、アドバイスされたことは素直に納得できると感じるような税理士を選ぶとよいでしょう。

依頼範囲の明確化

税理士へ依頼できることは、前述したとおりさまざまです。このため、依頼業務の範囲に関してお互いの認識のズレが生じることもあります。例えば、月次顧問の範囲にどの業務までが含まれるのかといった点など、どこまで依頼できるかをできる限り明確化しておくと、後々不満が生じにくくなります

依頼は早めにする

税理士に依頼する際は、求められる資料や情報は早めに提出しましょう。時間がない中ではできることが限られてしまいます
また節税対策は、月次で顧問契約をする方が効果的です。決算日を過ぎると、できる対策は限られるからです。

得意分野の確認

税務といってもさまざまな分野があり、すべてに精通するのは困難です。税理士はそれぞれ得意分野があるため、依頼したい内容が得意な税理士を探しましょう。特に事業承継、相続対策、金融機関対応などは力を入れている、いないが分かれるところですので事前に実績等を確認するとよいのではないでしょうか。確定申告や月次顧問に関しては税理士業務の基本であるため、どの税理士も対応していることがほとんどです。

まとめ

以上、税理士に依頼できる業務と目的、依頼する時の注意点を紹介しました。税理士を依頼するとコストがかかるため、効果と比較してよく検討しましょう。その際には依頼する業務をしっかり把握して、目的に沿った依頼をすることが大切です

ただし、経営サポートや相談業務など、記帳代行のように明確な成果が測れないサービスも多くあります。税理士に依頼したいと感じるタイミングで、一度相談してみるのがおすすめです。

税理士に依頼できる業務などについては、永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。

中小企業の貸借対照表には「役員借入金」「役員貸付金」という勘定科目が計上されていることがあります。法人が役員から資金を借り入れている状況が「役員借入金」、逆に法人が役員に貸し付けている状況が「役員貸付金」です。原則として会社と役員(個人)のお金は別のものであり、明確に分けるべきです。しかし特に中小企業では、役員のお金に頼るなどのさまざまな事情により、会社と役員の間で資金の貸し借りが行われることがあり、役員勘定が発生してしまいます。

両者は同じような科目に思えるものの、実は対外的な評価は大きく異なります。役員借入金は対外的にはさほど問題にはならないのに比べて、役員貸付金があると会社の評価が下がり、融資時などに問題とされてしまうのです。

このコラムでは「役員借入金」「役員貸付金」が発生する理由と、それぞれの科目を使うことによるメリット、そしてデメリット・問題点、解消方法を紹介します。

役員借入金の概要、メリットと問題点、解消方法

役員借入金は、役員から資金を借り入れる時だけでなく、さまざまな理由で発生します。発生する主な状況と、メリット及び問題点を紹介します。

役員借入金が発生する理由

役員借入金が発生する理由は、例えば以下のようなケースが起きたことによります。

  • 役員が会社に資金を入金した場合
  • 役員が個人で経費を立て替えしたものの、法人から返金してもらっていない場合
  • 役員報酬が資金不足で支払えなかった場合

実際に入金する場合だけではなく、会社の経費を役員の資金で支払ってしまった場合にも、役員借入金勘定は発生します。つまり会社が資金不足になった時だけでなく、会社と個人のお財布(経理)が混同し、しっかり精算がおこなわれていない場合にも発生します

メリット

特に中小企業など小規模の事業者では、事業活動の中で資金繰りに問題が発生することも多いでしょう。一般的には金融機関から借入をしますが、借入には審査が必要で、入金までに時間がかかります。一時的な資金不足や早急に資金が必要な時には、金融機関ではなく役員から借入すれば、審査不要ですぐに入金され、利息もかかりません。返済期限も決める必要がなく、中小企業の資金繰りの方法としてよく利用されます

デメリット・問題点

役員借入金は、金額が大きくなると特に問題になることがあります。主な理由は以下の2点です。

(1)相続税の対象となる

役員側から見ると、会社への「貸付金」つまり債権であり、役員が亡くなった場合は相続財産となり、相続税の課税対象です。もし会社の資金繰りが悪く、回収が厳しい状況であったとしても、原則として額面で評価されてしまいます。つまり実際の価値以上に評価され、相続税を納めなければならなくなるケースもあります。
会社側から見ると、役員借入金がもし役員の相続人に相続された場合、急な返済を求められる可能性もあります。

(2)金融機関の評価

個人と会社で資金を分けてしっかりと管理できていないとみなされる可能性があり、役員借入金が多ければ金融機関からの評価が下がるリスクがあります。ただし資金面では資本と同様の評価をされることがほとんどで、デメリットとなることは少ないでしょう。役員借入金は利息の支払いや返済期限がないことがほとんどで、会社から見たら資本と似た性質と見なされるためです。

解消方法

上記デメリットを解消するため、金額が多額になる前に精算を進めることが望ましいでしょう。主な削減方法は主に以下の3点です。

(1)資金を役員に返済する
資金の余力があれば良いですが、そうでなければ役員報酬を減額して会社に資金をため、それを原資として返済することも有効な手段です。

(2)債務免除する
返済が厳しい場合には、債務免除も有効です。しかし債務免除をすれば会社の益金となり法人税の課税対象となるため、臨時的な損失が発生する期などに行うことが一般的です。

(3)現物出資する
役員が所有する「会社への貸付金」という債権を現物出資することで、会社では負債であった役員借入金を資本に振り替える方法があり、これをDES(デット・エクイティ・スワップ)といいます。ただし増資部分の株式は時価で割り当てられるため、貸付金の金額が満たない場合は差額が受贈益として法人税の課税対象となることがあります。また増資には株主総会等の手続きを始めとして、法的な手続きが必要です。事前によく確認しましょう。

役員貸付金の概要、メリットと問題点、解消方法

役員貸付金は、借入金とは逆に会社から役員へ資金を貸し付ける場合の他、さまざまな理由で発生します。発生する主な状況と、メリット及び問題点を紹介します。

役員貸付金が発生する理由

役員貸付金が発生する主な理由は、例えば以下のようなケースが起きたことによります。

  • 会社が役員に資金を貸し付けた場合
  • 会社の資金で役員のプライベートな支出をした場合
  • 使途不明な支出がある場合。

上記のケースでも、もし役員借入金の残高があればその返済として処理します。法人から役員へ支出した分が多い場合に「役員貸付金」として残高が残ることになります。

メリット

会社にとって、役員貸付金のメリットは基本的にありません。早めの解消が望まれます。

デメリット・問題点

役員貸付金は、役員から返済してもらう債権です。役員貸付金は特に融資審査などの場面ではデメリットが大きくなります。役員借入金とは異なり、事業活動を続ける上での重要な問題点が多くなります。主な内容は以下の4点です。

(1)金融機関の評価

役員借入金同様、個人と会社で資金を分けてしっかりと管理できていないとみなされます。つまり特に役員貸付金の場合は、会社の資金を流出しており、会社の資金的基盤を弱くする一因です。また、借入した資金を役員個人に流用しているともとられ、さらに金融機関の評価は悪くなります。融資を受ける際に、評価を下げる一因となるでしょう。

(2)資金不足になる

役員へ資金が流れるため、本来の運転資金などが不足するリスクがあります。

(3)利息が発生し法人税の負担が増える

役員貸付金は、役員から決められた最低限の利息を徴収しないと、役員に対して利息分が給与課税されてしまいます。このため利息を徴収しますが、利息は法人税の課税対象となり、法人税の負担が増えます

(4)役員賞与となる可能性がある

役員が返済できずに長期間残高が残っていたり、会社が債権を放棄したりすると、役員賞与と認定されるリスクがあります。役員賞与は法人の経費とならないため、法人税の負担が増え、さらに役員個人は源泉所得税の負担が増えてしまいます。

解消方法

資金的に安定した経営のために、早めの解消が望まれます。よく利用される削減方法は主に以下の3点です。

  • 役員報酬を増額して返済してもらう

役員報酬から天引きして返済にあてれば、少しずつでも返済が進み、かつ現実的な方法です。

  • 退職金で返済してもらう

金額が多額で役員の退職時までに返済できなかった場合には、退職金の中から返済してもらう方法があります。退職金は多くの場合、税務上経費とできる金額が大きいため、まとまった金額を経費の範囲内で返済してもらえるでしょう。ただしこの場合返済分が差し引かれるため、退職金として実際に支払えるお金そのものは減少します。

  • 役員が個人で借入して返済する

会社としては返済されますが、役員個人では借入が残り負担は減りません。

まとめ | 対外的な評価は大きく異なります

以上、役員借入金と役員貸付金の概要、問題点、削減方法を紹介しました。同じ「役員」勘定でも、役員貸付金は金融機関などの外部の評価は悪く、事業活動を続ける上で問題となる点が多くあります。特に融資を受ける際の障壁となるため、早期の解消が望まれます。まずは会社の資金から、役員がプライベートで資金を引き出さないこと、使途不明な支払いをなくすことを徹底した上で、毎月少しずつでも実際に返済してもらうように、給与天引きなどを検討しましょう。税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください

社会保険とは、健康保険、年金保険のあわせたものを指しますが、その他にも、労働保険と呼ばれる労災保険と雇用保険などの保険制度も存在します(なお、これら全てを総合して社会保険と呼称する場合もあります)。いずれも、条件に当てはまった場合には加入が義務付けられている制度になります。

このコラムでは、社会保険(健康保険・年金保険)の2022年10月より適用対象者が拡大されるため、その概要と、求められる会社の対応を紹介します。そして、増加すると予想される会社負担の社会保険料を、少しでも減らす方法を紹介します。今現在は対象ではなくとも、今後対象となる可能性がある場合には、参考にしてみてください。

2022年10月より、従業員数101人以上の企業を対象に、社会保険の適用対象者が拡大しました。さらに2024年10月からは、従業員数51人以上の企業が対象になり、中小企業であっても対象になるケースが増えそうです。

社会保険の適用対象者が拡大すると、勤務しているパート、アルバイトの方だけでなく、会社側も大きな影響を受けます。社会保険料の負担の面を考えると、本人と会社は半分ずつであるため、本人だけでなく会社側も負担が増えることになります。

社会保険の適用対象者が2022年10月から段階的に拡大

社会保険の適用対象者拡大の概要は、以下のとおりです。

1.対象となる企業の規模

2022年10月~従業員数101人以上、2024年10月~従業員数51人以上、と段階的に拡大。従業員数は、フルタイムの従業員+週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数でカウント

2.対象者の要件

・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2カ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない

対象となる規模の会社に勤務しており、要件を満たす従業員が今回の制度拡大の対象です。所定労働時間は契約上のものであり、臨時に生じた残業時間は含みません。月額賃金は、残業代、賞与、臨時的な賃金等は含みません。

会社の対応はどうすべきか

事前に社内で準備すべき対応は、主に以下のとおりです。

  1. 新しく加入対象となる従業員の把握
  2. 社内での通知
  3. 必要に応じて従業員の方との面談

まずは自社が対象となる旨と、制度の概要を社内で通知しましょう。その上で、新たに加入対象となる従業員に対しては、必要に応じて面談を行うとよいでしょう。従業員側の判断としては、勤務時間を減らして扶養の範囲内で働きたい方、社会保険に加入すると保険料の負担があるのでさらに勤務時間を増やしたい方などさまざまです。社会保険に入る加入メリット・デメリットも伝える必要があります。従業員の要望にすべて沿う必要はありませんが、今後自社での労働力がどのように変化するのかを事前に確認し、従業員への説明や、新たな採用などの方針を決める必要があります。

会社負担の社会保険料を減らす方法

会社側としては労働力の変化だけでなく、社会保険料の負担が大きな影響を与えます。今後社会保険加入者が増えれば増えるほど、会社負担の社会保険料も増加するでしょう。厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトでは、会社負担の社会保険料がどの程度増加するか試算できる「かんたんシミュレーター」があります。事前に試算して備えておきましょう。

社会保険料は給与の金額に応じて決まるため、節約することは通常できません。減らす方法として、役員報酬の見直しと、企業型確定拠出年金制度のひとつの種類である「選択制DC」の導入の、2点を紹介します。

役員報酬を見直す

給与の中でも、役員報酬は他の従業員よりもかなり高く設定されているケースがあります。役員報酬は法人税の節税対策にもなるため、簡単に下げればよいというものではありません。業績などさまざまな事情を総合的に判断し、もし見直しをして大幅に下げることができれば、社会保険料の削減に大きく貢献できる可能性があります。

また、賞与の社会保険料は上限があることから、年間の報酬を役員報酬ではなく役員賞与を多くとることで、社会保険料の削減につなげることも可能です。

選択制DCの導入

選択制DCとは、企業型確定拠出年金制度の種類のひとつです。企業型確定拠出年金の中でも、給与の一部を、給与としてもらうか、確定拠出年金の掛金として拠出するかを従業員が選択できる制度であり、この制度の導入で、会社負担の社会保険料を削減することが可能です。

企業型確定拠出年金制度は、企業型DCともよばれ、企業が加入する確定拠出年金です。企業型DCは、企業が掛金を負担して、大企業の福利厚生に利用されていることが多いイメージですが、あらかじめ認可されている年金規約に相乗りする総合型は、中小企業でも導入しやすい制度です。

企業型確定拠出年金は、公的年金にプラスして年金を受け取るための制度で、老後の資産形成の手段のひとつです。掛金を加入者が運用して年金原資とするものであり、企業版401kと呼ばれています。次の項目で、選択制DCの概要と、法定福利費の削減につながる理由の詳細を紹介します。

選択制DCの概要とメリット、デメリット

選択制DCとは、給与の一部を、「給与としてもらう」か「DCの掛金として拠出する」かを従業員が選択できる制度であり、前述したように社会保険料削減などのメリットがあります。しかし一方でデメリットもあるため、合わせて確認しておきましょう。

  • 企業型DCには従来型と選択制の2種類がある。従来型は企業が掛金を拠出するが、選択制は従業員が拠出する(企業が一部負担する、一部選択制もあり)。
  • 加入して掛金を拠出するかどうかは、従業員が選べる
  • 掛金上限は月額55,000円。

以下は、確定拠出年金共通の特徴です。

  • 毎月決められた掛金を拠出し、個人別に管理される。
  • 受け取り開始時期は原則60歳からで、それまでは受け取れない。
  • 運用商品は加入する加入者本人が選ぶ。元本保証ではない。
  • 運用益は非課税。
  • 受け取る時、一時金は退職所得扱い、年金は公的年金等控除が受けられ、税務上優遇されている。

もし現在の給与が30万円であった場合、選択制DCに加入して掛金5万円を拠出することを選択した時、給与の額面は25万円となり、残りの5万円が確定拠出年金への拠出になります。

同じ確定拠出年金でも、もし個人型のiDeCoに加入するならば、給与30万円の手取りの中から掛金を拠出します。一方で選択制DCの場合は、給与の一部をDCの掛金とすることを選択するため、給与自体の額面は下がるのです。このため、源泉所得税や社会保険料の負担を減らすことにつながります

そして社会保険料は、従業員の負担だけでなく、半分を負担する企業の負担も同時に減らせます。掛金の金額が多いほど、削減の影響は大きくなるでしょう。

【メリット】

  • 加入者は社会保険料、源泉所得税の負担を軽減できる
  • 加入者は老後の資産形成ができる
  • 企業は社会保険料の負担を軽減できる
  • 企業は福利厚生のアピールができる
  • 従来型の企業型DCのように、企業が掛金を負担せずに導入できる

ただし、メリットだけでなくデメリットもあります。

【デメリット】

  • 企業側は制度導入などの手続きや一定の費用負担が必要
  • 社会保険の等級が下がるため、厚生年金から将来受け取る年金は下がる
  • 社会保険の等級が下がるため、傷病手当等の各種給付の金額も下がる

このように、社会保険料は削減できるものの社会保険から給付される年金、手当の金額も下がることになります。しかしメリットも多いため、まずは年金の制度について従業員の方に説明し、しっかり理解をしてもらい、ご自身で判断ができるようにしてもらう必要があります。この説明、質疑応答も企業にとっては負担になるでしょう。

まとめ

以上、社会保険の適用対象者が拡大となる変更の概要と、会社の対応、そして会社負担の社会保険料を少しでも減らす方法を紹介しました。

社会保険の対象者が徐々に拡大し、中小企業であっても適用となる会社が今後増えることが予想されます。社会保険料の負担は、金銭面で大きな負担となる可能性が高いため、今から試算をした上で、対策を検討しておきましょう。税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください。

小規模企業共済は個人事業主や小規模企業の経営者にとって、特に節税メリットが大きいと言われる制度です。節税メリットが注目されがちですが、それ以外にさまざまなメリットがあります。

一方で注意点もあるため、確認しておきましょう。このコラムでは小規模企業共済の概要とメリット、そして注意点を解説します。まだ加入していない方は、参考にしてみてください。

なお、小規模企業共済は中小企業基盤整備機構が運営しています。中小企業基盤整備機構が運営している制度で、同じく節税効果が高いといわれる制度に「経営セーフティ共済」がありますが、こちらについては「経営セーフティ共済(倒産防止共済)の概要 | メリットと注意点を解説」の記事で紹介しています。是非ご確認ください。

小規模企業共済の概要

小規模企業共済は誰でも加入できる訳ではありません。小規模企業共済の概要と、加入要件を簡単に紹介します。

小規模企業共済の概要

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者等のための退職金積立制度で、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。国の機関が運営しており、安心して加入できるといえる制度ではないでしょうか。

掛金を支払い、退職や廃業、または65歳になったら、退職金代わりとしてお金(共済金)を受け取れます。掛金は月額1,000円から70,000円まで選べ、途中増額や減額も可能です。

受取事由は個人事業主、法人の役員ごとにそれぞれ決められています。個人事業主の場合、廃業、死亡、65歳以上になった場合、法人成りした場合、そして解約した場合などです。

小規模企業共済の加入要件

小規模企業共済は、退職金を事業または会社から捻出しづらい方のための制度であるため、加入要件は個人事業主、小規模企業の経営者・役員に限定されています。要件は、下記の通り業種によって異なりますが、おおむね従業員が5~20人の小規模事業者が加入できる制度です。

  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

(引用:中小企業基盤整備機構ホームページ

なお、個人事業主の配偶者や親族が事業専従者で、「共同経営者」の要件を満たす場合は加入が可能です。詳細は中小企業基盤整備機構ホームページを参照ください。

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済には、下記のようなメリットがあります。

  1. 掛金が全額所得控除の対象となる
  2. 掛金が増減できる
  3. 退職金代わりになる
  4. 貸付制度がある
  5. 受取時の税負担の軽減

1.掛金が全額所得控除の対象となる

その年に支払った掛金は、全額所得控除の対象となります。所得税は所得が高いほど税率も高くなるため、所得が高い方ほど節税効果が高くなります。

節税効果の目安は以下のとおりです。

(引用: 中小企業基盤整備機構ホームページ

2.掛金が増減できる

掛金の増減が随時可能であるため、資金の状況により調節ができます。節税金額を多くしたい場合には前納も可能です。

3.退職金代わりになる

個人事業主や小規模企業の経営者は、経営の状況によっては退職金をもらえないことが多くあります。小規模企業共済の共済金は、このような小規模事業者の退職金代わりとして利用できます。

税金の優遇を受けながら老後資金を準備する方法として、iDecoやNISAなどもありますが、それらと比較した小規模企業共済のメリットは以下のとおりです。

  • iDecoは原則として60歳までは受け取れないが、小規模企業共済は途中解約も可能
  • iDecoやNISAでの運用は、受取金額が運用結果に左右されるが、小規模企業共済は決められた金額が受け取れる
  • NISAでの運用資金は所得控除の対象にならないが、小規模企業共済の掛金は所得控除の対象となる

4.貸付制度がある

掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で資金を借りることができます。金融機関の借入と異なり審査がなく、入金までの期間も短いため、急な資金需要に対応可能です。

5.受取時の税負担の軽減

掛金は所得控除の対象となりますが、受け取った時には所得税の課税対象になり、税負担が発生します。しかし、小規模企業共済の共済金は税負担を少なくして受け取ることが可能です。

具体的には、資金の受取は原則として「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3種類から選べますが、税法上の取り扱いは、一括で受け取った場合は退職所得、分割で受け取った場合は公的年金等の雑所得です。どちらも所得税法上は控除面で優遇されています。

ただし、解約の場合は一時所得扱いになり、退職所得、公的年金等の雑所得と比較すると税負担は増えるため注意が必要です。

小規模企業共済のデメリット・注意点

このように、所得税の税額控除を受けながら老後の資金を確保できる小規模企業共済は、多くのメリットがあります。しかし一方で注意点があります。

それは、加入期間によっては掛金が掛け捨てまたは元本割れをする可能性があることです。特に途中で任意解約した場合には、そのリスクが高くなります。詳細を説明します。

共済金の受取事由には4種類ある

個人事業主の受取事由は以下のとおりです。

(引用: 中小企業基盤整備機構ホームページ

それぞれ、種類ごとに受け取れる共済金の条件が異なっています。

掛け捨てまたは元本割れをする場合

受取事由により、掛け捨てまたは元本割れをする状況が異なります。以下にまとめます。

  • 共済金A、共済金Bは、掛金月数6か月未満の場合は受け取れません
  • 準共済金、解約手当金は、掛金月数12か月未満の場合は受け取れません
  • 掛金月数が240か月(20年)未満で任意解約をした場合、受け取れる解約手当金は元本を下回ります

ここで240か月(20年)未満が元本割れのリスクがある、という面に不安な方もいるかもしれません。しかし、元本割れするリスクは任意解約の場合だけです。通常の廃業や65歳でもらえる老齢給付の場合は対象外です。例えば、iDecoの場合はそもそも解約ができない制度なので、解約できるだけでもメリットと考えることもできます。また、もし元本割れしても、所得控除ができている金額を考慮すれば、金額的にマイナスではないケースも多くあります。

まとめ

以上、小規模企業共済の概要とメリット、注意点を紹介しました。節税効果が高く、小規模事業者にはメリットが多い制度です。注意点も念頭におきながら、検討してみましょう。

また、小規模企業共済のほかにも老後資金の準備には、iDecoやNISA、貯金、保険などさまざまな方法があります。併用ができますので、それぞれの特徴を踏まえて組み合わせるのもよいのではないでしょうか。

小規模企業共済、iDecoやNISAを始め、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください

経営セーフティ共済は「倒産防止共済」とも呼ばれ、急に取引先が倒産した場合に、連鎖して自社の資金繰りも悪化し、倒産や経営難に陥ることを防ぐ趣旨の制度です。しかし、この制度は企業の「節税」のために使われていることが多くあります。

このコラムでは、経営セーフティ共済の概要、節税の観点から見たメリットの内容および注意点を解説します。まだ加入していない方は、参考にしてみてください。

経営セーフティ共済の概要

経営セーフティ共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。国の機関が運営元であり、安心して加入できます。

経営セーフティ共済の制度概要および加入要件を紹介します。

制度の概要

経営セーフティ共済は、取引先が倒産等の所定の状況に陥った場合に、無担保・無保証人で「回収困難となった売掛金債権等の額」と「納付された掛金総額の最大10倍(上限8,000万円)」の少ない方の金額を借入できる制度です。

借入ができるのは、取引先の状態が法的整理、取引停止処分、私的整理、災害による不渡となった場合などです。

加入者は掛金を支払い、総額800万円まで積立が可能です。掛金月額は5,000円から20万円までの範囲で選択できます

加入要件

継続して1年以上事業を行っている中小企業者が対象です。ただし、個人事業主が法人成りした場合は個人事業開業後1年以上が経過していれば加入できます。

要件を満たせば個人事業主も対象です。詳しい加入要件は以下のとおりです。

(出典:中小企業基盤整備機構ホームページ

経営セーフティ共済のメリット

経営セーフティ共済は、前述のとおり、取引先の倒産に連鎖して自社が経営困難に陥るリスクに備える制度です。このため倒産防止共済とも呼ばれます。

この制度は他にもさまざまなメリットがあり、多くは節税に使われています。主なメリットは以下のとおりです。

  1. 掛金が損金算入できる
  2. 掛金が増減できる
  3. 40か月以上掛金を納付すれば、解約しても全額が戻る
  4. 取引先の倒産時に無利息、担保・保証人不要で借入が可能
  5. 倒産時以外にも限度額の範囲内で借入可能

1.掛金が損金算入できる

「節税になる」と言われるのは、掛金が全額損金として算入できるためです。掛金の支払額を全額経費とでき、その期の法人税を減らすことができます

2.掛金が増減できる

掛金月額は5,000円から20万円までの範囲で選択できます。また、増額や減額も随時可能です。資金の状況を見て調節ができるでしょう。

また、前納も可能です。節税のために、利益の状況を見ながら前納をすることも考えられます。ただし前納の申し込みには期限があります。決算日までに前納ができるように、期限に遅れないように注意しましょう

3.40か月以上掛金を納付すれば、解約しても全額が戻る

経営セーフティ共済は、法人の解散などの理由以外にも、理由を問わない任意解約が可能です。任意解約の場合でも、40か月以上掛金を納付すると100%掛金が戻ります

貯金をしながら損金に算入して節税にもなるということで、お得な制度と言われています。

4.取引先の倒産時に無利息、担保・保証人不要で借入が可能

本来の趣旨として紹介しましたが、取引先の倒産時に資金を借り入れられます。担保・保証人が不要で掛金の10倍までの借入が可能です。

利息は無利息ですが、ただし、借入れ後は、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されます

入金までの期間が短く、要件を確認したらすぐに入金されます。資金繰りに大きな影響が出ることを防いでくれるでしょう。

5.倒産時以外にも限度額の範囲内で借入可能

取引先の倒産時以外でも、事業資金を借入できます。ただし解約手当金の一定範囲内という借入限度額があります。返済期間は1年で、利率は2023年1月時点で年0.9%です。

担保・保証人が不要で審査もなく、入金までの期間が短いため、急な資金需要に対応できます

経営セーフティ共済の注意点

メリットは多いですが、注意点もあります。主には以下の2点です。

  1. 解約手当金の入金は法人税の課税対象となる
  2. 全額が戻らない期間がある

1.解約手当金の入金は法人税の課税対象となる

掛金を支払った分は損金となるため、法人税の節税となりますが、解約等で解約手当金が入金された時は法人税の課税対象となります

掛金が100%戻ってきたならば、長い目で見れば法人税の課税金額は変わりません。しかし、解約手当金の入金時期を選ぶことで、うまく節税することが可能です。例えば解約時期を、赤字が大きい期や役員が退任して退職金を支払った期などを選ぶことで、マイナスと相殺できれば税額が発生しませんし、所得が少なければその期の法人税の負担を抑えられます。

セーフティ共済は最大800万円まで積立が可能です。損金になることに注目しがちですが、入金した時には800万円が法人税の課税対象となることを念頭に置き、解約する時期を慎重に選ぶことが大切です

2.全額が戻らない期間がある

任意解約の場合、40か月以上加入していなければ掛金の全額は戻りません。特に1年未満の解約では、どのような理由でも解約手当金はありません

経営セーフティ共済は、倒産時に借入ができるという一種の保険がある制度ですので、掛金の全額が戻らない期間があることを念頭に置いておきましょう。

ただし40か月という期間はそこまで長期間ではないと考えられます。掛金が損金となり、法人税が節税できていることを考えれば、お得な制度といえるのではないでしょうか。

まとめ

以上、経営セーフティ共済の概要、メリットと注意点を紹介しました。経営セーフティ共済は独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しており、安心して加入できる制度といえるでしょう。同じ中小企業基盤整備機構が運営している「小規模企業共済」とともに「安心かつ節税になる制度」として知られています(小規模企業共済については「小規模企業共済とは?メリットとデメリット、概要を解説」の記事を参照してください)。掛金は変更ができ、最大月額20万円、前納も合わせると一年で最大480万円を拠出でき、所得が大きい期には最大480万円を損金とできるため大きな節税になります。

ただし解約手当金は法人税の課税対象となるため、解約時期をいつにするかを検討しておくことが大切です。セーフティ共済への加入を始め、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください

年末調整と確定申告は、ともに1年間の所得税の金額を確定させる手続です。しかし対象者が異なります。また、どちらか一つだけではなく年末調整をしていても確定申告も行う方もいます。

このコラムでは、年末調整と確定申告の概要と対象者、両方が必要になるケース、必要ではないが確定申告をした方が得になるケースを紹介します。

年末調整と確定申告の違い

年末調整と確定申告の違いは何でしょうか。おおまかには、会社員は年末調整、その他の自営業者などの方は確定申告を行い、所得税を確定します。それぞれの概要と、詳細な対象者などを説明していきます。

年末調整とは?概要と対象者

年末調整とは、1年間の給与が確定したら、年間の所得税の金額を計算する手続きです。年末までにすでに源泉(天引き)してある所得税と最終的に支払う所得税の差額を還付または徴収します。

対象者は給与をもらっている会社員です。そして会社員の中でも、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、年末に在籍している方になります

会社員の中には社長や役員も含まれますが、

上記の条件に当てはまる会社員であっても、主に下記の場合には年末調整を行いません。

  • 給与の年間収入が2,000万円を超える場合
  • 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている場合
  • 前職があるが、前職の源泉徴収票を提出しない場合

稀に従業員から「確定申告をするため、年末調整はしなくてもよい」という申し出がある場合があります。しかし会社としては年末調整の義務があるため、対象者であれば年末調整を行わねばなりません。

年末調整をしても、さらに確定申告が必要なケース、した方がよいケースがあります。どのような場合でも、年末調整を受けた上でさらに確定申告をすることは可能です

確定申告とは?概要と対象者

確定申告とは、1月1日から12月31日までの所得を確定して所得税の金額を計算し、税務署に申告した上で所得税を納付する手続きです。

所得があり、所得税が発生するすべての方が対象です。自営業者の方、フリーランスの方など事業を行っている方などが当てはまります。ただし、会社員で年末調整を受けた方は原則として確定申告の必要はありません。しかし、上記で述べた、給与の年間収入が2,000万円を超えるなどの「年末調整の対象外」の方は確定申告が必要です。

会社員がもらう給与は「給与所得」ですが、所得の種類には他にも「事業所得」「不動産所得」など10種類あります。これらの所得が基礎控除48万円を超える場合は原則として確定申告が必要です。ここで所得とは、収入から必要経費、所得の種類ごとに決まっている控除を差し引いた金額です。単純に「収入」の金額ではなく、儲けの部分であることに注意してください

原則として、所得が基礎控除の金額以上であれば確定申告が必要と考えるべきですが、例外的に確定申告が必要ないケースがあります。代表的には、以下のような場合です。

  • 株式売却や配当の所得があるが、証券会社などで「特定口座の源泉徴収あり」で取引した場合
  • 公的年金等による収入が400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下である場合

年末調整をしていても確定申告が必要なケース

注意点として、会社員が年末調整を受けても、確定申告が「必ず」必要なケースがあります。主なケースは以下のとおりです。

  • 2箇所以上で勤務している場合。ただし年末調整されなかった勤務先での所得が20万円未満の場合は除きます。
  • 給与所得以外に年間20万円以上の所得がある場合
  • 年末調整で誤った情報を勤務先に伝えてしまったが、訂正期限が過ぎてしまった場合

年末調整をしてもらった所得以外に「20万円以上の所得」があれば、確定申告が必要です。例えば複数箇所で勤務している場合、フリーランスとして副業をしている場合などが当てはまります。最近では暗号資産の取引をする方が増えていますが、所得が出た場合は雑所得にあたり、確定申告が必要です。株式の特定口座の取引とは異なりますので注意してください。

繰り返しますが20万円はあくまで「所得」であり、「収入」ではありません。例えばフリーランスとして副業をした場合、収入が20万円あっても経費を差し引けば20万円以下になる場合は、申告の必要はありません。

また「扶養できない方を扶養として申告してしまった」など、年末調整を誤ってしまうことがあります。会社が訂正を受け付けてくれる場合はよいのですが、事務手続上一定の期日で締め切っていることがほとんどでしょう。この場合はご自身で確定申告が必要です。

その他、上場株式等に係る譲渡損失と配当所得等との損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けようとする方などは、上記に当てはまらない方であっても確定申告が必要です。

年末調整をしていても確定申告をした方がよいケース

年末調整をしていても、確定申告「も」した方がよいケースは、確定申告をすると所得税が還付されるケースです。主なケースは以下のとおりです。

  • 医療費控除を受ける場合
  • 住宅ローン控除を受ける初年度の場合。(2年目以降は年末調整で還付してもらえます。)
  • ふるさと納税をして、ワンストップ特例の適用を受けない場合
  • 年末調整で、控除を適用できる資料を提出漏れしてしまった場合

普段年末調整をしてもらっている方は、確定申告に縁がないことが多いかもしれません。しかし、上記の場合は確定申告をすると所得税が還付になるため、確認してみましょう。

年末調整をしている方が確定申告をする場合は、源泉徴収票が必要です。数字を転記する必要があるため、必ず保管しておきましょう。

ふるさと納税は、会社員の場合「ワンストップ納税」が便利です。自治体へワンストップ納税の申請書を送付しておけば、確定申告をせずに翌年の住民税から自動的に税金を控除してくれます。しかし、寄付団体が5自治体までという制限があるので注意が必要です。ワンストップ納税の適用を受けない方は、確定申告をして税金の還付を受けます。この場合は、寄付自治体数の制限はありません。

この他、年の途中で退職して年末調整を受けられなかった方で、給与の他に所得がない方は、確定申告をすると所得税が還付される可能性が高いです。確認してみましょう。

まとめ

以上、年末調整と確定申告の違いについて説明しました。年末調整は給与をもらう会社員だけが受けられる制度です。年末調整は、書く書類が多くて面倒だと思う方もいるかもしれません。しかし多くの場合、確定申告の方が手間がかかります。確定申告をせずに、所得税を確定する手続きを、勤務先が代行しているともいえます。

ただし年末調整をしているからといって、すべてのケースで確定申告をしなくてもよい訳ではありません。確定申告をしなければならない、または、確定申告をすると所得税の還付が受けられるケースを確認しておきましょう。

もし還付のための確定申告を失念しても、その年の翌年1月1日から5年間は申告が可能です。諦めずに申告してみましょう。年末調整、確定申告を始め、税務相談については永安栄棟公認会計士・税理士事務所にお問い合わせください