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企業が税務調査を完全に避けることは難しいですが、対策を講じることで調査対象になる確率を下げることは可能です。

本記事では、法人に対する税務調査の実施状況と、調査で指摘されやすいポイントについて解説します。

法人に対して行われる税務調査の内容

法人は個人事業主よりも税務調査を受ける確率が高く、調査対象となる税目は法人税だけではありません。

法人が税務調査を受ける確率

令和4事務年度に実施された税務調査の件数は6.2万件、実地調査以外の調査等の件数は6.6万件に上ります。

令和4年度の法人税の申告件数は312.8万件ですので、申告法人の約4%は税務署から何かしらの調査を受けています。

理論上は25年に1度しか調査を受けない計算になりますが、税務調査は基本的に黒字申告を対象に調査を実施しますので、利益を出している法人は計算上の数値より調査を受ける確率が高いです。

提出された申告書のうち黒字申告割合は36.2%と、おおよそ3分の2は調査対象になりにくい赤字申告であり、国税庁が公表している資料によると、税務署の法人税・消費税の接触率は5年間で17.8%です。

出所:令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/hojin_chosa/pdf/01.pdf

税務調査の対象税目・対象期間

法人に対する税務調査は、法人税と同時に消費税や源泉所得税の調査を実施することもありますし、法人役員に関して問題があるときは、役員の所得税も調査対象になります。

税務調査は法律上5年前まで遡って実施することが認められていますが、一般的な調査では3年分の申告書を対象にすることが多く、調査可能期間すべてを調査するのは無申告や脱税の疑いがあるケースに限られます。

一方で、脱税など申告内容に大きな問題がある場合には、調査可能期間が5年から7年に拡大しますので、税金逃れはリスクしかありません。

税務署が実地調査でチェックするポイント

法人税の税務調査では、法人税の申告書だけでなく、申告書を作成するのに用いた帳簿書類や領収書・請求書、法人が使用している通帳なども調べます。

領収書が保存されていなければ経費計上が否認される可能性がありますし、電子帳簿等による保存が義務となりましたので、帳簿書類等が電子帳簿保存法に基づき適切に保存しているかもチェックします。

税務調査が実施されたとしても、申告内容に問題が無ければ追徴課税を支払うことにはなりません。

しかし、実地調査を受けた法人の4社に3社は非違事項を指摘されていますので、税務調査を受けないように対策することが肝要です。

出所:令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2023/hojin_chosa/pdf/01.pdf

税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類ある

税務調査は、任意調査と強制調査に区分されます。

任意調査は、納税者の同意の下で行う税務調査をいい、一般的に実施されている調査は任意調査です。

調査担当者が無理やり調査を進めることはありませんが、納税者はやむを得ない事情が無い限り調査に協力することが求められますので、税務署から税務調査を実施する旨が伝えられた際は応じなければなりません。

強制調査は、納税者の同意を必要としない調査をいい、国税局査察部(通称:マルサ)が調査を担当します。

強制調査はマルサが突然自宅等に訪れて関係資料を捜索し、必要に応じて資料等を押収するなど、警察が家宅捜索するのと似ています。

追徴課税を支払うことで原則調査が完了する任意調査とは違い、強制調査は追徴課税だけでなく、刑事罰に処される可能性が高いのも特徴です。

ただし、強制調査の対象になるのは悪質な脱税犯だけですので、計算ミスや単純な申告漏れがあったことだけを理由に強制調査が実施されることはありません。

任意調査の「実地調査」と「簡易調査」の違い

税務署は調査する内容によって、実地調査と簡易調査(実地調査以外の調査)を使い分けています。

実地調査は、調査担当者が自宅や事務所を訪れて申告内容を確認する調査方法です。

法人に対する実地調査の場合、帳簿書類を調べるだけでなく、社長や経理担当から申告内容等についての聴き取りを行います。

聴き取った内容は署内の資料と照合して真偽を確かめますし、銀行や取引先に対しての反面調査で事実関係を調べるため、調査で嘘をつくことはできません。

簡易調査は、電話や税務署で申告内容を確認する方法です。

税務調査である点では実地調査と同じですが、調査担当者が特定の事項のみを確認したい時に用いられることが多いです。

また、税務署は自主的な申告内容の見直しを促す際に、行政指導を行うケースもあります。

行政指導は法律上の税務調査ではないので、行政指導により申告書を提出した場合、自主申告扱いとなります。

税務調査で修正申告等をした場合に比べ、課されるペナルティは軽減されますが、行政指導に応じないと実地調査や簡易調査に移行することもあるので注意してください。

税務調査で指摘されやすいポイント

税務署は企業がミスをしやすいポイントや、脱税の手口を把握していますので、調査対策を講じる際は要点を押さえることが大切です。

売上除外・経費の水増し

法人税の増差税額が発生するのは、基本的に売上の申告漏れと経費の計上誤りです。

現金売上は、除外する意思がなかったとしても計上漏れが発生しやすいため、調査担当者は現金売上の有無や現金の管理方法をチェックします。

経費に計上できるのは、収益を得るために支出したものに限られ、上限を超えた接待交際費や役員給与等の損金算入も認められません。

売上が急激に伸びた企業は、利益を抑えるために支出を増やす傾向にありますが、経費計上が否認されれば、無駄な支出をしただけになるので気を付けてください。

売上・仕入れの計上時期の誤り

法人税は事業年度ごとに損益を計算しますので、計上時期に誤りがあると各事業年度に生じる利益も増減します。

売上計上時期は実現主義が原則ですので、実現主義以外の基準で売上を計上している際は注意が必要です。

利益を抑えるために事業年度末に仕入や経費を増やすケースもありますが、計上時期の誤りを指摘されれば、事業年度における経費が減少し、利益が増えてしまいます。

役員との関係性

法人と役員の関係は、法人税の税務調査で必ず聴取されます。

役員との金銭貸借がある場合、契約書の有無や返済状況の確認も行われるため、適正にやり取りすることはもちろんのこと、税務調査で質問された際に回答できるよう準備しなければなりません。

役員報酬は一定の要件を満たした場合に限り損金算入が認められていますので、要件の適否だけでなく、役員の実態についても確認が入ります。

同族会社の場合、社長の家族が役員になっていることもありますが、勤務実態がない家族への役員報酬は否認され、損金不算入となります。

不完全な税務調査対策は逆効果

世の中には様々な節税方法や税務調査対策が存在しますが、効果の有無は法人の規模や経営状態によって異なるため、用いる手段は選ばなければなりません。

税務調査対策を講じたとしても、実態が伴っていなければ仮装隠蔽行為とみなされ、重加算税が課されることもあります。

税務調査で追徴課税を受けてしまうと、2回目以降の調査対象となる確率が上がるため、調査対象となった際の対処も重要です。

税理士も多種多様ですので、顧問税理士選びに迷われている場合は、調査対策が充実している税理士を選ぶようにしてください。

税務のお困りごとがございましたら、ぜひ一度永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

消費税を一般課税で計算する場合、仕入税額控除の適用は不可欠ですが、インボイス制度が導入されたことで仕入税額控除の要件が厳しくなりました。

本記事では、仕入税額控除の要件および、適用する際の注意点について解説します。

仕入税額控除の概要

消費税は、課税期間中の課税売上に係る消費税額から、課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を控除して納税額(還付額)を算出します。

課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」といい、仕入税額控除を適用するためには一定の要件を満たさなければなりません。

課税仕入れは、事業者が事業として他者から資産の譲り受けや借り受けを行うこと、または役務の提供を受ける取引等をいいます。

非課税や免税になる取引は課税仕入れには該当せず、給与等の支払いについても原則課税仕入れには含まれません。

ただし、加工賃や人材派遣料など、事業者が行う労働やサービスの提供の対価には消費税が課されますので、外部に委託する際に支払う委託料などについては課税仕入れに該当することから、仕入税額控除の対象となります。

<主な課税仕入れ取引>

  • 棚卸資産(商品など)や原材料等の購入
  • 機械や建物等のほか、車両や器具備品等の事業用資産の購入または賃借
  • 広告宣伝費、厚生費、接待交際費、通信費、水道光熱費などの支払い
  • 事務用品、消耗品、新聞図書などの購入
  • 修繕費、外注費の支払い

インボイス制度の導入による仕入税額控除への影響

仕入税額控除を適用する場合、令和元年10月1日から令和5年9月30日までは「区分記載請求書等保存方式」の要件を満たす必要がありました。

しかし、令和5年10月1日からは「適格請求書等保存方式」の要件を満たさないと、仕入税額控除は適用できなくなります。

インボイス制度とは

適格請求書等保存方式(インボイス制度)」は、複数税率に対応した仕入税額控除の方式で、インボイス制度導入後に仕入税額控除を適用するためには、売手から交付された適格請求書(インボイス)等の保存が必要です。

インボイスを交付できるのは、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録した事業者に限られます。

事業者自身(買手)が適格請求書発行事業者の登録を行っていたとしても、売手が適格請求書発行事業者でなければ適格請求書は発行されないため、その売手からの課税仕入れは原則仕入税額控除の対象外です。

出所:インボイス制度が始まります!(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0022001-174.pdf

仕入税額控除の適用にはインボイス保存が必要

適格請求書発行事業者には、インボイスの発行が義務付けられており、仕入税額控除を適用するためには、原則適格請求書発行事業者から交付を受けたインボイスの保存が必要です。

<インボイスの記載事項>

  • 適格請求書発行事業者の氏名(名称)および登録番号
  • 課税資産の譲渡等を行った年月日
  • 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容
    (課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容および軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
  • 課税資産の譲渡等の税抜価額または、税込価額を税率ごとに区分して合計した金額および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名(名称)


出所:インボイス記載事項チェックシート(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0024002-057_a.pdf

仕入税額控除を適用するために保存すべき書類等は、インボイス(適格請求書)だけでなく、納品書や領収書、レシートなども含まれます。

<仕入税額控除を適用するために保存すべき請求書等>

  • 適格簡易請求書
  • 適格請求書の記載事項が記載された仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類(課税仕入れの相手方において課税資産の譲渡等に該当するもので、相手方の確認を受けたものに限る)
  • 次の取引について、媒介または取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類 (1)卸売市場において出荷者から委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の販売(2)農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等が生産者(組合員等)から委託を受けて行う農林水産物の販売
    (無条件委託方式かつ共同計算方式によるものに限る)

インボイス保存が緩和されるケース

仕入税額控除を適用するためには原則インボイス保存を要しますが、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用が認められます。

<帳簿のみの保存で仕入税額控除が適用できるケース>

3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客の運送
取引年月日以外のインボイスの記載事項が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除く)
古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
(古物営業を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得 (質屋を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入 (宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当する場合に限る)
適格請求書発行事業者でない者からの再生資源および再生部品の購入 (購入者の棚卸資産に該当する場合に限る)
3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入等
郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス
(郵便ポストに差し出されたものに限る)
従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等
(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)

帳簿のみの保存で仕入税額控除を適用する場合、帳簿に通常必要な記載事項に加え、次の事項を記載する必要があります。

  •  帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
  •  仕入れの相手方の住所または所在地
    (一定の者を除く)

たとえば、電車料金を仕入税額控除の対象とする場合には「3万円未満の鉄道料金」、自動販売機で商品を購入した際には「〇〇市 自販機」のように記載することになります。

インボイス制度の「少額特例」

一定規模以下の事業者は、インボイス制度を導入したことで事務負担を軽減する措置として、「少額特例」を適用することが可能です。

少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除を適用できる制度です。

取引先が適格請求書発行事業者であるかは関係ないため、一定規模以下の事業者に該当すれば特例を受けることができます。

「一定規模以下の事業者」は、基準期間における課税売上高が1億円以下または、特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者です。

税込1万円未満の課税仕入れに該当するかは、1回の取引における課税仕入れに係る金額(税込み)が1万円未満なのか否かで判定します。

1つの商品が1万円未満だとしても、複数の商品を同時に購入したことで1回の取引における課税仕入れが1万円以上になれば、少額特例の対象外となります。

少額特例の対象期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間であり、令和11年10月1日以後に行う課税仕入れについては、課税期間の途中でも少額特例は適用できなくなるので注意してください。

免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置

インボイス制度導入後、適格請求書発行事業者以外の事業者からの課税仕入れは、原則仕入税額控除の対象から外れます。

しかし、適格請求書発行事業者以外の事業者からの課税仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置を適用できます。

<対象期間と適用割合>

期間割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで仕入税額相当額の50%

経過措置の適用を受けるためには、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された帳簿および請求書等の保存が必要です。

また、帳簿については「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しなければなりません。

まとめ

インボイス制度は、免税事業者が課税事業者に変更したことで生じる税負担や、インボイスの交付するための作業負担増に注目されていますが、適切にインボイスを保存しないと仕入税額控除を適用できないのも大きな変更点です。

消費税の税務調査は法人税や所得税と同時に実施されることが多いため、調査対策は必要ですし、誤った方法でインボイスを保存してしまうと、仕入税額控除の適用が否認される可能性があります。

税務署に一度目を付けられてしまうと、何度も税務調査の対象となってしまいますので、専門家に要件等を確認した上で仕入税額控除を適用してください。

税務のお困りごとは、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

会社が法人税の確定申告をする場合、白色申告ではなく青色申告で手続きすることが望ましいです。

国は青色申告を推進するために様々な特典を用意しており、法人税を節税するためには、青色申告の優遇措置を上手く活用する必要があるからです。

本記事では、法人が青色申告で申告するメリットと、手続き上の注意点について解説します。

青色申告とは

青色申告制度は、税務署の承認を受けた事業者が一定の要件を満たした帳簿書類を備え付け、青色の申告書により申告手続きを行う制度です。

事業者は確定申告をするために記帳等を行っていますが、青色申告は記帳を適切に行う見返りとして、税制上の優遇措置が与えられています。

青色申告の主な特典は下記の通りで、節税の観点で考えた場合、会社が青色申告を行うことは必須条件になります。

<法人の青色申告の主な特典>

  • 欠損金の10年間繰越控除
  • 欠損金の繰戻しによる法人税額の還付
  • 帳簿書類の調査に基づく更正
  • 更正通知書への理由付記
  • 推計による更正または決定の禁止
  • 特別償却または割増償却
  • 各種準備金等の積立額等の損金算入
  • 各種の法人税額の特別控除
  • 各種の所得の特別控除等
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
  • 課税の特例等

法人税を青色申告で申告するためには、事前に納税地の所轄税務署長へ青色申告の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

承認された後は、法人税法上で定められている方法で帳簿書類を備付け、これに日々の取引を正確に記録しなければならないため、継続的に要件をクリアすることが求められます。

税務署に青色申告の承認が認められたとしても、適切に帳簿書類の備え付け等を行っていなければ、青色申告の特典が受けられない場合があるので注意してください。

法人が青色申告をするメリット

青色申告法人には、多くの特典が与えられていますが、その中でも高い節税効果を得ることができる制度を4種類ご紹介します。

欠損金の10年間繰越控除

青色申告の特筆すべき特典として、欠損金の繰越控除があります。

法人に事業年度の赤字(欠損金)が生じた場合、白色申告であれば欠損金を翌年に繰り越すことはできません。

しかし、青色申告を行っていれば、欠損金を最大10年間繰り越すことが可能であり、繰り越した欠損金は翌年以後に生じた利益と相殺することができます。

個人事業主にも繰越控除制度はありますが、個人事業主の繰越控除の期間は3年ですので、法人の方が控除期間が長いです。

なお、繰越控除を適用するためには、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出するだけでなく、その後の各事業年度でも連続して確定申告書を提出することが求められます。

欠損金の繰戻しによる法人税額の還付

欠損金の繰戻し制度は、事業年度に損金額が発生した際、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻し、法人税額の還付を請求することができる制度です。

欠損金の繰戻し制度を利用できるのは原則中小企業者等であり、中小企業者等以外の法人については、平成4年4月1日から令和6年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額は適用対象外です。

ただし、中小企業者等以外の法人についても、下記の欠損金額については、欠損金の繰戻しによる還付制度を適用できます。

  • 清算中に終了する各事業年度の欠損金額
  • 解散等の事実が生じた場合の欠損金額
  • 災害損失欠損金額
  • 銀行等保有株式取得機構の欠損金額

推計による更正または決定の禁止

推計による更正または決定の禁止とは、税務署が税務調査において推計課税を禁止することをいいます。

推計課税は税金の額を推定して決める方法をいい、税務調査に非協力的な納税者や、帳簿が不正確な納税者に対して用いる手法です。

調査担当者は税務調査を実施する際、取引状況や資料等に基づいて売上や経費計上などについての可否判定を行いますが、推計課税は資料等ではなく、特定の金額・割合などを用いて課税額を計算します。

推計課税で算出される課税額は、実際の課税額より高くなる可能性が高いため、調査対象者の税負担が重くなる懸念があります。

しかし、青色申告を行っていれば推計による更正・決定は行われませんので、税務調査の対象となった際に税負担が重くなるリスクを回避することができます。

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得などして事業用に供する場合、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。

減価償却資産は、原則全額を取得した事業年度の経費にすることはできませんが、青色申告法人については、30万円未満までの減価償却資産を一括で経費にすることが可能です。

減価償却資産の特例を適用する場合、事業用に供した事業年度において、確定申告書等に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付が必要です。

出所:令和5年版 法人税のあらましと申告の手引(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2023/01.htm#a03

税務調査の対象になる確率を抑制できる

企業は継続的に活動している以上、税務調査を完全に回避することは難しいですが、対策を講じることで調査を受ける確率を下げることは可能です。

税務署は税務調査でより多く増差税額を出すことを目指していますので、申告誤りや申告漏れが想定される企業を対象に調査を実施する傾向にあります。

青色申告は納税者が適正な申告をする意思があるかの判断要素の一つであり、青色申告で申告書を提出するだけで税務調査を抑制する効果が期待できます。

そのため、節税対策だけでなく、調査対策の観点からも青色申告で申告することが望ましいです。

なお、税務調査を受ける確率は青色申告・白色申告の違いだけでなく、税理士関与の有無も影響します。

法人税は他の税金と比較して申告書を作成する難易度が高く、9割近くの法人が税理士に申告書作成を依頼しています。

納税者自身で申告書を作成・提出しても問題ありませんが、専門家が作成するより申告誤りが発生する確率が高いので、税務調査を受ける確率が上がる点には注意してください。

青色申告を適用するための要件

法人が青色申告で申告手続きを行うためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 法定の帳簿書類を備え付けて取引を記録、保存すること
  • 税務署に「青色申告の承認申請書」を提出し、あらかじめ承認を受けること

青色申告は仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿を作成するだけでなく、複式簿記による記帳も必要です。

帳簿書類の保存期間は7年と定められており、欠損金に係る帳簿書類については保存期間が10年です。

青色申告は承認制ですので、青色申告書を提出しようとする事業年度開始日の前日までに、「青色申告の承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

年の途中で青色申告の承認申請書を提出し、承認を受けたとしても、青色申告で申告書を作成できるのは次の事業年度からになります。

ただし、 新たに法人を設立した場合には、次のいずれか早い日の前日までに青色申告の承認申請書を提出すれば、最初の事業年度から青色申告で申告することが可能です。

  • 設立の日以後3月を経過した日
  • 最初の事業年度終了の日

出所:青色申告の承認申請書(国税庁)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/056-1.pdf

青色申告の承認が取り消しになるケース

青色申告は1度承認されれば、継続して青色申告で申告手続きを行えますが、次のケースに該当する場合には、青色申告の承認が取り消される可能性があるので気を付けてください。

<青色申告が取り消しになるケース>

  • 法令で定められた方法で帳簿書類の備付け、記録、保存を行っていなかった
  • 帳簿書類に関して税務署長の必要な指示に従わなかった
  • 帳簿書類等に仮装・隠蔽した事実があった
  • 確定申告書を定められた期限までに提出しなかった

税務署は上記の事実が判明した場合、該当する事実がある事業年度まで遡って、青色申告の承認を取り消すことができます。

青色申告が取り消しになった場合、取り消された事業年度開始の日以後に提出された青色申告書も青色申告でなくなりますので、各種特典は適用されないことになります。

基本的なルールを守っていれば、青色申告が取り消しになることはないですが、何度もミスを繰り返していると、青色申告の承認が取り消されますので注意してください。

まとめ

青色申告は税制上の優遇措置が受けられるため、事業を継続する企業は青色申告で申告することが望ましいです。

これから法人を設立する方は、設立したタイミングで承認申請書を提出する必要がありますし、現在白色申告で申告している方は次の事業年度に入る前に承認申請書を提出しないと、青色申告で手続きできる事業年度が遅くなってしまいます。

青色申告の申請が承認された以後は、定められた方法に従って帳簿書類の備え付け等が必要となりますので、申請前に専門家に注意点等を確認してください。税務のお困りごとがございましたら、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にご相談ください。

法人設立1年目はやらなければならない手続きや届け出が多く、滞りなく事業を営むためには決算・確定申告の事前準備も重要です。

本記事では、法人設立時に知っておくべき、決算・確定申告のポイントについて解説します。

会社の決算は何のために行うのか

会社の決算は、一定期間において生じた収入と支出を計算し、損益および資産・負債状況を確定させるための手続きです。

決算内容は経営者が会社の業績を確認する際の重要資料であるだけでなく、融資を受ける際に決算書の提出が求められることもありますので、会社を運営していく上で決算書の作成は不可欠です。

決算書を作成する期間は事業年度といい、個人事業主の事業年度は1月から12月までの暦年ベースと決まっています。

一方、法人は会社の設立登記を行った日が事業年度開始日となり、開始日から1年以内を事業年度として設定します。

会社は決算を行うことが義務付けられていますし、確定申告書は決算内容をベースに作成することになるので、決算書類の整理も大切な作業です。

決算と確定申告の違い

決算と確定申告は、似ているようで全くの別物です。

決算は事業年度の収益や財産状況を把握するために行うのに対し、確定申告は決算で算出した金額をベースに納税額を計算するために行います。

個人事業主は全員が暦年ベースで決算を行うので、所得税の確定申告期間は翌年2月16日から3月15日と統一されていますが、法人は決算期を基準に申告期限が設定されているので、申告時期は会社ごとに異なります。

たとえば3月決算の会社であれば、4月から3月までの事業内容を決算書にまとめ、事業年度終了日の翌日から2か月以内に法人税の申告書を提出しなければなりません。

法人税の納期限は申告期限と同日ですので、会社は税務署に対して確定申告書を提出するだけでなく、納税を完了させることも求められます。

税金の支払いが遅れてしまうと延滞税が課されますので、期限までに納税資金を確保してください。

出所:令和5年版 法人税のあらましと申告の手引(国税庁)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2023/01.htm#a01

会社の決算書類を作成するまでのスケジュール

会社の決算書を作成するためには、日頃から記帳を行い、書類等を整理する必要があります。

記帳は日々行うこと

会社は、日々の業務で発生した売上や支出について、漏れなく記帳しなければなりません。

記帳漏れは決算書を正しく作成できなくなるだけでなく、申告内容の誤りにも繋がりますし、税務署に誤りを指摘されればペナルティが課されてしまいます。

個人事業主は事業規模が小さいので、取引内容をまとめて記帳できるケースもありますが、法人は事業規模が大きいことから、よりこまめに、定期的に記帳することが求められます。

記帳内容の確認・整理

決算時期に記帳内容を一斉に見返すのは膨大な時間を要しますので、記帳チェックは定期的に行ってください。

毎日多くの取引について記帳していれば、記載ミスが起る可能性や、従業員が領収書などを提出するのを忘れているケースも出てきます。

そのようなケースに対処するためにも、日頃から記帳内容を確認するだけでなく、必要に応じて会計ソフト等を活用して整理することも大切です。

また、令和6年1月からは電子データ保存が義務化され、帳簿書類の種類によっては書面保存が認められないものもありますので、電子データで保存するための準備も必要です。

決算書類の作成

決算期を迎えましたら、記帳した書類等を基にして決算書類を作成します。

会社が決算書類を作ることも可能ですが、顧問税理士がいる法人であれば決算書類は税理士に依頼することが多いです。

<中小企業が作成する主な決算書類>

  • 貸借対照表
  • 損益決算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表

確定申告書の提出・納付

決算書類に関しては、書類をベースに確定申告書を作成し税務署に申告書を提出することになります。

法人税の申告期限は決算日の2か月後となりますので、3月決算の法人であれば5月末が申告および納期限です。

法人税の申告手続きに税理士が関与している割合は非常に高く、令和4年度は89.5%です。

所得税の関与割合20.4%に比べると4.38倍になりますので、経営者が申告書を作成するケースの方が少数派です。

出所:令和4事務年度 国税庁実績評価書(財務省)

https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2022/evaluation/202310ntahyoka.pdf

また、会社が納める税金は法人税だけではありませんので、納税漏れにも気を付けてください。

税金の滞納は信用問題に発展し、経営上の不利益にも繋がるため、納税を要する税金の種類は事前に確認してください。

<法人が納める主な税金の種類>

  • 法人税
  • 消費税
  • 法人住民税
  • 地方法人税
  • 法人事業税
  • 特別法人事業税

法人初年度の決算で気を付けるべきポイント

法人を立ち上げた最初の年はやるべき手続きが多いため、確定申告書だけでなく、届出書などの提出漏れにも気を付けなければなりません。

記帳は初年度から適正にやらなければならない

会社を設立した当初は会社運営にも慣れていないため、ミスやトラブルが起きやすいですが、記帳関係は誤りがあってはなりません。

決算は前期の資産・負債を翌期に引き継いで計算等を行うことになるため、記帳誤りは当期だけでなく、翌期以降にも影響を及ぼします。

税務調査は3年分をまとめて調査対象にすることが多く、法人を設立してから3年を経過すると調査対象者として選定されやすくなります。

税務署は設立して間もない会社が決算誤りや申告ミスが多いことを認識していますので、税務署に狙われやすいことを前提とした対策が必要です。

届出書の提出漏れは厳禁

法人は色々な場所に関係書類を提出しなければならず、提出漏れがあれば罰則の対象になる場合や、優遇措置を受けられなくなるなどのデメリットを被ることになります。

経営者がやるべき行政手続きをすべて把握することは難しいので、専門家に手続きを代行してもらうなどの対処が必要です。

法人成りは調査対象になりやすい

個人事業主が法人として活動することを「法人成り」といいますが、法人成りは税務調査の対象となりやすいです。

個人と法人では課される税金の種類が違うため、法人成りをしたときは個人事業主としての活動を終了させることになります。

税務署の立場からすると、事業活動を終了したタイミングが税務調査を実施する最後の機会となりますので、法人に移行した後に個人事業主に対する調査が行われることもあります。

また、法人成りは個人から法人に資産を移すことになりますが、移転資産の種類によっては税務上においての譲渡所得が生じることも想定されます。

譲渡所得が発生すれば申告手続きが必要になりますし、法人への引継ぎに誤りがあれば個人・法人に対する税務調査で指摘されることになるので注意してください。

法人の決算書・申告書は税理士に依頼すべき

税務署は申告内容に誤りがある納税者だけでなく、申告内容に疑義がある納税者にも調査を実施します。

一般の方は専門家に比べ税知識が少ないことが多いので、関与税理士がいないだけで税務調査を受ける確率は上がります。

税理士に依頼する際には報酬費用が発生しますが、報酬額以上の節税アドバイスが受けられることもありますし、税務調査を受けるリスクを軽減できるメリットもあります。

法人の約90%は税理士に確定申告書の作成を依頼していますので、基本的には代行を依頼することが望ましいです。

まとめ

所得税の確定申告書は納税者が作成することも難しくありませんが、法人税の申告書は内容が複雑であり、ボリュームも多いので納税者が作成する難易度は高いです。

決算書関係の作成に多くの時間を費やしてしまうと、本業に支障をきたす恐れもありますし、申告内容に誤りがあれば税務署に指摘されるリスクも潜んでいます。

創業当初から税理士に依頼していれば、記帳ミスなどを未然に防ぐことができますので、まだ顧問税理士が決まっていない方は、ぜひ永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

個人事業主の申告手続きは複雑であり、申告内容に誤りがあれば税務調査で指摘され、追徴課税を受けるリスクも存在します。

確定申告書は納税者が作成することもできますが、税理士に申告手続きを代行するのも選択肢の一つです。

本記事では、確定申告手続きを税理士に任せるメリットおよび、依頼する際の注意点について解説します。

確定申告は本人が手続きするのが原則

個人事業主は、原則として毎年所得税の確定申告が必要です。

所得税の確定申告期間は、対象年分の翌年2月16日から3月15日までの1か月間で、納税地を管轄する税務署に申告書を提出することになります。

確定申告書は本人が作成しなければならず、申告書の作成代行が認められているのは税理士資格を有している方のみです。

家族や友人が代わりに申告書を作ることはできませんし、税理士資格が無い人は有償・無償問わず税務相談も禁止されています。

本人が作成した確定申告書を家族が提出することはできますが、確定申告手続きを代行してもらいたい場合は税理士事務所に依頼してください。

個人事業主が税理士に確定申告を代行してもらう理由

税理士事務所に確定申告作成を依頼する場合、費用がかかるのがデメリットです。

しかし、費用が発生したとしても、それ以上に申告手続きを代行するメリットが存在します。

個人事業主の確定申告手続きは難しい

個人事業主が作成する確定申告書は難易度が高く、税知識がないと適正に申告書を完成させるのは難しいです。

会社員の確定申告は、勤務先の年末調整で税金の精算が完了していることが多いため、医療費控除や住宅ローン控除を適用する際、収入や所得控除の計算をする必要がほとんどありません。

それに対し、個人事業主は年間の収支を自ら計算しなければなりませんし、帳簿書類の整理が終わっていないと申告書の作成に取り掛かることすらできません。

記帳ミスは申告誤りに繋がりますし、青色決算書や収支内訳書など申告書と一緒に提出すべき書類も多数あるので、申告関係のリスクを避けたい個人事業主は税理士に申告書作成を依頼しています。

確定申告に費やす時間を削減するため

事業規模が大きくなれば取引量が増えますので、仕訳をするための多くの時間を費やすことになります。

本業が忙しくなれば確定申告関係の作業に手を回す余裕がなくなりますが、税務調査は売上や利益(所得)が大きい人ほど対象になりやすいため、申告手続きをおざなりにすることはできません。

一方で、確定申告書の作成に時間を費やしたとしても利益が増えるわけではないことから、労力を最小限に抑えるための手段として税理士に代行依頼をするケースもあります。

節税効果が期待できる

税理士は申告書の作成事務だけでなく、節税アドバイスも業務の一つです。

税務署でも税金相談は可能ですが、節税アドバイスはしてくれませんので、少しでも納税額を抑えたい方は税理士に相談することが望ましいです。

同じ売上規模でも、税金対策を講じているか否かによって支払う税金の額は変わりますし、特例制度を活用するだけで納税額を大きく下げられるケースもあります。

節税をするかは任意ですので、本人に対策を講じる意思がないとできませんし、効果的に節税を行うためには、個々の状況に応じた手段を用いることが重要です。

税務調査を受ける確率が下がる

税務調査は申告内容に誤りがある納税者ほど対象になりやすく、調査対象者になれば高い確率で追徴課税が発生します。

また、税務署は効率的に税務調査を実施する観点から、申告内容に誤りが生じやすい業種などを優先して調査する傾向にあります。

一般の方々は税の専門家ではありませんので、税理士が関与していない申告書はそれだけで調査対象になる確率が上がると考えられます。

反対に、税理士が申告書作成に関与していれば、調査を受ける確率も下がると考えられますので、調査リスクを抑える観点から税理士に依頼するのも選択肢です。

<税務調査の流れ(イメージ)>

出所:国税庁

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf

税理士に依頼できる業務内容

税理士事務所に依頼できる確定申告関係の業務は、次の3点です。

確定申告書作成・税務代理

税理士のメインとなる業務は、確定申告書の作成を含めた税務代理です。

税理士に依頼すれば内容に応じた申告書を作成してくれるため、計算誤りなどのミスをする心配がなくなります。

税務調査を100%回避する方法は存在しませんが、税理士が申告代行をしていればリスクを抑えることはできますし、万が一税務調査を受けることになったとしても、税理士が同席しますので安心感があります。

税務調査の連絡が入ってから税理士に依頼することもできますが、申告内容を把握しきれていない場合、調査担当者と対峙する際の対応が後手に回ってしまいますので、確定申告書を作成する段階で依頼した方がいいでしょう。

記帳代行・税務関係書類の作成

税理士事務所は申告書の作成だけでなく、記帳代行や税務関係書類の作成等も行っています。

個人事業主にとって帳簿の作成は非常に負担となるため、記帳代行してもらうだけでも確定申告手続きに費やす労力を削減することが可能です。

また、個人事業主は青色申告承認申請書など、確定申告書以外にも提出しなければならない届出書などが多数存在します。

特例制度・特例措置は定められた期間までに手続きしないと制度を利用できませんので、特例の適用漏れを防ぐ観点でも税理士に手続き関係を依頼するメリットがあります。

税務サポート

税務サポートは、税理士を顧問として迎え入れ、税金に関する悩みや疑問を相談することをいいます。

税金対策は確定申告前から講じなければ十分な効果は発揮できないため、通常時から対策をしなくてはなりません。

節税効果が大きい特例制度は、適用を否認されてしまうと税負担が重くなるリスクがあるため、事前に適用要件の確認は必須です。

その点、顧問税理士がいれば疑問点を相談することができますし、会社の経営状態から節税や経営方針等のアドバイスを受けることができます。

税理士に申告書作成を依頼すべきケース

次のいずれかに該当する個人事業主は、税理士に申告手続きを代行してもらうことを検討してください。

確定申告に関するトラブルを回避したい場合

確定申告に関するトラブルを防ぐためには、専門知識が不可欠ですので、リスク回避を優先する方は税理士に依頼してください。

税理士に申告手続きを代行してもらったとしても、税務調査を受ける可能性はゼロになることはありませんが、調査対象になる確率は確実に下がります。

また、税理士が関与していれば税務署からの連絡は税理士に入りますので、税務署の職員と直接連絡を取る必要がなくなります。

本業にリソースを費やしたい場合

個人事業主は本人のみで事業を営んでいることも多く、帳簿関係がおざなりになりやすいです。また、2023年から始まった、インボイス関係の処理について、個人事業主が自ら勉強して行うと、かなりの時間と労力が必要になりますが、税理士の関与をうけることで、その時間や労力を本業に使うことができます。

その他、令和6年から注文書や契約書、領収書などを電子データでやりとりした場合、電子データで保存することが義務となりました。 法令に基づいて書類等を整理・保存しないとペナルティの対象となりますが、税制改正への対応は大変なので、必要に応じて税理士からアドバイスを受けることが大切です。

開業・法人成りをする場合

開業手続きや法人成りを何度も経験したことがある人は限られますし、専門家を除き、それらの手続きに慣れている人はいません。

不慣れな手続きはミスが発生しやすく、税務署からの指摘に繋がります。

個人事業主の法人成りは節税効果を期待できる反面、税務調査で指摘されやすいポイントなので、開業や法人成りを行う場合においても税理士に依頼することを検討してください。

まとめ

確定申告手続きを軽視する方もいますが、申告誤りが指摘されれば追加で本税を納めるだけでなく、加算税・延滞税といったペナルティの対象になってしまいます。

税務調査を受けるとなれば数日間は拘束されますし、申告書を正しく作成していない納税者と判断されれば、2度目・3度目の税務調査を受ける可能性が出てきます。

税理士は申告書の作成代行だけでなく、税務調査のリスク軽減や経営アドバイスを行える立場にありますので、申告手続きでお悩みの方はぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。


所得税の確定申告は、その年に納める額を計算するために行うものであり、申告義務のある方が定められた期間内に申告手続きをしない場合、手痛いペナルティを受ける可能性があります。

世間で流れている情報は真偽不明なものが多く、嘘の情報を鵜呑みにしてしまうと後日税務調査で指摘されることもあるので、本記事で個人事業主がやるべき確定申告と、申告をしない場合のリスクをご確認ください。

所得税の確定申告とは?


所得税は1年間の所得に対して課される税金で、確定申告期間は翌年2月16日から3月15日までの1か月です。

申告期間中に申告・納税が必要となりますので、確定申告で納める税額が発生する場合には、納付手続きも行ってください。

確定申告書は紙(書面)と電子(e-Tax)の2種類あり、書面で申告書を作成したときは、管轄税務署の窓口または郵送で提出することになります。

(管轄以外の税務署に、確定申告書を提出することはできません。)

税務署の開庁時間は8時30分から17時までですが、税務署に設置してある時間外収受箱に投函して提出することも可能です。

郵送で申告書を提出する場合、消印の日付が提出日となるため、消印が3月15日であれば、税務署に届くのが3月16日以後でも期限内申告として扱われます。

e-Taxはインターネットを経由して申告する方法で、申告期限・納付期限は書面申告と同じです。

書面申告との相違点としては、確定申告期間は基本的に24時間提出することができるため、平日の日中に税務署へ行くのが難しい方はe-Taxの利用も選択肢になります。

個人事業主が申告すべき所得税以外の税金


個人事業主は所得税だけでなく、消費税や住民税の確定申告が必要になる場合があります。

消費税は、消費税の課税事業者が申告する税金で、免税事業者に該当する個人事業主(法人)は消費税の申告をする必要がありません。

課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は、今まで免税事業者に該当するケースが多かったですが、インボイス登録(適格請求書発行事業者の登録)を行った事業者は、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の確定申告が必須となるので注意してください。

個人事業主の消費税の申告期限は翌年3月31日までで、納期限は申告期限と同じ日です。

税務署は、インボイス導入後しばらく消費税の無申告者を摘発するため、積極的に税務調査を実施する可能性が高いので、課税事業者に該当する方は消費税の申告も忘れずに行ってください。

住民税は地方税の一つで、所得税の確定申告をしていれば住民税の申告書を作成・提出する必要はありません。

しかし、所得税の申告を行っていない事業者は住民税の申告をすることになるため、翌年3月15日までに申告書を提出し、地方自治体から送付される納付書等で税金を納めてください。

確定申告を行わなかった場合のペナルティ


所得税の申告義務がある納税者が申告・納税を怠った場合、本税以外に加算税と延滞税を支払うことになります。


加算税は申告ミスに対するペナルティ

加算税は、申告誤りや無申告に対して課されるペナルティです。

たとえば納税額が100万円の人が70万円の申告書を提出した場合、申告漏れとなった30万円が加算税の対象になります。

主な加算税の種類としては「過少申告加算税」・「無申告加算税」・「重加算税」があり、申告状況等によって課される加算税の種類は変わります。

過少申告加算税は期限内に提出した申告書の内容が誤っている場合、無申告加算税は期限までに申告書を提出していない場合に課される税金です。

所得税は納税者が自ら申告して税金を納める「申告納税制度」を採用しているため、期限までに手続きをしなかった際に課される無申告加算税の方が、過少申告加算税よりもペナルティは重いです。

重加算税は、意図的に税金を誤魔化した場合に課される税金で、加算税の中で税率が最も高いです。

ケアレスミスや計算誤りに対して重加算税が課されることはありませんが、悪質な脱税については重加算税の対象になりますので注意してください。


延滞税は税金の滞納に対するペナルティ

延滞税は、納期限までに税金を納めなかった場合に課されるペナルティです。

定められた納期限までに支払いが完了していない場合、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じて延滞税が発生します。

(法定納期限は法律で定められた納付すべき期限で、法定申告期限と法定納期限は原則同じ日です。)

納付が遅くなるほど延滞税の額は増えていきますので、確定申告を行う際は申告書を提出するだけでなく、納付も済ませてください。

<延滞税の計算式>

出所:延滞税の計算方法(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai.htm



青色申告の取り消し


個人事業主は、申請することで青色申告者として確定申告を行うことができます。

青色申告には税制上の優遇措置がいくつも用意されていますが、期限までに申告しないと優遇措置を受けられない可能性があります。

たとえば青色申告特別控除は最大65万円を控除することができる制度ですが、申告期限を過ぎてしまうと控除額が10万円にまで減少します。

また、税務署が適正に申告手続きをしていないと判断した場合、青色申告が取り消される可能性があるので気を付けてください。


税務調査で申告誤りが指摘された場合の影響


税務調査は申告書を提出した納税者だけでなく、無申告の納税者に対しても実施されます。



加算税の適用税率が高くなる


加算税は修正申告・期限後が自主的に行われたものか、税務調査を実施したことで提出されたものかによって適用される税率が異なります。

過少申告加算税の税率は原則10%ですが、自主的に修正申告書を提出した場合、過少申告加算税は課されません。

自主的に期限後申告を行ったときは無申告加算税として5%の税率が適用されますが、無申告加算税の税率は通常15%ですので、自主的に申告するだけで10%分の加算税を軽減できます。

また、重加算税は税務調査が実施されないと課されることはないので、申告誤りに気が付きましたら、自主的に修正申告(期限後申告)を行うようにしてください。

出所:加算税の概要(財務省)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_3.pdf


次回以降に税務調査を受けるリスクが上がる


個人事業主は毎年確定申告を行いますので、会社員や公務員よりも税務調査を受けやすいです。

税務署は申告誤りが見込まれる納税者を優先的に調査する傾向にあり、過去に税務調査で申告誤りを受けてしまった事業者は、税務署に要注意人物としてマークされる可能性があります。

適正に申告していても税務調査の対象になることはありますが、調査を受ける確率を下げるためにも、正しい内容の申告書を提出することが大切です。

期限までに確定申告が間に合わない場合の対処法


申告期限までに確定申告をできないときは、1日でも早く申告書を提出できるよう行動します。

税務調査で無申告が指摘されれば重いペナルティが課されてしまうので、無申告のまま放置するのは危険です。

また、税務署は提出した申告書をすべてチェックしますので、申告内容の誤りが多ければ、その分だけ税務調査を受けるリスクは高まります。

そのため、少しでもペナルティとリスクを抑えたい場合には、ご自身で申告書を作成するのではなく、専門家である税理士に申告手続きを依頼することも検討してください。永安栄棟 公認会計士・税理士事務所でも、ご相談を承っております。

まとめ


会社員が住宅ローン控除や医療費控除を適用するのと違い、個人事業主が作成する申告書はボリュームがありますし、計算に間違いがあれば税務署から指摘される可能性があります。

税務署は税金を過大に納めることには寛容ですが、過少申告については厳しい対応をしてきますので、申告書を適正に作成することが重要です。

税理士は申告書を作成するだけでなく、節税のアドバイスも行えますので、申告に関してお悩みの方は、1度税理士事務所に相談することをオススメします。是非一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

個人事業主は会社員と違い、確定申告をすることになりますが、最近事業を開始した方はどのように申告手続きをすればいいかわからないと思います。

こちらの記事では、確定申告が全くわからない個人事業主に向けて、所得税の基礎知識と確定申告のしかたについて解説します。

所得税の確定申告の概要


所得税は年間で得た所得に対して課される税金であり、個人事業主は基本的に所得税の確定申告を毎年行うことになります。



個人事業主が確定申告をしなければいけない理由

確定申告は年間の所得金額から納めるべき税額を計算するための手続きをいい、所得税は申告納税制度が採用されていますので、納税者が自ら申告書を作成し、税金を納めなければなりません。

会社員は勤務先の年末調整で税金の過不足を精算することができるため、年末調整が完了している方は原則確定申告が不要です。

一方、個人事業主や年末調整が完了していない方については、確定申告で税金の過不足を精算しなければならないので、定められた期間までに確定申告を行うことになります。


所得税の確定申告書は税務署に提出する

所得税は税務署が扱っている税金(国税)ですので、所得税の確定申告書は税務署へ提出することになります。

税務署は全国524か所に存在しますが、申告書の提出先は納税地を管轄している税務署に限られます。

納税地は原則住所地とし、納税地の場所は申告書を提出する時点で判断します。

申告する直前に引越し等で住所が変更になった場合、管轄税務署が変わる可能性もありますので、申告書を提出する前に管轄税務署を確認してください。

個人事業主は、納税地を住所地ではなく事務所等にすることも認められていますが、事務所等を納税地にするためには「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」の提出が必要です。

所得税の確定申告期間は翌年2月16日から3月15日

所得税の確定申告期間は、対象年分の翌年2月16日から3月15日の1か月間です。

3月15日が土・日・祝日に該当する場合、翌日が申告期限となりますので、年によっては申告期限が後ろ倒しになることもあります。

出所:令和5年分 確定申告特集(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/index.htm


申告期限は基本的に延長することはなく、申告書を3月16日以後に提出したときは「期限後申告」として扱われます。

納税額がある場合、申告書を期限後に提出してしまうとペナルティの対象になるので注意してください。

所得税の納期限と申告期限は同日

所得税の納期限は、申告期限と同じ翌年3月15日までです。

住民税など他の税金は役所等から納付書が送付されますが、所得税について税務署から納付書が送られてくることはないので、自主的に納付手続きをしなければなりません。

所得税の納付方法は下記の通りで、どの方法で税金を支払う場合でも納税額が増減することはないです。

(一部の納付方法は事前申請等が必要です。)

<所得税の納付方法>

● 窓口納付

● 振替納税

● ダイレクト納付

● インターネットバンキング・ATMによる納付

● クレジットカード納付

● スマートフォンアプリ納付(スマホ納付)

● ORコードを利用したコンビニ納付

所得税の申告が必要なケース・不要なケース


個人事業主は原則確定申告をしなければなりませんが、例外的に申告が不要になることもあります。

個人事業主は原則確定申告をしなければなりませんが、例外的に申告が不要になることもあります。

納税額が発生する場合は申告が必要

所得税の納税額が発生する場合、納税者には申告義務が生じ、その年の事業が赤字になった場合でも、給与所得など他の所得があるときは確定申告をしなければなりません。

申告義務がある納税者が期限までに申告手続きを行わないと、税務調査で無申告が指摘される可能性があります。

無申告に対するペナルティは通常よりも重いため、納税額が算出されるときは申告期限までに手続きを行ってください。



所得税の申告をしないと住民税の申告が必要になる

個人事業主でも、所得金額が一定額以下であれば確定申告書を提出しなくても問題ありません。

ただ特例制度を適用するためには申告が必要になりますし、所得税の申告書を提出していないと、住民税の申告を別途行うことになるため、基本的に所得税の申告をする前提で用意しておくことが望ましいです。

所得税の確定申告は何をすればいいのか


所得税の確定申告書は、その年に支払うべき所得税額を算出するために作成します。

所得税額は、各所得の金額の合計額から所得控除額を差し引き、税率を乗じることで算出できます。

<所得税および復興特別所得税の申告納税額の計算の流れ>

出所:所得税のしくみ(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm



年間の所得金額を計算

所得税法では、性格によって所得を10種類に区分しています。

<所得区分>

● 利子所得

● 配当所得

● 不動産所得

● 事業所得

● 給与所得

● 退職所得

● 山林所得

● 譲渡所得

● 一時所得

● 雑所得

事業で得た所得は事業所得の対象になり、個人事業主が白色申告者の場合には収支内訳書、青色申告者の場合には青色申告決算書で事業所得の所得金額を計算します。

個人事業主は原則白色申告者として確定申告を行うことになりますが、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出している場合、青色申告者として申告することも可能です。

青色申告者には、最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」や、損失が発生した際に最大3年間損失額を繰り越すことができる「繰越控除」など、税制上の優遇措置が設けられています。

白色申告で確定申告を行っても問題はありませんが、節税を第一に考えるのであれば青色申告者として手続きすることも検討してください。

所得控除の適否判定


所得控除は所得金額から差し引くことができる控除をいい、所得控除には次の種類が存在します。

適用できる控除は納税者ごとに違うため、申告書を作成する際は納税者自身が各所得控除の適否を確認する必要があります。

<所得控除の種類>

● 雑損控除

● 医療費控除

● 社会保険料控除

● 小規模企業共済等掛金控除

● 生命保険料控除

● 地震保険料控除

● 寄附金控除

● 障害者控除

● 寡婦控除

● ひとり親控除

● 勤労学生控除

● 配偶者控除

● 配偶者特別控除

● 扶養控除

● 基礎控除

所得税額の計算方法

所得税額は、合計所得金額から所得控除額を差し引いた後の額(課税所得金額)に、税率を乗じて算出します。

<所得税の税率表>

出所:No.2260 所得税の税率(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm


住宅ローン控除などの税額控除がある方は、算出した所得税額から差し引くことができますし、源泉徴収税額および予定納税額がある場合には、それらを控除した額が所得税の納税額となります。

なお、所得税額よりも源泉徴収税額や予定納税額の方が大きいときは、所得税を過大に納めていた状態にありますので、確定申告書を提出することで納め過ぎていた所得税の還付を受けられます。

確定申告の不明点は税理士に相談すること

スーツの男性が胸に手を当てている写真

確定申告に関して知りたいことがある場合、相談先として税務署と税理士が候補に挙がります。

税務署は確定申告のしかたを教えてくれますが、所得税の確定申告書は毎年2,200万件以上提出されますので、確定申告期間中の税務署は大変混雑します。

また、税務署では節税アドバイスをしてくれませんので、支払う税金を少しでも抑えたい方は税理士に相談することをオススメします。

個人事業主は毎年確定申告書を作成することになりますし、インボイス登録をした事業者であれば消費税の申告手続きも必須です。

税理士は申告書の作成だけでなく、節税や帳簿書類の保存方法などについてのアドバイスもできますので、確定申告の不明点はぜひ永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へお尋ねください。

個人事業主として活動する際、毎年頭を悩ませるのが確定申告です。

税金関連の手続きは適切に処理しなければならず、確定申告のしかたを間違えてしまうと、個人事業主でも税務調査の対象になるので注意してください。

本記事では、初めて確定申告を行う個人事業主に向けて、所得税の確定申告手続きの流れと申告時の注意点について解説します。

個人事業主がやるべき所得税の確定申告とは


所得税の確定申告は、1年間の所得金額や納税額を納税者自らが計算し、税務署に申告する手続きをいいます。

所得税は個人の所得に対してかかる税金で、平成25年から令和19年までの期間については、所得税と一緒に復興特別所得税も納付することになります。

住民税は所得税と同様、所得金額に応じて課される税金ですが、所得税の確定申告書を提出した場合には、住民税の申告手続きをする必要はありません。

一方で、所得税の申告をしないときは、住民税の申告手続きが必要になるので注意してください。

所得税の確定申告期間と申告・納税のしかた


所得税は納税者が申告書を作成・提出するだけでなく、算出した所得税も自主的に納めなければなりません。

所得税の申告期間は翌年2月16日から3月15日

所得税の確定申告は、対象年分の翌年2月16日から3月15日の間に手続きすることになります。

(申告期限が土曜日・日曜日・祝日の場合、申告期限はその翌日です。)

確定申告書の提出先は、提出時の納税地を管轄している税務署です

納税地は原則住所地とし、指定された税務署以外の税務署に申告書を提出することはできませんが、納税地の特例により、事務所などの所在地を納税地にすることは可能です。

なお、個人事業主が事務所の所在地を納税地とする際は、税務署に「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」を提出しなければなりません。

書面申告と電子申告(e-Tax)の違い

確定申告書を提出する方法としては、書面申告と電子申告(e-Tax)の2種類があります。

書面申告は申告書を手書きで作成する場合や、パソコン等で作成した申告書を印刷し、税務署に提出する方法です。

<見本:所得税の確定申告書(第一表)>

確定申告書は郵送で提出することも可能ですが、「郵便物」(第一種郵便物)または「信書便物」で送付しなければなりません。

e-Taxは、国税庁ホームページ等で申告書を作成し、電子的に申告手続きを行う方法です。

国はe-Taxを推進していますので、税制上の優遇措置を最大限活用するためには、e-Taxで申告することが求められます。

所得税の納期限は申告期限と同日

所得税の納期限は、申告期限と同日の翌年3月15日までとなっています。

住民税とは違い、税務署から納付書は送られてきませんので、納税者自身が期限までに自主的に支払いを完了させる必要があります。

所得税は管轄税務署の窓口で所得税を納めることもできますが、クレジットカード納付などを利用すれば、税務署が開いていない日でも納付することも可能です。

<個人事業主が関係する令和5年分の主な国税の納期限および振替日>

出所:主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200042/noufu_kigen.htm



<所得税の納付方法>

  • 窓口納付
  • 振替納税
  • ダイレクト納付
  • インターネットバンキング・ATMによる納付
  • クレジットカード納付
  • スマートフォンアプリ納付(スマホ納付)
  • ORコードを利用したコンビニ納付

個人事業主が所得税の確定申告をする際の流れ


所得税の税額計算を行うためには、事前に必要書類を揃えておく必要があります。

所得税の確定申告書の作成方法

所得税の確定申告書は、各所得の金額を計算後に所得控除額を差し引き、課税所得金額に対して所得税の税率を乗じて、所得税額を算出します。

<所得税および復興特別所得税の申告納税額の計算の流れ>

出所:所得税のしくみ(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1000.htm


個人事業主が得た所得は基本的に事業所得の対象となり、事業所得は青色申告決算書(収支内訳書)で計算を行い、算出した所得金額を申告書に記載します。

所得控除は下記の種類が存在し、該当する所得控除の額を計算して合計額を算出します。

<所得控除の種類>

  • 雑損控除
  • 医療費控除
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 生命保険料控除
  • 地震保険料控除
  • 寄附金控除
  • 障害者控除
  • 寡婦控除
  • ひとり親控除
  • 勤労学生控除
  • 配偶者控除
  • 配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 基礎控除


所得税額は、合計所得金額から所得控除額を差し引いた後の金額(課税所得金額)に所得税率を乗じて算出することになりますが、適用する税率は課税所得金額によって異なります。

住宅ローン控除などの税額控除がある場合には、所得税額から控除し、源泉徴収税額および予定納税額を差し引いた額が所得税の納税額です。

なお、所得税額から税額控除を差し引いた額が源泉徴収税額や予定納税額の方が大きかった場合、所得税を納め過ぎていたことになりますので、確定申告をすることで税金が還付されます。

<所得税の税率表>

出所:No.2260 所得税の税率(国税庁)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm



帳簿書類は確定申告書を作成前に整理しておくこと

個人事業主は、確定申告書を作成する前に帳簿関係の整理をしておくことが肝要です。

所得税の確定申告書は帳簿の内容をベースに計算しますので、記帳ミスや漏れがあると申告書を正しく作ることができません。

個人事業主としての収入以外に収入がある方については、他の収入も含めて確定申告を行うことになりますので、給与所得の源泉徴収票なども必要になりますし、所得控除や税額控除を適用する際は社会保険料などの金額を確認できる書類等も用意してください。

事業関係の領収書等については保存期間が定められており、保存期間が経過する前に領収書等を処分してしまった場合、税務調査で経費が否認されてしまう可能性があります。

税務署は物的証拠が残っていないと経費を認めない傾向にありますので、関係書類は破棄しないよう気を付けてください。

白色申告と青色申告のどちらで申告すべきか

個人事業主が申告書を提出する際には、収支内訳書または青色申告決算書を作成することになります。

収支内訳書は白色申告者が、青色申告決算書は青色申告者が作成する書類で、原則は白色申告により確定申告を行うことになります。

ただし、個人事業主が事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出した場合には、青色申告を行うことが可能です。

青色申告は一定水準の記帳等が求められる一方、税制上の優遇措置が設けられています。

<青色申告で手続きした際の優遇措置>

  • 青色申告特別控除
  • 青色事業専従者給与
  • 貸倒引当金の優遇措置
  • 純損失の繰越し・繰戻し

青色申告の代表的な特典としては、最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」や、損失が発生した際に最大3年間損失額を繰り越すことができる繰越控除があります。

事務作業量が増えるデメリットはありますが、節税を第一に考えるのであれば、白色申告ではなく青色申告で申告手続きを行うことが望ましいです。

確定申告の相談先は税務署か税理士


確定申告に関する代表的な相談先は、税務署と税理士です

税務署では確定申告期間になると相談会場を設営していますので、相談会場で申告書を作成し、そのまま提出することもできます。

申告書の内容が比較的簡便な方であれば、税務署に相談することも選択肢になりますが、相談会場では細かい税金相談はできませんし、節税等に関する質問をするのも難しいです。

一方、税理士は税の専門家であることはもちろんのこと、日頃の節税や帳簿作成等についてのアドバイスを行うことができます。

個人事業主は申告書の作成だけでなく、税務調査対策も必要となってきますので、節税とリスク管理を最優先に考える場合には税理士へ相談することをオススメします。

まとめ


確定申告書を作成した経験がある人でも、個人事業主として初めて申告する場合、作成方法や用意すべき書類等は異なります。

年に1度しか作成する機会がない書類を完璧に仕上げるのは難しいですし、税務調査で申告内容の誤りを指摘されてしまうと余計な税金を納めることになりかねないため、調査対策も重要です。

顧問税理士がいれば申告書の作成依頼はもちろんのこと、節税に関する質問・相談することもできますので、確定申告に関する疑問点がありましたら永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。


消費税の確定申告は、個人事業主や会社(法人)の売上が一定以上になった際に行いますが、インボイス制度が導入されたことにより、今まで消費税の申告が不要だった事業者も申告手続きをすることになります。

本記事では、初めて消費税の申告をする個人事業主に向けて、消費税の計算方法および手続きの仕方をわかりやすく解説します。

消費税の確定申告は課税事業者が行う


消費税の確定申告を行うことになるのは、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者です。

消費税の課税事業者になるのは法人だけでなく、個人事業者や国、地方公共団体等も含まれ、非居住者や外国法人についても課税事業者に該当する際は消費税の納税義務者になります。

個人事業主の課税期間は暦年(1月から12月)であり、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌々年から消費税の確定申告が必要です。

課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者に該当し、その課税期間の消費税の納税義務は免除されます。 ただし、事業者が「消費税課税事業者選択届出書」を提出しているときは、課税売上高が1,000万円以下であったとしても確定申告をしなければなりません。

個人事業主の消費税の申告・納付方法


消費税は、納税義務者が自主的に申告を行う「申告納税方式」が採用されているため、消費税の課税事業者に該当する方は、毎年申告書を作成することになります。

個人事業主は、消費税の申告書を翌年3月31日までに提出しなければならず、申告書の提出先は、原則住んでいる場所を管轄する税務署です。

ただし、個人事業者が納税地を選択している場合には、住所地に代えて事務所等を管轄する税務署へ申告することになります。

消費税の納期限は申告期限と同日であるため、期限までに申告だけでなく納税も済ませなければなりません

振替納税により消費税を納税することも可能ですが、振替納税は税目ごとに手続きを要します。

既に所得税で振替納税を選択している方でも、消費税の振替納税の申請をしていないと自動引き落としにならないのでご注意ください。

消費税の原則的な計算方法


消費税の課税事業者は、課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いた額を納めることになります。

消費税の税率は8%と10%の2種類あるため、税率ごとに区分して計算しなければならず、計算のベースとなるのは消費税が課されている売上や仕入れですので、消費税の課税・非課税対象の区分けも必要です。

消費税を算出する計算方法は複数用意されており、原則課税(一般課税)の計算式は下記の通りです。

<一般課税の計算式>

課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額


課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額を、課税期間中の課税売上げに係る消費税額から差し引くためには、「仕入税額控除」の要件をすべて満たしていなければなりません。

仕入税額控除の適用要件としては、法定事項が記載された帳簿および請求書等の保存があります。

取引等を税率ごとに区分して記帳していないケースや、必要書類等の保存を怠っている場合、税務調査で仕入税額控除の適用が否認されますので注意してください。

消費税申告とインボイス制度の関係性


インボイス制度が導入されたことにより、消費税の仕入税額控除を適用するためには、原則インボイス(適格請求書)の保存等が必要です。

しかし、インボイスを発行できるのはインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)に限られ、インボイス発行事業者以外からの仕入れに係る消費税は仕入税額控除に含めることができません。

税務署に登録申請を行えば、インボイス発行事業者として活動できるようになりますが、登録申請を行うことができるのは消費税の課税事業者に限られるため、免税事業者は消費税の課税事業者を選択することを迫られます。

消費税の課税事業者を選択してしまうと、消費税の申告手続きを毎年することになりますので、免税事業者として活動していた小規模事業者は新たに消費税の負担額が発生します。

消費税の特例制度


消費税の確定申告を行う場合、原則課税(一般課税)ではなく、簡易課税や2割特例を用いて計算することも認められています。

簡易課税制度による消費税の計算方法

簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用できる制度です。

課税期間における課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を乗じた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなし、納付する消費税額を算出します。

<簡易課税制度の計算式>

課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額

みなし仕入率は業種ごとに設定されており、たとえば卸売業のみなし仕入率は90%ですので、課税売上に係る消費税の10%を納めることになります。

簡易課税制度は仕入れに係る消費税を算出する必要がないので計算が簡便であり、仕入税額控除の適用も不要なので、インボイスの保存をしなくても消費税の計算を行えます。

ただし、制度を利用するためには事前に届出書の提出が必要ですので、届出書の提出漏れには注意してください

2割特例による消費税の計算方法

2割特例は、インボイス制度導入のタイミングでインボイス発行事業者になるために、免税事業者から課税事業者になった事業者が適用できる制度です。

仕入税額控除の代わりとして、課税標準である金額の合計額に対する消費税額の80%を特別控除税額として差し引くことができるため、消費税の税負担は20%まで軽減されます。

申告書に特例を適用する旨を付記するだけで受けられますので、届出書の提出は必要ありません。

適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となっており、一般課税と簡易課税のどちらを選択している場合でも2割特例は適用可能です。

ただし、2割特例はインボイス制度が導入されたことで消費税の課税事業者となった事業者への救済措置であるため、以前から課税事業者として活動していた事業者は2割特例を適用することができません。 また、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者など、インボイス発行事業者の登録と関係なく免税事業者の対象外となる場合も、2割特例は受けられませんのでご注意ください。

消費税の申告手続きをしないリスク


消費税の課税事業者が定められた期限までに申告・納税を行わなかった場合、加算税・延滞税の対象となります。

加算税は期限までに適正な申告書を提出しなかったことに対するペナルティで、意図的に提出しなかった場合には、本税の40%が重加算税として課される可能性があります。

延滞税は期限までに納税を完了していなかった際に課されるペナルティで、納付が遅くなるほど延滞税の額は増えていきます。

納期限から2か月を超えても未納額が残っている場合には、適用される延滞税の税率が上がりますので、申告だけでなく納付忘れにも気を付けてください。

まとめ


インボイス制度が導入されたことで、今まで免税事業者だった方も消費税の申告書を作成しなければならなくなります。

2割特例などの経過措置も設けられていますが、申告書の内容を間違えてしまうと税務調査で指摘され、税金を余分に支払うことになりかねません。

税務署は、大規模な税制改正が行われたタイミングで税務調査を積極的に実施する傾向がありますので、少しでも申告手続きに不安がある方は、ぜひ一度、永安栄棟 公認会計士・税理士事務所へご相談ください。

新型コロナウイルスの流行や働き方改革などの影響により、これまで会社勤めをしていた人達がリモートワークや時短勤務など自由な働き方をする事が出来るようになりました。

こうした背景から、フリーランスなどの個人事業主や法人を設立して起業する人が増加しています。

起業するにあたり、最初は個人事業主として事業活動を行い、事業規模が拡大していくにつれ、法人成りしていく事が一般的です。

本稿では法人成りにスポットを当てて、メリットやデメリットについて解説していきます。

法人成りのメリット


法人成りのメリットは下記項目が挙げられます。

社会的信用力が上がる


法人は会計上、個人と法人の資金を明確に区別する必要があるので、財産管理が整備され、収支が明瞭になります。そのため、金融機関や投資家から信用力が上がり、融資や出資を受けやすくなります。

また、求人募集も働き手にとって、法人であれば社会的信用が高まることから、個人経営より法人の方が優秀な人材が集まる傾向にあります。



責任範囲が限定される有限責任となる


個人経営の場合、倒産時の債務の弁済は事業主個人の全財産を処分するケースの無限責任となります。

しかし、法人成りした場合、原則としてその債務弁済に対しては、自己が出資した範囲内の責任である有限責任になるので、事業規模拡大により負担する額も大きくなる場合には個人経営では限界が生じる為、法人成りによってリスク回避を図る事が出来ます。

税率の上限が低く設定されている


個人の所得に対して課される税率と、法人の所得に対して課される税率は次のとおりです。個人が既に高い所得を得ている場合には、法人成りにより、低い税率が適用され、節税に繋がることがあります。



節税に繋がる


個人事業主では、所得の種類によって課税方法が異なり、所得の種類の間で損益通算できるものも限定されていますが、法人の場合にはすべての損益が合算されます。

例えば、個人事業主の場合には、有価証券の運用で損失が出た場合に、本業の利益と相殺することはできませんが、法人の場合は本業の利益と相殺できる為、課税所得が減少し節税に繋がります。

また、法人成りをした場合、自宅に関する費用を法人の経費とすることができます。

例えば、自宅が賃貸住宅の場合、法人契約に切り替え、転借すれば、家賃は会社の経費とすることができます。

一定額以上の家賃を会社に支払う必要はありますが、相場よりかなり低いものとなります。詳しくは役員社宅を活用した節税方法 | 給与課税に注意をご参照ください。

また、自宅を会社に所有させ、それを賃借することも可能です。



給与所得控除が利用できる


給与所得控除とは、給与収入から差し引ける控除のことです。

個人経営では、事業で得た収入から経費を控除した差額が全額経営者に帰属し、そこから納税額を計算します。

法人の場合、収益から必要経費を差し引いた所得は、経営者個人ではなく、法人自体に帰属します。

法人が代表者へ報酬を支払った場合、法人の経費として認められるだけでなく、代表者個人では、法人から受領した報酬から給与所得控除を差し引いた課税所得から税額が計算される為、有利に働きます。



欠損金の繰越が10年間可能となる

個人事業主の場合、損失の繰越しは3年間となっていますが、法人の場合、欠損金を10年間繰り越すことが可能となります。

大きな損失が発生した場合、3年先の期間に欠損金を使いきれない場合もあるため、この期間が長い分、法人のほうが有利となります。

法人成りのデメリット


法人成りのデメリットは下記項目が挙げられます。


赤字でも税金がかかる

個人事業主の場合、赤字であれば所得税や住民税、事業税は発生しません。

しかし、法人の場合、住民税の均等割が発生してきます。

この住民税の均等割は資本金の額や従業員数に応じて課税されるものであるため、たとえ赤字であっても発生してきます。

税額自体は自治体によって多少異なりますが、年間最低7万円は必要になります。

なお、正確には、個人事業主の場合でも数千円の住民税の均等割が課せられますが、条例で定める一定額以下の所得の人は非課税となります。

社会保険に強制加入する必要がある

社会保険は個人事業主の場合、従業員が5名未満であれば、社会保険の加入は任意となりますが、法人成りをした場合には、たとえ代表者1名であっても、社会保険へ強制的に加入が必要となります。

そのため、法人成りをした場合には、社会保険料の負担が新たに発生することがあります。

登記費用が発生する

個人事業主の開始には登記費用は不要です。

しかし、法人の場合には設立時に登記費用が必要となります。また、役員変更登記も一定期間ごとに必要となってきます。

これらの手続きは、一般的には司法書士等の専門家に依頼しますが、それに応じて

登録免許税や司法書士報酬などが必要になります。



税務調査が入りやすくなる

法人の場合には、個人事業主に比べて税務調査が入る機会が増加します。

理由としては、法人は個人事業主に比べて数が少ないことや、法人の方が事業規模が大きい為、税務調査の確立も高まります。



事務負担が増大する


法人成りをした場合、厳密な会計処理が求められる為、事務負担が増加します。

さらに、源泉徴収や、社会保険などの手続きも発生します。

また、株主総会の開催、役員変更登記など法律上求められる手続きも必要となり、個人事業主に比べて事務負担が増大します。

まとめ


法人成りした場合には、信用力の強化や税率の上限といったメリットがあります。

しかし、相応の事務負担や、必ず発生する均等割などのコストも生じることになるため、上述したメリット・デメリットを十分理解した上で、法人成りを検討することをおすすめします。


会社を設立した際などに決める役員報酬ですが、一般的な相場や注意点などが分からないと悩む方もいるのではないでしょうか。

この記事では、役員報酬について、次の内容を分かりやすく解説しています。

  • 役員報酬の概要
  • 役員報酬の決め方や変更方法
  • 役員報酬の相場
  • 役員報酬を決める際の注意点

役員報酬を決める時や、変更が必要な場合にぜひご覧ください。

役員報酬とは?

役員報酬と従業員給与の違いは、おもに「支払先が取締役などの経営幹部である」ことと、報酬額の決め方や報酬額を「損金」として計上するための「ルールがあること」です。

なお、損金とは、納税額を計算する際に「経費」として計上できるものを指します。

従業員給与は基本的に全額を損金として計上可能ですが、役員報酬を損金にするには厳しいルールがありますので、のちほど詳しく解説します。


役員報酬に含まれるものと含まれないもの

役員報酬には、現金の支給以外にも「現物支給」や「経済的利益」なども含みます

そのため、マンションの家賃や保険料、役員の個人的な寄付行為などについても役員報酬となります。

一方で、賞与や退職金、従業員として受給している給与などについては、役員報酬には含みません

賞与や退職金については、役員報酬とはルールが異なりますので、これらを損金に計上したい場合は、毎月支払う役員報酬とは別で検討が必要です。

役員報酬の決め方と変更方法


前述したように、役員報酬の決め方は従業員給与とは異なります。

たとえ経営者であっても、金額を自由に設定することはできません。

ここでは、役員報酬の具体的な決定方法について、そのルールを解説していきます。

定款または株主総会の決議によって定める

役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」と、会社法によって決められています

しかし、規模の小さな法人では、役員報酬に関しては定款には入れていないことも多く、記載している場合でも「株主総会の決議にて決定する」などとしていることが多いようです。

そのため、中小法人の役員報酬は株主総会で決議されることが一般的です。

株主総会で決める方法は、次の2つがあります。

  • 役員それぞれの報酬額を決める
  • 役員報酬の総額だけを株主総会で決めておき、後ほど、取締役会などで役員それぞれの報酬額を決める

どちらを選択した場合でも、損金に役員報酬を計上する際には、根拠として示せるように議事録を残す必要があります

なお、議事録は税務調査の際に提示を求められることがありますので、忘れずに残すようにしましょう。

報酬の総額を決める時期が決まっている


役員報酬の金額は、会社設立時の場合には設立から3カ月以内、それ以外は事業年度開始から3カ月以内に決めなくてはなりません

上記の期間に決めていない場合には、損金に役員報酬を計上することができません。

また、一度決定した役員報酬は翌事業年度までは、原則として変更ができな点にも注意が必要です。

そのため、タイミングに注意して慎重に報酬額を決めるようにしましょう。

変更には条件があるので注意

前述のとおり、役員報酬は、原則として1年に1回しか変更することができません。

とはいえ、業績の状況などにより、期中において変更を検討するケースもあるでしょう。

ここでは、役員報酬を期中においても変更できるケースについて解説します。

役員報酬を増額する

役員への昇格や、職務内容が変わったことで業務の負担が増えた場合などは、役員報酬を増額することができます

たとえば、退任した役員のポジションを兼務する場合などが、このケースに該当します。

ただし、役職が変わっただけで実務が伴っていない場合には、税務署から指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。

役員報酬を減額する

会社の業績不振などにより経営状況が悪化した場合には、役員報酬の減額ができます

しかし、どの程度悪化したら減額可能といった明確なルールはないため、株主や取引先などへの影響を考慮したうえで、減額するかの判断をおこなうとよいでしょう。

増額・減額ともに、変更をおこなうには客観的な事実が必要です。自由に変更することはできない点に留意しましょう。

役員報酬の相場

役員報酬は、あまりに高額である場合には、税務署より指摘が入り損金に計上できなくなることがあります。

そのため、いくらが妥当なのか疑問を持つ方も少なくないでしょう。

そのような疑問を解決するため、ここでは、役員報酬の相場について解説します。

小規模企業者の役員報酬は「経営判断」で大きく変動する

小規模企業者の役員報酬を決める際には、まず会社に利益を残すか、残さないかを考える必要があります

一般的に、会社に利益を残す場合には役員報酬を抑え気味にして、設備投資などに資金を回す傾向にあるようです。

一方で、会社に利益を残さない方針の場合は、役員報酬で会社に残る利益を少なくする方法も考えられます。

この場合、役員報酬を損金に計上することで節税につながりますが、社長の所得税負担が増加することや、「利益が少ない」ことで、金融機関から融資を受ける際に影響がある可能性もあります。

資本金ごとの目安

次に、資本金・従業員・業種ごとの役員報酬の目安について紹介をします。

ただし、先に述べたとおり、役員報酬の金額は経営判断で大きく変動することから、参考程度にするとよいでしょう。

ここでは、資本金ごとの役員給与の目安を紹介します。

※一万円未満切捨

出典:国税庁 令和3年分 民間給与実態統計調査から一部抜粋

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/000.pdf


従業員規模ごとの目安

ここでは、従業員規模ごとの目安をご紹介します。

以下の表をご参照ください。

※一万円未満切捨

出典:人事院 民間企業における役員報酬(給与)平成30年 調査 企業規模別、役名別平均年間報酬から一部抜粋

https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html

業種ごとの目安

ここでは、業種ごとの目安をご紹介します。

※一万円未満切捨

出典:人事院 民間企業における役員報酬(給与)調査 平成30年 産業別、企業規模別、年間報酬金額階層別人員構成比から一部抜粋

https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html



役員報酬を決める際の注意点


役員報酬を決める際には、損益に計上できる支払方法を選択することに注意が必要です。

認識違いなどにより損金に計上できなかった場合、納税額に大きく影響し、会社経営に影響を及ぼす可能性があります。

そのため、議事録の保存や期限内に報酬額を決めるといったルールを守ることはもちろんですが、次の2点についても注意が必要です。



会社の収益とのバランスを考慮する

先にも触れたとおり、小規模企業者の役員報酬は「経営判断」で大きく変動します。

そのため、会社に利益をどのくらい残すかなど、バランスを考慮する必要があるのです

会社に利益を多く残す場合には、会社の経営状況はよくなるため、取引先や金融機関からの信用は得られやすい一方で納税額が多くなります

逆に、役員報酬を多くする場合は節税につながりますが、収益が少ないため対外的な信用が得られにくくなる点に注意が必要です。

そのため、役員報酬を決める際には、会社の収益とのバランスを考慮することが大切です。

シミュレーションして税金や社会保険とのバランスをとる

会社の収益とのバランス以外にも、法人・社長個人が納める税金や、社会保険とのバランスも考える必要があります。
そのため、会社の収益と納税額についてシミュレーションし節税効果を加味したうえで、報酬額を決定するとよいでしょう。

まとめ

この記事では、次の内容について解説しました。

  • 役員報酬の概要
  • 役員報酬の決め方や変更方法
  • 役員報酬の相場
  • 役員報酬を決める際の注意点

役員報酬の金額によって、会社の収益バランスや節税効果に影響があります。

また、ルールに従って決めないと、損益に計上できず会社経営に影響する可能性があります。

ぜひ、この記事を参考にして役員報酬を決める際の一助にしてください。


近年、タワーマンションを使った節税スキームが富裕層を中心に流行しました。

通称「タワマン節税」とよばれるこの方法は、相続税対策に非常に効果的であり、現金で相続するよりも遥かに多くの資産を、残された家族に渡すことができます。

しかし昨今、課税逃れや著しい不公平が生じる可能性が問題視され、税制改正の動きが見られるようになりました。

この改正が実施されれば、タワーマンション節税の効果は大幅に減少する可能性があります。

そこでこの記事では、タワーマンション節税の仕組みや注意点、改正の動向等をわかりやすく解説します。これからタワーマンションを購入しようと考えている方、既に所有している方はぜひ最後までご覧ください。

タワーマンション節税とは?


タワーマンション節税とは、購入価額(時価)と不動産の評価額が、大きく乖離していることを利用した相続税の節税スキームです。

これを利用することで、会計上の資産の価値を大幅に下げることができ、現金で相続するよりも支払う相続税を減らすことができます。

タワーマンション節税の仕組みとメリット

タワーマンション節税は、相続税対策に大きな効果を発揮します。ここでは、節税の仕組みやメリットについて、わかりやすく説明します。

タワーマンション節税の仕組み

相続する資産は、現金や不動産など、さまざまな種類があります。

たとえば、現金や預金などはそのままの金額に相続税が課されますが、土地や建物等の不動産は、一律に相続税を計算するときの基準金額(相続税評価額)を決めることができません。

そのため、土地と建物を一定の規則のもとにそれぞれ評価することで、相続財産としての価値を測ることになります。

一般的に、土地と建物は以下のように評価されます。なお、固定資産税評価額も、土地以上に時価より低く評価されることが一般的です。


つまり、実際に売買される価格(実勢価格)と相続税としての評価額には差があることになります。

たとえば、現金で1億円を相続した場合には1億円分の相続税がかかりますが、1億円分のタワーマンションを購入すると、評価額がそれを下回るので、相続税を大幅に節約することができるのです。

これが、タワーマンション節税の仕組みです。


高層階ほど相続税評価額が下がる

タワーマンション節税は「高層階であればあるほど有利である」という特徴があります。

理由としては、同じタワーマンションでも、高層階の方が低層階よりも実勢価格(実際に売買される価格)が高いにもかかわらず、相続税評価額は同じだからです。

以下の物件を想定し、簡単なシミュレーションをおこないます。



1戸ずつ按分すると、160億円÷430戸=約3,720万円となり、これが1戸当たりの評価額となります。

そのため、実際には1億円で売買できる資産価値を保有しているのにもかかわず、相続税評価額は3割程度まで抑えられ、相続時の税金を少なくすることができるという仕組みです。

なお、上記シミュレーションでは相続税評価額が3割程度ですが、第三回有識者会議における資料によると、

平成30年のマンションの相続税評価額は、市場価格と比較して平均42%程度に抑えられています。

具体的にどれぐらい節税できる?



ここでは、タワーマンションと現金での相続では「どれぐらい相続税に違いがあるのか」について、先のシミュレーション(下図)の条件をもとに計算をおこない、比較検討します。


現金で相続する場合

・相続税評価額 11,900万円(現金のみ)

・法定相続人…妻、娘

原則として、現金の評価額はその金額と同じなので、11,900万円から基礎控除(4,200万円)を引いた分の7,700万円が課税遺産総額となります。

この場合の相続税の算出税額は、1,610万円(7,700万円×30%-700万円)となります。

タワーマンションで相続する場合

・相続税評価額 3,720万円(タワーマンションのみ)

・法定相続人…妻、娘

タワーマンションで相続する場合は、前述のとおり、1戸当たりの評価額は約3,720万円(160億円÷430戸)となります。

この場合、3,720万円(評価額)-4200万円=0円となり、基礎控除額が課税価格の合計額を上回るため、相続税を支払う必要はありません。

このように、同じ価値を持つ資産でも、タワーマンション節税を利用すると、相続時の課税財産を数分の1程度に抑えられる可能性があります。

なお、上記は簡単なシミュレーションであるため、実際の節税額は、物件の評価額や所在階、築年数などによって変わりますが、一般的には数百万円から数千万円の節税効果が期待できるでしょう。


タワーマンション節税の注意点



タワーマンション節税のリスクとは?

タワーマンション節税の考えうるリスクの1つとしては、「税務署による否認」があります。

2022年4月におこなわれた、国税当局と納税者が争った、通称「タワマン節税裁判」では、時価と評価額に著しい差があり、租税負担の公平性を害するという理由で、裁判所は追徴課税を命じました。

この一件は、著しい不公平が生じる場合などは、国税庁長官の指示により評価するという「財産評価基本通達第1章総則6項」により判断がくだされたとされています。

この判例により、すべてのタワーマンション節税スキームが否認されるとは限りませんが、その可能性を考慮した方がよいでしょう。

タワーマンション節税で注意するポイント


税務署による否認の他にも、「災害等のリスク」や「改正による課税強化」等の注意点があります。

ここでは、これらのリスクについて、ひとつずつ説明します。

災害等のリスクがある

基本的に、タワーマンション節税の流れは、

  1. 購入
  2. 相続発生
  3. 売却

となっています。

タワーマンションは、大雨や地震、火災等の自然災害など、予測できない外的要因や市場状況により、価値が下落する場合もあります。
そのような場合、所有する部屋の市場価格が下がると、節税スキームの出口である売却額が下がってしまい、せっかく相続税を節税しても、期待したほどの現金化は見込めない可能性があるという点に注意が必要です。

改正で課税が強化される動きがある

タワーマンション節税は、税務署により否認される可能性があることは、前述したとおりです。

また、節税スキームの特性上、キャッシュに余裕がある富裕層のみがおこなえる節税対策となっており、そのため、租税の公平性という観点から問題視され、改正の動きが起こっています。

実際に税制改正がおこなわれた場合、相続税評価額が上がり、現行の税制よりも税負担が重くなる可能性があるので、より一層注意する必要があるでしょう。

タワーマンション節税「改正」の動向は?


改正の背景は?

改正の背景は、現行の相続税評価額と実勢価格との間に存在する乖離が大きな要因となっています。

特に高層階に位置する物件ほど、その相続税評価額は実勢価格に比べて相対的に低く設定されています。

そのため、「過剰な節税」や「著しい不公平さ」が改正の背景にあるといえるでしょう。

改正の内容は?

税制改正では「価額(価値)を求める計算方法が変更される」可能性があります。

国税庁がおこなった「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」で提案された見直し案では、現行の相続税評価額 × 当該マンション一室の評価乖離率 × 最低評価水準0.6(定数)とされています。

要するに、実勢価格との乖離率が1.67倍を超えるほど乖離が大きい場合には、「市場価格×0.6」で評価することになります。

なお、上図の「当該マンション一室の評価乖離率」は実勢価格と評価額の差を表しており、国税庁の資料「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について 」によると、東京都のあるタワーマンションでは、大きいものでは3.20倍の乖離率があったと報告されています。

本当に改正はおこなわれる?

タワーマンション節税の改正は、実際におこなわれるものと考えてよいでしょう。

パブリックコメントによると、本改正は、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用することとされています。

改正後の対応は?

改正による算定ルールの変更で、タワーマンション節税の節税効果は弱まると考えられます。

相続税対策は他にも方法があるので、それらと比較して、どれがより自身にとって有利になるのか、判断が必要となるでしょう。

まとめ 


富裕層の相続税の節税スキームとして流行したタワーマンション節税ですが、改正に伴ってより厳しく制限される可能性が高いと考えられます。

そのため、既にタワーマンションを所有している人は、税制改正の動向を注視し、必要に応じて対策を考えることが求められます。

相続での節税方法はタワーマンションが最良というわけではありません。このほかにもさまざまな方法が考えられますので、ぜひ一度、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。


2022年1月1日に「電子帳簿保存法」が大幅に改正されました。

これにより、電子取引で受け取った領収書や請求書等の取引情報は、紙ではなく電子データで保存することを義務付けられたため、対応が難しいと感じた方も少なくないのではないでしょうか。

そのような状況を踏まえて、令和5年度税制改正では保存要件の見直しや猶予措置が追加されました。この改正により「具体的にどう変わったのか」「今後どう対応していけばよいのか」と疑問に感じる方も多いと思います。

この記事では、電子帳簿保存法の概要や、令和5年税制改正についてくわしく解説します。具体的な変更点や対応方法についてわかりやすく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

電子帳簿保存法とは?


電子帳簿保存法の概要

電子帳簿保存法とは、簡潔に説明すると、一定の要件を満たした場合は税関係の書類を紙ではなく電子データ化して保存できること等を定めた法律です。

また、電子帳簿保存法には、電子データによる取引情報を保存する義務についても定められています。

3つの保存形式とは

電子帳簿保存制度は、下図の3つの制度に分類されています。

出典:国税庁

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf


①の電子帳簿等保存とは、会計システムやExcelなどを使用して作成した帳簿や決算関係書類等を、電子データのまま保存することです。

②のスキャナ保存とは、紙で受け取った請求書や領収書等を、スキャナなどで読み取って保存することです。

③の電子取引(電子取引データ保存)とは、見積書や請求書、領収書等の取引情報を、メールやPDFなどの電子的な方法で受信・送信した場合に、「要件を満たした状態の電子データ」で保存することです。

なお、①・②については任意ですが、③の電子取引は「義務」である点に注意が必要です。

対象となるのは申告所得税・法人税に関して帳簿書類の保存義務があるすべての事業者なので、電子取引をおこなう、ほぼすべての事業者が対象といえます。

③の電子取引は、2023年12月31日まではプリントアウトした状態での保存が認められているものの、2024年1月1日以降は、原則として紙での保存は認められないため、どの書類を電子データで保存しなければならないかを確認しておく必要があります。

電子データで保存すべき書類の詳細は、下図のとおりです。

出典:国税庁

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf


ここでのポイントは、受け取った書類だけではなく送った書類も保存の対象となる点です。

そして、この電子データは、記録の改ざん等を防ぐため、いくつかの条件を満たした状態で保存しなければなりません。

その条件の詳細は、下図をご覧ください。

出典:国税庁

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf


一方で、令和5年度税制改正では、電子帳簿等保存の普及を目指すため、対象者の要件が緩和されるなどの措置が盛り込まれました。

詳細については、次に解説をします。

令和5年度税制改正のポイント


電子取引(電子取引データ保存)とは

電子取引データの保存とは、前述のとおり、請求書等を受信・送信した場合に電子データで保存する制度であり、電子取引をおこなう、ほぼすべての事業者に義務付けられています。

令和5年度税制改正では、この制度に関して新たに猶予(ゆうよ)措置が設けられました。

猶予措置とは

令和4年度税制改正においては、2022年1月1日から2023年12月31日までの2年間は、電子データ保存に「宥恕(ゆうじょ)」措置が設けられました。

そのため、この期間については電子データを印刷して保存することが認められています。

原則として、この宥恕(ゆうじょ)措置が終わると、電子データを保存しなければなりませんが、令和5年度税制改正により、一定の条件を満たす場合は電子データの保存要件が緩和され、単にデータを保存するだけで良いこととなりました。

この制度は猶予(ゆうよ)措置といい、2024年1月1日から適用となります。この猶予措置の条件は、以下の3つです。


条件①にある「相当な理由」とは、システムやワークフロー等の整備が間に合わないケースも含まれると考えられます。

なお、紙に印刷して保存する場合でも、「電子データの保存」は必須です。その場合、電子データの保存は「任意の方法」でよいのですが、「印刷した書類」と「電子データ」のどちらも保存をする必要があります。

電子取引データ保存の緩和された要件とは

電子取引データ保存時の要件のひとつである「検索機能」について、すべての対応が不要となる対象者が拡大されました。

検索要件とは、電子データを「日付・金額・取引先」で検索できるように、ファイル名を工夫したり、牽引簿のような一覧表を作成したりする要件をいいます。

具体的には、以下の「3つの条件」を全て満たす必要があります。

①   取引等の「日付・金額・相手方」で検索ができる

② 「日付・金額」について範囲を指定して検索ができる

③ 「日付・金額・相手方」を組み合わせて検索ができる

なお、牽引簿のイメージは下図のとおりです。

出典:国税庁

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0021011-068.pdf



令和5年度税制改正では、この検索要件について緩和措置が盛り込まれました。

そのため、以下のいずれかの場合には、「ダウンロードの求めに応じることができること」を条件に、上記①~③の検索要件が不要となります。



売上高の条件が1,000万円以下から5,000万円以下へ変更となったことにより、検索要件が不要となる対象者が大幅に増えています。


罰則はある?


前述のとおり、電子取引データの保存は義務であり、適切に守られていない場合は以下の罰則があります。

・青色申告の承認の取消し

保存要件を満たしている電子データが保存されていない場合は、青色申告の承認が取消される可能性があります。

ただし、必ずしも直ちに取消しされるものではありません。保存の程度や改善の見込みがあるか等、総合的に判断されます。

・重加算税の課税

電子データを改ざんや隠ぺいし、税務調査により発覚した場合は、重加算税が10%加算されて課税されます。

その他の主な改正内容


スキャナ保存の緩和された要件とは

スキャナ保存は義務ではありませんが、スキャナ保存をする場合には保存要件があります。令和5年度税制改正により、下記のとおり保存要件が緩和されました。

  1. 書類をスキャナで読み取った際の解像度や階調、大きさに関する情報の保存要件の廃止
  2. スキャナで保存する際、記録事項を入力する人に関する情報の確認不要
  3. 帳簿と相互に関連性を確認できるようにしておく必要のある書類が、重要書類(契約書や領収書等)に限定

なお、請求書等の重要な書類は「カラー画像」により保存しなければなりませんので、注意が必要です。


電子帳簿保存法の対応策

中小企業や個人事業主が最低限準備すべきことは?


前述のとおり、電子取引データの保存は2022年1月1日以降義務化されており、2024年1月1日以降は、猶予措置に該当する場合を除き、一定の要件を満たした状態で電子データを保存する必要があります。

そのため、中小企業や個人事業主が最低限準備すべきこととしては、まずは、猶予措置や電子取引データ保存の緩和措置の対象者となるかの確認が必要です。

また、猶予措置や緩和措置の対象となった場合でも、任意の方法による電子データの保存は必要ですので、ダウンロード等ができるように対応する必要があります。

電子帳簿保存法に対応するためには、現在の業務体系や環境を見直す必要がでてくるかもしれません。すべての要件にすぐに対応するのは難しいかもしれませんが、最低限必要な準備をすすめておくとよいでしょう。

まとめ



この記事では、電子帳簿保存法の概要や令和5年税制改正について解説しました。

猶予措置によって、一定の条件を満たす場合は電子データの保存要件が緩和され、単にデータを保存するだけで良いこととなったため、安心した面もあるかもしれません。

しかし、猶予措置に該当する場合であっても、電子データの保存自体は必要です。今後、社会全体として電子化の流れはますます進み、電子取引でやりとりするデータが増えていくことが予想されるため、そういった観点からも電子データ保存への対応は必要でしょう。

また、電子帳簿保存法について理解を深め、対応することで、書類整理の時間短縮やデータ管理による業務効率化なども期待できます。

制度のメリットをいかしつつ、事業者の状況に合わせて準備をすすめていくためにも、電子帳簿保存法に関して疑問や不安がある場合は、神戸市東灘区の永安栄棟 公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

 法人が個人事業主と比べて節税になる点のひとつに、経営者・役員の給与が損金になる点があります。しかし役員報酬が損金として認められるためには要件があり、中小企業では「定期同額給与」の要件を満たすケースがほとんどでしょう。

 このコラムでは定期同額給与の概要および注意点を解説します。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生してしまいます。制度の内容をしっかりと確認しておきましょう。

役員報酬を損金にできるケースは3点

 役員は給与の金額を自由に設定できる立場です。このため役員報酬を増減させて利益操作をおこなうことを防止する観点から、法人税法上、役員報酬は原則として損金とは認められないものの、一定の要件を満たす場合のみ損金として認められることとされています

役員報酬が損金として認められるのは、具体的には以下の3つのケースです。

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 業績連動給与

それぞれ内容を説明します。

1.定期同額給与

定期同額給与の概要は、以下のとおりです。

  •  その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、各支給時期における支給額、または支給額から源泉税や社会保険料などを差し引いた手取りの金額が同額である
  •  同額ではなく改定した場合でも、一定の要件を満たす場合(次の項目で詳しく説明します)
  •  継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

 実務上では、支給時期は1か月ごと、かつ給与の額面を同額にするケースが多いでしょう。毎月の給与額面が同額の役員報酬であれば、役員報酬の金額で利益操作ができないことから、損金として認められています。

 もし定期同額ではない給与を支給した場合で、正当な改正事由でない場合は、正当でない部分の金額が損金不算入となります。例えば以下のケースを考えてみましょう。

 毎月10万円の役員報酬を支給することとしましたが、9月だけ20万円、11月だけ30万円を支給したとします。この場合、9月は10万円、11月は20万円が損金不算入となります。

 途中の月から増額した場合も同様です。もし10月から毎月30万円を支給することとした場合は、10万を超えた20万円部分×10月から3月までの6か月分=120万円が損金不算入となります。

2.事前確定届出給与

 所定の時期に、確定した額の給与などを支給する定め(「事前確定届出給与に関する定め」)に基づいて支給される給与をいいます。事前に金額を確定した上で税務署に所定の期限までに「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。同届出書に記載した「支給時期」及び「支給額」を実際に支給する必要があり、一部のみを支給したり支給日を誤ったりすると全額損金に算入できませんので注意が必要です

同届出書の期限は原則として以下の(1)と(2)のうちいずれか早い日になります。

(1)株主総会で決議をした日から1か月を経過する日

(ただし決議をした日が職務執行を開始する日以後である場合は、開始する日から1か月を経過する日)

(2)会計期間開始の日から4カ月を経過する日

新設法人の場合は、設立の日以後2カ月を経過する日になります。

3.業績連動給与

 利益等に連動した給与であり、一定の要件を満たすものをいいます。原則として同族会社は対象外となり、中小企業で活用できるケースはあまりないでしょう。

 ただし、上記で説明した「定期同額給与」、「事前確定届出給与」及び「業績連動給与」のいずれの場合も「不相当に高額な部分」は損金になりませんので注意が必要です。「不相当に高額な部分」は抽象的な定めであり明確に決まってはいません。形式基準と実質基準で判断します。形式基準としては「株主総会で承認された役員報酬の支給限度額以内であること」、実質基準としては「職務の内容、法人の利益、使用人に対する給与の支給状況、同業種、事業規模が類似している法人の役員報酬の金額などと照らして、不相当に高額かどうか」を判断することになります。

定期同額給与を改定できるタイミングは?

定期同額給与を改定できるタイミングは以下のとおりです。

  1.  原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日まで
  2.  事業年度中に、役員の職制上の地位の変更などやむを得ない事情(臨時訂正事由)があり、給与を変更する場合
  3.  事業年度中に、法人の経営状況が著しく悪化するなどの理由(業績悪化改定事由)により給与を変更する場合

 通常の場合は上記1.の「事業年度開始日から3か月以内」のタイミングまでに役員報酬の金額を決定します。

 上記2.のように役員の職務内容や地位変更があった場合、その職務内容に合わせた報酬に改定したいケースでは、増額の場合でも減額の場合でも認められます。例として、現在の社長が退任し、他の役員が新たに社長になったケースが考えられます。一般役員としての仕事と社長の仕事では責任も重くなり、報酬を増やすことは利益操作でなく当然のことであると考えられるからです。

 上記3.の法人の業績悪化により役員報酬を減額する必要がある場合も、利益操作の意図はないとして損金に認められます。業績悪化が理由であるため、増額ではなく減額だけが認められます。何をもって「悪化」というかは明確ではありませんが、少なくとも営業利益が赤字となるなど、役員報酬を減額せざるを得ない状況が客観的に明確であることが必要です

 上記2.や3.の場合は偶発的な事情であるため、根拠をしっかりと残しておきましょう

定期同額給与の注意点

定期同額給与に関して注意すべき事項を4点紹介します。

1.定期同額給与の改定は事業年度開始日から3か月以内の改定であること

 前述したように、原則として役員報酬の金額を改定できるのは「事業年度開始日から3か月以内」です。3か月以内に株主総会で役員報酬限度額を決定し、その後改定後の役員報酬の金額を決定しましょう。株主総会議事録を作成しておくことが大切です。
株主総会開催前であっても、承認を見越して事業年度の期首の月から改定することも可能です。(ただし、別途臨時株主総会の開催などが必要です。)
 3か月目の給与が4カ月目に支給される場合も多くありますが、支給日ではなく発生日が3か月目の分までは改定前の金額で認められます。

2.設立初年度の場合でも、定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内であることが必要

 設立初年度では、事業開始の日から数か月は収入が不安定であったが、途中月から経営が安定して役員報酬を支給したいケースもあるかもしれません。しかし、この場合でも定期同額給与の改定は事業年度開始の日から3か月以内でないと、損金として認められません。
翌期まで待つか、事業年度の変更をすることが対策として考えられます。

3.損金不算入となった部分は法人税も所得税も負担する

 もし定期同額給与と認められずに損金不算入となった場合、不算入となった部分については会社の損金が減り、法人税の負担が増えます。一方で、役員の給与は法人税法上の損金不算入部分であっても支給され、所得税の課税対象となります。

4.金銭ではなく、経済的利益も定期同額給与として認められる

 役員報酬というと一般的に「給与・金銭」と考えられますが、経済的利益も役員への報酬となります。つまり実際に会社が役員に金銭を支払わなくても、役員が経済的利益を得ている場合には、税法上役員への給与とされます。
 例えば役員の個人的な費用を会社の資金で支払っているケース、役員が会社契約の社宅に入居しているが、役員は会社に家賃を支払っていないケースなどが考えられるでしょう。このような経済的利益も、毎月おおむね一定であれば定期同額給与として損金となります
 しかし、毎月同額ではなく意図せずに役員報酬に認定されてしまった場合は、法人税法上損金として認められず、一方で所得税は課税されてしまいます。

まとめ

 以上、定期同額給与の概要および基本的な注意点を解説しました。要件を満たさないと損金として認められない部分が発生するだけでなく、その部分は所得税も課税されます。よく制度を確認しておきましょう。

 原則として、その期の役員報酬の金額は事業年度開始の日から3か月を経過する日までに決定する必要があります。そして一度決定すると、特殊な事情がない限り変更すると損金にならない部分が発生してしまいます。役員報酬の金額は、業績の見込みを始めとして判断をともなう事項になるため、慎重な検討が必要なところですが、期限を逸脱しないように注意しましょう。

 定期同額給与を始めとして、税務に関するご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

事業を行う際に金融機関から融資を受けるケースは多くあります。その際、創業時や創業まもない会社、業績に不安のある中小企業などでは、多くの場合に経営者個人の連帯保証が求められてきました。経営者個人の連帯保証は万が一の時の個人の負担が重く、抜本的な経営改善や起業・創業等を妨げる一因になっています。

こうした状況を改善するため、2022年12月、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」が公表されました。このコラムでは公表されたプログラムの概要を解説します。融資を検討する場合、そして現在融資を受けている場合は、経営者保証のない融資が可能となるのはどのような状況か、確認してみましょう。

経営者保証の現状と課題

経営者保証とは、法人が融資を受ける際に、経営者個人が会社債務の連帯保証人となることをいいます。冒頭で述べたように、現在では融資の際に経営者保証を求められるケースが多く、さまざまな課題が生じています。経営者保証が求められる理由、経営者保証の現状と課題は以下のとおりです。

経営者保証が求められる理由

理由は主に以下のとおりです。

  • 融資をする際の信用補完とし、融資をおりやすくするため
  • 不祥事をおこさず、経営者にしっかりと経営をしてもらうため

中小企業等では業績不振の会社も多く、個人の信用保証があれば融資がおりやすくなります。また、万が一の時は個人が保証を負うとなると、不祥事をおこさずに誠実な経営を行うでしょう。経営者保証は金融機関側、経営者側どちらにもニーズがある制度です。

経営者保証の課題

しかし経営者保証には、以下のような課題があります。

  • 経営者による思い切った事業展開を躊躇させる
  • 事業承継時に、リスクを恐れて承継する方が見つからず円滑に進まない
  • 早期の事業再生を阻害する

法人の融資金額は多額に及ぶことが多く、個人保証をするとなると経営者のリスクが大きく躊躇するケースも多くあります。このため多額の融資を利用した抜本的な事業展開や事業再生を阻害してしまいます。事業を承継する方が見つからず廃業となると、経済活性化を阻害することにもつながるでしょう。中小企業が前向きに事業を行い、経済活動を活性化させるために、経営者保証の見直しが求められています

経営者保証の状況

現在では、合理性がなくどのような場合でも経営者保証をつけて融資をする状況が多くあります。このため全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証のない融資を受けられるための要件などを明確化しました。しかし実務上はあまり機能しているとはいえず、金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」によると、2022年度上期において民間金融機関の新規無保証融資は33%でしかありません。

経営者保証改革プログラムの概要

経営者保証の課題を解消するため、2022年12月、国は「経営者保証改革プログラム」を策定しました。そのなかで金融庁は監督指針を改正し、金融庁による監督が厳格化されました。ただし「経営者保証改革プログラム」は合理性のない経営者保証を減らすことが目的であり、経営者保証をすべて制限するものではありません。

「経営者保証改革プログラム」では、以下の4分野を重点的に取り組むこととしています。

  • スタートアップ・創業
  • 民間融資
  • 信用保証付融資
  • 中小企業のガバナンス

それぞれ、主な施策を説明します。

スタートアップ・創業

創業時に経営者保証を求められると、創業意欲を阻害する可能性があります。このため以下のような施策をおこないます。

  • スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(保証割合:100%/保証上限額:3500万円/無担保)。2023年3月開始。
  • 日本公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和。2023年2月開始。

など。

民間融資

金融庁の監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化します。主な施策は以下のとおりです。

  • 金融機関が経営者保証を求める場合には、その必要性等を説明し、その結果等を記録する。その際「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」について説明をする。2023年4月開始。
  • 結果等を記録した件数を金融庁に報告する。
  • 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置する。2023年4月開始。
  • 金融機関は「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を検討・作成し、公表する。
  • など。

「経営者保証ガイドライン」では、以下の3つの要件を満たせば経営者保証なしでの融資、既存の融資にしては見直しをしてもらえる可能性があるとされています。

(1) 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている

(2) 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である

(3) 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている

(引用:中小企業庁ホームページ

まずは、融資で得た資金が経営者個人に流れてしまう疑念を抱かせるような管理体制でないことを明確とする必要があります。そして会社の保有資産や好業績により返済が可能であり、金融機関が返済能力を判断するための財務情報を適時かつ適切に金融機関に開示していれば「経営者の保証がなくとも会社が返済できる状況である」と金融機関も判断しやすいといえるでしょう。

信用保証付融資

「経営者保証ガイドライン」の要件を充たせば経営者保証を解除する、という現在の取り組みを徹底します。また、充足していない場合でも、保証料の上乗せなどにより経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を実施します。主な施策は以下のとおりです。

  • 「経営者保証ガイドライン」の3つの要件を満たさなくとも、経営者の取り組み次第で達成可能な要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること等)を充足すれば、保証料の上乗せ負担により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設。2024年4月開始。
  • プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設。2024年4月開始。
  • 金融機関に対し、信用保証付融資を行う場合には、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう経済産業大臣・金融担当大臣から要請。

など。

「経営者保証ガイドライン」の3要件を満たせなくても、条件によっては経営者保証なしで融資がおりる可能性が出てきました。

中小企業のガバナンス

経営者保証の解除の前提としてガバナンス体制が必要です。つまり健全な企業経営、内部管理をおこなうことが求められます。主な施策は以下のとおりです。

  • 中小企業の経営者と、支援機関の目線合わせのチェックシート作成
  • 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定

など。

まとめ

以上、経営者保証に依存しない融資慣行の確立、加速を目指したガイドライン「経営者保証改革プログラム」について説明しました。

今まであまり機能していなかった「経営者保証ガイドライン」の内容をさらに浸透・定着させるだけでなく、金融庁の監督指針の改正により融資の際の説明や記録が求められることになりました。合理性のない個人保証が排除されていく可能性が高いと期待されます。

「経営者保証ガイドライン」での3つの要件、①法人と個人の区分②財務基盤の強化③適時適切な財務情報の開示、は経営者保証のない融資のためだけでなく、会社を発展させることにもつながります。

経営者保証に依存しない融資の内容、およびそのための体制作りなどのご相談は神戸市東灘区の永安栄棟公認会計士・税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。

「経営者保証改革プログラム」の事業者向けパンフレットが2023年4月に金融庁から公表されています。詳しくはこちらも参考にしてみてください。

「経営者保証改革プログラム」に関する事業者向けパンフレット