
一人親方が法人化すべきタイミングは、一般的に売上1,000万円を超えてからとされています。
しかし「所得が800万円を超えたとき」「事業を拡大したいとき」など、他にも法人化すべきタイミングはあります。
また、法人化をして後悔する一人親方がいるのも事実です。
今回は一人親方が法人化すべき3つのタイミングや、法人化のメリット・デメリット、法人化して後悔した事例などについてまとめました。
税理士の立場から、難しい用語は極力使用せず、分かりやすく解説します。
記事を最後までチェックすれば、一人親方のあなたが法人化すべきか否かが明確になります。
目次
一人親方の法人化とは?個人・法人の違い
一人親方の法人化とは、個人事業主として活動していた一人親方が株式会社や合同会社を設立し、事業を法人として運営することです。
個人事業主は事業と生活の資金が一体となっており、所得税や住民税などを自ら申告して納税します。
一方、法人化すると会社と個人が別の存在となり、会社は法人税、代表者個人は給与所得としての所得税を納める形になります。
上記が個人事業主と法人の、最大の違いです。
また、法人には決算報告や社会保険加入など一定の手続きが求められる反面、節税や信用力の向上といったメリットがあります。
特に建設業では、法人化によって元請け企業との取引がしやすくなることも多く、受注の拡大につながるケースもあるでしょう。
法人化には手間や費用がかかるものの、長期的な事業運営を見据えると有効な選択肢となり得ます。
一人親方が法人化すべきタイミング
一人親方が法人化すべきタイミングは、以下の3つです。
- 売上が1,000万円を超えた場合
- 所得が800万円を超えた場合
- 事業を拡大したい場合
それぞれ詳しく見てみましょう。
売上が1,000万円を超えた場合
一人親方が法人化を検討すべき明確なタイミングの1つが、年間売上が1,000万円を超えたときです。
個人事業主は、売上が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となります。しかし開業から2年間は、消費税が免除されます。
つまり個人事業主が消費税を支払うのは、最短でも3年目からです。
※インボイス制度適格請求書発行事業者の場合は、売上にかかわらず消費税の支払い義務が生じる。
一方、法人化すれば、消費税の免税期間を改めて得られます。つまり最低でも2年間、納税負担を先送りできます。
売上1,000万円で支払う消費税額の目安は50万円程度です。よって、2年間で100万円以上の節税になります。
所得が800万円を超えた場合
売上から経費を差し引いた額を所得と言います。
一人親方としての所得が年間800万円を超えてくると、所得税の累進課税制度により税負担が大きくなります。
以下は、個人事業主の所得税率をまとめた表です。
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
上記表のように、所得に応じて税率が異なります。一方、法人税の税率は原則として、23.2%で固定です。
つまり税率が23%を超えた段階で法人化をするのも、1つのタイミングです。
事業を拡大したい場合
取引先の増加や従業員の雇用など、事業を拡大したい場合にも法人化は有効です。
個人事業主のままでは、契約の信用性や融資の審査において不利に働くことがあります。
一方、法人であれば法人名義での契約や借入が可能となり、金融機関や取引先からの信頼も得やすくなるでしょう。
また、法人化により人材採用や福利厚生の整備も進めやすくなり、組織的な運営が実現できます。スムーズに事業を成長させるためには、計画的な法人化が重要です。
法人化のタイミングについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:個人事業主から法人化する際の費用は最低24万円!後悔しないタイミングや年間費用についても紹介
一人親方が法人化するメリット
一人親方が法人化するメリットは、以下の4つです。
- 社会的信用を得られる
- 経費計上できる範囲が広がる
- 場合によっては節税になる
- 決算日を自由に決められる
1つずつ詳しく解説します。
社会的信用を得られる
一人親方が法人化する最大のメリットの1つが、社会的信用の向上です。
個人と法人では、事業内容は同じでも、社会的信用に大きな違いがあります。
法人は、登記によって公的に存在が証明されています。そのため個人事業主に比べて、金融機関や取引先からの信頼を得やすくなるでしょう。
法人であれば金融機関からの融資審査にも通りやすくなります。
また、大手企業との取引にも有利です。契約などもスムーズに進められるようになります。
さらに、求人の際も「株式会社」「合同会社」という肩書きがあることで応募者からの印象が良くなり、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
信用力の強化によって、事業の拡大や安定運営がしやすくなるのです。
経費計上できる範囲が広がる
個人事業主よりも法人の方が、経費計上できる範囲が広がります。法人化によって計上できるようになる経費の主な例は、以下のとおりです。
- 福利厚生費
- 車両関連費
- 出張旅費
- 家賃・社宅
- 退職金
経費計上範囲の拡大が、実質的な節税につながります。
例えば、自宅を社宅として会社に貸す形を取れば、家賃の一部を経費にできるでしょう。
一方、個人事業主の場合は自宅を事業所として利用している場合にしか、経費計上できません。それも家事按分をする必要があります。
正しく経費処理を行えば、法人の利益圧縮につながり、納税額の削減が期待できます。
個人事業主と法人の経費計上範囲の違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
関連記事:個人事業主は法人化することで経費計上できる範囲が拡大する
場合によっては節税になる
法人化により、所得の分散や税率の違いを活かして節税が可能になるケースがあります。
個人事業主は、累進課税制度により所得が増えるほど税率が上がるとお伝えしました。一方法人の場合は、一定の税率が適用され、課税のバランスを取りやすくなります。
また、前述の役員報酬や退職金制度を活用することによる税負担の軽減も可能です。
さらに、家族を役員として登用すれば、所得を分散して各人の税負担を抑える手法も取れます。
しかし、節税効果は事業規模や収益構造に左右されるため、税理士と相談しながら慎重に判断すべきです。
決算日を自由に決められる
法人化すると、自分で決算日を設定できます。これは個人事業主にはない、大きなメリットです。
個人事業主の場合、確定申告は毎年2〜3月に固定されています。
建設業では年末・年度末に向けて工事が増える傾向にあり、確定申告の時期が繁忙期と重なるケースも少なくありません。
一方、法人は繁忙期を避けて決算月を自由に選べます。そのため業務が落ち着いた時期に、会計処理を集中して行えます。
税金の申告・納付時期も決算期に連動するため、余裕をもった納税スケジュールを組め、事業運営の安定化につながるでしょう。
一人親方が法人化するデメリット
一人親方が法人化するデメリットは、以下の5つです。
- 法人化には手間がかかる
- 法人化には費用がかかる
- 確定申告が複雑になる
- 会社のお金と自分のお金を区別しなければならない
- 社会保険料の負担が増える
1つずつ詳しく解説します。
法人化には手間がかかる
一人親方が法人化するには、定款の作成や登記申請といった手続きが必要です。個人事業主としての開業に比べて、多くの手間がかかります。
法人用の銀行口座の開設、印鑑の作成、税務署などへの届出など、複数の機関とのやり取りも発生します。
日々の業務をこなしながら、これらの作業を行うのは、決して楽ではありません。初めて法人化をする人にとっては煩雑で、時間的な負担も大きくなるでしょう。
法人化を検討する際は、事前にスケジュールや必要書類を把握し、余裕をもって準備することが重要です。
しかし税理士に依頼をすれば、手間なく手続きを進められます。弊所でも、今後顧問契約を結ぶお客様に向けて、開業支援サービスを無料にて提供しています。
法人化には費用がかかる
法人化には、初期費用がかかる点もデメリットです。
株式会社の場合、定款認証にかかる費用や登録免許税などを含めると、最低でも24万円程度の費用が発生します。合同会社でも、10万円前後の出費は避けられません。
また、法人設立後も毎年の決算や税務申告に関する顧問料が継続的に発生します。
詳しくは次の項目で解説しますが、個人事業主の場合は自力での確定申告も可能でした。しかし法人化をすると、原則として確定申告は税理士に依頼することとなります。
法人化にはメリットがある一方で、このような初期費用および維持費用を見込んだ上での判断が求められます。
法人化の費用に関する詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:個人事業主から法人化する際の費用は最低24万円!後悔しないタイミングや年間費用についても紹介
確定申告が複雑になる
法人化すると、確定申告の内容は個人事業主のときより格段に複雑になります。提出書類の量も多くなります。
そのため、法人化後は確定申告を税理士に依頼するケースが一般的です。
税理士に依頼をすれば、確定申告の手間について深く考える必要はありません。しかしその分、月2万円〜の顧問料がかかります。
一人親方の確定申告については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:確定申告してない一人親方はやばい!やり方や必要書類、経費で落とせるものを紹介
会社のお金と自分のお金を区別しなければならない
法人を設立すると、会社と個人の資金を明確に区別しなければなりません。従来のように、自由に資金を使えなくなります。
例えば会社の売上が振り込まれても、それはあくまで法人の資産です。個人が私的に引き出すことはできません。
法人の資金を私的に流用すれば、税務署から指摘を受けるリスクがあります。場合によっては、加算税の対象になるかもしれません。
個人としてお金を受け取るには、役員報酬などの正当な手続きを経る必要があります。
こういった手続きが面倒だと感じる一人親方にとっては、大きな負担となる可能性があります。
社会保険料の負担が増える
法人化すると、原則として社会保険への加入が義務づけられます。健康保険と厚生年金の保険料負担が発生します。
これら社会保険料の負担額は、個人事業主として国民健康保険・国民年金に加入していた場合と比べて、大きくなるのが一般的です。
特に収入がそれほど高くない段階で法人化すると、社会保険料の支払いが経営を圧迫するリスクもあるでしょう。
法人化した際の社会保険料は、個人と法人でそれぞれ半分ずつ負担します。例えば会社勤めの方は、社会保険料の半分を企業に負担してもらっています。
一人親方の場合は、結局両方とも負担するのは自分のようなものです。
しかし、従業員を雇っている場合は、会社がその保険料の半額を負担しなければなりません。そのため固定費の増加につながります。
法人化の判断にあたっては、保険料の負担増も考慮すべきです。
法人化をして後悔する一人親方もいるので要注意
一人親方が法人化で得られるメリットは多く存在します。しかし「思っていたより負担が大きい」と後悔するケースもゼロではありません。
特に、売上や所得がそこまで高くない段階で法人化すると、社会保険料や税理士費用などの固定費がかえって経営を圧迫する可能性があります。
また、売上は個人ではなく法人のものになるとお伝えしました。そのため気軽にお金を使えなくなることに、ストレスを感じる人も少なくありません。
こういった理由から「もっと後に法人化すればよかった」と後悔する人も実際にいます。
法人化は、事業の成長に合わせて適切なタイミングで行うことが重要です。
法人化のための手続きのみならず、法人化すべきか否かから、税理士に相談して慎重に判断すべきです。
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---|---|---|
〜1,000万円 | 1万円(個人) 2万円(法人) | 8万円(個人) 10万円(法人) |
〜2,000万円 | 2万円(個人) 2万円(法人) | 10万円(個人) 12万円(法人) |
〜3,000万円 | 3万円 | 14万円 |
〜4,000万円 | 4万円 | 16万円 |
5,000万円超 | ご相談 | ご相談 |
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まとめ
一人親方が法人化すべき3つのタイミングや、法人化のメリット・デメリット、法人化して後悔した事例などについて解説しました。
一人親方が法人化すべきタイミングは、以下の3つです。
- 売上が1,000万円を超えた場合
- 所得が800万円を超えた場合
- 事業を拡大したい場合
しかし法人化すべきか否かは、人それぞれで異なります。そのため「そもそも法人化すべきか否か」から税理士に相談するのもおすすめです。
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